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基調講演(全5記事)

妻の働き方によって“生涯賃金2億円の差”が生まれる 夫の残業がかえって家計の損に?夫婦で築く今後のキャリア戦略

【3行要約】
・男性の育休は「妻に尻に敷かれている」と茶化されることもありますが、妻と子どもの命を救う重要な休みであり、ワンオペ育児の解消につながります。
・株式会社ワーク・ライフバランス代表の小室淑恵氏によれば、出産後の夫婦の愛情は二極化し、熟年離婚の原因は育児期にまで遡るケースがあると言います。
・男性の育休取得と育児参画は、夫婦関係の維持だけでなく、女性の就業継続による家計の経済的豊かさ(生涯賃金2億円の差)にも直結しています。

前回の記事はこちら 

男性の育休は“2人分の命を救う重要な休み”

小室淑恵氏(以下、小室):妻がたった1人で育児をする、いわゆるワンオペ育児ですが、実際に核家族化してワンオペ育児になってから児童虐待の件数はこんなに増えてしまっています。

ということを見ると、男性の育休は「妻の尻に敷かれている」なんて茶化されることがありますが、本来は妻と子どもの2人分の命を救う、とても重要な休みなんだと言えるのではないかなと思います。

男性の育児休業については、私たちが10年間ロビー活動を続けまして、ついに法改正がなされました。今までは本人の申し出が必要だったんですが、そのハードルが高いものですから、「企業から打診すること」というふうに法律が改正されました。

それによって今は企業が打診するだけではなくて、上司や同僚にきちんと研修をして、知識を高める研修の義務も企業にあるんですね。ですので、私たちは管理職の研修をたくさんやっています。今日、冒頭に司会で挨拶をしてくれた大畑が父親学級を担当しているんですけれども、毎回900人ぐらいのプレパパが参加する会を年4回彼がやっています。

そして私が行うのが管理職向けの研修なんですが、これにはなんと6,000人が参加されています。今はそういった研修をしっかりと受けて、知識を持って育休取得を推進したり、プレパパたちの上司たちは対応しようというふうに変わってきています。

増加傾向にある熟年離婚、その背景にある理由とは

ここで興味深いデータです。私はいつも管理職にお示ししているんですが、夫婦の愛情グラフというものです。妻の愛情は子どもが生まれる前には100パーセント夫か彼氏に向いているんですが、子どもが生まれた後は100:0で子どもに行くんだそうです。1回ゼロに落ちる夫への愛情なんですが、その後に回復する群と低迷する群とに二極化していきます。

回復する群に共通していたのは、産後すぐの育児参画の度合いが高かったこと。しかもそれは、おむつを替えるとかミルクをあげるという単なる作業ではなくて、「初めてのことで不安だし、睡眠不足でフラフラだけど、でもかわいいね」というような、感情の共有をいかにできたかが重要だった。

たとえ専業主婦であったり里帰り出産だとしても、これは自分以外の人にアウトソーシングできるものではないので、夫が育休を取らない理由にはならないよということを、上司にもしっかりと研修をしています。

「具体的にはどれぐらい愛情って離れるの?」というのを見ていったところ、妻が夫に、夫が妻に抱く愛情は、妊娠期から0歳児までのたった1年間でなんと20パーセント開き、その差はその後一切埋まらないということがわかっています。

管理職研修のアンケートには「あっ、だからか……明日妻に謝りたい」というふうにみなさん書くんです(笑)。「自分があの時に猛烈にやって成功した」と思っていたわけですけれども、そこで失ったものの大きさにあらためて気づくんですね。管理職の時点では気づいていない方が多いですが、今は熟年離婚が大変増えています。

熟年離婚は圧倒的に妻が言い出すんですが、いつからそのことを考えていたのかというお別れ検討開始時期を聞くと、「育児期から」が一番多いんですね。ずいぶん前から(離婚を)検討しているんですが、「お金を持ってくるうちは我慢しておりました」という、金の切れ目がなんとかという悲しいお話です。

「もう数年後にはそのことが迫ってきているよ」という管理職のみなさんがこの研修を受けた時に、人生100年時代に人生の評価をするのは上司・同僚じゃなく家族ですよね。

現役時代よりも長い定年後に「あなたって重要な時にいつもいなかったよね」とか「今日でさようなら」というものが待っているんじゃなくて、今からでも間に合うから「あなたはいつも私と一緒に家族を支えてくれたよね」と言われる状態にしましょう。そんなことをお話しすると、管理職のみなさんはいろいろとアクションリストを書いてくださったりします。

「男は若いうちにもっと働け」という説の問題点

小室:早いうちにみなさんがこういったことに気づけると、自分1人の人生だけではなくて、「人生の成功や報酬って何だろう?」というところをもう少し広く見ることができる。そしてビジネスパーソン時代だけじゃなくて、人生100年時代をトータルにグッと広げて見ていくことができるのではないかなと思います。

さらに国単位で見た時に、このことはとても大きいんです。「男は若いうちにもっと働け」的な話があったり、もしくは「今、できるうちに稼ぎたいんです。もっと成長したいんです」というところがあります。

しかし(十分な教育を受けた2人は)夫婦で7対7で働けて、そして意欲も能力もあります。ところが男性がそこで「あとプラス3は働きたいんだよ」というふうに残業を増やしていくと、多くの場合は妻が育児・家事を一手に引き受けることによって、ワンオペの負担で離職してしまう。

(夫婦の)片方はちょっと業務が増えたので収入も増えたかもしれませんが、10と0で10なんですね。(家庭をトータルで見ると)「あれ、減っていない?」ということです。14が10に減ってしまいます。

もう1つは、現在の労働力の2人が1人になり、そして未来の労働力が第一子の子育てで力尽きるので2人目は持たなくなると、現在と未来の両方において半減することになるんですね。つまり支える側の人口がより加速して少なくなり、支えられる側ばっかりになります。

「現在の労働力と未来の労働力を同時に最大確保する」という連立方程式を解けた国だけが、人口減から再浮上することができます。日本全体を左側のような状態に持っていくデザインをしないと、もう二度と少子高齢化から復活してくることはできないんですよね。なので地域経済、そして国全体も衰退させていってしまうということが起きます。

そして14と10の差は4なんですけれども、金額にするとこれが2億円であることがわかっています。これは、東京都で私が「東京くらし方会議」の委員を務めた際に、東京都に試算してもらったものです。

働き方の違いで「2億円」を失う結果になることも

小室:子どもの出産を機に仕事を辞めた、もしくはパートでその後に復帰した場合の生涯賃金と、育休を2〜3回取りながらでも仕事を続けることができた場合の生涯賃金だと、今の時代は長生きするので年金額ですごく違いが出るんですね。

これらを試算したところ、ライフスタイルの違いや就業継続できるかどうかによって、なんと1人の女性で生涯賃金が2億円違うことがわかっています。一方で妻が働かないことによって得られる控除は、32年間分を足してもなんとたった670万円だということがわかっているんですね。

ですので、経済的な豊かさのために時間外労働も辞さないで働くと、家計単位で見た時には実は2億円失っているということなんですよね。ですので、私たちはもっとしっかり考えていきましょう。

これからの時代は「持続可能なハードワーク」がカギ

小室:すごく狭い視野で見るのではなくて、家計や生涯という広く長いスパンの全体で勝ちにいくことを考えていくと、戦略的情熱のある持続可能なハードワークをするべきじゃないですか? これが、これからの働き方なわけです。私からはいったんここまでにさせていただきたいと思います。お時間をいただき、どうもありがとうございました。

大畑愼護氏:小室さん、ありがとうございました。私は30代ですが、生涯賃金2億円の話は30代でも情報として伝えていきたいなというふうに思いました。20代の方々にはまだ伝わってはいないけれども、直感的に気づいて夫婦でキャリアを築いていくことがスタンダードになっているというのが、私の肌感でもあったりします。

そして妻の愛情曲線という話ですね。今日初めて聞いた方は非常に衝撃的だったんじゃないかなと思いますし、そして「うちの家庭は大丈夫?」という方もいらっしゃるんじゃないかなと思います。

私も講師としてこの愛情曲線については長く伝えていますけれども、今日の朝、何気なく妻に「こういう愛情曲線というものがあってね」という話をしてみたんです。

私は子どもが3人いて、13年間保育園に通っています。第一子の時の失敗からいろんな成長があったような父親ではあるんですが、「13年前は本当に毎日別れようと思っていた」ということを(妻が)言っていました。信じられなかったですね。

今でも動揺が止まらないんですが、これは本当に例外がないんだということは、愛情曲線のところで妻からも聞いてわかったところがありました。

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