【3行要約】・優秀なプレイヤーがマネージャーになると失敗する――この矛盾が多くの企業で課題となっています。
・滝澤亮太氏によると、マネジメントは「ゼロからのスタート」であり、現代では多様化した人材に対し一様のマネジメント手法が通用しなくなっています。
・企業はプレイヤーとマネジメントのキャリアパスを分け、マネージャーの本質的役割である「従業員エンゲージメント向上」を重視した育成を行うべきです。
前回の記事はこちら 「できる人ほどマネジメントでつまずく」プレイヤー登用の落とし穴
滝澤亮太氏:では、まずAのところですね。「プレイヤー気質の社員をマネージャーにしている」というところからお話しします。企業さまに聞いていると、「営業で結果を出したらマネージャーになります」みたいなことが多くありますが、優秀なプレイヤーが、残念ながらダメなマネージャーになっちゃうということも、実際にはあります。

なので「結果を出したその上位職は、基本的にはマネジメントしかない」というルートしかない企業さんが、けっこう失敗をしてしまっていることが多いかなと思っています。実際にこれはデータを取っているのですが、8割ぐらいの方が「正しい人物を任命できていない」と感じているというアンケート結果があります。登用したはいいものの、なかなかうまくいっていないというのが、事実データとしては出ています。

「これはなんで起こるのか?」みたいなところをお話しします。(スライドを示して)ずばり、ここに書いてあるとおりです。プレイヤーの延長線上イコール、まずマネージャーではないということをご理解いただきたいなと思っています。
サッカーに例えて図を出していますが、例えばサッカーの名選手が、必ずしも名監督になるかというと、もちろんなる方もいれば、なかなか難しい方もいらっしゃるんですね。
少しだけ背景をお伝えすると、プレイヤーとして結果が出せてしまう方。例えば営業成績がいいという方は、根本的に言うと、できない方の気持ちを理解するのが難しいんですよね。もちろん、それをわかろうと努力した上で上手に伝えられる方もいますが、上手だとしても、根本は理解できない。なぜかと言うと、自分ができちゃうから。
(マネジメントは)そういった方の気持ちに一生懸命に寄り添いながら、努力をして・工夫をして、やっとできるところだったりするので。(プレイヤーとして)うまくいけばいくほど、意外とマネジメントになると失敗しちゃったりします。本当に「なんでこれができないんだろう?」という理由がわからないので、「どうやって育てようかな?」というところの壁にぶち当たってしまう。こういうことが、けっこうあります。
そもそもこの、プレイヤーの延長線上。何かができるようになったら「はい、マネージャー」という延長線上にあるわけではありません。(スライドを示して)ここに書いてあるとおり、「マネージャーになる場合は、完全にゼロからのスタートだ」と私たちは思っています。マネージャーとしては新人なので、そういったところを理解した上で「マネジメントに上がってください」というメッセージをかなり強く伝えています。
「マネジメントレベルとしては、1からの再スタートである」と思っています。特にこういったできる方はプライドだったり、自分の実績が邪魔して「なんで自分ができないのか?」と悩んでしまうケースがあります。場合によってはせっかくうまくいっていたのに、なかなか結果が出ずに、それこそ鬱になっちゃったりすることもあります。まず、この「延長線上にないんだ」ということをご理解いただくことが重要かなと思っています。
プレイヤーと管理職のキャリアパスを分けて設計する
じゃあ、そこに対しての解決策として、どういったことが考えられるのか。よくあるのが、プレイヤーのコースとマネジメントのコースを別に分けて用意する、ですね。
例えば、私のクライアントにも実際にいらっしゃるのですが、営業で抜群の成績を出した方に、マネジメントを依頼したところ「マネジメントにそんなに興味がない」「もっと自分はプレイヤーとして高みを目指したい」と返答がありました。
その方を無理矢理マネージャーにしてしまうと、本来のその方がやりたいことだったり、モチベーションが変わって、なんなら退職する可能性もあります。そのため、プレイヤーとして高みを目指していく、より精度を高めていって磨き上げていくコースがあると、プレイヤーとして一流になっていくこともあるんじゃないかなと思っています。
一定ができるようになった上でマネジメントコースに行くというかたちで、1つのルートしかない企業さんもけっこう多く、「結果を出しました! はい、次は上位レイヤー」みたいな感じで管理職になることもあるので、このあたりをそもそも分けて考えるというのが、すごく重要かなと思っています。

あとは、補足レベルではありますが、例えばストレングスファインダーを活用してみる。「何がその人の強みなのか?」を見ていくと、「この方って、やはりプレイヤーとして磨きをかけていきたいんだな」という思想とか「組織を束ねながら大きい数字をやっていきたい人なのか」というところが、けっこう出てきたりします。

こういったものをやりながら見極めていくのも、1つの方法かなと思っています。単純にそのプレイヤーの方が結果を出したから、次はその延長線上にあるマネージャーへ、ではなく、そもそも延長線上にないという前提を理解した上で、コースを分けるということが非常に重要かなと思います。これがまず1つ目の課題に対する解決策ですね。
多様化したメンバーには一律のマネジメントが効かない
では続いて、Bですね。「一様のマネジメント手法が通用しない」。こちらに関しては、今、昨今いろいろな方々が働いているというところです。例えば海外の方。外国人の社員だったり、働く女性の増加だったり。Z世代の方が、いよいよ入ってきたり。あとはフリーランスだったり、リモート社員の増加だったり。

働き方や、価値観が非常に多様化しているという背景ですね。例えばその中で「バンバン働きたいです」「モーレツに働いて、マネジメントになりたいです」みたいな方もいれば、どちらかと言えば褒められて伸びるタイプで「報酬というよりは、自分のやりたいことができているか」とか「社会的に本当にいいことができているか」とかが「大事です」という方もいらっしゃいます。

(スライドを示して)真ん中の写真にいる方が仮にマネージャーだと考えた時に、これはAタイプ、Bタイプ、Cタイプ、Dタイプに分けていますが、それぞれぜんぜん違うマネジメントスタイルになってきてしまっています。

そもそも性格やタイプによって分ける必要がある時代になっているので、単純に「こうやってやればいいだろう」「みんな、こういうふうにやって、こんなステップを踏ませて、最終的にこんなチャレンジをさせて、それで一人前になってもらう」と固定化されているようだと、なかなか難しいうマーケットになってきています。
そこを、しっかりと、それぞれに分けながらやっていくというのが、やり方の2つ目の解決策です。
「卒業方式」だけに頼る昇格はミスマッチを生みやすい
では続いてCのところですね。「卒業方式でマネージャーにしている」というところのお話をしたいと思います。これは最初のAにも少し似ています。例えば営業として一定の金額を作れるようになった場合は、マネジメントができるかわからないけれども、期待値に基づいて昇格します。
入学方式は、たとえ今の目標がクリアできたとしても、マネジメントのことをちゃんと知った上で「できないのであれば、上にはあげません」というかたちです。これが入学方式に基づいた昇格です。もちろん、それぞれにメリット、デメリットがあります。

いわゆる卒業方式は、前の役割や目標は達成できているという前提になるので、できないかもしれないけれども、「次は、こういう挑戦をしてほしい」ということで、(スライドを示して)ここに書いてあるとおりチャレンジの機会が与えられたり、「今の等級で活躍していれば、ちゃんと昇格できるんだ」というわかりやすさがあります。
一方でデメリットは、次の職位を任せた時に結果が出せるかどうかが、なかなか難しいというところです。なので、いわゆる「失敗を許容していく」というところだったり、新任マネージャーをちゃんとサポートしていく体制だったり、能力を有していない場合は降格できるとか、こういった文化や制度がどうしても必要です。
続いて入学方式は、先ほどお伝えしたとおり、例えば合格をしたら次はマネージャーにしますというものです。基本的には、マネージャーのラインに合格しない限りは、次にはいけません。
なので、卒業方式に比べると「期待外れだった」とか、次の上位等級で活躍できないみたいなことが少なくなりやすいです。
一方でデメリットは、とは言っても上位等級の、その職位を実際に有しているかみたいなところでいった時に、けっこうこのへんの判断が難しかったりします。また、そこに至るまでちょっと時間がかかったりするので、このあたりはちょっと難しいポイントなのかなと思います。

じゃあ入学方式に関しては、どういうやり方があるか。昇格させるために、その上位等級に匹敵するようなプロジェクトや役割、研修で経験を積ませる。そういう仕組みづくりが必要になります。
卒業方式と入学方式を組み合わせた昇格設計とトライアル枠
では、ここに対してどういう解決策があるのかを少しお話しします。まず解決策の1つ目ということで「卒業方式と入学方式をハイブリッドにしていくとどうでしょう?」という考えですね。
例えば、プレイヤーとして昇格をしていくところ。プレイヤー1からプレイヤー2、プレイヤー2からプレイヤー3。ここはまぁ、卒業方式でどんどん上がっていく感じでいいと思うのですが、例えば「営業から企画に移ります」とか、「同じ営業だけれども、マネジメントに移ります」とか。役割が変わって、例えば部下を持っていくという時は、入学方式というかたちで試験を受けさせたり、そのマネジメントになるための研修を用意して、それを受けないとマネジメントになれないようにする。そういったものを設けてもらうというようなところが、1つのやり方です。

解決策の2はストレートに言うと「降格も考えた上での制度を作りましょう」というものです。卒業方式を前提にするのであれば、やってみて失敗するっていうこともあると思います。そういったところの期待値をちゃんと新しい新任マネージャーの方々とすり合わせをして、「こういう結果が出なかった時は、もう一度プレイヤーに戻るという可能性がありますよ」と伝えた上で、卒業方式をベースにやっていきます。

3つ目のやり方は、マネージャーのトライアル枠を設ける。例えば、とあるプロジェクトにおいてはマネジメントをやってみて、その時に部下を持ってみる。そういうやり方も1つかなと思います。今のグレードのままで、他のものをやらせていくということも1つあるんじゃないかなと思っています。

弊社も、マネージャーになる前にSV、スーパーバイザーという職種を用意しています。メンバーよりは地位が高く、取りまとめるようなこともやっていく中で、そこをクリアしたらマネージャーになっていきます。こういったことをやっていくと、卒業方式にしても入学方式にしても、よりやりやすいんじゃないかなと思っています。