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メンバー・部下に本音で向き合い、人を動かす“令和版鬼軍曹的リーダー”の育て方(全8記事)

話しても噛み合わない会議 ズレを“共通課題”に変えるメタ視点

【3行要約】
・チームの歯車がかみ合わない現状に悩む組織が多い中、メンバー間の認識のズレを「みんなの課題」として共有することが注目されています。
・プロアドベンチャーレースチーム「EAST WIND」の田中氏は、元メンバーによるコーチングを導入し、1on1と月例セッションで個人の気づきを促進。
・感情も含めた対話と第三者による客観視を通じて、価値観レベルでの相互理解を深めることが重要です。

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ズレを“みんなの課題”に変える共通認識

小澤郷司氏(以下、小澤):EAST WINDには他のメンバーが何人もいるじゃないですか。その人たちも同じような認識でチームを運営されているんですかね?

田中正人氏(以下、田中):今は同じ認識で運営しています。

小澤:おぉ、すばらしいですね。

田中:というのも、やはり今のチームの歯車がかみ合っていない現状も、「それはなんでなんだ?」と、悔しい思いをしながらみんなで認識しているからです。

あるいは、ニュージーランドのレースが終わった2025年2月から、元EAST WINDのメンバーの和木香織利さんのコーチングも今、受けているんですね。

小澤:ワッキー(和木香織利氏の愛称)かな?

田中:ワッキー。今は佐藤香織利さんになっていますけど。彼女は生い立ち上のトラウマがあって、それが子育てですごく噴出してしまって、悩みに悩んでコーチングを受けていたらしいんですね。(それを)4、5年かけてクリアしたらしいんですよ。

小澤:なるほど。

田中:恩返しじゃないけど、今度は自分がコーチングをしていろんな人を見てあげたいと(考えたそうです)。(コーチング活動は)もう始め出しているんだけど、その中で恩返しとしてチームに貢献したいという意味で、「ちょっとコーチングをやらせてください」って言っていただきました。それで、個人個人とまずセッションをして……。

小澤:1on1っていうことですね?

田中:そうですね。それをやって、月に1回はチーム全体のセッションをするという。

1on1と月例セッションで整える土台

小澤:チーム全体の時は1toAllで、和木さんがコーチとして入るということですかね?

田中:そうですね、ファシリテートですね。

小澤:いいですね。そういうスペシャリストが第三者的にチームに入って専門的に客観視してくれると、先ほど言っていた感情の部分と事実の部分を切り離して、お互いが冷静に事実を話して、それを受け入れてうまくやりとりできそうな絵が今、見えました。

田中:やはり第三者は本当に必要(笑)。

小澤:(笑)。

田中:当事者同士は駄目。

小澤:駄目(笑)。

田中:当事者同士で腹を割った話もできなくはないのかもしれない。けれども、やはり特にコーチングとかファシリテートするプロフェッショナルの人はすごいなって思いますね。

みんな個人個人でセッションを受けて自分のことを掘り下げたり、相手のことで気づいたりしたことについて「今日、セッションを受けてこういう感想でした」というアウトプットをできる限りしましょうという話になって、そうするようにしています。それで月に1回はチーム全体でセッションをするということを繰り返してきています。

小澤:なるほど、すごいな。2月から始めているということなので、もう半年以上ですかね?

田中:そうですね。

気づきを“感情”に定着させる難しさ

小澤:チームに変化は見られました?

田中:個人個人の気づきはすごく出てきて、お互いにそれを理解し合えるところまで来ています。ただ、頭ではなんとなくわかっても、それを実践できるとか、感情面にきちんと変化として身に付けていくのはまたちょっと別問題です。ここは時間をかけて、トレーニングで動きをきちんと体になじませるのと一緒で、気づきを感情になじませるみたいな感じ(笑)。

小澤:(笑)。どうやって感情になじませたらいいんだろうな。僕は10年くらい前に「Real Discovery」という自分が参画しているチームで、レースラフティングの大会を目指して、1年以上毎週トレーニングを重ねていたんです。

その時にすごく(気づけて)良かったなって思うことがありました。ラフティングボートって、前に2人、後ろに2人の4人乗りなんです。舟は真っすぐ向いているはずなんですけど、4人とも少し両脇に座っているから、(ボートを)こぐ練習をしている時、見ている向きがほんの少しずつみんなずれているんですよね。

真っすぐだと思っても真っすぐじゃないから、こっちの人がよくわからないパドリングして、「えっ、なんで今そこで(パドルを)入れたの?」と言い合いになったりするんです。

ちょっとしたワンセッション、100メートル下るだけでも(気になる点が出てきます)。(そこで)「なんであそこでああいうふうにしてこいだ? あのパドリングで艇が不安定になって、こうこうこうだったんだけど」というのを、イラッとはしているんだけど、事実として(理由を)聞きます。

(それから)フィードバックを得て、みんなから意見出しをして、「あそこはこうだったんじゃないか?」という改善策を出して、また、こいで(いく)というのを毎週やっていたんですよね。

それって田中さんが言っていた、「感情を抜きにして事実を把握して、受け入れて、それでさらにアウトプットしていく」というのを実際の体験に基づいて細かく回せた(ということだと思います)。本当に真剣にやっているから、ちょっとしたズレでイラッとするんですよ(笑)。

一艘の舟が可視化する“視点のズレ”

田中:ラフティングはチームビルディングにすごく適した題材だと思いますね。みんなで1つの舟を動かすので、一人ひとりのちょっとした動きが舟全体の動きにすごく影響しちゃうから。みんなそれぞれが頭の中でイメージしている舟の動きをしたいと思って、自分なりにこぐんだけど、でも右の人と左の人で見ている目線が違うから……同じものを求めているんだけど目線が違うんですよ。

小澤:(笑)。そうなんですよね。

田中:だから、こっちからの見方とこっちからの見方は違うんですよね。でも、こっちの人は、自分の目線や感覚しかないから、「なんでこっちの人は自分の目線を理解できないんだ?」とか「そうやってくれないんだ?」と思うけど、「いやいや、そもそもあんたが中心じゃないですから」っていう(笑)。どっちもね。

小澤:(笑)。そうですよね。

感情まで扱う対話が学びを深くする

田中:要は自分が中心だと思って動かしちゃおうとしちゃうんですよね。そういうのが人間にはあるわけです。ラフティングはそれを理解するのにすごくいいトレーニングですね。

小澤:そうなんですよね。その時に(みんなと)話しました。僕はけっこう感情の起伏があるほうなので、けっこうイラッとしたり悲しくなったり喜んだりするんですけど、他の人は意外と冷静だったりするんですよね(笑)。

その時に、「なんで郷司はそんなふうになるの?」と、僕の感情がなんでそんなに揺れ動くのかを聞いてくれたメンバーがいました。そういう時に、表面的に出ているスキルではなくて、その中にあるマインドセットや価値観にも(気づきが)落とし込まれていったのをすごく感じました。

結局、土曜日とかトレーニングが終わった後は、夕飯を食いながらお互い話し合うという時間を、1時間、2時間びっちり取っていました(笑)。その際は本当に、お互いの感情すらも理解しようとしていて、けっこういいチームビルディングができていたかなとは思っています。

やはりその時も、第三者というかレースラフティングの日本代表だった人がコーチでずっと付いていました。第三者の人が目の前にいたので、チーム全体で冷静になって話をしっかり分解していけたし、行動に関しては1本1本下るごとに、その人にビデオ撮りをしてもらっていました。

技術・スキルと感情は、やはり第三者を通すことでけっこう分解できたなという体験がありますね。

田中:そうですね。動きだったら第三者に見てもらったり、ビデオ撮影したりすることで客観視するとかね。

小澤:そうですよね。

田中:今風に言うとメタ思考で物事を捉えられると、そこで自分の価値観や感性を修正することができる(というのが)ありますもんね。

変化の手応えと“未完”の現在地

小澤:EAST WINDではワッキーからコーチングを受けて、(進歩する)きっかけもあったということなんですけど、半年やってきてどうですか? 田中さんというか、チーム全体に期待する「組織と個人を同時に成長させるような芯のある強さ」は、組織として、そして個人として持ててきていたりするんですか?

田中:そうですね。今はそこを本当に目指してやっているんですけど、それが実になっているのかな? まだなっていないかなっていうぐらい。

小澤:(笑)。そういった意味だと、そこはまだトライ&エラーをもう少し回数を重ねていく必要があるということですかね?

田中:そうですね。着実に変化はあって進歩しているんですけど、それが「花咲いて、実がなって」というところの、まだ一歩手前かな、みたいなイメージですかね。ただ、すごく筋はでき始めているっていう。

小澤:いいですね。

田中:もう一踏ん張り、二踏ん張りぐらいして、結果をきちんと出したいなという感じですね。

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