【3行要約】 ・多角的な視点を集める360度フィードバックは、管理職の成長だけでなく部下の当事者意識も育む効果も期待できます。
・ロバート・ケリー氏の研究では、組織の成功の8割はフォロワーの貢献によるもので、フィードバックはその育成機会となります。
・効果を最大化するには、対人関係と業務遂行のバランスを考慮した設問設計と、「強み」「課題」「メッセージ」の3点を意識した建設的なコメント収集が鍵となるでしょう。
前回の記事はこちら 上司と部下のデータを合わせることで見えてくるもの
柿沼昌吾氏:(スライドを示して)これは360度フィードバックのカテゴリーになります。例えばリーダーシップ、情報収集、計画遂行、チームワーク、外部研修、ビジョン立案といった項目があった時に、大きくカテゴライズすると、対人関係と業務遂行に分けられるかなと思います。
これをもうちょっと広げます。上司・部下・同僚で、この項目でふだん何を見ているかなんですけど、これはあくまでも一般的な傾向で二重丸、丸、三角でつけています。
上司は、部下である管理職の問題解決や戦略立案といったところをよく見ているケースが多いです。情報収集・専門性、計画策定、ビジョン立案など、業務遂行に関するものについてはよく見ていますが、対象者である管理職が部下にどのようなリーダーシップを発揮しているかは、あまり見ていないケースがあるため三角にしています。
では、部下はどうでしょうか。部下は先ほど申し上げた通りリーダーシップの受け手なので、対人関係のところはよく見ています。リーダーシップをどう発揮し、チームワークをどう醸成しているか。また、営業であればお客さんと同行するケースもあるので、外部とのセッションもよく見ていることがあります。
ですので、上司と部下のデータを総合すると、対象者の行動が多面的にわかるというのが360度の良いところです。なぜ同僚を入れているのかは、細かいところまでは見れていないかもしれませんが、「こんな風にリーダーシップを発揮しているんだな」とか、まんべんなく見ているケースが多いのかなと思います。
部下のフォロワーシップ強化の効果も
また、組織内の上司・部下・対象者の中で完結していることもあると思うんですよね。そうすると外から見た客観的な視点、つまり同僚の評価が、組織内部にいると見えにくい視点を与えてくれることもあります。
同僚は上司や部下には分からないようなことも言ってくれるケースがあり、「あっ、こういうことを思われているんだ」という対象者の気づきになるので、同僚の評価やコメントも非常に参考になります。なので、同僚も入れるべきかなと思います。そうやって同僚・部下・上司のレーティングや定性コメントをもらって、多面的にマネジメントを見ていくことが、マネジメントの強化につながるポイントです。
最後は、部下のフォロワーシップ醸成です。これは360度をやることによって、回答者である部下にどういう影響があるかというところになります。

ご存じの方も多いと思いますが、フォロワーシップとは、カーネギーメロン大学のロバート・ケリーさんが書いた『指導力革命:リーダーシップからフォロワーシップへ』という本が有名です。フォロワー、つまり部下が当事者意識を持って、組織や上司と協働する意識や行動と定義されています。
次世代リーダーとしての意識付けにつながる
もちろんリーダーがフォロワーの能力を引き出す責務はありますが、それと同時にフォロワーもリーダーの能力を引き出すことが求められる。それをやることで組織はもっと良くなるんだよ、と言っています。調査結果も出ていまして、「多くの成功する組織においてリーダーの貢献度は20パーセントにすぎず、フォロワーが残りの80パーセントを握っている」と言っています。

どうでしょうか? みなさんどう考えますかとうかがいたいところですけども。もちろんリーダーの貢献度も重要ですが、それよりもフォロワーがリーダーに対してどうアプローチするかが、組織全体の成功を握っているということです。では、その80パーセントを握っているフォロワーがどういう行動をしたらいいかを次のスライドで解説したいと思います。
(スライドを示して)縦軸が提案力、横軸が貢献力です。貢献力は、上司から言われたことをフォロワーがきっちりこなしていく力です。縦軸は、ちょっと上司にとっては耳が痛いかもしれないけれどきっちり言わなきゃね、ということだったり。あとは組織のために言うべきだろう、という提案力になります。書籍によっては批判力と訳していることもあります。
目指すべきは、貢献力も提案力も高い「創造的フォロワー」です。リーダーの指示に忠実で業務をちゃんとこなしながらも、組織の成功のために、リーダーにとって耳の痛いことも含めて提案を行う。先ほど「組織が良くなるためにはフォロワーが成功の80パーセントを握っている」とありましたが、この創造的フォロワーがいる会社はやはり強いだろうなと思います。
360度フィードバックの話に戻ると、この機会を使うことで、部下にとっても組織や職場が良くなるように、上司に気づいてほしいポイントを提案していく機会になるだろうなと思います。そういうことを考えることによって、フォロワーシップがどんどん鍛えられて、次世代のリーダーとしての意識付けが少しずつ出てくるんだろうなと思います。
設問は自社に最適なものを考える
では、具体的にどう事前の準備をしていくか。まず設問の設計です。(スライドを示して)これは例として挙げていますが、設問は独自に設計する必要があるかなと思っています。なぜかというと、「コレクション効果」というものがあるんですね。

これは組織サーベイやエンゲージメントサーベイなどでも言われるんですけれども、360度などによって質問を投げかけると、対象者はその項目を見て「この質問が組織の求めていることなんだな」と考えますよね。そうすると対象者は自己評価しながら、それに向けて行動しようとする効果が出てくると言われています。これがコレクション効果と言われるものです。
そうすると、効果的に設問設計すれば、会社のメッセージとして伝えられるメリットがあります。逆に、ありものの設問を安易に使ってしまうと、間違ったメッセージを伝えてしまう可能性もあるので、コレクション効果を考えると、設問設計をきっちりやったほうがいいかなと思います。
(そう考えると)具体的に設問設定をどうやっていくのかというところです。設問設計は3つの観点でやっていくのがポイントになります。3つというのは、「網羅性」と「階層特性」、あと「企業の独自性」になります。

「網羅性」というのは、マネージャーに必要な行動特性、大きく対人関係と業務遂行の2つの領域が網羅的にちゃんとあるかどうかの確認が必要になります。

課長、部長、経営幹部では、同じマネージャー層といえども期待値がまったく違ってきます。そこを細かく(領域を)切っていくことが重要かなと思います。
あとは「企業の独自性」です。会社のミッション、ビジョン、バリューをどう反映させていくかも重要です。