【3行要約】・キャリア自律の重要性は認識されつつも、組織全体の自律レベルが低い場合、一人だけで変革を起こすことは困難な状況に直面しています。
・組織開発コンサルタントの神谷俊氏は「自律レベルは二極化しており、業種や事業特性によって求められる自律の度合いが異なる」と指摘。
・自社の方向性を見極め、上司は「上司モード」を脱ぎ捨て、部下との対話の質を高めることで、組織全体の自律性向上につなげることが重要です。
前回の記事はこちら 組織全体がぶら下がっている時はどうするか
遠藤孝幸氏(以下、遠藤):神谷さん、ありがとうございます。非常に示唆がある内容をいただきましてありがとうございます。
では、ここから、Q&Aに入ってまいります。ご質問がある方はぜひQ&Aにお気軽にご質問いただければと思います。さっそく、Q&Aが来ておりますので随時取り上げていきたいと思います。
まず1つ目です。「私の所属部門は平均年齢50歳ぐらいで、7人中5人がぶら下がり状態である」と。「社長、取締役もそのタイプで、社員に対する成長期待がありません。私個人の自律レベルは高く、毎日「遊んでいる」状態であるものの、組織としての将来を考えると非常に不安があります。入社8年経ちましたが1人も後輩はおらず部門としてどう活性していったらよいのか悩んでいます」。
ということで、業種がメーカーのハウスエージェンシーということですが、ここに関して神谷さんからのヒント、Tipsはございますか?
神谷俊氏(以下、神谷):難しいですよね。キャリア自律のご相談を多くいただくんですけれども、そのご相談の大半が、シニア社員の自律レベルの低さをどうするかというところなんです。
この方の組織は、やはりシニアの社員の方々を人材開発する人がいらっしゃらないというのがかなり致命的かなと思っています。
例えばマネージャーやリーダーがいて、その下に自律レベルが低い社員の方がいるのであれば、リーダーやマネージャーが、少しずつそのぶら下がり状態の方に対して刺激を与えつつ、小さなハードルを一緒に作りながら伴走型で問題意識を共有して、時間をかけて、開発していくことが可能なんですけれども。
この組織の場合は、社長、取締役もそのタイプということですので、組織全体の自律レベルがちょっと停滞している感じなのかなと(思います)。
ここから考えることができるのは、ビジネスとして高い自律レベルが求められてはいないんじゃないかということですよね。つまり言われたことをきっちりとやる、セルフマネジメント型の働き方で十分パフォーマンスが発揮できてしまうような事業体なんじゃないかなという仮説が1つ考えられます。
セルフマネジメントが加速しても、ストレスが過剰にならないぐらいの業務量や労働時間なので、継続的にセルフマネジメントで働けてしまう組織なのかなと思うんですね。
こういう前提を踏まえた時に考えるべきは、入社8年目で1人高い自律レベルで毎日「遊んでいる」方ですよね。この方がどういうキャリアを歩みたいのか。この会社をどうしていきたいのかというのをあらためて考える必要があるのかもしれません。
会社を変革することはなかなか難しいと思うんですよ。社長、取締役も「別にいいんじゃないか」というかたちで危機感を持っていないので、この会社の中にいる限り、チーム全体が自律レベルを高めるという環境は望めないと思うんですよね。
もし自分がそういう環境を望むのであれば、もう転職をするであったり、あるいは社外にそういうプラクティスフィールドみたいな場を求めるという、越境学習ですよね。組織の外で過ごす時間を増やしていって、ゆでガエルみたいにならないような状況を作っていくことは、いわゆる自分のキャリアマネジメント上は必要かなという感じですね。
遠藤:なるほど、ありがとうございます。今の会社がそれをよしとしている部分もあると思うので、1人だけでその現状を変えていこうってなるのは、かなり難しい部分がありそうですよね。
神谷:はい、そうですね。
コンテクスト・パフォーマンスはどう生まれるか
遠藤:ありがとうございます。では続いて、2つ目の質問にまいります。「パフォーマンスがコンテクスト・パフォーマンスに昇華するきっかけや仕組みがあれば教えてください。また、それは自身の中でコントロールすることができますか?」という質問をいただいております。
神谷:ありがとうございます。コンテクスト・パフォーマンスは、組織の中で一市民として行動するという、組織市民行動と言われるんですけれども。
これが発生する先行要因としてされているのは、組織に対する愛着です。だから自分の会社が好きだという感覚がけっこう重要なんですね。
じゃあ、どうやったら自分の会社を愛せるのかというと、人間関係なんですね。LMX(Leader-Member Exchange)とかTMX(Team-Member Exchange )と言いますが、リーダーとメンバーの人間関係、チームメンバー同士の人間関係。このあたりの質が高ければ高いほど組織に対する愛着が生まれて、組織市民行動やコンテクスト・パフォーマンスが促されると言われています。
逆に、メンバーやリーダーとの接触機会、あるいは情報の共有レベルが低くなると、このあたりのコンテクスト・パフォーマンスが停滞すると言われています。
つまりリモートワークで、ジョブ・デザインされた自分だけの仕事をずっとやっている。これだと、当然コンテクスト・パフォーマンスは発揮できないので、チームが今どんな状況で他の人たちが何に困っていて、他の人たちがこの組織をどうしたいと思っているのか。こういう、他の人たちが何を考えているのかを共有するような場がまず必要になるかなと思います。
そういう場で、互いの仕事情報などを定期的に共有していれば、自然と「アドバイスをちょっとくれない?」とか「手伝ってくれない?」というかたちのつながりが生まれます。
要するに社員を1つの点だとして考えた時に、点同士がどういうリソースを持っているのかを理解すれば、そこに線が生まれやすくなるので、点同士の相互理解の場を作っていく。
定期会議とか定期イベントとか、飲み会と言うとちょっと昭和感がありますけれども(笑)、ランチミーティングとか、ラフにコミュニケーションできる場を作るのが有用かなと思います。
遠藤:ありがとうございます。それこそ最後に出ていた、上司との対話やコミュニケーションを取る機会、時間を増やしていくというところもすごく重要なポイントであるということですね。
神谷:はい、そうですね。
日本の“自律”は二極化している
遠藤:最後にあと1問くらい取り上げられればなと思いますので、ぜひお時間の許す限りご質問を書き込んでいただければなと思います。
その間に、私からもう少しおうかがいできればなと思います。自律の5段階レベルがあるというお話の中で、神谷さんはいろいろな会社を見てこられたかと思います。
現状として国内の、自律レベルは低いのか。それともちょっとずつ変わりつつある兆しは見えてきているのか。現状をどのように捉えていらっしゃるのかなというところをおうかがいできればなと思うんですけれども。
神谷:そうですね、全体としてはあんまり変わっていないんじゃないかなと思っています。全体的な潮流の流れを捉えると、二極化傾向にあるなと思います。
ジョブ型雇用が推進されていて、わりと職務内容を決めてKPIもしっかりと定めて、セルフマネジメント型で心地良く働ける環境を目指す組織と、自律レベルを高めてどんどん新しいことを作っていこうということで、より「遊ぶ」文化を組織内で作っていこうみたいな、メガベンチャー、ベンチャー企業、IT系の企業と、二極化傾向にあるなと思っていますね。
自律レベルを高めたほうがいいというのは、総論としてはそうなんですよ。ただ大切なのは、自社の事業内容、事業ドメインがどこにあるかです。
だから、ITであれば、当然自律レベルを高めたほうがいいと思うんですよ。どんどん新しい知識や専門性を身に付けないと、要は学習を加速させないとビジネスのパフォーマンスが停滞するから、そこは高めたほうがいいと思います。
一方で、ある程度職務内容が決まっていて、例えば大手企業の下請けをやっているグループ企業の場合、自律レベルを高めなくてもパフォーマンスが進むケースがあったりするんですよね。
自社の人材開発方針はどっちにいくのかという前提だったり、どういう人材を育てるべきなのかというところの議論が必要かなとは思います。
遠藤:なるほど。最初にあった「何をよしとしているか」というご質問とも通じますが、結局は自社がどんな方向を向いているのか、業界や事業の特性がどうか、といったことと密接に結びつけて、最後に判断していくことが重要ということですか?
神谷:そうですね。どんなに安定している事業であっても、未来永劫完全な安定や完全な持続可能性はないと思うんです。だから新規事業や新規ビジネスを考案する部署みたいなものは作る必要があると思うんです。
だから、1つの安定した事業の会社の中でも、8割の人たちはセルフマネジメント型でストレスケアをしながら働く。ワークライフバランスを意識しながら働く。残り2割の人たちは、しっかりと垣根を作って、境界線をしっかりと引いた上で、異なる文脈で人材開発していく。こういう人材ポートフォリオを踏まえた戦略設計は求められるなと思っていますね。
1on1で“上司モード”を脱ぐには
遠藤:なるほど、ありがとうございます。あと最後に1つQ&Aがございますので、こちらで最後にさせていただきます。
「ジョブ・デザインの必要性には大変共感し、同時に対話の質の重要性を感じております。ピラミッド型の対話の質を深くさせていく図があったかと思いますが、上司側から押しつけにならないようにするためにどのような対話が望ましいとお考えでしょうか?」というご質問です。
神谷:対話の時に「こうやるとうまくいくよ」みたいなベストプラクティスみたいなのは実はなかなかないんですよ。
なんでかというと、相手の気持ちの状況や相手の価値観によって関わり方は変わると思うからです。上司がたくさん話したほうがいい場合もあれば、ずっと静かに見守っていたほうがいい場合もあると思います。
ただ、絶対にやっちゃいけないことはあって、やはり上司っぽく振る舞っちゃうことですよね。1on1を観察していてよくあるのは、「それってさ、これが問題じゃない?」と、上司が判断を先走ってしてしまう。あるいは、「お前、もうちょっとがんばれるだろう?」と、上司としての評価や期待やエールを送ってしまう。
あるいは、「他のやつはこういうふうにやっていたよ」みたいな感じで、自分の知見の広さをひけらかしてしまったりすると、部下としては、「あっ、もう上司の仰せのままに従うしかないな」となってしまって対話ができなくなっちゃうので、上司という仮面をいったん脱ぎ捨てるのが大前提として必要ですね。
そういう判断を介在させないコミュニケーションはどうしたらいいのかというと、私は、メモ帳やホワイトボードのようなツールを使うことを推奨しています。
部下が何をしたいのかとか、その背景にはどういう価値観があるのかを聞きながらホワイトボードに整理していくんですね。そうすると完全に聞くモード、書くモードに上司が入るので、判断したり問題解決を勝手にしたりみたいな、マウントを取ることは割合、少なくなってくるかなと思っています。
ノートや付箋やホワイトボードを使って、部下の状況を客観的に整理するコミュニケーションが有用かなと思いますね。
遠藤:なるほど、ありがとうございます。私も耳が痛いというか、ついつい言いたくなってしまうというか……。
神谷:そうですよね、言いたくなっちゃいますよね(笑)。
遠藤:助けたいという気持ちが出てしまうなというところで……ありがとうございます。
ということで、お時間がまいりましたので、いったん質疑応答、Q&Aの時間はここで区切らせていただきます。あらためて神谷さん、ご講演ありがとうございました。
神谷:はい、みなさんもありがとうございました。