【3行要約】・マネージャーは誰でもなれるが、向き不向きが存在する。長村氏は「チーム目的志向」と「自分目的志向」の4タイプから適性を解説します。
・「マイスタータイプ」など自分目的志向の人がマネジメントをすると、チームの成功よりも自己証明を優先し組織に悪影響を与えると指摘。
・人事担当者はマネジメントの型を理解し、「執行」「活用」「伸張」「連携」の4つの基準で事業部に切り込む矜持を持つべきだと提言します。
前回の記事はこちら メンタリティとしてマネジメントできない人もいる
参加者4:型があるとなれば、誰でもマネジメントができると感じたのですが、誰をマネージャーに選べばいいのか、というのは何かあるのでしょうか。
長村禎庸氏(以下、長村):ありがとうございます。マネジメントの型、業務の型、一つひとつの型は、説明されればできる類のものだと思うんですね。なので、訓練すれば誰でもできると自分は思っています。
ただ、向いているとか、向いていないとか、やりたい、やりたくないはきっとあるんじゃないかなと思っていて、マネージャーにしないほうがいい人はけっこういると思うんですね。
ちょっと資料を出しますね。業務としては誰でもできるという前提で、メンタリティとしてはできない人がいると私は思っています。
(スライドを示して)これが、マネジメントの型の一覧になるんですが、この中で、「タイプ・Will・Can」というのがあります。自己評価重視、他者評価重視、チーム目的志向、自分目的志向という感じなんですが、マネージャーというのがどんな仕事か、原理原則を考えてみます。
4タイプのWill×評価軸と「マネージャーにしてはいけない人」
長村:マネージャーって3人メンバーがいたら、その3人の稼ぎを最大化するのが仕事なはずです。その結果、会社に貢献するというのが仕事なので、自分の証明のためにやることじゃないと思うんですね。自分の証明に走るならばメンバーの活用もしません。
自分自身が活躍している姿を見せて、その結果メンバーはまったく成果を出さなくて、会社からしてもこの3人のパフォーマンスを最大化できていない人という感じになりますので、マネジメントの仕事はチーム目的志向じゃないと無理な仕事です。
つまり、「自分の目的をさておき、チームのために尽くします」とか、「チームの成功が自分のことのようにうれしいです」というタイプじゃないとやっていられない仕事だと思うので、このパートナータイプかコントリビュータータイプ。(スライドを示して)こっちの右のタイプじゃないとそもそもできないと思うんですね。
一番危険な話があって、ここのマイスタータイプがマネジメントをすると一番危ないです。
マイスタータイプというのは、「チームや会社の成功はどうでもいいけれども、自分のやりたいことをやりたいです。私はこういう人間なんですけど」というふうに、自分で自分のことを客観的にはわかった上で自分のやりたいことを重視するタイプです。このタイプが「マネジメントしたい」と言ってくることがあるんですよ。
これは、こっちの右の人(パートナータイプかコントリビュータータイプ)が「マネジメントをしたい」と言う意味とまったく違います。同じ「マネジメントをしたい」だとしても、右の人は会社に貢献したいとかチームを成功させたいという考えを持っています。
一方でこっち(マイスタータイプ)の人は、「私のキャリアのために、マネジメントという仕事をやってみたいんです」とか、「私の目的のために、自分の証明のために、マネジメントっていう仕事がしたいんです」という考えなので、このタイプがマネジメントをするとけっこうつらいんですよね。
マイスタータイプがマネジメントすると起こること
長村:こんな感じで、マイスタータイプは、「自分がやりたいマネジメントという業務をやるため」という目的なので、「執行」においては、会社の目的とはずれるんですが、自分がやりたいことをチームの役割・目標や達成に向けたアクションに反映させると思います。「今、これが重要とか関係ないです。私はこれがしたいです」というやつですね。
あとは「活用」に関しては、「私の理想のタイプ、これなんで」ということで、自分の好きな人だけ活用すると思います。「伸張」に関しては、自分の好きな人だけ採用・育成すると思います。あとは「連携」がすごく苦手ですね。会社・上司とのアラインメント、要は自分が目的なので会社や上司の意図をくみ取ってマネジメントすることができないですね。なので、独立した自分の城としての運営を好みます。
このマイスタータイプ、自分目的志向の人がマネジメントをすると、けっこうつらいので、技術として確立はして、習得すれば誰でもできるんですが、「チームの成功が自分のことのようにうれしいです」というメンタリティがないと、そもそもつらいというか続かない感じかなと考えています。
吉田洋介氏(以下、吉田):けっこうこのケース、ありますよね。
長村:はい、あるんですよね。
吉田:自分が気づいていない時も、ありますよね?
長村:あります。
吉田:(自分のタイプが)「右(パートナータイプかコントリビュータータイプ)かな?」って思っていたら、めちゃめちゃ左(マイスタータイプ)が根っこだったんですとか。
長村:はい。あとは、会社へのロイヤリティが下がるとおのずと人は左(マイスタータイプ)に流れますよね。
吉田:なるほど。確かに。
自分目的志向の活かしどころ
長村:でも、こっちの左(マイスタータイプ)の自分目的志向が強い人が悪いわけじゃ決してないんですよね。この、チームの達成が自分のことのようにうれしいですというタイプって、わりと献身的で、エゴがそんなにないから、新規事業を作らせるとぜんぜんおもしろくないんですよ。
こっちの左の人に、「絶対に自分がやりたいことだ」という感じで作らせた新規事業は最高におもしろかったりするので、何か尖ったことや新しいこととか、世の中で見たことがないことを作ってくれるのは実は左の人です。
つい右(パートナータイプかコントリビュータータイプ)の人ばかり採用して、右の人だけで会社を固めようとするんですけど、左のような人を会社として受け止めるキャパシティは必要です。左の人をマネージャーにすると怖いよという話ですね。
吉田:そうですね。若干軸は違うと思いますが、ハイパフォーマーがそのままマネージャーになった時にハラスメントをしてしまうという構造も一部、近いところがあるなと思います。
独自の技術というか、やり方で他の人ができないぐらいめちゃくちゃ高い業績を上げていくんだけれども、マネージャーになるとそれをそのままメンバーに求める。「これがスタイルだ」という感じで、「俺の下に付いてきたいんだったら全部これをやれ」みたいになってしまうのと、近い感じもしました。
長村:プロタイプは、他人評価によって得られる自分のメリットに興味がある人です。自分がむちゃくちゃ業績を上げて、めちゃくちゃ表彰されて、プロモーションして、という人がマネージャーになっちゃうと、「メンバーが売れないせいで自分が他人から評価されないじゃないか!」という、怒りになります。
だから、パワハラとかをやっちゃうんですよね。「お前が売れないせいで俺の株が下がるじゃないか」とか、「お前さえ売れたらこの会社でMVPなのに」みたいな恨みって、やはりけっこうあるので、そこですよね(笑)。
吉田:なるほど。だからやはり左側の人だとちょっとマネージャーになっていくのは厳しいんですね。
長村:はい、そうですね。
吉田:ありがとうございます。では、その他、みなさん。
(会場挙手)
左タイプを右側に寄せる関わり方はあるか
参加者5:私の部下が上に上がったので思い出したんですけど、その左の人(マイスタータイプかプロタイプ)を、右(パートナータイプかコントリビュータータイプ)に近づけるための要素というか、関わり方ってあるのでしょうか?
長村:そうですね。チームや会社という大いなるものに貢献するんじゃなくて、やはり自己メリットが一番大事ですっていう、メンタリティってそんなに変わらないかもしれませんが、すっと変わる瞬間があるとすれば、2個あると思います。変わるというか、擬態するというんですかね。一瞬右のふりができる瞬間は2つあります。
1つ目は会社のことが好きな場合ですね。自分はこういうものを作りたいとか、自分はこういうことがしたいとか、こういうことを証明したいと思って仕事をしているんだけれども、この会社のことが好きだから、チームの成功を祈ってやるよという感じで擬態するパターンですね。
もう1つが、上司のことが尊敬できるタイプですね。この人のためならというやつです。会社が好きか、上司が尊敬できるか、この2つが掛け合わされれば、性根は左なんだけれども、今は右のふりをしてやる、助けてやるという感じになりますので、右の仕事をやってくれる感じです。
ただ、長続きはしないと思います。その人なりに自分がやりたいことや自分が追求したいことが強ければ強いほど、長続きはしないんじゃないかなと思います。いずれ起業するとか、会社の中でマネジメントの仕事を続けるのは無理です、という話になってしまうと思います。
吉田:ありがとうございます。
「管理職になりたくない人」が増える背景
参加者5:単純にやりたくないっていう感じの人たちもいると思いますが、4象限の中でこのタイプが増えてきているよね、このタイプが減ってきているよね、というのがもしあれば教えてください。
長村:そうですね、あくまでこの4象限は、その人が何をしたいかというよりも、その人がどういうタイプかという話なので、管理職という仕事がしたい、したくないとはまた別の話かなと思います。
じゃあ、管理職の仕事がしたい、したくないで言うと、それはしたくない人が増えているんだろうなと思います。増えていない理由はさまざまだと思いますが、とても楽しい仕事だとは思えないですよね。例えばみなさん、Googleで「中間管理職 イラスト」と調べてほしいんですが、本当にとんでもない絵ばっかり出てくるんですよね。
上からは詰められて、下からも詰め寄られて、うわーってなっているイラストばっかり出てきますよ。誰がそんな仕事をやりたいんですかという話です。
なりたくないというのは、そういう立場であるということしかわからないからなんじゃないかな、と思うんです。要は業務内容がないじゃないですか。僕、マネジメントって、ジョブディスクリプションがないなといつも思うんですね。
「なぜそこに型を見いだしたのか?」という質問に近いと思うのですが、やはりただの立場だと認識されている仕事だと思うんですよね。マネージャーって仕事なんですかね。どっちかというと立場の話をしていませんかね。
営業マネージャーと言われても、職種はなんですか? 営業じゃないですか? 開発マネージャーと言われたら職種はエンジニアですよね。職種がマネージャーとはならないと思うんですけど、私は「こういうことをする仕事なんだから、めちゃくちゃ職種だろ」と思っているわけです。
「マネージャー」という仕事のおもしろさを見える化する
長村:職種としてどんな仕事なのかが知られていないままに、上からも下からも板挟みがあってつらい立場だという認識。ましてや最近は、人も減ってきていますし、企業も業績が悪いからマネージャーを減らしているじゃないですか。だからプレイングマネージャーは当たり前だと思うんですよ。
あと変化が激しい世の中で、自分自身がマネジメントだけしていたら意思決定できないので、自分がプレーせざるを得ないとかいろいろな背景があって、プレイングマネージャーもしなきゃいけない。
だから忙しいんですよね。プレイングもしなきゃいけないし、ハラスメントの対応とかもしなきゃいけないし、そもそも管理職が減っているから、上からも下からも問い合わせが増える感じでめちゃくちゃ忙しい中でこういうふうになるんだったらやりたくないという感じになると思うんです。
つらい立場だけをフィーチャーするんじゃなくて、「こういうことを考えるのが業務です」っていう整理が大事なんですよね。例えばアサインメントでも、メンバー一人ひとりがどのタイプかを分析できる表があります。
その分析結果をもとに、「氏名」「タイプ」「Will」「Can」「アサイン」「カテゴリ」みたいな項目でアサインメント表を作るわけです。
これを作ってみると、「ああ、なるほど。吉田さんは本当に自分に向いていない仕事をしていたんだな」と気づける。そこでアサインを見直すと、びっくりするくらい活躍したりするんですよ。それで、吉田さんが泣きながら「本当に長村さんのおかげです。ありがとうございます」と言ってくれる。こういう仕事、楽しくないですか? いい仕事ですよね。
という、「こういう仕事だよ」というのが伝え切れていないし、仕事として認知されていないから、やはりやりたくないというところが増えているんじゃないかなと思います。
管理職になりたくない人は増えていると思うのですが、まずはその仕事の内容や、その仕事の楽しいポイントをちゃんと明らかにしたいなと思っていて、そのためにもこのマネジメントの型が役に立つんじゃないかなと思うんです。