【3行要約】・職場のモチベーション向上には「仕事の意味を見せる」という小さな工夫が大きな効果を生み、コールセンター業務では奨学金受給者の声を共有するだけで成果が2.4倍に向上しました。
・グロービス経営大学院の教員である若杉氏は「レンズを変える」アプローチを提唱し、会社の制度や規制に関係なく実践できる26のスキルがあると説明しています。
・チームの心理的安全性を高めるには、リーダーが自らの弱みを開示するという具体的手法が効果的で、これにより多様な意見が成果につながる環境をつくることができます。
前回の記事はこちら アプローチその1「レンズを変える」
若杉忠弘氏(以下、若杉):じゃあ、どうすればいいのか。レンズを変える、環境を変える、人を変える。3つのアプローチ、合計26のスキルがあります。この中で、今日はいくつかをみなさんに紹介をしていきたいと思います。

まず「レンズを変える」ですね。見方を変えていくということです。
例えばコールセンター業務。このコールセンター業務は、奨学金の資金集めです。要は「奨学金を提供してくれませんか?」というふうに、卒業生や関連団体に電話をします。これは、けっこう大変です。だいたい断られます。
「もしもし、こんにちは」という繰り返しです。けっこうモチベーションが下がりやすいタイプの仕事でした。さぁ、みなさんだったら、このコールセンターのスタッフをどうモチベートしますか?

ここでやったことは何かというと、まず、奨学金が役に立った卒業生のエピソードを集めました。そして、集めたエピソードをA41枚程度にまとめました。それをコールセンターのスタッフに読んでもらいました。以上。

どういう文章かというと、こういうものです。「この奨学金のおかげで、私は工学と神経科学という二つの分野で学びを深めることができました。また、学業だけでなく、非常に多岐にわたる課外活動も、これによってできました。この奨学金がなければ、今の私はありません。こんなに成長の機会をくれて、ありがとうございます!」という、生の声。みなさん、コールセンターのスタッフとして働いていたとして、これを読んだらどう思いますか?
「あ、私、役に立っているんだ」と思いますよね。このエピソードを読むだけです。時間にしたら10分か、15分。

1ヶ月後の変化です。奨学金の獲得金額が2.4倍になりました。これは実際のデータです。ビフォー1ヶ月と、アフター1ヶ月を比較すると、2.4倍ぐらいになったんですね。工夫次第で、実はいくらでもできます。

仕事の意味を見せてあげる。これはリーダーの優しさです。これは、ほぼお金もかかりません。ちょっとした工夫なんですよ。こういう介入が、細かいところでたくさんできます。これは会社の方針に関係なくできます。会社の制度に関係なくできます。会社の規制に関係なくできます。これが工夫です。仕事の意味に気づいてもらおう。シンプルですよね。
心理的安全性はどうつくるか
さぁ、こういうケースもありますね。「あ、また誰も発言していない」。リーダーが「みなさん、意見はありますか?」と聞きます。シーン。みんな俯いています。グロービスの学生はぜんぜんこういうことがないんですけどね(笑)。
職場は、そうはいかない場合がありますよね。シーンとしちゃいますよね。リーダーは悲しくないですか? 居たたまれないですよね。この沈黙にどう耐えるか(笑)。居心地の悪い沈黙が流れるわけです。さぁ、みなさんならどうしますか。ここに対する解は、みなさんも知っているかもしれません。「チームの心理的安全性を高めよう」というのが解になってきます。

チームの心理的安全性は、ハーバード・ビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授が再定義をして、提案をしています。「チームの心理的安全性とは、メンバーの誰もが罰せられる心配がなく、安心してリスクを取ることができると思える状態」です。

心理的安全性が高いチームで働いていると、コンフリクトは成果になります。心理的安全性が高いチームで働いていると、コンフリクトがあればあるほど、違う意見がたくさん出てきます。違う意見をぶつけ合いながら、新しい答えを見つけて行く中で、チームのパフォーマンスは高まるのです。すごいですね。
みなさんが心理的安全性の低いチームで働いていると、これが真逆に起きていきます。コンフリクトがあればあるほど、パフォーマンスが落ちてくるんですね。まさに、まったく違う道を歩んでいくことになります。

心理的安全性が高いと、多様性が成果につながっていきます。心理的安全性が高いチームで働いていると、どんどんパフォーマンスが上がってきます。
弱みを開示するスクリプト
じゃあどうやって、この心理的安全性を高めるかということに、みなさんは悩んでいると思います。「え、具体的にどうするの?」と悩んだことはありませんか? (方法は)あえて「弱みを開示してください」ということです。「え、どうやって弱みを開示するんですか?」と思いませんでしたか? これはちゃんと、スクリプトを本に書いておきました(笑)。

「チームミーティングで、こう話してください」というスクリプトを用意しているので、このとおりに話してみてください。いきますよ? 「こんにちは。今日はいつものミーティングの議題に入る前に、みなさんと共有したいことがあります」。「何だろう」「何々?」みたいなね(笑)。そんな感じになるかもしれませんね。
「私がみなさん(部下)の人事評価の改善点を知っているのに対して、私の改善点はみなさんが知らないという状態に気づきました」。だいたいそうですよね。上司であるリーダーは、部下の人事評価を知っています。じゃあ部下は、上司の人事評価を知っていますか? 知らないですよね。「あくまで参考までですが、私の人事評価の改善点を共有したいと思っています」ということです。
人事評価を一部公開します。「前回の人事評価では、次のことの改善が求められました。完璧を求めすぎて、相談しにくい雰囲気をつくっている。自分では厳しくしているつもりはなくても『指摘が多くて萎縮する』『失敗を共有しにくい』と、感じられていたようです。『メンバーの声を引き出す工夫が足りない』『会議で問いかけはするものの、どう答えていいのかわかりにくい質問になっている』と、指摘されました」。

そして、こうまとめてください。「私は今まで自分の人事評価を公開したことがなかったので、これは少し変わった試みに思われるかもしれません。実は最近、リーダーが自らの人事評価をチームメンバーに共有するということが起きているんです」と話します。
「私も、この方法をぜひ取り入れようと考えました。私自身も、もっとみなさんの声を聞けるようにしたいと考えています。なので、これからのミーティングで、少しでも気づいたことや感じたことがあれば、どんなことでも教えてください」と伝えます。

情報はありますよね。ほとんどの人が人事考課というものを、たぶん受けています。受けていない人はちょっと考えなければいけないですけど、データはあるわけです。自分が上司に、伝えられている改善点が1個か2個はあるはずなんです。全部を開示する必要はありません。話しやすいものを2、3個話します。
データで見る「弱み開示」の効果
これをやった結果、金融機関、ヘルス関連企業、メディカル関連企業において1年後にチームの心理的安全性が高まったというデータがあります。それから、(上司が)弱みを開示しても、「能力がない」とは評価されませんでした。
弱みを開示するのは、けっこう勇気がいるんですよね。「そんなの開示しちゃったら、『自分にはリーダーの資格がないんじゃないか』と、部下に思われないか」というふうに思いますよね。実は、そういうのはないんです。あと、すべてを公開する必要はありません。自分が公開できるものを公開すればいいと思います。
これをやると、みんな最初は戸惑います。でもそれは変化の始まりです。変化する時は、始めはみんな戸惑います。戸惑ったら「しめたものだ」と思っていいです。「あ、変化が始まっているんだ」ということです。
日本のリーダーでもこれをやっている人はけっこう多いです。「確かにそれは効くんですよね」というフィードバックを僕もけっこういただいています。