【3行要約】
・目標設定は達成までのプロセス全体を含む概念ですが、多くの人が安易な目標設定に陥り、成長機会を最大化できていません。
・手嶋氏は、目標設定に対して、30パーセントの不確実性を含む「ラーニングゾーン」の重要性を説きます。
・効果的な目標達成には「動作」ではなく「状態」で目標を定義し、定期的な進捗確認を行うことで、個人の成長度合いを高めることができるでしょう。
成果を出す人の目標設定術を学ぶ
手嶋武久氏:まず「はじめに」からいきます。

今日お伝えしていく「目標設定」という言葉の定義です。目標って結局、作っただけだと意味がないと思っています。なので、そこから先の「達成するためのプロセス」全体も含めて「目標設定」だと捉えてもらえるといいのかなと思っています。
「目標設定の種類」というところです。これは余談なので「ふーん」と思ってもらえれば大丈夫です。目標設定にはMBOとOKRという2つの種類があります。「人事制度を作っているとこういう概念がけっこう出てくるので、ちょっとシェアします」ぐらいの軽い感じで見てもらえればと思っています。
OKR・MBOは企業ごとの定義に注意
一般的に、評価や査定に使うものに関しては、MBOと言われる形式が多いと思います。だいたい半年や1年の期間で見るものですね。目標の高さは、いわゆる「ルーフショット」と言われる、屋根までの高さみたいなイメージで、達成率が100から120パーセントぐらいが狙えるものをMBOと呼んでいます。
OKRと呼んでいるものに関しては、目的が成長なんですね。こっちは3ヶ月ぐらいの、わりとショートタームで見るものになっています。目標の高さは「ムーンショット」なので、屋根(までの高さ)じゃなくて、さらにその先の、かなり挑戦的なものを立てていきます。それを達成していこうという試みがOKRです。
なので、期待される達成率って70パーセントぐらいなんですね。なのでOKR(の目標設定)って、基本的には「70パーセントいったらすごいね。がんばったね」というぐらいのものだと一般的に言われています。
ただ、世の中では一般的に、OKRがけっこうMBO的に使われていたりします。けれども、それは会社の定義によって若干違うだけだったりするので、こういったものがあるということだけ知っておいてもらえれば、という余談的な話です。
目標設定が“超適当”だった過去の経験
ここからは、僕自身の話をしていければなと思います。目標達成における僕自身の成功体験と、失敗体験というか、ちょっとネガティブな体験。この両方を話したいなと思います。
僕は新卒の時にデジタルマーケティングの会社に入っていました。当時は、何もしなくても(前年比)110から115パーセントぐらいに成長していたタイミングだったんです。なので、営業とかは目標設定が超適当だったんですね。
期中が4月から9月の期間だとすると、目標設定するのはだいたい8月ぐらいでした。8月なので、もはや9月の着地が見えていますよね。なので、とんでもなく無難な目標を立てて、着地の成果はちょっと上になる、みたいなことをずっとやっていました。そうすると、「挑戦的な目標を掲げて、そこに向かってがんばる」ということは、正直あまりなかったなと思います。
適切な目標が成長角度を上げると実感
ただ、(入社)4年目のタイミングで、「ちゃんと高い目標を適切に掲げて、成長角度を引き上げていかなくちゃ駄目だよね」と言う上司の方とお会いすることができて、その方と目標設定をしました。
ちゃんと期初のタイミングで目標設定をします。挑戦的な目標を掲げたので、目標よりちょっと着地が下がってしまう部分はあったかなとは思います。ただ、実際に自分自身の成長度合いでいくと、先ほどの無難な目標を立てていた時よりも、やはり成長(角度)は上がったかなと思います。
なので、あらためて感じたところでいくと、無難な目標達成よりも挑戦的な目標の未達を奨励する。これができると成長(角度)はグッと上がっていくのかなと体感できた経験でした。
ただ、メンバーの方がああだこうだ(と目標設定の方針自体を決めたり)することはできなかったので、上司との握りがかなり必要な部分ではありました。けれども、こういう状況が作れると人は成長しやすくなるんじゃないかなと感じる体験でした。
海外赴任で学んだ、部下の目標を管理する効果
(目標設定における成功体験が)もう1つあります。僕自身、駐在の経験があります。上海や北京などの中華圏は、かなり(デジタルマーケティング業界が)強かったんです。そっちの文化圏だとデジタルマーケティングの業界は、1社目で1年やって次の会社に行くと、だいたい10パーセントぐらい給料が上がるので、給与交渉がガンガン行われる状況でした。
ただ、僕のチームはめちゃくちゃ緻密に目標設定をしていたので、給与交渉をする人は1人もいませんでした。これは、「(自分のやったことが)すごいぞ」っていう自慢話でも何でもありません。僕は緻密な目標設定をした後に、月に1回、メンバーと1対1で進捗の確認をずっとやっていました。
結果的に何が起きたかでいくと、ちゃんと一緒に指標を追い続けたメンバーは全員、成果が出ていたんですね。なので、別に給与交渉うんぬんではなくて、「君の給料も、なんならボーナスもめちゃくちゃ上げられるから大丈夫だよ」と言って、評価面談がすぐに終わるんですね。

一方で、指標を追うのをやめた子。(つまり進捗の確認を)一緒にやっていたとしても「これはできていません」とか「忙しくてできませんでした」と言う子は、やはり成果が出ないんですよね。その子たちにも月に1回、進捗の確認をずっとやっているので、(目標達成できていない自覚があって)給与交渉しようというマインドにならなかったんじゃないかなと思います。
ここで言いたいことは、進捗を確認しながらフォローアップしていくと成果ってちゃんと出るよねということです。僕自身の体験としてもそうですし、僕の部下たちがちゃんとそれもできたよというところがけっこう重要かなと思います。
目標には30パーセントの不確実性を含ませる
「設定すべき目標の難易度」というところです。「目標は難し過ぎず、簡単過ぎない適切なラインを設定しましょう」と考えています。30パーセントぐらいの不確実性や難しさを含ませるのが良いと言われています。
「現状からとりあえず努力すれば行くよね」というところが「成り行きの到達点」です。これがだいたい成果全体の70パーセントぐらいです。さらにそこから30パーセントぐらい(高いライン、つまり)アイデアがないと到達できない、ちょっと背伸びするラインに目標設定するのがいいと言われています。
これは、いわゆる心理的な領域ともけっこう似通っています。いわゆるコンフォートゾーンと言われるものがあります。自分自身のスキルだけで成果(全体の70パーセント)が出る(成り行きの到達点までの)領域と(コンフォートゾーンが)だいたい対応していると思います。
自分のわからないものが30パーセントぐらいのところが、いわゆるラーニングゾーンと言われています。これが設定すべき目標のラインです。
なぜかというと、ラーニングゾーンは人間のパフォーマンスが一番伸びやすい状態と言われているからです。やはり少しストレッチ(背伸び)していくあたりが、グッと成長角度が上がると言われています。ここの難易度でラインを設定してあげると、目標設定がうまく成長角度を引き上げることに寄与していきます。
目標設定が厳しすぎる「パニックゾーン」の罠
一方で、難し過ぎる目標になってくると、パニックゾーンに入ってしまうという現象が起きます。わからないことが50パーセントぐらいを超えてくるとパニックゾーンに入ってくると言われています。
そうするとやはり「あれもできない。これもできない」となってきてしまうので、結局、トータルではパフォーマンスがグッと落ちるということが起きたりします。なので、ラーニングゾーンという、いいあんばいを意識することで、目標設定をうまく成長につなげていけると考えてもらえるといいのかなと思います。
続いて、「目標の言語化」というところです。目標に関しては「動作じゃなくて状態を設定しましょう」といつもお伝えをさせてもらっています。
例えば「新規サービスを開発する」みたいな目標を立てたとします。これは極論ではあるんですけど、(目標を)動作にすると、「じゃあ、開発を1日でもやったら、これって目標達成なんですか?」みたいになってしまいます。基準がかなり不明瞭になっちゃうところがネガティブな要素です。
どうしても「やった、やらない」というゼロヒャクの思考になってしまうので、マネジメントする側からしても、成長支援がすごくやりにくかったりします。
目標はアクションではなく「状態」として設定する
「じゃあ、どうするのか?」なんですけども、(目標を)状態で設定していきます。例えば「新規のサービスが立ち上がっている状態を目指していきたい」とします。
そうなると、新規のサービスが立ち上がっているためには何が必要か。まず、企画することが必要です。次に、例えば調査が必要です。そしてテストをした結果、ブラッシュアップやフィードバックをもらってさらに良くしていく。この動作まで含めて新規のサービスが立ち上がっていると言うことですよね。
ここまで細かく定義ができると、目指すべき状態の工程がかなり考えやすかったりします。そうすると成果自体もかなりグラデーションで振り返ることができます。なので、成長支援もすごくしやすいですし、やっているほうも成長実感が湧きやすいんですよね。
「今回、俺はテストまでいけているわ」とか「ブラッシュアップも1回目はいけたよね」ってなってくると、「新規サービスが立ち上がっているという状態を目指した中で、70、80パーセントまで来たよね」と感じることができる。ここまでできるのをお膳立てするためにもやはり状態を設定することが重要かなと思います。

じゃあ、ちょっとここで1つワークを挟めればなと思います。自身の目標設定について採点をしてみてください。100点満点で考えてみた時の点数付けと、その点数にするからには理由があるかなと思うので、併せてちょっと考えてみてください。
(参加者がワークに入力する)