【3行要約】・20代〜30代は技術を極める時期として重要ですが、40代でのリスキリングによる完全なリセットには慎重になるべきです。
・立教大学教授の中原淳氏は、自身のキャリア選択で常に「人と違うボタン」を押してきた経験から、良い意味で期待を裏切ることの重要性を説きます。
・キャリアに悩む40代は、これまでの専門性を活かしつつ、社会にどんな仕組みを残すかという視点で次の役割を見つけることが大切です。
前回の記事はこちら リーダーは「いじってくれる人」がいなくなる
中原淳氏(以下、中原):社内に、安斎くんをいじれる人はいるの?
安斎勇樹氏(以下、安斎):僕をいじれる人は……。
中原:社内には、いないだろ。だから俺を呼んでよ。ぐりぐりいじるから。
安斎:いえ、大丈夫です(笑)。
(会場笑)
安斎:でもね、最近いじってくれる人がちょっと減ってきているかも。
中原:減ってるだろ? それがさ、権力者の持つものよね~。
安斎:古参メンバーとかのほうが気にせずいじってくれたりするんですけど。最近入った中途の方とかは、「あ、お会いできてうれしいです!」みたいな。
中原:ね、こんな本を書いちゃってさ。
安斎:「本、読んでます!」みたいに言われて。僕は友だちになりたいんですけど。
中原:だからいかに、そういう神格化されるものから自分で降りていくかだよね。1つアドバイスするよ。リーダーは、ちょっと、よだれを垂らしたりするんだよ。
安斎:よだれ(笑)!?
(会場笑)
安斎:やばくないっすか? 僕が全社総会とかでたらーって垂らしてたら、心配されますよ。
中原:「よだれ」を垂らして、自分を下げるんです。「安斎さん、大丈夫ですか?」「話しかけてみようかな」と思われる……(笑)。
安斎:マジで心配になるでしょ、その会社。
(会場笑)
中原:マジで? 俺やってるよ(笑)。
(会場笑)
安斎:まあまあ確かにね。よだれ的なムーブをするということですね。よだれは垂らさなくていいです。
中原:学んだだろ?
安斎:まぁ、学びました。はい(笑)。これは質疑応答なのか。大丈夫? 暴走したらちょっと止めてください。
キャリアデザインは「自分のアイデンティティ」が変わっていくこと
安斎:そういえばキャリアのイベントでしたよね。キャリアの話とかもちょっとしておきます? 僕の持論を話しつつ、ご意見をうかがいたいんですけど。
中原:あぁ、どうぞ。
安斎:キャリアデザインとか生涯学習的なところで、わりとリスキリングみたいな言葉もありますけど、スキルをどうするかという話はめちゃくちゃ多いじゃないですか。
最近のビジネス書のトレンドも、「わかりやすくスキル系にしたほうが売れる」みたいなことをどこかの出版社の方が言っていたりして、キャリアとスキルみたいな話がつながっていくと思うんですけど。
僕はキャリアデザインは「自分のアイデンティティが変わっていくこと」であると思っていて。この本(
『冒険する組織のつくりかた』)の中でも言っているのが、軍事的世界観は「成長のレンズ」を「行動改善とスキルの習得」で(捉えている)。
これはもちろんすごく大事なんだけれども、その裏側で、人間としてのアイデンティティ、「自分は何者なのか?」という自己紹介の仕方が変わっていくと言ったほうがいいのかもしれないですけど。「(自分は)何屋さんなのか?」という認識が変わっていくというのが、僕は「大人の学び」の1つの本質なんじゃないかと思っています。
僕の場合だと20代の頃は「ワークショップ屋さん」。で、さっきも言ったように、それに飽きてきて、30代ぐらいに『問いのデザイン』とか(を書いて)「問い屋さん」になっていった。それがだんだん今、冒険とか組織みたいなものになっていって、テーマ的にも「何者か?」が変わっているし、役割論的にも「大学院生→研究者の卵→研究者になりました」と思ったんだけれども、今あまり自分は研究者という自認がない。論文も書いていないし。
じゃあ経営者かと言っても微妙だし、最近、経営者と研究者の間でアイデンティティ迷子になっているんですが。でも数年経ったら自分の自己紹介の仕方が見つかるだろうなみたいな感じで。けっこうアイデンティティを探究していくことと、キャリアをデザインしていくことがすごく大事だなと思っています。
中原先生はそういうアイデンティティの変遷みたいなところは、どうなっているんですか?
中原:なるほど、難しいことを言うねぇ。
安斎:(笑)。
「役割の変化」を受け入れる
中原:まず、そのアイデンティティというものを若干分解すると、僕の言葉で言えば「屋号」ね。「○○屋」というのと、あと世代を継承していく時の自分の「役割」なのかなと思うんですよ。
だから例えば僕の例で言えば、もともとは「教育屋・学び屋」だったわけだけど、知らないうちにというか「人材開発屋」になり、「組織開発屋」になり。今は何かはよくわからないけれども、そういうふうに「○○屋」は変わってきている。だから、「○○屋」というのは次第に変わっていくんだということを、まず受け入れることが大事。
安斎:はい、はい。
中原:あと、次は「役割」なんだけれども。世代継承における役割はどういうことかというと、例えば僕は2025年に50歳になるんだけれども、25歳の時はまだ「ソロプレイヤー」だよね。ごりごり研究して、ごりごり論文を書いてみたいな話があったと思うんだよね。これが30歳になってくると、次はラボを持つようになるじゃない?
安斎:あぁ、教員として。
中原:教員としてラボを持つようになってくると、じゃあこういう人たちが育つ環境を作らなきゃならない。今50歳になってくると、自分が次の世代の研究者を育てる人をどう育てるかみたいな。だんだん役割が上がってるというか、変わっていくの。
その役割の変化に意識的になって、自分がどういう役割を果たして、どういう屋号を果たさなきゃならないのかなみたいなのを常に考えていた気はするな。
安斎:なるほどっすね。
中原:それはぜんぜんスキルじゃないよね。
40代がぶつかる「ミドルエイジクライシス」をどう乗り越えるか

安斎:遠くから背中を眺めていた身からして、すごく今、なるほどと思ったんですけど。僕の仮説として20代とか30代前半とか、ある程度それこそソロプレイヤー的役割の時代って、けっこう技術的なものに屋号を向けたほうがいいんじゃないかと思っていて。
中原:あ、そのとおり。
安斎:その頃から、社会的な役割に自分の関心を向けすぎるとドツボにはまっちゃうから、(20〜30代には)技を磨く期間、技の探究期みたいなのがある程度あって。
そこからすっ飛ばして、それこそこれから50代に入られるような上の世代を見ていると、自分の社会的な役割というか使命というか、「どういうポジションでどういうふうにこの社会に価値を生み出していくのか?」みたいなモードに入っていくなと思っています。
ここの間のミドル、30代後半~40代ぐらいのところで「○○屋さん」を見失うことが多いなと。
中原:多いね。
安斎:ミドルエイジクライシスとかアイデンティティクライシスの問題と言われると思うんですけど。中原先生は、そういうここらへんの40前後とか40代中盤後半のモヤモヤみたいなものはなかったんですか?
中原:まず若い頃は、安斎さんがおっしゃったみたいに、テクニカルなこととかスキルにこだわったほうがいいと思うんです。わかりやすいよね。統計でもデータでもなんでも、何かの技術を極めればいい。
30代に入ってきた時は、たぶん一番このテクニカルなものと次の悩みがあるよね。ここがソーシャルなものをどう意識するかということ。だからヒューマンスキル、要するに「自分が動かないかもしれないんだけど、他人を動かすためにどうすればいいか?」みたいなことにけっこう悩み始めるんじゃないかと思います。
安斎:後輩ができたり、マネジャーになったりとかですね。
中原:そうだよね。びっくりするぐらい学生は言うことを聞かないしさ。
安斎:(笑)、今日も(会場に)何人かいるでしょ。
中原:いやいや、いるけど。はっきり言って、大学院生なんて博士になったら言うことを聞かないわけよ。あなたも言うことを聞かなかったと思うんだけど。
安斎:(笑)。
中原:そんなもんなんです。「そういうのをどう動かしていきゃいいかな? どういうふうに付き合えばいいかな?」みたいに悩み始めるのがこの時代。ソーシャルなこととかヒューマンなこと。
最後はコンセプトなんです。つまりどういうことかって(いうと)、「どういう仕組みを社会に残していきゃいいかな?」みたいなことで悩み始めるんだと思う。
安斎:なるほどね。
20代〜30代の“プレイヤー期間”は超大事
中原:それがたぶん僕の今の世代なのかなということです。具体的に言うと、例えば「僕の(担当している)大学院をどういうふうに継続していこうかな?」とか。例えば「俺がいなくなった後、どういうふうにそれが維持されていくのかな?」「これは本当にこのままでいいのかな?」みたいなことを考え始めるのが、歳を取った(人が直面する)世界じゃないの?って気がする。安斎くんはこれからそこに入るわけです。
安斎:そうですよね。
中原:つまりMIMIGURIが、あなたがいないで、どう動いていくのかを考えていかないと。どうする?
安斎:そう(自分なしでMIMIGURIが動くように)したい。
中原:そうしたい? 手放せる?
(一同笑)
安斎:いや、でもそうっすよね。ちょうど(二人は)10歳違うから、自分もそういうふうになっていくんだろうなと思うので。そこは、これから考えなきゃいけないと思うんですけど。この40代前後の問題。
僕も、もしかしたらこれからまたアイデンティティクライシスとかあるのかもしれなくて、まだちょっと読めていないんですけど。このプレイヤーで技術・テクニカルなところを磨くフェーズ、超大事じゃないですか。
僕だったらワークショップデザイン、ファシリテーションをひたすらやってきて、飽きる、飽きたと思うまでやる。で、その先だと思うんですけど。ここの抜け方。1つはそのヒューマンとかソーシャルなものに向くので、そこにめっちゃ興味がバチッとはまったらけっこう楽ですよね。要は「マネジメントがおもしろいなぁ」と思えたら楽だと思うんです。
中原:あぁ……それは、悶々とした30代を過ごしたほうがいいんだよ。
安斎:(笑)。抜けなくていい。