【3行要約】・リーダーシップにおいて「率いる」と「導く」の違いが重要です。多くの管理職が人を率いることに注力する一方、目的を導くことの価値が見過ごされています。
・筒井千晶氏は「導く」とはガイドであり、目的達成のための環境と方向性をコントロールすることだと説明。目的が羅針盤となり、メンバーの自律的判断を促します。
・マネージャーは問い・フィードバック・指示を状況に応じて使い分け、「正しい厳しさ」を実装することで、メンバーの成長と目的達成の両立を目指すことを語りました。
前回の記事はこちら 「導く」とは何か
筒井千晶氏:では、また次のセクションに移りたいと思います。4つ目、導くとは何かというお話です。コントロールのお話をいろいろしましたが、何をコントロールすべきかという観点でお話をします。(スライドの)左側が人です。右側、ダーツの的になっていますが、目的だと思っていただければと思います。
人ではなくて目的のほうですね。人を率いるのではなくて、目的を導くという前提で動いていけるといいんじゃないかなと思います。
「率いる」と「ガイドする」の違い
もう少し補足をします。「人を率いる」はどちらかというとプル型になってくる。本当に引っ張っていく、リーダーとして引っ張らなきという印象から来ているのかなと思います。
じゃあ「導く」は何かというと、ガイドという表現がふさわしいのかなと思います。もう少し補足すると、「率いる」は自分が決めた道、リーダーが決めた道をある種、強制するようなかたち、引っ張っていくこと。
でもガイドは、目的地を示して、メンバーが自分で道を選ぶための地図と羅針盤を与えるというかたちです。なので、「導く」は目的にエネルギーを注ぐことと、目的達成のための環境と方向性をコントロールすること。ここがリーダーの役割なのかなと思います。

もう少しそれぞれの言葉の定義を見ていければと思います。導くとは何かというと、何をすべきか、手段・方法を教えるだけではなくて、なぜそれが必要か、目的と意義、あとどうすれば目的地にたどり着けるか、思考のプロセスを提供すること。
この後のお話でも触れますが、問い・フィードバック・指示といったものを使いながら、究極的に言えば、トップの方がいなくても、メンバーが目的へ進み続けられる状態を作ることが導くということかなと思います。
目的が羅針盤となる好例
またいろいろと言葉が出てきているので、そこに触れていけたらと思います。目的という言葉、「目的は何か」を定義をすると、目標・数値・ゴールといった達成しなければいけないものも目的になると思いますが、メンバーの行動と判断を方向づける羅針盤とも言えるかなと思います。
私自身が、野球がすごく好きなのですが、2年前ですかね、高校野球で慶應(義塾)高校が優勝した時の話。覚えてらっしゃる方もいるかもしれませんが、なんかこう、新しい高校野球のかたちだと取り上げられることが多かったんじゃないかなと思っています。
いろいろ記事を見ていると、慶應高校の当時のチームは、全国優勝の先に高校野球の常識を変えるという目的があったようです。まさにそれがメンバーの行動と判断を方向づける羅針盤になっていたみたいで、「常識を変えるためにやっているので、どういうふうに取り上げていただいてもかまわないです」みたいなコメントをけっこう拝見しました。
そういう目的があったからそういうことが言えるんだな、「あ、なるほどね」とすごく感じながら見ていたのを記憶をしています。
あともう1つ目的の話をすると、Appleですね。もうすっかり、知らない人はいない企業にはなっていますが、当時はまだ高性能のパソコンうんぬんみたいな感じでした。マイクロソフトとAppleで競っていた時も、Appleは、パソコンの常識を変える、常識を打ち破り世界を変えるという目的のためにやっていました。
だからああいう洗練したものが生み出されていったという、お話もよくされています。そういった羅針盤になるようなもの、それが目的かなと思います。
「目的の共有」とメンバーの価値観
そう考えた時に「目的の共有とは」でいくと、その目的がメンバー自身の価値観や成長など、その人自身の思っていることとどういうふうにつながっているのか、もしくはつながっていけるだろうかということを、対話を通じて明確にすることが含まれているとすごくいいんじゃないかなと思います。
指示管理は古いんじゃないかという問いかけを冒頭させていただきましたが、それの再定義をすると、指示は悪ではないと言えると思います。むしろ目的に向かうための道筋を示す手段と捉えるといいんじゃないかと。
本当に緊急事態の時や経験が浅いメンバーがチームにいる時や、判断に迷っているメンバーがいた時などは、当然物事を進めていく上で、指示が必要な場面もあります。なので、指示の良し悪しは動機で決まるんじゃないかなと考えています。
「良い指示」と「悪い指示」の違い
じゃあ良い指示とは何か。目的に対して現在地とゴールがずれている時に、そのずれを修正してメンバーの自律的な判断を補助するための情報提供が良い指示だと思います。一方で悪い指示は、リーダーの不安解消や個人的な都合で発せられる、メンバーの思考を停止させる命令だと言えるんじゃないかなと。
目的に沿わないことも多いので、逆にメンバーが混乱する感じですね。「このためにやってるのに、なんでこの人こんなことを言ってるんだろう」と思ったこともけっこうあるんじゃないかなと思います。
私も過去そういうふうに指示された時に思ったこともありますし、メンバーから「筒井さんはそういうふうに言っているけど、この目的に照らし合わせるとこっちのほうがいいんじゃないですか」と言われたこともけっこうあったりします。それを言われる度に、「そっか、今の指示はあんまり適切じゃなかったな」と、振り返りながらやっていた記憶もあります。こんな基準で、区別しながらやっていけるといいんじゃないかなと思います。
問い・フィードバック・指示の役割整理
あと、先ほど、問い・フィードバック・指示という3つを出したので、問いとフィードバックの役割もさらっと触れておきますが、問いは、自分で考えて次の行動を選択できるようにするための装置です。フィードバックは、目的に対する現在地のずれを建設的に伝えて状況を読み解く力を養ってもらうための学習機会です。
そんなふうに定義をしたとして、問い・フィードバック・指示を手を打つための手段だと捉えると、何かしら日々いろいろなことが起こっていく中で、その状況に応じて一手を使い分けることが、ガイドしていく上では非常に大切なんじゃないかと思います。
使い分けの軸:習熟度と緊急度
問いは目的達成のための気づきを促す。フィードバックは目的とのずれを伝える。指示・目的は道筋を示す。このようにそれぞれ役割を担っていたとして、今この状況ではどういったことをすると一番いいのだろうか、ふさわしいのだろうかというのを考えながら使い分けていただくイメージです。
使い分けるためのポイントとしては、メンバーの習熟度と緊急度で判断する。これも1個の判断軸かなと思います。先ほどもお伝えしたとおり、まだまだ経験が浅いメンバーがいて、でもこのタスクはけっこう締め切りが厳しいとか、きついとか、緊急性が高いのであれば「あなたはこの仕事どういうふうに進めたらいいと思う?」と問うよりも、まず道筋を示してあげる、指示をしてあげてやっていくほうが成果には結びつきやすいんじゃないかなと。
逆に緊急度はさほどなくてけっこう考える時間もあるよ、成長させる機会としてこれを使おうという場合であれば、問いとフィードバックをけっこう多用して、メンバーにいろいろなことに気づいてもらう、経験をしてもらうといった、そんな使い分け方ができるんじゃないかなと思います。
問いから指示へと移行するプロセス設計
あと問いから指示へと移行できる準備をしていくという点です。何か進捗確認をした時に、どうも目的とずれてるな、ここの部分がずれてるんじゃないのというのをフィードバックをする。その後にすぐ指示するのではなくて「じゃあどうしたらこのずれ修正できると思う?」と問いから入る。ちょっとメンバーに考えてもらう。そういう余地を取っておく。
当然メンバー自体も答えに詰まったり、進んでほしくない方向へ進みそうになる場合もあると思いますので、そういう時は、具体的な指示をしっかりこう出して適切な方向へガイドをしてあげることも必要だと思います。問い、指示へ移行できる準備をしておくと、リーダーやマネージャーはやりやすいんじゃないかなと思います。
コミュニケーションの目的を明確にする
3つ目。コミュニケーションの目的を明確にするといった点です。今日、この場・会話は、気づきを促す問いをするのが目的なのか、それともしっかり道筋を示して指示をするのが目的なのか。あるいは、現状の共有、目的とのずれをフィードバックをすることが目的なのか。それぞれをしっかり明確にした上で、会話を進めていくことが大事かなと思います。
このあたり、会話もそうなんですが、場の目的という意味でも、非常にしっかり明確に使い分けると有効かなと思いました。例えば目標面談の時はこうで1on1の時はこうとか、ふだんの雑談はこうだよねと、みなさんもそれぞれ無意識の中でやられていることもあるんじゃないかなと思いますので、自分はこんなふうに使い分けているなというのを、ぜひ思い返してみていただけるといいんじゃないかなと。