【3行要約】・職場での自発的な貢献行動は価値がありますが、強制的になると逆効果になってしまいます。
・伊達洋駆氏の研究によれば、「強制的市民行動」はストレス増加やバーンアウトを引き起こす深刻な問題となっています。
・健全な組織市民行動を促すには、自己決定権や感謝、公平性、意義の明確化という4つのスイッチを活用し、内発的な貢献意欲を育む環境づくりが重要です。
前回の記事はこちら 職場の「圧力」で“強制的に貢献”させられるケース
伊達洋駆氏:この副作用に関する観点は、まだ続きます。先ほど挙げた論点と一部重なっている部分もあるんですが、組織市民行動の定義でありエッセンスであり、それから非常に重要な核心に当たるのは、それが自発的であるということなんですよね。つまり従業員本人が自ら主体的にその行動を取るからこそ組織市民行動と言うことができます。
ところが、この行動だけを見ていると、同僚を助けるという行動が起こっていたとしても、それが、自発的ではなくて強制的に行われているといったケース。あるいは最初は自発的に行っていたんだけれども、いつしか強制的なものになってしまっているという変質が起こってしまう可能性が指摘されています。これを「強制的市民行動」と呼びます。強制されているので、組織市民行動ではないということですね。
従業員が、本当はやりたいと思っていないんだけれども、上司であったり同僚であったり、いろんなところから圧力、プレッシャーを受けて、もうこの役割外の貢献をやらざるを得ないという状況になってしまっているのが強制的市民行動と呼ばれるものです。
ストレス増加、仕事満足度低下、バーンアウトも
この強制的市民行動に関する研究も行われているんですが、いかんせん、これは良くないですね。組織市民行動とは真逆です。ストレスを高めますし、バーンアウトを著しく増加させることにつながります。また仕事の満足度も低下しますし、イノベーティブな行動を取っていこうという意欲も減退します。もうとにかくマイナスです。

これはなかなか怖いですよね。組織市民行動を促していきたいところなんですが、それが強制になってしまうと、むしろネガティブになってくるということなんです。同じ行動なので表れ方は一緒なんですが、一方で動機が自発的ではなく強制になってくると非常にマイナスになる。
例えばマネージャーが、「これはチームのためなんだ」みたいな大義名分を盾にしつつ、あるいは、仕事の範囲がちょっと曖昧だからということで、心理的なプレッシャーをかけながら善意の行動を取らせようとするといった強制的な市民行動が機能してしまうと、結果的に従業員を苦しめてしまうということなんですよね。それがいかに良い行動であっても、強制的市民行動であれば良くない結果につながっていってしまうということです。
こうした強制的市民行動につながるようなプレッシャーのことを、「市民的行動の圧力」と呼んでいて、これもまた研究されているんです。組織市民行動の副作用に関する研究は多角的にありますよね。
市民的行動の圧力を、みなさん感じたことはありますか? 何か役割外の良い行動を取らないといけない。援助行動や、休まずにがんばらないとダメだといった圧力を感じると、あんまり良くないことが起こるんですね。
人は圧力を感じると、さらに貢献しようとする
この研究は興味深くて、この市民的行動の圧力を感じると、組織市民行動を多く行うんですね。ただ一方で、その圧力が仕事と家庭、あるいは余暇との葛藤を深刻化させる。
つまり、疲れてしまって、もう役割を果たせなくなっちゃうんですよね。余暇も楽しめない。家庭でも自分の役割を果たせないとなってしまって、結果的に従業員がストレスを感じる。そして「こんな会社、辞めたい」と思ってしまうというようなメカニズムが明らかにされました。
すなわち、この組織市民行動を促していく時に圧力は禁物ということなんですよね。確かにやらざるを得ないような雰囲気を醸し出していくと、短期的には組織市民行動を取ることになるんですよ。
ただ、それはもうほとんど内実としては強制的市民行動に近いわけです。行動としては取ったとしても、それは中長期的に考えるとストレスとか、従業員の離職、人材流出につながっていく恐れがあることがわかっているわけですね。
“自発的な貢献”の副作用を抑えるには
こうした研究から言えることなんですが、行動として表れる量を追い求めていってプレッシャーをかけるアプローチは、正直まったく功を奏しないことがわかるかと思います。行動を引き出すというか行動を引き出させるようなアプローチではなくて、自ら貢献したいと自然に思えるような環境を整えていくことが、やはり重要になってくるということなんですね。

そこで組織市民行動を健全なかたちで促していくために、スイッチという考え方で、こういうスイッチを押していくとうまくいきやすいですよと、副作用の悪影響を抑えることができますよというスイッチをいくつか紹介して、私の講演を終了したいと思います。
1つ目が、自己決定権ですね。やはりやらされ感みたいなことを感じると、副作用が広がってしまうので、依頼する時に指示ではなくて相談にかえる。
例えば、「これ、お願いします」とか、「これ、やらないとダメですよ」みたいな雰囲気を出すんじゃなくて、「今チームでこういう課題があるんですけど、何か手伝ってもらえそうなことはありますか?」と言うと、貢献の方法を考えることができるんですよね。それは自分で選べるわけです。あと、「難しかったら遠慮なく言ってくださいね」と伝えることで、プレッシャーを下げることも重要になってくるかと思います。
いつも同じ「良い人」に負担が偏る
2つ目です。「やって当然」といった感じの空気をやはり防いでいく必要があるわけですね。その意味では、貢献された時にやはり具体的、かつタイムリーに感謝を伝えていくことが重要になります。

ただ、感謝の伝え方も大事で、「いつもありがとうございます」と曖昧に言うだけではなくて、もっと具体的に、「さっきの会議で議事録を取ってくれたおかげで、議論に集中できました。ありがとうございます」というふうに、行動の価値を具体的に伝えることが大事です。実はこのあたりは、冒頭で紹介した『科学的に正しいホメ方』という、今週出た私の共著の中に書かれているので、気になる方はぜひ読んでいただければと思います。
3つ目が、公平性のスイッチですね。いつも同じ「良い人」に対して負担が偏っていくという構造は、できるだけ避けなければならないわけですね。そのためには、マネージャーとしてはやはり組織市民行動の負担が特定の人に偏っていないかどうかを把握していく必要があります。
特に、目に見えにくいような仕事というのがありますよね。目に見えにくいんだけど組織市民行動として組織にとっては非常に有益である。そういった行動をきちんと把握しようと動いていくこと。それから、チーム全体で組織市民行動を分担していくみたいな考え方も重要になってくるんじゃないのかなと思います。
そして、最後のスイッチ。意義と影響力のスイッチなんですが、これは、その組織市民行動を取ったことによってどんな結果が生み出されたのかをきちんとフィードバックするということです。意義とその行動の影響力を、本人に対してきちんと伝えるということですね。
そうすると自分の貢献の意義を感じやすくなるわけですね。「次もやろう」と、自ずと思いやすくなります。こうした4つのスイッチを意識しながら、強制とかプレッシャーをかけるわけではないやり方で自発的な貢献文化を育んでいくことが重要です。
内発的に「貢献したい」と思えるような環境をつくる
また、最後に少し足させていただくと、仕事満足度を高めるとか、上司・部下関係を良くするといった要因は、まさに周辺的にというか間接的に組織市民行動を高めていこうとするアプローチなので、それらはまったく問題がないということです。
といったことで、私からの講演としては、組織市民行動の光の側面と影の側面を研究知見に基づきながらお話ししてきました。組織市民行動はいい側面もあれば疲れさせてしまうといった側面もあるわけです。
とにかく強制しないように内発的に貢献したいと思えるような環境を構築すること。仕事のアサインであったり、上司との関係性であったり、そうしたことを整えていくことが重要ではないでしょうか、というお話でした。ぜひみなさんのそれぞれの組織の中で役に立つ知見が含まれていると幸いです。