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基調講演(全5記事)

残業ができる人に頼り続ける「ギリギリ職場」の末路 つらい働き方を脱するための“真のハードワーク”とは

【3行要約】
・SNSでも話題の「子持ちさま問題」などにより組織の対立が深刻化し、チームワークの悪化に悩む職場も増えています。
・ ただつらい働き方ではなく、勝てる働き方こそが「ハードワーク」であると小室淑恵氏は指摘します。
・残業ができる一部の人に頼った働き方ではなく、多様な人材が短時間で成果を出せる働き方改革が重要です。

前回の記事はこちら 

稼いでも稼いでも社会保障費が取られる……社会の現状

小室淑恵氏:(人口ボーナス期から)人口比率が変わってくると、今度は「人口オーナス期」という時期になります。若者が少なくて高齢者がたっぷりいる時代なんですけれども、生産年齢人口比率が低いので、ちょっとの働き手でたくさんの人を支えると社会が非常に大変になってきます。

少しの人でたくさんを支えるということは、1人にかかる社会保障費がすごく上がる。だから、稼いでも稼いでも国に社会保障費が取られていく。でも、それって国の人口構造上は当たり前なんですよね。私たちは今、こういう社会にいるんです。

なんとなく、「どの政府がやっても国が良くならん!」って思っていると思うんです。確かに今の政府のせいというのもけっこうあるんですけれども、どちらかというと人口構造のせいなんですね。

じゃあ人口構造のせいだという時に、それをどうやって抜け出していくのか? ということが重要になります。そして他国は、それを抜け出すためにハードワークの概念を変えていったというところが大きなポイントなんです。

人口オーナス期にどうやって再浮上するかというと、まずは現在の労働力をマックス確保します。現在の労働力というのは生産年齢人口の15歳から65歳ゾーンですが、多くの国では人口ボーナス期には体力のある男性だけが分母に入っているんですね。

オーナス期になったら支える側が足りなくなるので、女性や障がいを持つ方や親の介護をしている方など、全部を(労働力として)入れていこうというかたちになります。

仕事と育児、仕事と介護、仕事と治療など、何かと仕事が両立できない働き方だと一部の人しか戦力にならないんですね。だから、こうやっていろんな人が働ける職場にするために、働き方を徹底的に変えていきます。労働時間をギュッと圧縮して、「時間の中で成果を出した人が勝ちだよ」というふうにルールを変更していくわけです。

こうなってくると、女性も障がい者もいろんな人が支える側に回ることができるので、1人にかかる社会保障費が抑えられるという構造になります。

“短い時間でいかに多様な人が働けるか”がカギ

そして同時に、未来の労働力も作らないといけないんですね。つまり赤ちゃんが生まれないといけない。だから、徹底的に育児をサポートするわけです。「夫婦で働いてよ」と言っているのに、「2人以上産んでよ」みたいな社会になるんですね。

それは大変だということになるから、いかにして2人で2人を作れるような状態になるか。これは支える構造が非常に重要になってくるので、ワーキングペアレンツが2人以上の子どもを持てるような、さまざまな施策をやっていくことが必要になっていきます。

こういうものを後ほどちょっとご紹介しますが、男性の働き方を変えて、男性が育児休業を取れるような社会にしていくことが重要なわけなんですよね。

こうやって現在と未来の労働力を同時に確保しないと、働き手ではない世代を1人がどれぐらい背負うのかという「従属人口指数」が上がり続けちゃうので、国民みんなの社会保障費が毎年毎年上がっていって、税金を取られて手取りが残らないという状態になってしまうんです。

人口オーナス期になったら、現在の労働力確保のために徹底的に働き方改革をやって、そして未来の労働力確保のために男性の働き方改革をやる。「働き方改革ばっかりじゃん!」ということになるんですけれども(笑)、そうなんです。

つまり、先進国になって労働力の比率が低くなった国は、「いかにして短い時間でいろんな人が働ける国にするか」ということが戦略なんですね。

ハードワークとは「ただつらい働き方」ではない

ハードワークの概念を「それは文化だ」とか言う人がいるんですが、実はほとんどの文化は、その時にやらざるを得ない、その国の労働に合わせて作られてきているという研究結果があります。

だからこそ、ただつらい働き方だけがハードワークではなくて、勝てる働き方こそがハードワークなわけです。「じゃあ、今の人口構造に合わせて勝てるルールに変えていこうよ」ということが、先進国では自然に起きています。

単純にまとめると、人口ボーナス期ではなるべく男性ばっかりで、なるべく長時間労働をして、なるべく同じ条件の人で、軍隊のように「右向け右」の組織を作ると勝ちやすいということになります。

一方で人口オーナス期になると、なるべく男女を全部(労働力として)使い切れるようにする。その方たちが育児や介護などさまざまなタスクを抱えるので、なるべく短時間で高い成果を出す。しかも仕事が複雑化し、倫理観が非常に求められるような仕事の内容に変化したり、質の変化が起きてきます。

「睡眠」という非常に大きなキーワードですけれども、集中力や倫理観を担保する睡眠を確保できるように、短い時間で仕事ができて、睡眠が守れるような社会を作っていく必要が出てくる。ここは後ほどもう少し詳しくお話ししますね。

そして3つ目に、ボーナス期にやっていたようなビジネスが崩れ去って、オーナス期には新しいビジネスが求められるようになるので、斬新な新しいビジネスの発想が出てくる。いわゆるイノベーションが重要になってきます。

イノベーションは、多様な人材がフラットに意思決定ができていないと起きないと言われています。「自分の24時間を提供できたからこの職位にいるんだ」ということではなくて、育児中や介護中の男性でも意思決定層に入ってこられるようにする。

時間外労働ができない理由をそれぞれ持っているけれども、そんな人たちがその私生活における事情を背負って重要な会議の場に来るからこそ、お客さまにとっての困り事を解決するような新しい商品やサービスが生まれてくるんだということが、重要なポイントなんですね。

“残業ができる一部の人”に頼る職場の危険性

なので、いかに多様な人が生き残れるような働き方に変えて、それによって多様な人が意思決定してイノベーションを起こして、「高付加価値型商品・サービスで勝つ」というところに持っていくことが重要になっていきます。

だから、国のフェーズによってハードワークの概念って変わってくるんです。ただつらいのがハードワークじゃないですもんね。勝たなきゃ意味がない、ということなわけです。

じゃあ、今までの職場では何がどう問題なんだろうか? というところなんですが、(スライド)左側が従来の職場です。1本1本のバーは働いている人だとイメージしてください。

誰かの労働時間が欠けた時に、よく「あっ、お前は残業できるよね」と言って、グッて(業務を)乗っけられる時がありますよね。見た目上、事情がなさそうな人のところに乗っかってくることがあります。

こうなってくると、一部の時間外労働ができる人に非常に頼る職場になってくるわけです。まさにみなさんの職場は、このように特定の数人の体力的ハードワークで支える職場になっているんじゃないかなと思いますが、これはとても危険です。

なぜかというと、一言で言って「求められれば時間外労働をできますよ」という状態の人の割合が日本では毎年減っていくからなんですね。若い人の割合がどんどん減っていきますから、当然のことです。

育児をしていて、介護をしていて、何かしらの時間制約がある人。もしくは高齢になってきて、体力的にもう時間外が難しいという人だらけになってきます。そして、多くの高齢者を支えたり介護する人も年々増えていくことになります。

ここ(若い世代の長時間労働)に頼った経営をしていると、年々その手法が取れなくなっていくわけですから、年々勝てなくなっていくという方向性なんですね。そこで、もっと持続可能な、今後も勝ち続けられるような新しい枠組みってないの? というのが(スライド)右側の状態です。

これは安易に時間外の部分を使うのではなくて、一見面倒くさく思えるかもしれないんですが、多様な労働力をうまく使っていくという手法です。週4日勤務、在宅勤務、育児時短、介護時短、65歳以上のシニア再雇用などがあります。

「今の週5日フルタイムの働き方だと、65歳を過ぎてまでちょっと続けられないな」という方も、「週1回は孫の面倒を見たい日もあるから、週4日勤務」とか「1日6時間勤務」ということであれば、今のベテランの能力を活かせる。年金をもらう側じゃなくて、もうちょっと払う側でいてもらうこともできるわけです。

SNSでも話題となっている「子持ちさま問題」

日本ほど高齢になっても労働意欲が高い国はないわけですけれども、ここの世代をうまく使っていくと、いろんな人で支えて、多様な人材の生産性の高さによって実現するハードワークができるんですね。仕事の総量を多様な人材でこなしていくんです。

今、SNSで盛んに言われている「子持ちさま問題」はみなさんご存じですか? 「子持ちはいいよね。あっちが配慮されてさ、できなくなった分の仕事は全部こっちへ来るじゃない」「子持ちばっかり配慮されているんじゃない?」というように、事情がある人とない人の対立構造が高まって、いざ仕事という時に一枚岩になれない。だから、ぜんぜん業績が上がらない。

「ワーク・ファミリー・バランス」と言うんですが、家庭的な事情が配慮されるのは一見優しい職場に思える。だけれども、一部の人だけが非常に配慮をされたり、その分の仕事が他の人に乗っかっていく職場は、それを被っている人たちはものすごくはらわた煮えくり返っている状態になるので、とても業績は上がらないんですね。憎しみ合う職場だからです。

こういうワーク・ファミリー・バランスをやってしまうと、ぜんぜん業績につながりません。そういう解決の仕方では一部の人たちがギリギリの状態で働かされるので、常につらいギリギリ職場になってしまう。

そうではなくて(スライド)右のようなかたちで、それぞれに事情がありますから、お互いにけっこう休むんですね。休むことに関して何が問題かと言えば、仕事をうまく回せるかどうかです。ですので、お互いが休むことが前提であれば情報がクラウドに共有されて、「パッと(他の人の仕事を)受け取って走る」というパス回しの美しさが洗練されていきます。

ここがきちんとされていると、今まで頑なに休まなかった人も「まぁ、休んで大丈夫か」というふうになりますので、働くのが癖みたいになっている人も休むことができます。

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