【3行要約】
・ベンチャー企業の多くが「いい人材を採用できない」と悩んでいますが、実は採用プロセス以前の戦略設計に根本的な問題があります。
・採用代行のプロである高野秀敏氏は、現在多くの企業が戦略なき要員計画で採用を行っており、社員側の魅力を置き去りにしていると指摘。
・経営者・人事担当者は、MVVから事業戦略、そして人材戦略へと順序立てて採用設計を見直すべきだと提言しています。
ベンチャー採用で一番大事なのは“戦略”
ーー高野さん、ベンチャー企業の採用で一番重要なことは、どういったことになりますか?
高野秀敏氏(以下、高野):まずは戦略ですよね。
ーー戦略ですか。
高野:戦略と実行。多くのベンチャー企業の採用はあまり戦略がなくて、なんとなく「ここに人が必要だから、営業3人、エンジニア1人、経理の人が辞めたから1人」みたいな感じで採用が行われています。
本来はMVV→事業戦略→人・組織戦略の順番
ーー本来あるべき採用戦略というのは、どういう順番で決めていくものなんでしょうか?
高野:「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)」がまずあって、それに対して「いつまでにいくら売上を上げるか?」という売上の計画があって、それに対して「必要な人員はどんな人なのか?」みたいな感じですね。
ざっくり言うと、まずビジョンがあって、その上に事業戦略・経営戦略があって、そのあとに人・組織の戦略がくる、という順番なんです。でも実際には、その前工程の戦略があまり固まっていないのに「とりあえずいい人を採ろうか」というケースって、けっこうあるんですよね。
ーーなるほど。
高野:要員計画だけがある感じですね。「このポジションが欲しい」というのがいくつかあって、ダイレクトスカウトや採用代行を使って採用しているということですかね。
社員側から見た時の魅力が置き去りになりがち
ーーなるほど。高野さんだったら、まず、ミッション・ビジョン・バリューから決めていくというかたちなんですか?
高野:自分の場合、MVVにはあまり関与しないですが、ただ、「どうやってその会社が勝とうとしているのか?」というのはものすごく大事です。多くの会社が陥っているのは、「ビジネスモデルはいいんだけど、この会社で働きたいとは思えない」という状態なんですよね。社長には「これをやったら儲かりそうだ」というメリットがある。でも社員側から見た時の魅力が置き去りになっている、そんな会社になってしまっているんです。
ーー確かに。
高野:「これをやって儲かりそうだ」と言って、働きたい部下の人はあまりいないので。やはり働きたい理由になる、訴求ポイントがないと厳しいですよね。訴求ポイントがないのに、給料もそんなに上げないじゃないですか。そうすると、別に転職する理由がない。転職者側のメリットが本当にあまりないですね。
ーーそうですね。スタートアップの採用戦略というのは、「求職者側のメリットを明確にする」というのも、1つの要素ということですか?
高野:そうですね。メリットがないと、やはり転職できないですよね。友だちじゃない限り……。いえ、友だちだと、かえって誘いにくいケースもあるんですよね。
ーー確かにそうですね。
高野:上司と部下という関係になった時点で、ある種もう友だちではなくなりますよね。そういう前提もあるので、だからこそ「この会社で働きたい」と心から思える魅力を会社側が持っていてほしいんです。
それはビジョンに共感できるとか、仕事がワクワクする内容だとか、「ここならまだ伸びられるな」と思える余白があるとか。もちろん給料が高いに越したことはありませんが、必ずしもすごく高くなくていいんです。同じ業界の中でちょっといいとか、そのくらいでも十分だと思います。
ーーなるほど。
高野:そういうふうになっていると、サポートしやすいので。今はもう、優秀な人は転職活動をしていないので、ダイレクトで行くしかないんですよね。
ーー確かに。
採用も営業と同じで攻めにいく時代
高野:みんな「発信してアピールすれば人が来る」と思いがちなんですけど、実際はそうでもなくて。Xで投稿すれば「いいね」はもらえるかもしれないけど、そこから本当に応募してくる人ってあまりいないんです。今、勤めている会社や仕事にちゃんとコミットしている人ほど、そんなに軽く「じゃあ受けてみます」ってならないんですよね。
だからこそ、会社側がかなり前のめりにならないといけないんです。ざっくり言うと、採用も営業と同じで「リードを取って、こちらからアプローチして、断られても何度か行く」くらいの動きをしないと、今は人は採れないと思いますね。
“この会社に入りたい材料”を見つけてからスカウトノウハウを使う
ーーそうですね、確かに。高野さんがもし採用戦略の設計や設定に携わるとしたら、そういった「入りたくなる理由を見つけていく」みたいなところをディスカッションしながら探っていくんですかね?
高野:そうですね。そこが見つからないと、正直決まらないんですよ。こちらはスカウトのノウハウは持っていて、この前引き継いだ会社さんも、(応募が)だいたい2.5倍以上になったんですが、それは返信率とか決定率を上げるやり方を持っているからなんです。なので、その「この会社に入りたいと思ってもらえる材料」を一緒に見つけた上で、こちらのノウハウを使ってもらうのが一番いいと思っています。
ーーなるほど。
高野:ウチは営業担当がいなくて、基本的にこちらから営業はしていません。見つけていただいて、そのクオリティで評価してもらうスタイルです。ただ、発注する側の人たちって、特に経営者の方でも、スカウト文のクオリティをちゃんと確認している人はほとんどいないんですよね。
ーー確かに。
AIだけでは決まらない、最後は人が書くスカウトの質
高野:今日お話ししたのは、何十億円も売り上げている会社の社長さんなんですけど、その会社はずっと社長のセンスで採用してきていて、メンバーはほぼ全員リファラルなんです。あとは業務委託。だからスカウトメールのクオリティを見てくださいと言っても、「見ても正直わからなかったです」と言われました。そもそもスカウトをやってこなかったから、「なるほどな」と。
「じゃあ実際どう違うのか」をお見せするために、引き継がせてもらった案件で比較してみたんですけど、本来スカウトって候補者ごとにカスタマイズしなきゃいけないんですよね。今だとAIで一気にスカウトを回そうとしても、ビズリーチさんにブロックされてしまうので、完全自動化はできない。
たぶん今後も、完全自動化できないような仕組みにはなると思います。なのでAIはガンガン使うんですけど、最後のところはやっぱり人が要る。その「人が書く部分のクオリティ」を自分としては重視しています。
ーーなるほどですね。
「CHROが欲しい」より先に、勝てる戦略を細かく分解する
高野:今後も軸としては「上流の戦略×AI」だと思っています。上流の戦略そのものもAIに考えさせることはできるんですが、どうしても粒度が粗くて、すごく一般論になってしまう。そうなると実際の採用では決まらないんですよね。
よく「CHROが欲しい」「COOが欲しい」と言われますけど、そのポジションで優秀な人を採用して、はっきりと成果が出たという社長に、僕はほとんど会ったことがないんです。ということは、あのレイヤーだけふわっと求人を出しても、あまり意味がないんだと思います。
本来は「この会社が勝つための戦略はこうで、その要素を分解するとこうなる。だから必要な人材はこれとこれ」という順番で考えるべきです。そこでいきなりCHROやCOOみたいな“何でもできるスーパーマン”を探すのではなくて、もっと業務ベースで割り切って、ここは自社で内製すべきところなのか、それともここは専門のプロに任せたほうがいいところなのかを切り分けて、その足し算で要員計画を作ったほうがいい、という考え方ですね。
シナリオのある人材を狙う
ーーなるほど。上流の部分というのは、「どこで候補者を惹きつけられるか」を探したり、それを要素分解していったりするところ、ということですね。
高野:惹きつけもそうですし、結局、「どんな人が必要なのか」というところの定義が間違っているんですよね。
ーー最初からですか。
高野:最初から。その人が市場にいないのに探しちゃっている。市場にいない人を探してもしょうがないし、市場にいる人であっても、その会社に入るというシナリオがないんですよね。シナリオがなかったら入らないですからね。
ワクワクする何かがそんなにないのに、横スライドで同じぐらいの年収で転職してくれる人って、その会社で活躍してこなかった人である可能性が高いので。
ーーそうですね。
外から求人票だけ見ていても本質的な採用は設計できない
高野:採用って、「どういう人を採るか」ももちろん大事ですが、「どういう人を採っちゃいけないのか」ということがかなり大事なのです。
ーーなるほど。
高野:本当はそこを相談しながら一緒にやりたいんです。ノウハウ自体は持っているので何でも共有したいタイプなんですが、単に代行だけしていると、そのあたりを十分に共有しきれないと思っていて。
だから今も、内容にもよりますが月20万〜30万円くらいでいろんな会社の顧問に入っています。顧問としてミーティングに出ていれば、その会社で何が起きているかがわかるんですよね。外からホームページと求人票だけ見て運用しているだけだと、やっぱり本質的なところまではわからないんです。
ーー確かに(笑)。
高野:会社が何を狙っていて、どんなボトルネックがあって、それをどうやって解決しようとしているのかがわかっていれば、いろいろな手が打てるんですけど。
ーーじゃあ、もし高野さんに採用戦略をちょっと相談したいという場合には、対応可能ということですかね。
高野:そうですね。そのへんはバッチリやっていきたいと思います。
ーーわかりました。ぜひそういったことをご相談したいという方は、お問い合わせいただければと思います。高野さん、ありがとうございました。
高野:よろしくお願いします。