【3行要約】
・『学びをやめない生き方入門』著者の中原淳氏と『冒険する組織のつくりかた』著者の安斎勇樹氏が、書籍の執筆の背景を語りました。
・中原氏と安斎氏は、従来の組織論や学習論に新たな視点を提示します。
・安斎氏は、軍事的組織観から脱却し、冒険的で創造的な組織の転換を提唱しています。
立教大教授・中原淳氏とMIMIGURI代表・安斎勇樹氏が登壇
井上佐保子氏(以下、井上):ではここから、プロフィール紹介とお二人の関係性の話。そして、それぞれの書籍の紹介を15分間でお願いいたします。
中原淳氏(以下、中原):わかりました。この
『学びをやめない生き方入門』という本を書かせていただいたんですけれども。学び本は、どちらかというと、「学ばなきゃ死ぬぞ」みたいな脅迫本になりやすいんですよ。あとは、「学び強制本」になりやすいんですけれども。
「この本を書くにあたり、学び脅迫本や学び強制本に絶対にしない本にしよう」「もっともハードルを下げた学び本を作ろう」というのを、共著者のベネッセ教育総研(ベネッセ教育総合研究所)さん、パーソル総研(パーソル総合研究所)さんと話し合って作った本なんですよ。
だから中を見ていただけるとわかると思うんですけど、この(担当編集の)藤田(悠)さんの名編集で……だってグラフでさえ手描きですよ(笑)。たぶん、ものすごくハードルの低い本になっているのかなと思います。
安斎勇樹氏(以下、安斎):グラフのところのフォントとかも、すごくポップになっていますよね。
中原:ポップなんだよね。だってよく考えてみれば、学びについて不安に思っている人とか、学びについて躊躇している人に、バカみたいに難しい本を書いたって届かないよね。なので、ハードルを下げることに挑戦した本なんです。
僕的には、すごく思い入れのある本です。どんなことが書いてあるかをシンプルに言うと、「こういうふうに学んでいくと、ハードルを低く継続できるよ」ということが書いてあります。最後には「もうみなさんはすでに学んでいるよ」ということが書いてある本です。ぜひ手に取っていただければなと思います。
中原氏と安斎氏の出会い
中原:ということで、この本の紹介は終わりです。私は立教大学で教員をやっている中原と申します。教員歴は、もう25年ですね。もう1人の登壇者の安斎さんとは、僕が前職勤めていた東大時代に、僕はたぶん教員で助教授か准教授をやっていたのかな? それで安斎さんが、学部の3年生とか大学院生?
安斎:僕は大学4年生の時に工学部だったんですけど。大学院からこういう学習とか、ワークショップの研究がしたいなと思って探したら、東大の中に山内研究室と中原研究室という、2つの研究室があるらしいと。それで研究室訪問をしたという。大学4年生だったので23歳の時ですね。
中原:あっというまに、あの学生さんが、あらあらあら。偉くなって(笑)。
安斎:(笑)。
©︎Kosuke Kiguch(会場笑)
安斎:本当ですよ。もう大きくなって、感慨深いでしょう?
中原:本当に感慨深いね。
安斎:(自分と中原先生は)10歳違いなんですよ。
中原:でも最近まで、僕と会うことなかったよね。実は、お前、俺のこと嫌いだろ(笑)?
安斎:嫌いじゃないです(笑)。
(会場笑)
安斎:めちゃくちゃ好きです。
中原:あ、そうなの? え、僕も好きだよ。
研究より実践をしたがる安斎氏
安斎:10歳違いだから、23歳で研究室訪問した時に迎え入れてくれた中原さんは33歳。
中原:33歳だね。だから准教授になったばかりだ。安斎くんの思い出で言えば、「やりたがりの少年」。
安斎:(笑)。僕は「山内研、中原研のどっちかな?」といって両方訪問したんですよ。両方訪問して、中原先生の面談がすごく楽しかったんです。
中原:あ、そうなの?
安斎:はい。学部生の時にすごく歓迎してくれて。その時にお弟子さんの舘野(泰一)さんという、今は立教大学にいる方がいて。「この研究室、すごく楽しいな」と思って。
中原:なんで選ばないの?
安斎:楽しすぎて、なんか不安になったんですよね。
中原:やっぱり、安斎くん、僕のこと嫌いだろ(笑)。
(会場笑)
安斎:「大学院に行く時に、こんな楽しそうで大丈夫かな?」と思って、僕は山内先生のほうを選んだんです。
(会場笑)
中原:裏切り者(笑)。
安斎:(笑)。
中原:まぁ、いいんだけど。とりあえず、安斎君は「研究しなさい」と言われていて、でもこの人(安斎)は実践をやりたいわけよ。それで「ワークショップを実践したい」とか、「研究をやりたい」とか、いろんなことをやりたいと言われて。「でも私はやりたいんですよ!」という感じの、やりたがりな少年というイメージはずっとありますね。
それでその時に、僕は(安斎くんは)直属の研究(室の所属)じゃないので、「やっちゃえよ、やっちゃえよ」って言いました。
(会場笑)
安斎:「修論なんか大丈夫だよ、実践もやっちゃえよ」みたいな(笑)。
(会場笑)
中原:「大丈夫だよ、そんなもん。大したことじゃねえよ」と言って、けしかけるというね。そのような役割でした。それが1つ思っていることですね。
これまでの組織論への違和感から生まれた『冒険する組織のつくりかた』
中原:2つ目は彼が、「このまま順当に研究者になっていくのかな?」と思ったら道を踏み外して。当時のミミクリデザインという会社を立ち上げるとなった時がすごく印象的でした。
結局、先ほどの話に似ているんだけど、やはり実践か研究かでいうと「どっちもやりたい!」みたいなパッションを持っている人だなと思っていますね。「あ、こいつ順当に道を踏み外したな」みたいな(笑)。
安斎:そうですね(笑)。
中原:だから楽しかったです。はい、そんな感じでした。
安斎:はい。あらためまして安斎です。よろしくお願いします。僕のこの本の内容および、なんでこれを書いたかと、中原先生との関係性。これって実はすごくつながっていて、そこをちゃんと話そうと思うんですけど。
まずこの本は、
『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』という本で、一言で言うと僕は、組織とか、会社とか、実はもともとめちゃくちゃ嫌い……嫌いそうでしたよね?
中原:あ、嫌いだね。
(会場笑)
安斎:(笑)。すごく嫌いで。どちらかというと、外側の非公式な場でワークショップとか、評価とか、強制力とか、権力とか、そういうものが及ばない場所でのファシリテーションにすごく可能性を感じて、大学院生時代にずっと研究していたんです。
でも研究をすればするほど、ありがたいことに大きな企業・組織からワークショップの依頼をいただいて、非公式にあるものを公式なものにどうやって持ち込むのかみたいなことを、ずっとやっていたんです。
その中でずっと感じていた可能性と違和感を、自分なりに「僕は会社が好きではないんだけど、会社から呼ばれてしまうのはなんでなんだろうか」みたいに考え続けた時に、これまでの会社の経営とか、組織論に僕が微妙にモヤモヤしていたのに気づいたんです。
「軍事的な世界観」とこの本では呼んでいるんですけれども。言葉遣いだけじゃなくて、戦争とか、軍隊的なメタファーが理論的にもすごく通底していて。そういったものが、1940年代ぐらいから経営と戦争が大きく結びつきながら、今のノウハウが発展していることにモヤッていたんだと気がついた。

その世界観的なパラダイム。ラディカルな、違うパラダイムとして冒険的な世界観のマネジメント論とか、組織論とかができないだろうかということを書いたのがこの本になっています。なので、(中原先生の『学びをやめない生き方入門』と)同じテオリアの本とは思えないぐらい、448ページあるので。
中原:すごいね。鈍器本だね。
安斎:まずは中原先生の本から読んでいただくほうが、読みやすいんじゃないかなと思うんですが。
中原:(笑)。
中原氏主催イベントでアルバイトをしていた
安斎:まぁ、僕としては初めて組織論を書いた本になっています。経緯としては、実は最初、組織論の本を書くつもりはなくて。それでちょっと中原先生との縁からお話すると……先ほどご紹介してくださったとおり、僕は2009年に(山内研究室に)入りました。
その後も(中原先生は)直属の指導教員じゃないのに(修士論文の副査だった)、そうやっていろいろ機会をくださって。僕は自分が今、新しい会社を作ったり、いろんなプロジェクトに挑戦している時のメンタルのストッパーが明らかに外れている原因は、中原先生にあると思っています。
中原:あぁ、順調に、人生を踏み外してよかったね(笑)。
安斎:(笑)。今でも覚えているのは、僕は中原先生が当時やられていた「Learning bar」という企業向けのイベントのアルバイトのスタッフをずっとやっていて。
中原:そうね。
安斎:はい。あれはすごく、いいバイトでした。
中原:ありがとう、ありがとう。
安斎:時給もちょっと良くて。ビールとサンドイッチを食べながら企業の人の話が聞けるという最高のバイトだったんですけども。それをずっとお手伝いしていく中で、「君らもちょっと前に立ってイベントをやってみなよ」ということで。
中原:そうね。
安斎:まだ大学院1年生の夏ぐらいだったと思うんですけど。入って3ヶ月ぐらいの時に、僕と先ほど名前を出した舘野さんと、もう1人牧村(真帆)さんという人がいたんですけど。「Learning bar-X」という謎のスピンアウトイベントを企画してくださって。それのアシスタント的な感じで、いつもよりちょっとだけ前に出させてくれたんですよね。
企業の人事の方が集まっているイベントで「あぁ、中原先生は今日もうまく回して、いい場になっているなぁ」と思っていたら、中原先生は覚えていないと思うんですけど、突然、顔面蒼白になって「ごめん、俺マジで体調悪いから帰るわ」って。
中原:イベントの途中で、腹が痛くなっちゃったんだよ。
安斎:腹が痛かった(笑)。「あとは頼む」とか言われて、その場を僕が回さなきゃいけないみたいなことが。
中原:僕、言いそうだね。それ、たぶん、意図したんじゃない(笑)? 「わざと」帰って、登壇の機会をつくった(笑)。
安斎:本当に(笑)!?
中原:いや、わからない(笑)。ただ、腹が痛かっただけかも。