【3行要約】・マネジメントでは「執行」だけでなく4つの基準が重要だが、多くの リーダーはその全体像を見落としがちで、チーム全体の成長を妨げています。
・長村禎庸氏は自身の失敗経験から、「執行」「活用」「伸張」「連携」の4つがマネジメントの基盤であり、どれか一つでも欠けると組織全体の成長に貢献できないことを学びました。
・マネジャーは短期的な成果だけでなく、メンバーの能力を活かし、チーム力を向上させ、他部署と連携することで、全社の中長期的な成長に貢献する責任があります。
前回の記事はこちら 自分の失敗から見えた4つの基準の重要性
長村禎庸氏:「なんでこの4つなんですか?」というのを、より具体的に感じていただくために、私の昔の話をさせていただければと思います。
私は昔はこんなマネージャーでした。「執行」はやります。短期の目標を達成するために、何が重要業務かを見極めて実行する。言い換えれば、当時の自分はそれこそが仕事のすべてだと思っていました。だからこそ、「目標は必ず達成します。いついかなる時もフルコミットで、徹底的にやります」という姿勢でした。
「活用」は別に考えていなかったです。目標を達成するために、メンバーが使えないのであれば自分1人でやればいいと思っていましたし、「使えないんだったらそのへんで見ておけ」と普通に思っていたので、「使えない人はやることないです」、「なんなら辞めたらどうですか?」ぐらいに思っていました。
「伸張」ですね。採用だの育成だのというのは、一応やりますが、そんなものは人事がやる仕事であって、採用がうまくいっていなかったら普通に人事に文句を言っていましたし、新卒の方が配属されたら、「新卒研修をちゃんと受けているのか?」「育成はどうなっているんだ?」という感じで人事にしょっちゅうクレームを言っていました。
「連携」。一番これがつらかったです。その時はもうディー・エヌ・エーのある事業部の事業部長だったので、役員の方に週に1回、定例の報告をしなきゃいけないんですよね。
「連携」を軽視して外されたマネージャー時代
よく考えてみてください。私が役員と1on1で報告しているその時間に、顧客は1社でも増えるでしょうか。サービスは少しでも改善するでしょうか。答えは、どれも何も進んでいない時間なんです。
しかも、その何も進まない時間のために、どれだけ準備していると思いますか。30分、1時間、厳しいことを言われ、宿題も山ほど渡される。私はそれをまったく意味がないと感じていたので、よく「ブッチ」していました。
意味がないので、「ちょっとすみません、どうしても予定が入りまして」みたいな感じでスキップさせてもらったり、「Googleカレンダー」でやっていたので、30分ぐらいのミーティングを勝手に15分に縮めたりしていました。
そういうことをする中で、見事に私は、上半期の業績目標を達成しました。さぞ褒められるのかなと思っていたら、「上半期の業績目標を達成してすごいね」「では、外れてください」という感じで外されたんですね。
みなさん、なんで外されたと思いますか? ちなみに私も、今その役員の方の立場だったらまったく同じ意思決定をすると思います。外れてもらうと思います。
この話の中に、「執行」「活用」「伸張」「連携」の4つ全部大事ですよという話が詰まっていると思いますので、以下、解説していきたいと思います。
成果と成長、チームと全社 4象限のフレーム
(スライドを示して)こういった、4象限を思い浮かべてみてください。マネージャーが残すべきアウトカムということで、成果というのは四半期から半期程度で設定されたその時の目標の達成だと思ってください。
その下、成長ですね、成長に関しては、一過性ではない、持続的な成果を出せている状態ということで、みなさんの会社もそうだと思いますが、去年よりも目標の難易度や水準が下がることはあまりないんじゃないかと思います。
「去年できたことは今年できなくていいよ」という目標設定はされないと思うんですよ。事業部門だったら、去年できているんだったら、さらに改善して、「もっと収益を上げなさい」だと思いますし、コーポレートの部門だったら「もっと早くやりましょう」かもしれません。難易度や水準は上がり続けると思います。
それはなぜかというと、会社という生命体は、去年よりも良くしようと思って成長を目指しているからです。会社がそういうふうに目指しているんだったら、結果的にしわ寄せはみなさんに来るわけです。
なので、成長を言い換えると、「上がり続けるその目標をずっと達成し続けられますか?」という、問いだと思っていただければと思います。
チームというのはマネージャー自身の管轄範囲ですね。事業部長の方だったら担当事業部ですし、グループリーダーの方だったらグループのその範囲と考えてください。
全体というのは、そのチームを超えた部門全体や全社ですね。例えば「なんとか部長」だったらその上の本部全体とか、会社全体というふうに思っていただければと思います。
「執行」だけに偏ったマネジメントの帰結
この4象限を思い浮かべていただくと、私のようなマネージャーはどうだったか。まず「執行」に関して、その時々の目標を達成するために重要業務を見極め、実行する、については、いついかなる時も徹底してフルコミットしてきました。その結果、自分の管轄範囲における短期的な成果は出せるタイプだったと思います。
ですが、「使えない人はそのへんで見ておいてください」という、こういうマネジメントをしているというのは、つまりどういうことでしょうか。
「活用」の定義をもう1回振り返ると、全メンバーが持続的にパフォーマンスを発揮し続けるために、そのリソース・意欲・能力をフル活用するというのが「活用」ですね。
これをしないということは、言い換えるとこんな感じです。リソースを使わないということは、要はそのメンバーが暇ですということです。意欲がないとはどういうことですか? やる気がないということです。能力を使っていないとはどういうことですか? 自分にとってすごく簡単な仕事をしているということです。
暇でやる気がなくて簡単な仕事をしているという、これって人間の尊厳を奪う3大行為ですね。その状態だと、最初は「お給料をもらえてラッキー」と思うかもしれませんが、それが長くずっと続けば人は辞めたくなります。
つまり私のように、「使えない人はそのへんで見ておいてください」というマネジメントをしているということは、そのリソース・意欲・能力をフル活用していない人が発生し得るマネジメントをしているということです。そういう方々は辞めます。
「辞めたらまた入りますか? 辞めたらまた入りますか?」ということを繰り返しているうちに、上がり続ける目標をずっと達成し続けられるかというと、そんなことはできないと思います。
「活用・伸張・連携」が欠けた状態の図解
私は「執行」だけを考えて、Aさん、Bさん、Cさんに仕事を振るわけですが、Aさんは50パーセントの意欲しかありませんし、Cさんは30パーセントしかリソースを使っていないので、いずれ辞めます。
Bさんは100パーセントのリソース・意欲・能力を使っていますが、それをし得ると思ってそうしたわけではないので、たまたまです。たまたま振った仕事がその人にとってフィットしたという、ただそれだけの話であって、偶然です。狙っているわけじゃありません。なので、「執行」だけを考える人はたくさんの人が辞めて、また入って、辞めて、入ってというのを繰り返します。
執行するのは当たり前です。それと並列して同じように「活用」をしましょう。
こうしてリソース・意欲・能力を100パーセント活用できる人が着実に増えていけば、活躍し続ける人材が積み上がる。その結果、中長期でハードルが上がり続ける目標にも耐えうる組織をつくれる、という考え方です。
その次に、「伸張」ですね。採用、育成を通じてチーム全体の力量を向上させる。これができなかったらどうでしょうか。チーム全体の力量が伸びていないのに、上がり続ける目標を達成し続けることはできません。したがって、自分のチームの中長期的な成長はバツ、という評価になります。
さらに、他部署に人を輩出することもできないません。自分のチーム全体の力量が向上していないのに、「どうぞ、うちのメンバーをそちらの部署に」とは言えないじゃないですか。あるいは、自分が「もう、これは後任に任せて私は違う部署に行きますね?」というのができません。
自分のチームを超えた、本部全体や会社全体に対して、人材輩出ができないので、全体の中長期的な成長にも寄与していないということになります。
チーム力量が伸びない組織のイメージ
上半期は能力3の人が3人いて、チームの力量は9です。下半期は、能力3の人が3人いて、能力9です。次も9です。9です。9です。という、この9がずっと続くチームは上がり続ける目標を達成し続けられないですし、外に人も輩出できないということになります。
最後に「連携」ですね。冒頭の話です。「役員の方とのこのミーティング、ブッチします」という私って間違っていますか? どうですか? 間違っているような気もするんですが、どうやって間違いを説明してあげますか?
実際に役員の方とミーティングしているその時間にお客さんが増えないのは事実だと思いますし、サービスの改善が進まないのもやはり事実だと思います。ですが、それでもやらなきゃいけない理由とは何でしょうか?
みなさんだったら「当然だろう」と思うと思いますが、実は当時の私はわかっていませんでした。でも簡単な話ですよね。
私の部署で起きていること、業績、現状、課題を適切に報告しないと、私の1つ上の本部長から見る私の部署はブラックボックスになります。部署がブラックボックス化すると、本部全体の意思決定の質が下がる。結果として、本部全体の成果・成長を妨げていると言われても仕方がありません。
たとえ私の部署が目標を達成していても、情報を閉じる代償は大きすぎる。だからこそ、役員・本部長への定期的で要点を押さえた報告はとても重要です。
これは他部署に対しても同じです。「長村さんが非協力的で、うちの仕事が止まる」と言われれば、そのとおりでしょう。全体にとっての最適を損なう、それが、かつての私のようなマネージャーの問題でした。
「全社の成長」に貢献できず外された理由
ここまでお話をして、やっと見えてきました。私が外された理由は、「あなたは確かに、このチームの短期成果は残したかもしれませんが、全社の中長期的な成長に貢献するマネージャーではありませんね」というのが、私が外された理由です。
なので、「執行」「活用」「伸張」「連携」のすべてをきちんとやることで、全体の中長期的な成長に貢献するマネジメントができているかどうかを測る基準になるとに考えています。
すべて大事ですが、その度合いはあると思います。例えば私は、株式会社EVeMという組織を率いるマネージャーですが、もし、この株式会社EVeMがもう来月にキャッシュアウトしそうです、潰れそうですという状態だった場合、私は何をすると思いますか?
「活用」のための面談をしますかね? それとも人を育てるために時間を使いますかね? そんなことをしている暇はないですね。1円でも多く稼いでください。もしくは金を借りてきてくださいというのが仕事だと思いますので、「執行」100パーセントで何の問題もないと思います。