「こうあるべき」がメンバーの居場所を奪う　“違い”を力に変えるチームの作法

「こうあるべき」が居場所を奪う

田中正人氏（以下、田中）：実際そうやって、うちのチームでさえ去っていくメンバーが何人かいたんです。「ちょっと居場所を作れなかったな。奪ってしまったな」とそのたびに反省していました。やはりその時は、「お前、それじゃあ駄目だ。こうなれ」と相手に求めていましたね。

小澤郷司氏（以下、小澤）：なるほど。じゃあ、やはりそこはある意味、高い目標があるが故に期待してしまっていたり、「こうあるべき」というのが田中さんの中にあったりしたということですかね？

田中：そうでしょうね。

小澤：その価値観を押し付けてしまっていたっていうことですよね？

田中：そうですね。あとはやはりその人の人生観。「努力して成果を出すのは当たり前だろう」みたいな考え、また、それをしてきた人。すごく勉強をしていい大学に入ったり、ものすごく努力をしたりして、これだけ積み重ねてきたことで成果を出してきた人。そういう成功体験があって自信のある人ほど、人に対して同じことを求めちゃうことがよくあると思うんです（笑）。

そうすると相手を潰しちゃう。もうそれで、「じゃあ、それができていない人は駄目な人間なんですね」とか「私は駄目なんですね」となっちゃう。そうすると（組織から）抜けちゃう。

小澤：（笑）。田中さんはそういうことに気づき、もがきながらも、新しいかたちでEAST WINDを支えているんだと思います。

芯の強さの土台は“信頼関係”

小澤：田中さんを含めてなんですけど、世界一になるという目標に対して、個人一人ひとりとEAST WINDという組織を同時に成長させる芯のある強さって、田中さんの中で何かあったりしますか？

田中：ありますね。本当に基本の繰り返しなんですけど、やはりメンバー間の信頼関係です。これがもうすべてというか、まずメンバー間に信頼関係がなかったら何をやっても駄目だと思います。

それを作っていくのが難しい。ただ人が集まっていたらそれができるかっていったら、まぁ、できないでしょうね。組織としての仕組みづくりも必要かもしれないです。でも最終的には、やはり個人個人で「しっかりこの人とコミュニケーションを取ろう」という意志（が大切です）。特に、自分が苦手な人や理解できない人（に対して）（笑）。

自分と正反対のタイプの人に対してしっかりコミュニケーションを取ると、「えっ、なんで？」と自分の中で疑問（が湧いたり）、あとはモヤモヤっとしたり、イラッとしたり、カチンとしたりして感情が揺さぶられたり、「なんで？」って思ったりします。相手が自分とぜんぜん違うタイプだったり価値観だったり（すると）理解できないわけですよ。

そこに対して、それを理解して受け入れようとするコミュニケーションが取れるかどうか。普通は（コミュニケーションを）取りたくないですよね（笑）。

小澤：いや、普通は避けますよね。特に大きい組織であれば、「あぁ、この人と合わねぇな」とか「この人は嫌だな」と思ったら避けて、もうその人と接しなくても生活できるような状態に持っていくと思うんですよ。

もしくは上司にちょこっと「実はこの人と合わないんです」と言ってチームをちょっとずらしてもらうとかは、往々にして聞きます。

苦手な相手こそ成長のチャンス

田中：でも、そこに自分が成長できるチャンスがあるんですよね。自分の感情を揺さぶるような苦手な人こそ、自分のトリガーをすごく引いてくれる人なんですよ。それは「僕自身を見つめ直すチャンスだし、自分を成長させるために現れた人だ」って捉えたほうがすごく得るものが大きいというか。

小澤：なるほど。人にフォーカスして、ベースとなる信頼関係という部分のお話をしていただきました。要は、芯のある強さとは、嫌な人や合わない人でもしっかり感情を入れずに、自ら事実としてそれを受け入れていくと、成長につながるよということだったと思います。

僕は少し変わっているので、大きい組織（に所属していた）時は、「合わないな」と思う人にもぶつかりにいっていました（笑）。

変な部長とか、立場がすごく上の人でもぶつかりにいっていました。すごく叱られることとか合わないこともあったけど、逆に自分の成長につながったというのは、僕自身の実体験としてもあるかもしれません。

個性と経験が“関わり方”を決める

田中：そうですね。人間関係の取り方って、その人の性格的な特性も当然あります。やはり生い立ちや人間関係のいろんな経験上で、うまくいった、うまくいかないとか、痛い目に遭ったとか、すごくうれしいことがあったとか、すばらしい友情を築けた経験があったとか。部活のスポーツで団体競技に取り組んでがんばってきた結果でいろんなことがあったとか。

人それぞれのいろんな経験の結果として、人との付き合い方とか、郷司君みたいなぶつかり合い方が「できる、できない」とか「できそう、できそうじゃない」みたいな実感もすごく変わってくると思います。なので、これはなかなか難しいところではあります。

でも、必ずしもよくわからない人を完璧に理解して受け入れなきゃいけないわけでもないんですね。

小澤：（笑）。そうですね。

田中：当然、距離感を持って当たり障りのない関係で仕事が回っていくのならぜんぜんそれでもOKだと思います。

ただ、嫌いにならないほうがいいですね。「この人はちょっと自分とは違う人だ」と（思うこと）。変わった人、興味深い人、おもしろい人ぐらいに抑えておく。人に「良い、悪い」はないと思うんですね。

みんながみんな自分の価値観が正義だと思って言動をしているんです。だから、物事にどっちが正しいというのはないという前提で人を見たほうがいいんじゃないかなって（思います）。