【3行要約】 ・360度フィードバックは管理職の成長に有効ですが、結果をただ配布するだけでは十分な効果が得られないという課題があります。
・対策として読み解きセッションを行い、アイスブレイキング、自己理解、ビジョン立案の3ステップで対話を進めることがおすすめです。
・アクションプランは目標管理制度に組み込むなど3つの方法でフォローし、個人の成長だけでなく組織全体の課題発見と改善にも活用すべきです。
前回の記事はこちら レポートを踏まえた読み解きセッションを行う
柿沼昌吾氏:最後の部分、成長支援です。結果をどう共有してフォローアップしていくか。
(スライドを示して)これは先ほどもお見せした、360度の基本的な流れです。ご説明したいのは真ん中の、360度の1回目と2回目の間。本人フィードバックと進捗フォローのところになります。ここをどういう風に進めていくかです。
結果が出て、人事がそれをメールを送って終わりというケースもけっこうあるんですよね。「自分でちょっと考えてみて」と乱暴にやってしまうケースです。それでは何の効果も出ないかなと思っています。まず、結果レポートを受け入れてもらうために、個別の読み解きセッションのようなものをやるといいんじゃないかと思います。
相手に寄り添いながら結果を一緒に読み解いて、自己肯定感も大切に、相手を尊重しながらフィードバックして、将来に向けたアクションプランを一緒に考えていくものになります。だいたい60分で、アイスブレイキング、自己理解、ビジョンの立案という3部構成でやるといいかなと思っています。

自己理解を促すところですが、私が1on1でどうやっているかも含めて解説させていただきます。
まず対象者に「レポートを見てどう思ったか」を聞いていきます。ここで感情を吐き出してもらうことが重要です。ネガティブなこともポジティブなことも全部吐き出してもらう。これが内面に溜まったままだと、どうしてもレポートと向き合えません。なので、まずは感想を聞くことが重要です。
その上で、カテゴリーごとに高いところを見て、その要因について聞きます。その他に気になるところを聞いて、対象者が言ったことを整理していく。このプロセスをどんどん繰り返していきます。
相手の話を聞きながら課題を整理する
(スライドを示して)例えば「組織・チームワーク」のカテゴリに3つ項目があって点数が出ていますよね。他社平均や、上司、部下、同僚の点数の分布が出ています。
例えば、チーム精神の発揮。「効率的に仕事を推進するために自ら黒子を買って出ている」っていうところは、7段階で5.20なので、けっこう高いですよね。
これについて対象者に意見を聞いていきます。「この部分の(点数が)高いですけど、ふだんどういうことをされているんですか」「上司も点数を高く付けていますけど、上司とどうやりとりしていますか」と聞きます。そうすると「こういうことをやっています」と出てくるわけです。その上で、「他に気になるところはありますか」と聞くと、多くの人は課題に注目しがちなので、低い点数のところを見ていきます。
例えば「マンパワーの結集」が4.0で、相対的に低めですよね。本人も気になっているかもしれないので、コメントが出るかもしれません。
「このあたりはどうですか」と聞くと、「まとめ上げるのに苦労していて、上司の期待値には及んでないんですよね」といった発言が出るかもしれない。「具体的にどういうところですか」と聞くと、そうすると、本人の頭の中で「今後こういうことをした方がいいんじゃないか」ということがいろいろ出てくるので、相手の話をどんどん聞きながら整理していくのがポイントです。これを違うカテゴリーでも同じように繰り返してって、(課題感を)紐解いていきます。
あえて最悪のシナリオから聞き出す
次に、将来のアクションプラン、ビジョンを立てる話になります。まず、今の職務内容をきちんと聞きます。現状をきちんと押さえるため、与えられているミッションや持っている成果指標(KPI)、部下の人数、上司はどんな人か、仕事上で大切にしている価値観などを聞きます。
その上で、結果レポートはいったん置いておいて、ご自身で将来どうなりたいかを聞きます。これはハイドリーム(最高のシナリオ)とロードリーム(最悪のシナリオ)、両方聞くといいかなと思います。外国の方はハイドリームを蕩々と述べられるのですが、日本人は「将来の理想って、あまりないんですよね……」となりがちなので、ロードリームから聞くとけっこうみなさんすごく喋ってくれます。
その上で「逆に、こうなったらいいなという理想はありますか」と言うと、けっこう話してくれるんですよね。なので、ロードリームから聞くとハイドリームに移りやすくなります。
この両方を聞くことによって、ガードレールの左と右が分かったので、その中でどういうアクションプランを作っていくか。
ハイドリームに近づくため、ロードリームを避けるためにどうしたらいいかを、読み解きセッションの前段で整理したものを踏まえて、アクションプランを作っていきます。フォーマットは色々ありますが、きちんと文字化することが重要です。
アクションプランをMBOに反映させると効果的
文字化したアクションプランをどう展開していくか。進捗をフォローする方法は大きく3つあるかなと思います。1つは、外部コーチと1on1でコーチングしながら、月に1回とか2回、進捗を確認しながら伴走していくやり方です。
一番やりやすいのは、目標管理(MBO)に乗っけてしまうことです。既存の人事制度の中で運用していくのは、コストもかからずいいのかなと思います。本人の立てたアクションプランをMBOの中に反映させて、それを上司と一緒に1on1などを使いながら伴走していく。
あとは、職場のワークショップというやり方もあると思います。アクションプランを作った段階で、協力してくれた部下に対して、「みなさんのフィードバックをもらった上で、自分は今後こういうことをやっていきたい」と説明していく。
やり方としては、まず部署の目標をみんなで再確認して、管理職として自分はこういうことをやっていきたいんだと伝える。そして、そのアクションプランを踏まえて、今後具体的に職場でどうやっていったらいいか、部下とディスカッションしていくと、アクションプランがさらにアップデートされていきます。そんなかたちで事後のフォローを行います。
組織レベルでも傾向を把握する
もう1つお伝えしたいのが、管理職の20名、30名で実施した時に、全体としてどういう傾向があったのかを人事として押さえておくことも必要かなと思います。あらゆる360度のサービスでこれは出せると思います。
例えばこの例は、役員クラスと部課長クラス、全体の結果をグラフ化したものです。全体として、「自己の成熟性はみなさん高い」とか、情報収集や変化行動・意思決定が課題となっているということが見て取れます。
これを見ると、役員クラスのチームワークとか対人営業はすごく高い。仮説としては、本来、部課長クラスが進めなければいけないんだけれども、もしかしたらこの組織は権限委譲がうまくいっておらず、役員頼みになっているのかもしれない。
それで部課長さんの点数が悪くなっている可能性があるので、どう権限委譲していくか、部課長さんを集中的に研修などでスキルを提供していくかがポイントになってくると思います。それによって役員クラスの方が権限委譲すれば、戦略思考とか情報といったところで、本来役員がやるべき仕事ができる時間が増えていく。そんな見立てができます。

最後に当社のご説明をさせていただきます。WillMapは、エンゲージメントサーベイや360度といった定量的なツールを使う組織コンサルティングを行っています。360度に関しては、一気通貫で設問設計からコーチングまで行うケースもあれば、部分的にお手伝いするケースもあります。もしご興味があれば、ぜひお声がけいただきたいと思います。