【3行要約】・正解を盲信せず試行錯誤することが、チームのウェルビーイングを高めるカギとなりますが、多くの現場では理論の使い方を誤っている現状があります。
・グロービス経営大学院 教員の若杉氏は「正しい使い方をしても効果がない場合もある」と指摘し、実験的に取り組み軌道修正する力の重要性を強調しています。
・リーダーの差別的な対応やマイクロマネジメントには、自分の感情を「Iメッセージ」で伝え、アサーティブなコミュニケーションを心がけることが解決の糸口になります。
前回の記事はこちら 正解を盲信しない
太田昂志氏(以下、太田):ありがとうございます。世の中にはこうしたかたちで、個人的な経験でうまくいくと思い込んでいるものが、けっこうあると思いますが、意外にも使われ方が間違っているものは多くあると思います。
こんな感じで、同じ理論でも、使い方を誤って、現場があまり良くない状態に陥っているケースって、あると思うんです。
若杉さんが、ここだけは正しく理解してほしいと思われるポイント。本書の中でもかまいませんし、ご自身がこれまでの経験の中で「これはちょっと間違って伝わっているよ」という問題意識が、もしあればぜひ共有いただければと思いますが、いかがですか?
若杉忠弘氏(以下、若杉):試行錯誤することは忘れないでほしいと思います。もちろん間違った使い方をしたら、間違った結果が出ますよね。間違った結果が出ているということを認識することが大事です。
もちろん間違った使い方をしたら、変な効果が出ると思いますが、正しく使ったとしても、いろいろな条件が重なって、みなさんのチームではワークしないことがあるかもしれません。その時は、「あ、これは今の自分のチームには効かないんだ」「これは逆効果になっちゃうかも」と気づいて、そこで軌道修正をする力が必要です。
そういうように、実験的に楽しみながらやっていただきたいと思います。その場合、修正する力が、すごく大事になってくると思います。この本に書いてある内容を盲信していただく必要は毛頭ありません。これをヒントに自分の職場で何か試してみる。それで、どんな反応があるのかを見てあげる。
うまくいったら、いいじゃないですか。「あぁ、うまくいくんだな」みたいなね(笑)。逆に「うまくいってないな」という時に、試行錯誤するというか、修正していく力をぜひ持っていただきたいと思います。これさえ持っていれば、仮にたまに間違って使っていたとしても、すぐに修正が効きます。
正しい使い方をしていたとしても、もっといい方法が見つかるかもしれないですよね。そしたらこっそり教えてください(笑)。「こういうふうにやったほうが、もっと効果出ますよ」って、こっそり教えていただければと思います。
太田:ありがとうございます。まずやってみて、結果を見て、修正していく。この試行錯誤によってチームのウェルビーイングも高まっていく。この本にも再現性が高い方法論をたくさん載せていますが、万能ではないので、いろいろ試してみることが、あらためて大事だなと感じました。
行動を特定し“Iメッセージ”でリクエストする
太田:パネルディスカッションはいったんここまでにして、質問をいただいているので、お二人に投げかけたいと思います。
「リーダーがどうしても差別的で、人によっては全力でモチベートする。逆に人によっては批判します。このリーダーを変えるために、どんな働きかけが良いのでしょうか?」というご質問です。これはすごく共感するものですね。もしかしたらみなさんもあるかもしれませんね。要するに、リーダーが、メンバーに対して関わり方を変えている。結果としてチームのウェルビーイングが少しマチマチになっているという状況です。
こんなリーダーがいるチームに対して、もし若杉さんがメンバーだったらどういうふうに働きかけますか?
若杉:基本的にリーダーというのは、人によって関わり方を変えるものだと思うんですよね。そのこと自体は問題ないと思うんです。なにが問題なのかというと、ご本人がそれを不愉快に思っていることですよね。
太田:はい。
若杉:本人が「なぜそれが嫌かを言語化してみる」というのが、ファーストステップです。もしかしたら「チームメンバーの目の前で、あるメンバーを𠮟責するということが嫌だ」かもしれないですよね。
具体的な行動を特定できたら、リーダーにリクエストしてください。「こういうふうに人前で誰かを攻撃すると、私自身も残念になります。チームの士気が下がると思うから、もっとこういうやり方できませんか?」とリクエストを出していきます。
リクエストというのは、リーダーを別に攻撃しているわけじゃありません。批判もしていないですよね。「私は、こういう感覚がする。なぜかというと、こうなので。なので、こういうふうにしてくれませんか?」というリクエストを、ぜひ出してみてください。さぁ、最後のポイントは、リクエストを出してもリーダーが変わるか・変わらないかはわかりません(笑)。
でもリクエストを出すということは、ご本人ができる最大のアクションだと思います。本当にチームのことを思って、全体のことを思って伝えたとしたら、多くの場合、そのリーダーに響くんじゃないかなと思います。
太田:それは本書でいうと、レンズを変えるに近いですかね。まず言語化して、自分がメタ的に自己理解をして、リーダーに対してそれを伝えることによって認知を変えるというところは、結果的にやはりウェルビーイングにつながってきますかね。
若杉:はい、そうですね。
太田:ここは1つ大事なポイントですよね。ちょっとテクニック論なのですが、フィードバックをする時に、「〇〇したほうがいいよ」と言うのではなく「私には、こう見えています」という自分の認知を伝えてあげるほうが、相手は受け止めやすいです。
まず認知を共有する、言語化をする、可視化する。このあたりをファーストステップにして、すごくうまくいっているので、ここがポイントになるんじゃないかと思います。
アサーティブに伝え、安心材料を増やす
太田:では、続いて、これは米良さんに聞いてみたいと思います。「上司がいるのですが、よく言うと細部まで気を遣ってくれる。悪く言うとマイクロマネジメントで、『任せる』とか『自律的に動いてほしい』とか言いつつ、自分のやりたいやり方を結論ありきで介入してきてしまう」状況です。
これはみなさんも、もしかしたら一度や二度、ご経験があるんじゃないでしょうか? 非常にマイクロマネジメントをしてくるリーダーがいるという話ですね。
「そうすると、チームの体温も下がりがちです。メンバーの立場から上司のマイクロマネジメントを減らすとか、あるいはマイクロマネジメントをやっているということをリーダーに気づいてもらうためには、どういう方法を取ると良さそうでしょうか?」という質問です。
私も経験があるのですごく共感するのですが、そういった時どうすればいいでしょう?
米良克美氏(以下、米良):難しい質問ですね。先ほどの若杉さんのお話につながるかもしれませんが、やはりこれも「自分はこう感じている」ということをお伝えするのが、先決かなと思っています。「すごく管理されすぎている感じがして、ちょっと苦しいです」みたいなことをアサーティブに伝えるのが重要かなと思います。
アサーティブ・コミュニケーションとウェルビーイングの研究もあって、アサーティブにコミュニケーションをしている人のほうが、幸福度が高いという結果がでています。あとはバーンアウトのレートが下がっていくと言われているので、伝えるだけでもやはり心の澱が取れるんじゃないかなと思います。
ちゃんと伝えてあげるのが1つ。あとすごくプラティカルな話をすると「マイクロ反撃みたいなことをするかもなぁ」と思いました。これは本書とかけ離れているかもしれませんし、プラティカルなことかもしれませんが、上司の不安を解消してあげるアクションを取っていくことが、部下としてけっこう重要なのかなと思っています。なので、しつこいぐらいに報告してあげるとか、しつこいぐらいにccを入れてあげるとか……こっちもいろいろ考えるじゃないですか。「ccを入れるとメールが増えて上司が困るんじゃないかな」と、思うかもしれません。
それでもそれをきちんと伝えながら「不安に思われるんだったら、もっと報連相していこうと思います」というかたちでやっていくのが、現実的な解かなと思って聞いていました。
太田:本書でいうと、レンズを変えるに近いところだと思います。上司がそういうふうにやっている背景もあると理解した上で、自分自身が不安な気持ちを抱えているというところも、まず場に出してみる。認知を揃えてお互いに認知を変えることが、結果的にチームのウェルビーイングにつながってくるんじゃないかと(思います)。