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メンバー・部下に本音で向き合い、人を動かす“令和版鬼軍曹的リーダー”の育て方(全8記事)

上司の「俺についてこい」が奪う責任感と創造性 不確実な現場を動かす“即断と合議”の切り替え

【3行要約】
・リーダーシップの「俺についてこい」スタイルが限界を迎え、チームの創造性や責任感を奪うという問題が顕在化しています。
・アドベンチャーレーサーの田中正人氏は、自身のパワハラ的リーダー経験から、VUCA時代には一人の判断力では限界があると指摘。
・現代のリーダーは状況に応じてトップダウンと合意形成を使い分け、メンバーの主体性を尊重した人材育成を行うべきです。

前回の記事はこちら

「俺についてこい」の限界

小澤郷司氏(以下、小澤):なるほど。田中さんは「パワハラリーダーだった」と(おっしゃいましたが)、例えばどんな時にどんなことをしてしまっていたんですか(笑)?

田中正人氏(以下、田中):とにかくもう最初に「プロアドベンチャーレーサーになる」と、会社を辞めているわけですよ。もう人生のすべて、24時間365日をアドベンチャーレースに捧げる決意をして、それを実際にやっていました。人一倍トレーニングもしたし、技術も知識も身に付けて、経験も積んできました。

それでメンバーに対しては「さぁ、俺についてこい!」(という態度)でした。実際に(チームとして)動き出せば、「俺はここまでできているんだから、お前もできるようになれ」という感じですね(笑)。

レース中はいろんな状況判断や決断の連続なんですよね。それに対してメンバーが意見を言っても、僕のほうがいろんな経験を積んでいるから、「いや、それは違うよ」というのがわかっちゃうし、それを言っちゃうんですよね。

「いや、お前、それは違うよ。そんなのうまくいかないよ。こうだよ」とやっちゃうので、みんなが意見を言わなくなるんですよ(笑)。「何か言ってもどうせ田中さんの言うとおりになるんでしょう?」みたいな。

小澤:(笑)。

トップダウンの副作用「責任感の喪失と創造性の停止」

田中:だんだん(チームのメンバーの)責任感もなくなってくる。でも、僕も神じゃないから、「俺はこうだ」と言って自分で判断したことでもミスるんですよ。そうしたらメンバーとしては「ふざけんなよ」っていう……。

小澤:(笑)。

田中:「お前、散々(自分の意見を)強く言ってチームを引きずり回しておいて、ミスるんじゃねぇ!」みたいな感じになっちゃうんですよ。そうしたら、もうチームワークどころじゃないんですよね。

だから、パワハラリーダーは、そのリーダーのレベル止まりになっちゃうわけですよ。1人の人間の能力には限界があります。やはりVUCAみたいな予測不能で答えのない世界で渡り合っていくには、みんなが(お互いを)信頼し合い、知恵を出し合って支え合おうという心意気を持って取り組んでいかなきゃいけないわけです。

それがパワハラリーダーではできない。その人がものすごく優秀でミスをしないような人だったら、その範囲まではうまくいきます。けれども、世の中はそんなに甘くない(笑)。やはりもっとできるだけ大勢の人の能力を統合して、未知の世界に進んでいかなければいけない。

成熟した現場は“使い分け”で進む

小澤:もしかしたらこれまでの(経験から導き出せる)成功の方程式があって、軍隊方式じゃないですけど、組織自体を軍隊のように、三角のピラミッドの頂点から指令を与えて、「ほら、1万人動け」とブレイクダウンできる組織であればパワハラも機能するのかもしれません。

けれどもそれってたぶん、成功の方程式がもう決まっていて、先の見通しが利いている世の中であれば通じるのかもしれないんですけど、今はそういう時代ではないんですね。

(それに)1人の人がパワハラリーダーみたいになってしまうと、「こうしたほうがいいですよ」という周りの社員の人の創造性が使えません。要は意見を吸い上げられないので、全部が全部このパワハラリーダーの人が判断をしなきゃいけなくなっちゃうんですよね。

田中:そうですね。

小澤:そうすると、スピーディな、その場その場での現場の判断がまったくできなくなってしまいます。ビジネスの世界においても、それは成果を落としてしまうことにつながるかなって、今聞いていて思いました。

田中:そうですね。実際の運用方法というか、現実的にはちょっとそのへんはやはりもっと複雑なのでもっとミックスしたほうがいいと思います。

例えば、もうある程度見通しがついて、答えのある課題に関しては、やはり経験のある人の決断や経験に基づいた話を優先して、どんどんスピード感を持って進めたほうがいいだろうと思います。(一方で、)「これはどうなんだろう? うーん、難しい問題だね」となったらスイッチを切り替えて、「もっとみんなで考えて意見を出し合おうじゃないか」という合意形成をつくりながら物事を進める。

(そういうふうに)ケースバイケースでスイッチを切り替えるのが現実的には必要なんじゃないかなって思うんですよ。ただ、「今がスイッチを切り替えるタイミングだ」という決断がまた難しいんですけど(笑)。

小澤:(笑)。なるほど。

田中:やはりちょっと、そういう感じがしていますね。

育成は“丸投げ”でも“指示一辺倒”でもない

小澤:昔は製造業の工場とかも、危ない工程では、社員の人から「ここは危ないからしっかりこうするんだ」と強く指導してもらって、けがをしないようにしていた。けれども(今は)強く言う人が減ってしまって労災事故がけっこう起きている。

つまり迎合型リーダーになるが故にリスク管理が甘くなって、事故を起こしてしまう事例があると企業の方からうかがうこともあります。アドベンチャーレースでも、迎合型リーダーになったことによるマイナス面ってあるんですかね?

逆に言うと、もしかしたらこっちのいい面もあるわけじゃないですか。さっきスイッチを切り替えるという話をしていたと思うんですけど、やはりそのへんは、迎合型リーダー(になることによる)マイナス面とプラス面ってあると思いますか?

田中:そうですね。上司と部下の関係で一番課題になるのが、やはり人材育成だと思うんですよね。

当然、(業務の)経験がある上司や先輩のほうがいろんな知識や技術や経験を身に付けているので、若手でまだ新人さんならやはりそれを学ばなきゃいけないわけです。そこであまりにも無責任に丸投げしちゃっても人は育たないし、相手のやる気も引き出せないので、そこは難しいところなんですね。

かと言って、上から「こうだ」と言っても考えなくなっちゃう。能動的じゃなくなっちゃう。だから、やはりそこは相手の主体性を尊重しつつ、きちんと自分で考えさせるようなゆとりや時間もかけて育てていかないといけないのかなと(思います)。現実的にはそのあんばいが難しいところだとは思うんですけど(笑)。

小澤:(笑)。なるほど、そうですよね。やはりあんばいということなんですけど、優しくするというか迎合するだけではそのメンバーも育たないっていうことですよね?

田中:そうですね。

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