【3行要約】・経営幹部育成において正論や理想論だけでは変革は実現できず、心理的障壁や組織文化が大きな壁になっています。
・廣田文將氏は変革が失敗する要因の9割は組織の心理的・文化的側面にあるとし、「7STEPストーリー」による全体設計の重要性を説きます。
・本音の奥にある思い込みをあぶり出し、変革プロセスを理解した上で役職に応じた財務理解を深めることが経営幹部育成の鍵となります。
前回の記事はこちら 経営幹部を育成・ストックする際に有効なメソッド
廣田文將氏:ではどうするかという問題ですよね。経営幹部を育成・ストックする際に有効な我々のメソッドをみなさんに開示します。
1つ目、経営幹部を育てる共通のメソッドです。ポイントは「7STEPストーリー」を描くことです。7STEPストーリーというのは、こういう方々を育てたいとなった時に、なぜ今回のような幹部候補者の育成が大切なのか、データを活用して関係者の認識を揃えることです。
そしてその問題の背景の洞察をして、乗り越える。乗り越えてなんとかしようと思った時に、仮置きでもいいんですが、「この時期までにこういうところを目指していきましょう」という仮説を立てる。
そして成果に結びつけるための推進体制の整備をする。推進体制は、当事者、それから支える人、支える制度・仕組みの三位一体で考える。つまり環境ですよね。こういったことをやりながら、プログラムを実施することです。
点よりもストーリーが大切
しかし、サクセッションプランといった時、多くは点だけにみなさん目がいくんです。点だけを(見て)「どんなプログラムなんだ」と言って探し回っているんですね。非常に部分的です。ここに従来のサクセッションプランの限界があったんじゃないのかなと我々は思っています。
これももちろん大切ですが、それ以上にストーリーが大切だということです。プログラム実施したら、そのレビューですよね。仮説はどうだったのか、新たな課題はどうだったのか。そしてそこから生まれた何か良い兆候はないか。また、その良い兆候をいかに組織のうねりに持っていくか。このサイクルを回していくというメソッドです。
重要なのは共通データを用いて問題意識の喚起をすること
その際、非常に重要になるのが第1ステップの「問題意識の喚起」なんですね。ここがけっこう重要なんです。参加者の「なぜそういうことをやるのか」という「なぜ」に答える。
これも答え方としては、インパクトのあるデータを共通認識にすることです。いろいろなデータがあろうかと思いますが、共通のデータは必須です。
(スライドを示して)これは社員の年齢構成を見える化したデータです。これを見るとだいたいわかりますね。こういった層が5年先、10年先にどうなっていくのか。それをうまく継承して、中心となって働くメンバーの定着率はどうなったのか。
そして若い世代の採用はどうなのか。今はなかなか採用が難しいです。それだけに、先々の中計(中期経営計画)であれ長期の計画であれ「こういう年齢構成の中で(やっていくのは)どうなんだろうか」といった問題意識ですよね。
4つの中核メソッド
さらにその中核のメソッドがあります。もう少し小さいサイズのノウハウになっていくんですが、これは共通です。どの層にも「特にこういうことを強調して進めていきますよ」と我々が伝えているノウハウです。これも今回はすべて開示します。
4つあります。1つは正論とか理想論をいくら言っても、それだけではダメなんです。いろいろな理論やフレームを学ぶこと自体は良いことなんですが、それ止まりじゃあ意味がないんですね。
そういったことを学んだ時の現場をイメージすると、「そうは言っても現実は……」となるんです。この声とどう向き合っていくかということです。
そしてまた、個人・集団の心理が見えない障害になります。年度計画であれ中計であれ長期計画であれ何であれ、こういうことを正論で進めると、受け取る個人・集団の心理がいろいろ働きます。「これを乗り越える知恵をみんなで生み出そうよ」という姿勢がないとなかなかうまくいかない。
後でも言いますが、変革が失敗する要因の9割は、組織の心理的・文化的側面にある。これはスタンフォード大学のジェフリー・フェファーとロバート・サットンさんがずっと言い続けたものです。
我々はこれに非常に共感したのと同時に、すごく実感しています。でなければ、どんなにすばらしい計画もうまくいかない戦略であるということですよね。
では、変革の道のりです。その変革の過程を俯瞰することによって「今、うちはこういう状況なんだ」と(わかるようになる)。プロセスを知らないと慌てるんです。
慌て方としては「性急な変化を求めて焦り、手を打ってしまう」。これではうまくいかない。だからドンと腰を据えて、変革の打ち手を考えていく。その時の1つの目安が、変革の過程を知ることです。変革というのは、右肩上がりの直線ではありません。
4番目。財務の切り口から視座・視野・時間軸を拡張していく。そして経営戦略と財務目標と、人的資本戦略のつながりを描いていく。
残念ながら多くの経営幹部層の方々は、戦略と財務目標をつなげようとするものの、財務の中身の理解の格差が大いにあります。
また、戦略・財務目標と人的資本戦略。別の言い方で、わかりやすく人材戦略と言ってもいいでしょう。これらがつながっているのか。これらを築いていくために、我々はお客さまの財務担当者とコラボしながら、気づいていく仕掛け作りをして進めていきます。

本音の奥にある思い込み・決めつけをあぶり出し、一緒になって考える。これをもう少し詳しく説明しますと、我々のノウハウとしては「正・反・合」をファシリテーションでかなり切り込んでいきます。
なぜうまくいかないのか、理屈はわかります。しかしなぜ行動化できないのか、その奥にある本音を引き出しながら、もっと言うと本音のさらに奥にある思い込み・決めつけが何かをあぶり出しながら、どうやって乗り越えたらいいのか一緒になって考えます。
変革の障害となるものも踏まえて取り組んでいく
そして、個人・集団の心理・感情にも着目する。ビジョンとか現状分析とかから課題を抽出して、それをいかにやり遂げるかという戦略を作って、アクションプラン(を立案する)というのは、分析してロジカルに組み立てていく、いわばサイエンス的な発想です。これそのものは否定しません。
問題は、これをいざやるぞという時、やるのは人なんです。その組織の集団なんです。そこにはバイアス、思い込み、しがらみがあるんです。また、バイアスはいろいろな部分の関係性、縦割りが非常に強かったりすると、なかなかうまくいかないです。
こういうことをしっかりと見据えた上で、どう乗り越えていくかを組み込んでいかない限り、先ほどお話しした失敗になりますよね。
その思い込み、しがらみの典型が「5年前も同じことをやって失敗した」「また朝令暮改か」「面倒が増えるなぁ」「どうせうちではそんなの無理でしょ」というような、やる前から無理だと決めつける力にあります。
こういった変革への障害は非常にあるんです。こういう障害も踏まえて取り組んでいくということですね。

それだけに、チェンジカーブの考え方を理解しておくことは重要です。変革のプロセスが今、自社でどういうレベルなのか、どういう段階なのかによって打ち手は変わるわけです。こういったイメージを持ちながら変革課題に取り組んでいく。慌てないことです。
中期経営計画の実現のために、財務の切り口も含めて考える
そして財務の切り口から。ここに参加している方々からすると、「なぜこんなことをわざわざ言うのか、当たり前じゃないか」と(なるくらい)財務の重要性は十分におわかりになっていると思います。
しかし我々は現場に密着してやってきましたから、現場のドロドロ感も含めて、実際のレベル感を掴んでいるつもりです。
実際課長クラスだと、P/L発想といってもせいぜい売上か粗利ぐらい。そしてもうちょっと(理解が)進んだ会社が、ビジネスモデルにもよりますが、営業利益のことを考えながらやる。
営業利益とは言いますが、その間にはさむ販管費も、コントロール可能な範囲というところを限定しながら考えさせるわけです。しかし現実の経営は、販管費がかかるものはかかるんですから、コントロールもくそもないですよね。
そういうものを全部含めながら考えていくわけです。どういう手を打って、どういう行動をすればどんな数字につながるのか。また現状の数字がこうなっているのは、我々がどんな行動をしたからか。ということは、どんな打ち手をしちゃったからか。
行ったり来たりですが、こういった関係性を掴み取らないと、中計の実現に向けては難しいと思います。これが部長候補レベルです。
部長は変革戦略と財務三表のつながりを学ぶ必要がある
しかし、部長はこれでは困るんです。部長になると、財務三表の構造理解が必要です。ご自身が打っている手が、財務三表の構造にどうつながっていくのか。そういう中で何が変革ポイントなのか。
それを理解していただき、組織に浸透させ、集団の行動変容を促していく。いろいろな説明をする時に、財務のつながりがわかった上で(打ち手を)講じていくのとそうじゃないのではまったく違います。
また、ここがしっかりしていないと、中計における戦略と財務目標のつながりをうまく説明できないと思います。そういう意味では、部長クラスには、変革戦略と財務三表のつながりを学んでいただくということです。
しかし先ほども言いましたが、各社さんで相当差があるんです。「うちの場合はね……」と、だいたいここにレベル感が出てきます。ここに対して、まずはどういうステップを目指すかということを、カスタマイズしながら進めていきます。
取締役候補はファイナンス脳の強化が必要
次元が違うのが取締役候補です。取締役候補になると当然、成長戦略に不可欠な投資の話が出てきます。つまりファイナンス脳の強化です。これはかなり次元の違う話です。
変革ポイントはわかった。それにまつわる投資をどうするか。こういった議論ができる、そういうメンバーです。それらをいかに実現させるか。これはグループの中計、全社の中計、こういったことを踏まえての話の中でどういう投資をしていくのかを決める。
そうなると、成長戦略投資と人的資本経営と財務目標の3つのつながりがわかっていないと、成長戦略はなかなかうまくいかないんです。
例えばある技術系の会社さん。ITも含めてですが、ITだけじゃないです。「人材投資でこういう体制を作るんだ」という、中計と中計の間での体制づくりとか人数とか(の話題)はよく出てくるんです。そしてそれを支える技術レベルの人たちが何人いて、どうだこうだ……。「これが戦略推進に必要なんだ」という話はよく見ます。
でも私からしますと「それは社内の話でしょ」と。これを実現するのにパートナーの存在が重要じゃないですか? じゃあパートナー企業の能力把握をしていますか? パートナーにどういう技術を持っている方が何人いらっしゃいますか?
そういうパートナー含めて人材の力の把握がないと、戦略は難しいと思います。そういった発想もなかなかない。じゃあどのパートナーと組むかという時に、投資という問題が当然出てきます。そういったものが1つのノウハウの中核です。