【3行要約】・問題社員対応は多くの企業の悩みだが、適切な対応を怠ると法的問題に発展するリスクがある――特に生成AIの普及で労働者側の法的知識が向上しています。
・弁護士の松村武志氏は「最近は低い退職パッケージ提示ですぐに労働審判になるケースが増加している」と指摘。
・問題社員への対応は「早期対応と証拠化」「適切な対処方法の選択」「就業規則の修正」の3ステップを踏み、必要に応じて専門家のサポートを受けることが重要です。
前回の記事はこちら 問題社員を「解雇」する具体的手順
松村武志氏:ということで、ざっくりとまとめます。業種によらないんですけれども、従業員は守られている、労働法の基本、改正も多い、多数の法律があるよと。それから社会的ニーズの変化があって各業種における労働問題リスクの顕在化。生成AIの普及と労働問題への非(専門)弁護士の参入による法的手段の早期選択というのが、今後ますます増加してくる印象もあります。
労働問題は労働者側の人はお金がなかったりするので、弁護士を付けない場合もあったりするんですけれど。その場合、今までよりも安価な生成AI、ChatGPTとかが、さも本当かのように「こんな裁判例あるよ」「あなたは正しいです」なんて言ってくるので。それを信じて法的手段を、ADRなんかを申し立ててくる場合も増えてくる印象なんですよね。
なので、やることは同じなんですけれど具体的に何をやるか。今日聴いていらっしゃるみなさんの業種において、(スライドの)この青と黄色と赤で、「自分たちだったらこうやるよ」というのをイメージしながら次の事例を聞いてほしいなと思います。

やることは同じです。早期対応、事案の検討と方針決定、それから証拠化です。それから相談対象事例の選別。解決事例から考えるよということ。それから個別対応可能な専門家サポートの利用の検討ということです。
さて、問題社員対応の具体的手順です。実例にいく前に、ここもどうしてもやらなきゃいけないので、まず事前対応として、さっき言った早期対応と相談対象の選別なんですが。具体的には、1次調査と証拠化です。事実確認とそれを基礎付ける重要書類の確認です。

例えば、そこに例があります。「問題社員を解雇したいのですが、できるでしょうか?」と言われたら、事実確認として我々弁護士は契約確認ですね。それから問題行動の確認。過去の懲戒歴とか処分歴。重要書類としては処分歴だったりする話だと、懲戒処分の書類とか就業規則、それから労働条件通知書、これは契約関係。

あとは問題となる法令の確定と条文等の確認をして、所内等のシステムを利用して個別の事件として選別して、回答方針を決定するよみたいな話ですね。
個別(事件)というのは、「調査対象事件」と書いてあって、この段階ではまだ弁護士に相談する事件ではありませんけれども。ただ単にダラダラとやるのではなくて、ちゃんと調査して証拠化するよということを、まず所内の内容に照らして確認してほしい。ここですよね。
その早期対応のための回答依頼ということで弁護士さんに聞いたり、そういうのを共有していったりするということになりますし、所内でいろいろな部署に対して、足りない証拠について回答を依頼したりすることも重要だったりしますね。
退職パッケージの決め方
それから2つ目です。「早期対応と相談対象事件の選別(事前対応)」ということで、先ほど言ったように証拠化して方針が決まったら、次に証拠化の段階で所内に対して、「こういうのはどうなんですか」と部署の回答を集めて証拠化することであったり。弁護士さんに事前に相談してみて、「今こういう資料があるんですが、方針はどうしたらいいんですか?」と相談することがありますが、それをした時に、次に何をするかの話です。
この段階でも弁護士は出ていかない。つまり弁護士が自分の名前を出して労働者の前に出ていくことじゃない話で、裏に弁護士さん、顧問がいらっしゃる方で労働法問題に詳しい顧問の方がいらっしゃるんだったら、こういうのを相談してもいいかなという気はしますけれども。
このへんは釈迦に説法ですけれども、主な対処方法は退職パッケージの提示です。退職パッケージ、退職勧奨なんですが、いわゆる退職慰労金とセットです。この時に出口から考える、ですよね。出口から考える。

つまり、労働審判や訴訟になった時に、「平均、どれぐらいよ?」という話なんですよね。(スライドの)上に書いたとおり、労働審判だったら平均値6ヶ月分とか、中央値4.7ヶ月分ですよね。これは審判で解雇が無効なものも有効なものも含まれている話ですし、上も訴訟だったら(平均値が)11.3ヶ月分や(中央値が)7.5ヶ月分で、どっちも解雇無効だったりという平均なんですが。
これが解雇が初期検討で、「いや、今解雇しても無効になりそうだね」という時は金額を上げて提案することになります。そうじゃない場合、「うん、けっこうこれはいろいろちゃんと手続きを履践しているし、解雇したとしてもいけそうだ」というような場合だったら、金額は下がるという話になります。
今回は、この退職の適切なパッケージの提案が大事なんですが、ここが先ほど言ったように、社会状況もあって低い金額とかを提示しちゃって、いきなり労働審判になっている事案が増加している印象なんですよね。
ですから、そこで1ヶ月分、2ヶ月分削るというかケチるというのは言葉が悪いんですが、低い金額にするぐらいだったら、もうひと声言っておく。法的手続きを選択された場合については、対応費用であるとか弁護士費用とかがかかりますから、合理的な提案をするタイミングだったんじゃないかなという事案も増えている印象です。
パワハラ、セクハラ、欠勤…問題社員への「懲戒処分」の実施

それから2つ目は、辞めてもらうんじゃなくて、ミスマッチを解消するという意味で言うと中身……つまり期待していた能力がないわけですから、もういわゆる教育実施ですね。
あとは改善で教育実施をする。教育をすると、教育に従わずにやるべき報告書の提出とかをしない人がいるんですね。これを問題行動と呼んでいるわけですが、これを記録化していく。そうすると、使用者側はベストを尽くしたのに労働者側が改善対応しなかったということで、この後の懲戒とか解雇につながる証拠化になるわけですよね。
これは言葉は悪いんですけれども、いわゆるベテラン古株社員で、「俺はわかっているんだよ」といったかたちで新しい業務を覚えない人とか、そういう人の場合には、この従業員教育をすると、もう今さら新しく覚えたくないよということで、自ら「一定程度の金額を払ってくれれば退職するよ」なんていうのもあるので。
これはミスマッチの解消で、いわゆる別れ方の場合にも使えるような話ではありますけれども。まずはちゃんと改善してくれたらもうミスマッチはなくなるわけですから。そういう意味での解消法として2番目があります。
それから3番目が、懲戒処分の実施です。これは実際問題ミスマッチによって、例えば社内でパワハラだったとか、セクハラしたとか、違法行為をしちゃいましたとか、欠勤が続いた、というような場合の話なんですけれども。
これは問題行動と内容の積み重ねなので、将来を見据えた手続きの積み重ね。先ほど言ったように一発解雇ではなくて、厳重注意からの反省文の提出。次は減給とか、配置転換というような就業規則に合わせたかたちで手続きを実践していくのも考えられるわけですよね。ということで、この3つが一般的な対応ということですね。
就業規則を修正してPDCAを回す

それから、これは事後対応ですが、それで実際問題PDCAを回す、先ほどの話です。これでうまくいった場合については、それを踏まえた上で、実は就業規則はこういうほうがやりやすかったよねということで、就業規則とか契約書、例えば配置転換なんかは、配置転換がありますよとちゃんと契約書に入れておくとか、就業規則も改善していく。
実際に事後対応を実効性とか解雇容易性を増すために、あるいは退職パッケージの和解金とかを低額化するために、今度PDCAを回すということで、もう解決しているんだけど次に同じようなことが起こった時のために事後対応として就業規則を修正したりするということですね。
この就業規則も既存パッケージのフィッティングというパターンもありますが、個別性が高いような特殊な業態ですね。先ほど言ったように、私の顧問先のようなかたちで、特殊なプラットフォーマーさんだったりすると、カスタマイズによる作成も検討してもいいかなと思ったりもします。
ただこちらは、社労士さんに聞いていただければわかりますけれども、単に社労士さんと相談するだけではなくて、オーダーメイドについて、やはり出口……訴訟に至った時の使える度合いの検討が必要ですから、弁護士さんとか法的な専門家についての関与のもと作るかたちになりますし費用がかかるので、事業所の実情に合わせて最適化してほしいなということになりますね。我々の事務所だと、この就業規則のサポートプランみたいなものもあったりします。
ということで、もう同じような話です。繰り返しになりますけれども、この3つが今回重要な話で、具体的なイメージをお持ちいただけたかなと思います。いったんここまで、ありがとうございました。