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『科学的に正しいホメ方』出版記念セミナー:著者と学ぶポジティブ・フィードバックの技術(全4記事)

部下が目を合わせないのはなぜ? 回避行動の心理と上司がやるべき対処・フィードバックの進め方

【3行要約】
・ポジティブとネガティブ、どちらのフィードバックが効果的か――多くのマネージャーが悩む課題です。
・黒住嶺氏の研究では、ネガティブ・フィードバックの連続が「回避行動」を引き起こすリスクが指摘されています。
・フィードバック文化を定着させるには、ホメることで自己効力感を高め、部下が自らフィードバックを求める状態を作るべきです。

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ポジティブ・フィードバックの効果

黒住嶺氏(以下、黒住):ここで、ポジティブ・フィードバックとネガティブ・フィードバックのそれぞれの効果をもう少し掘り下げてみます。まず日常的なポジティブ・フィードバックの効果としては、受け手の心理的価値が高いという点があります。

先ほどの研究の中で確認されたこととして、ホメられる経験は自己肯定感を上げる効果があります。つまり「自分はうまくやれている」「成果を上げられている」と感じられることで、ポジティブな自己評価を得られるということです。

もう1つの効果は「印象管理」と呼ばれる側面です。この言葉だけを聞くと少し消極的な印象を受けるかもしれませんが、自分のパフォーマンスに対して積極的にフィードバックを受けようとする姿勢を上司に見せることで、「この人は熱意がある」「主体的に取り組んでいる」という好印象を与えることができます。こうした行動が自分のポジティブな姿勢のアピールにもなっていくわけです。

そうした狙いに対して、ホメられる経験が多い人の場合、「次も良い評価をもらえるはずだ」という期待が生まれます。つまり、ポジティブなフィードバックは、(後述の)「負荷」が低いので、「良い印象を得たい」と思う人にとってフィードバックを求める姿勢の強化につながります。

ポジティブ・フィードバックが促す行動変化

黒住:さらに、今回の書籍で扱った他の研究からも補足します。例えばホメられる経験が多い場合、信頼関係が醸成されます。日頃ホメてくれる相手は「自分の成長を支援してくれる人だ」と感じられるため、信頼が深まります。信頼関係がある相手であれば「この人に助言をもらいたい」と思えるので、より積極的にフィードバックを求めにいくという効果が生じます。

もう1つの点として、ホメられることを通して仕事の意味を感じられるようになります。自分の仕事がホメられることで「ホメられる価値のある仕事だ」と実感でき、取り組みそのものの意味づけが強まります。そうした仕事に携われているのであれば、成果をさらに高めたいという動機も生まれます。そのため、より良いものに仕上げようとして、いっそうフィードバックをもらいにいく行動につながる、ということです。

このように、日頃ポジティブ・フィードバックを多く受けていると、フィードバックを求める行動が促進されることが、結果として示されています。

部下はフィードバックの「コスト」と「メリット」を天秤にかける

黒住:続いて、ネガティブ・フィードバックについてです。ポジティブ・フィードバックが良い影響をもたらすのは直感的にもわかりやすいと思いますが、ネガティブ・フィードバックを多く受けている人も、その後にフィードバックを求める行動が促進されることが確認されていました。その理由は、研究では受け手にとって道具的な価値があるためだとされています。

背景として、フィードバック探索の基本的な原則は、フィードバックを取り巻く「コスト」と「メリット」が天秤にかけられていると説明されています。

まず、ネガティブな結果を指摘されることは、確かに心理的な負荷があり、「つらい」と感じることもあります。これはコストにあたります。

ただし、改善点を知ることで自分のやり方を修正し、より高いパフォーマンスを上げられるなら、それは大きな「メリット」になります。つまり、コストよりもメリットが上回ると感じられれば、たとえネガティブ・フィードバックであっても、次もフィードバックをもらおうとする行動が増える、ということが確認されています。

このように、ネガティブ・フィードバックも道具的な価値が高いと認識されれば、自らフィードバックを求める行動につながっていくことがわかっています。

ここまでの内容を、フィードバックの「頻度」に注目してまとめます。フィードバックを習慣的に行う、職場全体で定着させるにはどうすればよいかという点を考えると、まずフィードバックを与える側から積極的に機会を増やすことが必要といえます。

ホメること、あるいは改善点を伝えること。この双方を日常的に行うことによって、受け手はフィードバックを受けることに慣れ、次第に自分からも求めるようになります。そうした循環が生まれることで、フィードバックが職場の文化として定着していくわけです。

部下と“目が合わない”のは回避行動のサイン

黒住:ただし、ここからお伝えする別のポイントとして、ネガティブ・フィードバックばかりが続くのは危険だという点があります。ここで関係してくるのが「フィードバック回避行動」と呼ばれるものです。これは、パフォーマンスが低いと感じた人が、その後フィードバックを受けることを避けようとして取る、積極的な戦術のことを指します。

例えば職場で、上司と目を合わせないように目を伏せる、上司が近づいてきたら席を外す、外回りの予定を入れて物理的に会う機会を減らす、さらには有休を取得して評価のタイミングをずらす、といった行動が確認されています。つまり、フィードバックを受ける機会そのものを意図的に避ける行動です。

この研究で興味深いのは、こうした行動が「被評価者の積極的な回避」であるという点です。パフォーマンスが低いと自覚している場合、人は複数の選択肢を持っています。例えば、悪い結果が予想されるのであれば、積極的に助言を求めて改善しようとする前向きな対応を取る人もいれば、少し消極的に「聞かれるまでは待とう」という姿勢を取る人もいます。

一方で、フィードバック回避行動はそれらとは異なり、能動的に、どうすれば避けられるかを考えながら行動する点が特徴です。つまり、「叱られるかもしれない」「否定的な評価を受けるかもしれない」という予想から、自らの想像力を使って回避策を講じるのです。非常に人間らしい反応ではありますが、マネジメントや組織の視点から見ると、この行動は大きな課題です。

結論は「まずホメることから始める」

黒住:さらに、フィードバック回避行動の研究からの重要な含意として、日常的にネガティブ・フィードバックを受けている人ほど、回避行動を起こしやすいという点があります。

なぜそうなるのかというと、1つには、繰り返しネガティブ・フィードバックを受けている人は、「この後もうまくいかないかもしれない」と考え、自分が成功できる期待が下がってしまう。今回もうまくいっていないのだろうという予想が立ってしまうのです。

もう1つは、自己効力感の低下です。自己効力感とは、自分が成功につながる行動をうまく取れるかどうか、成功させる力があるかどうかに関する信念のことです。常にネガティブ・フィードバックを受け続けている人は、「自分にはうまくやる力がないのかもしれない」と感じてしまう、自己効力感が下がる、という効果も生じます。

このように、成功の期待が下がること、成功させる力がないと思ってしまうことが重なり、日常的にネガティブ・フィードバックを受ける人は、フィードバックの機会を「自分のパフォーマンスが低いことを知らせる機会」だと捉えがちになります。結果として、フィードバックを受けること自体を回避しようとする判断が優先されてしまうのです。

以上の点を踏まえると、職場で自分と相手のあいだでフィードバックを日常的に進めていくには、まずホメることから始めるのがよい、という結論になります。

ホメることは受け手にとってメリットが見えやすく、負荷も比較的少ない。自分にとって良い点を伝えられるため、価値を感じやすいからです。

逆に、ネガティブ・フィードバックは改善につながる可能性があるものの、回避的な反応が生じやすいというリスクがあります。

こうした点から、ホメることは、フィードバックを習慣化していくうえでの出発点として適しています。指摘して直してもらうほうが早い場合もありますが、回避的な反応が起こりうることを考えると、そして、大前提として、受け手にまず変化してもらうこと、より良くなってもらうためにフィードバックをするのだと考えると、ためのホメることからスタートするのがよい、ということが1つ言えます。

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