【3行要約】・ウェルビーイングは満足度・感情・モチベーションの3要素で構成されますが、特に 「ワーク・エンゲージメント」が個人の将来の成功を予測する重要な指標として注目されています。
・慶応義塾大学の島津明人氏の研究によれば、現在のエンゲージメントが高い人は半年後から2年後まで、パフォーマンス向上や健康増進などの効果が持続。
・個人の幸福感だけでなく「チームのウェルビーイング」を高めることで、メンバー間の交流が活性化し、相互サポートが生まれ、リーダーの負荷軽減にもつながります。
前回の記事はこちら ウェルビーイングを“満足度・感情・モチベーション”で見る
若杉忠弘氏(以下、若杉):さぁ、じゃあこのウェルビーイングをもう少し、科学的に見ていきたいと思います。そもそもウェルビーイングとは何か。壮大な問いですね。1つのウェルビーイングの見方をお伝えします。この見方に基づいて、この本は展開をされています。

まず1つは、仕事の満足度。「あなたは仕事に満足していますか?」。「満足しているね」と、頭でポジティブだと思う。(2つ目は)ポジティブな感情、心ですね。うれしい、楽しい、ありがたいな、これは感情です。これがポジティブに振れているということですね。それから3つ目、ポジティブなモチベーション。これは、やる気が湧いているということです。
頭での評価。心がポジティブ。そして、アクションにつながるモチベーションがある。この3つを、ウェルビーイングだと捉えています。
最近注目されているのが、3つ目のワーク・エンゲージメントです。どういうものかというと、(スライドを示して)こういった指標を測っています。「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」「朝に目がさめると、さあ仕事へ行こう、という気持ちになる」「仕事に没頭している時、幸せだと感じる」「自分の仕事に誇りを感じる」「仕事をしていると、つい夢中になってしまう」。さぁ、みなさんどうでしょうか?

これに「そうだね!」と思う人は、ワーク・エンゲージメントが高いです。「いやぁ、ちょっと違うな」と思ったら、ワーク・エンゲージメントが低いということです。
エンゲージメントは未来を予測する
なぜこういった指標が大事なのか。今みなさんのワーク・エンゲージメントが高い場合、半年後のみなさんの仕事のパフォーマンスが上がります。健康が高まります。人生の満足度が高まります。半年後だけじゃないですよ? 2年後まで予測できるというのが、慶応義塾大学の島津(明人)先生の研究です。これは日本人に対して行われた研究です。
今多くの職場で、このワーク・エンゲージメントを測定するということが、1つのムーブメントになっています。それはなぜかというと、みなさんのウェルビーイングと満足度、業績を予測するからです。

似て非なるものに、ワーカホリズムというものがあります。これはどちらかというと、強迫的に一生懸命働いている場合です。みなさんは大丈夫でしょうか? みなさんのチームメンバーは大丈夫でしょうか?
こういう場合は、一見、一生懸命に働いているように見えますが、半年後、2年後、真逆の結果になります。仕事のパフォーマンスは落ち、健康を害します。人生の満足度が消えます。
幸せだから、成功する
「幸せだから、成功するのだ」ということが見えるわけです。ウェルビーイングを高めることによって、健康が高まります。欠勤率が減ります。自制心が増えます。創造性が増えます。人間関係が良くなります。役割を越えた行動がどんどん増えます。組織へのコミットメントが増します。イノベーション行動が増えます。自主的な行動が増えます。(メリットが)たくさんあるんですよ。
その結果によって、このパフォーマンスが向上することがわかってきたんですね。よく、「成功するから幸せなんじゃないか」と思う方がいます。確かに一理ありますが、多くの場合は長続きしないんですよね。

みなさん思い出してください。人生で最高潮の時。車を買った時、家を買った時、結婚した時、大学に受かった時。確かにうれしいんですけれども、その手のウェルビーイングは衰退していくんです。むしろ、成功するから幸せになるんじゃなくて、幸せになるから成功していくんです。
個人から“みんなの幸せ”へ
この本では、さらにその先に行きたいと思っています。今までの話というのは、私が幸せ、あなたが幸せという、一人ひとりの幸せですよね? これはどちらかというと、西洋的な研究に基づいています。私たちは、それをさらにチームのウェルビーイングに広げていきたいと思います。みんなが幸せという概念です。私たちのメンバー一人ひとりが、みんな幸せだよ、に広げていきたいと思います。

チームのウェルビーイングが低いと、先ほど言ったようにリーダーが1人ずつ指示をしていかなきゃいけません。リーダーに負荷が集中しやすい構造になります。
チームのメンバーみんなが幸せだと、交流がすごく行き交うんですよ。水もそうですよね。氷の状態は動きません。分子も動かないですよね。温度を少しずつ上げていって、0度になると溶ける。水になると、ものすごく流動的になります。フレキシブルになりますよね。これが、(スライドを示して)右側の体温が高い状態です。
チームの体温が高いことで生まれるメリット
このメリットは計り知れません。(スライドの)右が、チームの体温が高い状態。どういうメリットがあるか。まず、メンバーがどんどん幸せになっていきます。まわりに幸せな人がいたら、感情って伝染しませんか? 逆に、チームに1人でもピリピリしている人がいると、それも伝染します。みんなが幸せだと、スパイラルがすごいんですよね。伝染し合って、ポジティブなスパイラルになります。

2つ目、人間関係が良くなります。人間関係がいいチームは非常に幸せですよね。居心地がいいですよね。
3つ目、サポートし合います。人間関係が良くて、メンバーが困っている状況であれば、お互いに助け合いますよね。
すると、どうでしょう? メンバーが積極的に動いてくれるので、4つ目としてリーダーの負荷が減ってきます。リーダーへの依存度が減ってきます。それから、5つ目。もちろんこういった条件が整うと、チームのパフォーマンスが高まります。