【3行要約】
・「3年で3割が辞める」は大手企業の話であり、中小企業では従業員30名未満で50%超という深刻な早期離職が起きています。
・宮地尚貴氏によれば、新入社員1名の離職で約489万円の損失が発生し、適応障害による休職も10社に1社の割合で増加しています。
・企業は採用時の情報伝達を精密化し、期待ギャップ型・人間関係型・成長実感なし型という3つの離職サインを早期に察知すべきです。
「3年で3割が辞める」は大手企業の話…中小企業はそれ以上
宮地尚貴氏:本日の内容は大きく3つです。まず「データから読み解く早期退職の実態」。次に「離職原因の3つのカテゴリと見極め方」。離職兆候もありますので、その代表例をお伝えします。最後は「対策」です。極力、すぐにできる対策に絞ってお話しします。
では「データから読み解く早期離職の実態」です。

中小企業の3年以内離職率は、従業員30名未満の企業で50パーセントを超えています。30〜99名の企業でも、大卒・高卒で差はありますが42パーセントや45パーセントと高水準です。「3年で3割が辞める」は大手企業の話であって、中小企業ではそれ以上に辞めている場合が多いと言えます。
実際に「教育がうまくいっていない」という企業さまにうかがうと、「1年以内にドタドタと辞めていく」という声が多いです。中小企業は同期が少ないこともあり、例えば3名採用して1名が何かの理由で辞めると、その1名に引っ張られて連鎖的に辞めてしまうというケースが起きやすい。結果として「1年以内に離職率が50パーセントを超えている」という企業さまも少なくないという印象です。
新入社員が入社後1年で離職した場合の損失は約489万円
特に最近、離職理由として問題になっているのが適応障害です。現在、全体の13.5パーセントの事業所で、1ヶ月以上の休職や退職が発生しています。つまり10社に1社の割合で「1ヶ月以上会社を休む社員がいる」という状況です。
その主な理由がメンタル不調であり、適応障害などの診断を受けて休職するケースが増えています。特に若年層にその傾向が強く、受け入れ体制が整っていない企業では、さまざまな理由から退職が相次ぐことがあります。
次に、その退職が起きた際に企業がどの程度の損失を被るか。一般的に、新入社員1名が入社後1年で離職した場合の損失額は約489万円とされています。

「売上に貢献していないから辞めても影響は少ない」「教育コストがかかる分、むしろいないほうが助かる」と考える企業もありますが、実際には採用単価、人件費、採用担当者の工数、教育コストなどを含めると、これだけの損失になります。
さらに、育成に関わった現場社員の時間的コスト、いわゆる機会損失まで含めると、実際の損失はさらに大きくなります。つまり、離職は企業にとって想像以上に大きな損失をもたらすということです。
若手が辞める企業の3つの特徴
では、なぜ辞めるのかという点です。企業側の要因として大きく3つに分けられます。

1つ目が「人材育成・指導体制の構造的な欠落」です。つまり、受け入れ体制が整っていないということです。研修が十分でなかったり、OJTが機能していなかったりするケースが多く見られます。2つ目は風土の問題です。「組織の風通しの悪さ」や「柔軟性の欠如」、年功序列といった文化が残っていることが要因になります。
3つ目が「採用時の情報伝達不足」、つまり入社前後のギャップです。私たちは毎年、新入社員研修を全国で実施しており、入社1ヶ月時点で匿名アンケートによる意識調査を行っています。その結果、約500名の回答者のうち7割が「入社前後でギャップを感じた」と答えています。
そのうち半数は「いいギャップ」です。「思ったより堅苦しくなかった」「チャレンジできる環境だった」「上司との距離が近かった」といった前向きなものです。しかし、残りの半数は「悪いギャップ」を感じています。「仕事内容が思っていたものと違う」「職場の雰囲気が違った」といった声が多いです。
このように、入社前後のギャップは非常に大きな問題です。よくお伝えしているのですが、「採用の致命的な失敗は、入社後に取り戻すことが難しい」ということです。したがって、まず取り組むべきは採用段階での情報伝達の精度を高めることだと思います。
若手に多い3種類の“離職サイン”
ここからは「離職原因の3つのカテゴリと見極め方」についてお話しします。まず一般的な離職理由を整理すると、「労働環境や条件が良くない」「給与水準に満足できない」「職場の人間関係が悪い」「上司と合わない」「希望する働き方ができない」「成長の見通しが持てない」といった点が挙げられます。

これらを大きくまとめると、「入社前後のギャップ」「人間関係の悩み」「将来や成長への不安」といった3つのカテゴリに分類できます。

入社前後のギャップは採用段階の問題、人間関係の悩みは風土やマネジメントの問題、将来や成長への不安は育成体制・制度の問題が関係しています。
特に重要なのは、やはり入社前後のギャップですが、それだけでなく、人間関係やキャリアの見通しに対しても企業としてしっかりと対策を打つ必要があります。
先ほどの離職データから見ても、この3つの分類は「期待ギャップ型」「人間関係型」「キャリア型(成長実感なし型)」と整理できます。それぞれ離職に陥りやすい特徴があります。
例えば、「期待ギャップ型」は、「思っていたのと少し違う」といった発言が見られるタイプです。「人間関係型」は、「相談できる人がいない」「上司が悩みに乗ってくれない」といった声が上がるタイプ。「キャリア型(成長実感なし型)」は、「このままでいいのかな」「将来が不安だ」といった言葉が出てくるタイプです。
みなさんの会社でも、直近で入社した社員の中にこうした兆候が見られないか、ぜひ確認してみてください。
入社初期段階で「こんな作業もあるんですね」の発言は要注意
今からそれぞれのタイプの特徴を具体的にお伝えしますので、「社内に当てはまる人はいないか?」という視点で振り返っていただければと思います。
まず「期待ギャップ型」からお話しします。

どのような発言が見られるかというと、「思ったより忙しいですね」「こんな作業もするんですね」といった言葉が典型的です。「これってこのやり方でいいんですか?」というように、入社時の説明と現場の実態にギャップを感じているケースも多くあります。
「そもそもどうなんだろう?」という戸惑いの言葉が出ている場合は、コミュニケーションが不足しているサインです。「入社前後でギャップを感じた瞬間はあったか?」といった聞き取りを行い、早期に解消を図ることが重要です。その上で、次の採用プロセスに活かしていく工夫も必要になります。
ただし、手遅れになると社員は本音を言わなくなります。「まぁ、いろいろありますけど……」と濁すようになったり、「言っても無駄だ」「どうせすぐ次に行くし」と諦めムードが漂ったりする。この段階に入ると、すでに関係が破綻している状態です。入社初期の段階で「こんな作業もあるんですね」「聞いていませんでした」といった発言が頻出する場合は要注意です。事前説明が足りていない可能性が高いと捉えるべきです。
離職につながる社員の行動変化
次に「人間関係型」の離職サインです。

挨拶や目線を合わせる回数が減っている、休憩時間に1人で過ごすことが増えている、同僚からの誘いを断るようになったといった行動変化が初期サインとして表れます。
もともと仕事とプライベートを明確に分けたいタイプの人もいますが、「前より減った」「以前は一緒にいたのに最近は避けるようになった」といった変化が見られる場合は注意が必要です。
また、懇親会や社内イベントに参加しなくなるのも特徴です。特に中小企業ではこの参加率がエンゲージメントの高さと密接に関係しています。職場での雑談に入らない、業務上の相談をしなくなるといった様子も危険サインです。
さらに進行すると、欠勤が増えたり、部署内よりも他部署との交流が増えたりといった行動も見られるようになります。例えば、同じ部署の上司や先輩に相談しても解決しないと感じて、他部署の人と関係を築こうとするケースがあります。これも離職サインの1つとして見受けられます。
“部下の状態がわからない”上司ほど離職サインを見逃す
次に「成長実感なし型」の離職サインです。

こちらも「以前より」という変化として現れます。以前より自分から提案しなくなった、新しい業務に関心を示さなくなった、成果を褒めても反応が薄くなったといった傾向です。成果を出すことに対するやりがいや誇りを感じられなくなっている状態です。
さらに「最低限の仕事しかしなくなった」「昇進や昇給などキャリアの話題を避ける」「業務改善への意欲が薄れる」といった様子も見られます。「目の前の仕事だけをこなせばいい」といった意識になっている段階です。こうした状態になると、生産性の低下にも直結します。したがって、会話の機会を増やして、指導やサポートの接点を持つことが欠かせません。
手遅れのサインとしては「頻繁に手が止まる」「他の人の成果を聞いても賞賛しない」「転職関連の話題に過度に関心を示す」といったものがあります。こうした傾向が見られる時点で、すでに離職を意識している可能性が高いといえます。
最も注意すべきなのは、「うちの社員の状態がよくわからない」というケースです。若手社員とのコミュニケーションが不足しており、サインを察知できていないこと自体がリスクです。離職サインはあくまで警告ですが、その背景にある原因を理解できていないことが最大の問題になります。