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従業員の心を動かす「経験」の作り方:ピーク・エンドの法則から学ぶ人事施策(全3記事)

従業員体験(EX)を左右するピーク・エンドの法則とは? 意外と単純ではない「経験に対する評価」のされ方

【3行要約】
・従業員体験(EX)の質を高めることは重要ですが、人事が作り出した環境は必ずしも意図通りに従業員の心に残りません。
・「ピーク・エンドの法則」によれば、経験の評価は最も感情が揺さぶられた瞬間と最後の瞬間が大きく影響し、時間経過とともにその効果は強まります。
・人事施策を成功させるには、ピークとエンドの瞬間を意識的に設計し、心に残る経験を創出することが求められています。

従業員の心を動かす「経験」の作り方

伊達洋駆氏:みなさんこんにちは。定刻になりましたので、セミナーを始めさせていただきます。本日は「従業員の心を動かす『経験』の作り方:ピーク・エンドの法則から学ぶ人事施策」と題して、1時間にわたってセミナーを行います。

最初にイントロダクションということで、私自身の自己紹介から始めさせてください。あらためまして、株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達と申します。私は、もともと神戸大学大学院経営学研究科で研究者としてのキャリアを歩んでいました。大学院在籍中にビジネスリサーチラボという会社を立ち上げて、現在に至っています。

ビジネスリサーチラボでは、アカデミックリサーチというコンセプトを掲げて、データ分析や研究知見を元にしたサービスを提供しております。

具体的には、企業人事向けとしては組織サーベイや社内データ分析を、それからHR事業者向けには、組織サーベイや適性検査の開発を支援するといったサービスを提供しております。

今まで個人としていくつか本を出させていただいています。新しいところですと、『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』『組織と人を動かす科学的に正しいホメ方 ポジティブ・フィードバックの技術』という本を2025年9月に出させていただきました。

特にこの『フレームワーク大全』については先週、先々週ぐらいにまだ出したばかりなので、関心のある方はぜひ手に取っていただけるとうれしいです。本日のセミナーの内容に少し関連しているところでいうと、『EXジャーニー ~良い人材を惹きつける従業員体験のつくりかた~』という本があるんですが、こちらは少し関連しています。

なぜ従業員体験の質を高めるのは難しいのか

本日ですが、「ピーク・エンドの法則を元にして、従業員の体験について少し違う切り口から考えてみましょう」というのが大きなテーマになっております。

人事の領域において、従業員のエンゲージメントの向上というのは重要な指標の1つになっているかと思います。その時に、1つの有望な施策として挙げられているのが、従業員体験の質を高めるということです。従業員体験という言葉は、まさしく先ほど私の本の中でも紹介させていただいたんですが、EX(Employee Experience)という言葉で語られています。

ただ、このEXを実現していく、従業員体験の質を高めていくということって、そんなに簡単ではないんですね。なぜかというと、人事としてはいろいろな施策やいろいろな環境を作り出していくわけなんですが、その環境というのは、設計者の意図したとおりに従業員の心に刻まれるわけではないからなんですね。というのも、人間の記憶ってけっこう選択的なんですよ。

まさにそれを語っているのがピーク・エンドの法則です。人間が最も感情が揺さぶられた瞬間、これを「ピーク」と呼びます。もう1つが経験の最後の瞬間で、「エンド」ですね。つまり最も高い時と最後に経験の評価がけっこう影響されてしまうんですね。ピークとエンドがその特定の経験の評価に影響を及ぼす。これをピーク・エンドの法則と心理学の世界では呼んでいます。

ピーク・エンドの法則は記憶のメカニズム

本日は、このピーク・エンドの法則を人事において、主には従業員体験の質を高めるために応用していこうというのが、私の講演の目的になっています。

ピーク・エンドの法則って、記憶のメカニズムなわけですよね。そうしたメカニズムを理解していくと、研修設計の方法もそうですし、日々の職場のマネジメントもそうですし、それから退職の手続きなんかもそうなんですが、いかに従業員の心に残る経験を作り上げていくのかという観点で、かなり示唆を得ることができるんですね。

ですので、本日はこの観点からピーク・エンドの法則をみなさんに紹介させていただければと思います。

「経験」に対する評価はどのように行われるか

では、中身に入っていきます。まずは「ピーク・エンドの法則とはいったい何なのか?」ということを説明させていただきます。

私たちは、生きているといろいろな経験をしていくわけですね。過去の経験を評価する時に、人はどういう観点から「これはいい経験だった」「いや、そうでもなかった」ということを評価しているのか。これは心理学研究において1つの大きなトピックなんです。

ピーク・エンドの法則が出てくる以前はどのように考えられていたのかというと、快楽や苦痛、ポジティブとかネガティブという感情の総量が、その経験の評価につながっているのではないのかと考えられていました。

少し難しい言い方をしているんですが、言いたいことは非常にシンプルです。要するに、楽しい時間が長ければ長いほど、人は「いい経験だ」というふうに思うのではないのか。あるいは苦痛の時間が長ければ長いほど、あまり良くない経験と思ってしまうんじゃないのかと思われていたということです。

そうした経験の持続時間、感情の持続時間が、経験を評価するために有効な尺度ではないかと考えられていたわけです。

しかし研究を積み重ねていくと、どうやら経験の評価はそれほど単純ではないということが解明されるようになってきました。

不快な時間の長短は評価に影響しない

具体的な研究で少し紹介させていただきたいと思うんですが、経験を評価する時に、ある感情が続いた時間で評価する世界観って、持続時間が重要というような考え方なんですよね。持続時間を無視する現象が、ある研究の中で発見されていくことになっていきます。

例えば参加した被験者の人たちに不快な経験をさせる実験を行います。なかなかハードルの高い実験なわけなんですが。そうした時に、不快な時間の長さを操作していくわけですね。その長さをどんどん長くしていったとしても、後から振り返った時に、長いからといって不快感が高まるかというと、そういうわけではないということが明らかになりました。

影響を与えているのは「ピーク」と「エンド」

では、どうやって過去の経験を評価しているのかというと、経験とか感情の長さというよりかは、その経験の中で最も強烈だった瞬間、つまりピークですよね。もう1つが、どういうふうに終わったのかというエンド。まさにこのピークとエンドが、過去の経験を評価する時に影響を与えていることがわかりました。

経験から時間が経てば経つほど、人間はやはり記憶が薄れていきますよね。さらに興味深いことに、記憶が薄れていけばいくほど、このピーク・エンドの法則が強くなることがわかったんです。要するに、「ある経験をすると、そこから時間が経てば経つほど、ピークとエンドの重要性が増してくる」ということが導き出されました。

楽しい時間を長くすればいいかというとそういうわけではない。ピークとエンドをきちんと設計していかないと、ある経験を「良い経験だった」と人は認識しない。振り返らない。記憶に残らないということなんですね。

こうした研究というのは、なかなかおもしろい人間の記憶の性質みたいなものを明らかにしているんですね。人間の記憶というと、ビデオカメラのように連続して動画のように出来事を記録しているのかなと思いきや、そうでもなさそうだということなんですね。

むしろ、重要な場面がスナップショット、つまり静止画のように集まっている。その中でもピークとエンドというスナップショットが特に重要だということです。断片として、つまり静止画として人間の記憶には残っているんじゃないのかというのが、これらの研究から推論されているところです。

なぜピークとエンドが大事なのか?

それにしても、少し気になってくるのが、「なぜピークとエンドが大事なの?」ということなんですよね。ピークとエンドは持続時間よりも大事ということがこれまでの研究の中で明らかになっているんですが、なぜピークとエンドなのかということです。

これについては研究者がいくつかの説明を行っているんですが、一言で言うと、ピークとエンドというのは、意味づけがなされやすい瞬間だからなんですね。個人的な意味みたいなものが、ピークとエンドの中には非常に凝縮して含まれているというのが、このピークとエンドが記憶の評価、経験の評価を行っていく時に重要になる理由だと言われています。

ピークは感情が最も高まった瞬間

一つひとつ見ていきましょう。ピークというのは、いわば感情が最も高まった瞬間のことを指します。そういう瞬間は、その経験がどのくらい自分のメンタルの資源や身体の資源を必要としたのかを、ある意味で表している瞬間なんですよね。

例えばある経験をして、とても苦労する瞬間がありました。そういう瞬間こそが、「自分がこの経験によってこれだけ苦労した、これだけ自分の資源が必要となった」ということを表している1つの、興味深い意味づけがされる瞬間になっていくわけですね。

例えば、非常に大きな達成感を難しいプロジェクトの中で得たとします。これはポジティブなピークに当たるんですが、そうすると「これぐらいの難しさであっても自分は乗り越えることができるんだ」というかたちで受け止められる。意味づけをしやすいわけですね。このようにピークというのは、その経験が必要とした資源を示す指標になっているので重視されるというのが1つあります。

エンドは完結感を与える

もう1つがエンドですね。エンドというのはその言葉のとおり、完結感を与えます。「終わり良ければすべて良し」という言葉がありますが、どんな経験だったのかということは、最後に集約されているんですよね。

とりわけ目標達成を目指しているような活動の中においては、最後の状態が達成できたのかどうか、うまくいったのかどうか、どういうものが得られたのかをある意味象徴している瞬間なんですよね。

例えば、プロジェクトが終了しました。そしてうまくいって、最後に打ち上げを行いました。これはまさにポジティブなエンドなわけなんですが、これはプロジェクトがうまくいったというような、ある種のポジティブな完結感を与えるわけですね。

そうすると、「このプロジェクト、やってよかったな」というプロジェクト全体の価値づけ、評価にもつながってくる。エンドは完結感を与えるという意味で重要度が高いということです。

凝縮されている瞬間だからこそ影響が大きい

いずれにせよここまでのところで言えるのが、ピークにしてもエンドにしても、ある意味自分のさまざまな感情が凝縮されているような瞬間であると言えるんですね。

凝縮されている瞬間なので、その経験を評価する時に参照されやすく、評価に影響を与えるということです。要するに、非常に楽しい瞬間があったり、最後が駄目だったりすると、それがその経験の評価に影響を及ぼしてくるということですね。

以上、ピーク・エンドの法則について簡単に説明をさせていただきました。


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