【3行要約】・座学だけでは行動傾向やマインドセットの変化は難しく、VUCAの時代には安全領域から出て挑戦することが重要です。
・アドベンチャーレーサーの田中氏は「失敗を許容する風土がないと、エッジからはみ出すチャレンジができない」と指摘。
・人それぞれの特性を理解し、アウトドア体験を通じて役職や上下関係のしがらみを取り払い、信頼関係を構築することがチーム力向上の鍵となります。
前回の記事はこちら 座学だけでは変わらないから“体験”を研修に
小澤郷司氏(以下、小澤):なるほど。本当に、田中さんから今いろんなお話をうかがってきました。体験学習を元に30年くらい企業研修を提供されている方と私がディスカッションした時に、「現代の世の中って、理論やイメージ、指導者から学ぶことはけっこう多いけど、体験から学ぶことは少ないよね」という話がありました。
アドベンチャーレースやアウトドアスポーツを用いたビジネススキル研修ってどういうものか。ビジネスから少し離れているように見えるし、活動のレベルとしてはハードなんだけど、「体験に基づく」というところではよりインパクトがあっていいんじゃないか。そういう話もしました。
なんでかというと、氷山モデルというものがありますが、これは(人間の外面および内面を)流氷に見立てていて、会社の中でその人に求められているのって、だいたい表面的な成果や結果です。みんなそこにフォーカスしがちです。
上司・部下みたいな関係で「最近どうよ?」って1対1で話しながら仕事の進捗を聞いたりしても、それは結果的に、この一番表面の見えているところしか話せていない。だけど、もっと下のほうまで行かなきゃいけないよねと。
座学の研修は、このビジネススキルやスキルセットのところまでアプローチすることができるけど、それより下の、行動傾向やマインドセットという深いところまで1on1の中で話したり、もしくは(座学の)研修の中でいったりするのはなかなか難しいので、体験学習ってすごく効果的だよねという話をしました。
アドベンチャーレースって、田中さんがおっしゃったように困難の連続なんです。自分が安心できる安全領域から常に外れているスポーツだと思うんですよね。
つまりVUCAの固まりというか。予測不能で、未経験で、先行き不透明で、知らない世界が広がっている。ずっとそういうところにいるんです。
通常の人間の社会生活においては、やはり人って安全なコンフォートゾーンにいたがるので、その中で閉じこもってしまうんです。けれども、やはりこのVUCA時代にもっと外に出ていき、エッジワークをたくさん経験することで、自分の能力値を上げられるし、さらにマインドセットの変化も起こせるんじゃないか。そんな話をしていました。
失敗を許す土壌が挑戦を生む
小澤:田中さんから、チームメンバーのみなさんがそれぞれ変化はしてきているけど、まだもうちょっとかなというお話があったと思います。どんなところをトライ&エラーしてできてくれば、みんなが理想とする状態になれそうですかね?
田中正人氏(以下、田中):そうですね。まずやはり組織として失敗を許容する風土がないと、エッジからはみ出すチャレンジができない。
小澤:(笑)。おっしゃるとおりですね。
田中:失敗を恐れていたらずっとコンフォートゾーンの中だけで過ごすしかないわけです。そこから出ようとしたら当然チャレンジが必要です。でも、そこで失敗を恐れてそれを許さない組織だったら、当然それはもうできないわけです。まず、そこが大事です。
うまくいかなくても、それを糧にしてまた改善策を打ち出せれば、それは成功のためのステップであって失敗ではない。そういう考え方をみんなで認識し合うというか、そういう組織のあり方をまず作らないといけないんじゃないかなと(思います)。
特にリーダーの人がそのあたりに対して許容するとか、うまくいかなかったらしっかり尻拭いするとか、フォローするとか、「みんなで考えようぜ」というふうに持っていくとか。そういう前向きな姿勢がまず大事かなと思いますね。
小澤:確かにVUCA時代って先行きが見えなくて、今までの成功の方程式が効かないのに、これまでどおりやって成功しろって、たぶんちょっと難しいような気もしていて、やはり上の方が「しっかり責任を取るからチャレンジしなさい。失敗してもいいんです」と。もしくは例えば新規事業を起こすのに、「100億円投資しましょう。これ、全部溶けちゃってもいいんです。その代わりチャレンジをどんどんしなさい」って……。
田中:(笑)。いや、100億円を溶かすのはまずいと思う。
小澤:(笑)。
田中:そこで1つ言えるのは、無謀と挑戦もまた違うということです。「何でもいいからお前の発想で、もうガンガンやれ」というのもまた違うと思います。そのへんはある程度、線引きというか決め事というか一定のラインが必要だとは思うんですけど、それを踏まえた上での、ある程度根拠のある挑戦は必要だと思います。
だからやはりそのあたりはうまくリーダーが導いて、一緒に計画を立てながら1個試してみる、という話だとは思うんですけどね。でも、やはり少なからず、挑戦したことに対する許容度は必要かなと。それを評価したほうがいいかなと(思います)。
FFS理論で“違い”を見える化する
田中:うちのチームでもいろいろとチームビルディングをやっていく中で、やはりいろいろと人の特性があるわけです。その特性を知ろうと、いろんな理論を学んでいて、それぞれの個人の人間性というか特性を理解しようというのがあります。その中に、具体的に言うとFFS理論というのがあります。
小澤:Five Factors & Stress理論ですかね。
田中:そうですね。5つの特性とストレスという意味で、人はどういうことにストレスを感じるのかを5つの因子で特徴付けるというものです。これに関しては、その5つのうちすごく特徴的な2つの因子があります。保全性という因子と拡散性という因子があって、これが相反する因子なんですね。
それでその人のタイプが特徴付けられるんですね。心理テストや適性検査みたいなのをやって数値化するんですけど、僕は拡散性が強いんです。拡散性の人は安全領域から飛び出すことにワクワクするんです。
小澤:(笑)。それ、日本人ってすごく少ないそうなんですよ。確か日本人って、凝縮性と保全性が、人口の大多数を占めるんじゃないかと言われているんですけど、田中さんは拡散性なんですね。
相反する強みの活かし方
田中:拡散性が強いんですよ。あまり日本人には多くないですね。保全性が強い人は、安全領域から出ることにものすごくストレスを感じる。なかなか一歩を踏み出せないし、「お前、踏み出せ」ってなると、ものすごくストレスを感じて、下手すると潰れちゃう。
でも、また別の面があって、保全性の人はものすごく努力家。努力をして成果を出す力を持っている。だから、コンフォートゾーンの中ではものすごく能力を発揮できるタイプ。努力をすることでコンフォートゾーンを徐々に広げていける人。
拡散性の人は、突拍子もなく飛び出すことはできるんだけど、努力家じゃないんですよね。何か1つ新しいことをある程度やったら、飽きちゃうんですよ。飽きて、「はい、次」みたいになる。
小澤:(笑)。
田中:だから、どんどん外の世界を広げることはできるけど、しっかり地を固めることはできないタイプらしいんですね。どっちが良い、悪いじゃなくて、人それぞれ特性があります。なので、それを理解した上で、その人それぞれの特性を活かしたコンフォートゾーンの広げ方をしなきゃいけないなという。
小澤:すばらしいですね。僕も組織構築をする時にFFSの診断をして、メンバーの特性をお互いに知りました。やはりお互いがお互いの特性を知らないと、「なんでこの人はこうなんだろう?」と思うことも多々出てきます。
やはりこういった確立された手法を使いながらそれぞれのメンバーの強みを発揮したり、発揮できるコンフォートゾーンを広げたりしているので、EAST WINDでもそういうのをやっているんだなと思って勉強になりました。