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自発的な貢献を"やらされ感"に変えないために:組織市民行動の副作用を科学する(全5記事)

同僚を助けているうちに疲弊…優秀な社員ほど消耗するパターン 「善意」が組織への「反発心」に変わる理由

【3行要約】
・職場での自発的な貢献行動は評価される一方、「当たり前」になることで従業員を追い詰める危険性も指摘されています。
・伊達洋駆氏によると、組織市民行動による「市民疲労」は情緒的消耗を招き、特に仕事ができる人ほど影響を受けやすいとのことです。
・リーダーは部下への感謝と承認を忘れず、従業員は無理のない範囲で貢献することで、組織と個人の両方が成長できます。

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マネジメントで重要な4つのポイント

伊達洋駆氏:これらの今までの科学的な知見を踏まえた上で、マネジメントに活かしていくにはどうしたらいいのかを、4つのポイントで紹介させていただきたいと思います。

1つ目が、チームの方針を決めたり、役割分担を決める時がありますよね。その方針の背景や理由をきちんと説明していくことが、マネージャーに求められることではないかなと思います。

これは言ってみれば、意思決定のプロセス、手続きをきちんと見える化していくということですね。できればその時に部下が意見を述べる機会を設けることができると、先ほど申し上げた手続き的公正を高めていくことができます。これが1つ目です。

2つ目は、例えば1on1ミーティングや個人面談を通じて、部下が安心して本音で話せるような環境を作っていくということですね。その上で部下の声に耳を傾けてみるということです。「何か困っていることはないですか?」と問いかけていく。

そうすると部下にとってみると、「自分の意見が尊重されているな」と思って、これも公正感を高める上で重要な役割を担います。要するに、(部下の)意見にちゃんと真摯に耳を傾けて傾聴しましょうということですね。

3つ目なんですが、チーム全体に対して働きかけていくこともマネージャーはもちろん大事なんですが、部下一人ひとりと向き合っていって、個別の関係性をきちんと築き上げていく努力も欠かせません。

例えば定期的に面談を行って、それぞれの人がどんなキャリアプランを持っているのか、働く上での価値観として何を大事にしているのか、といったことをちゃんと理解しようとするということですね。

かつ、日々いろんな業務の中で小さな貢献を行うことがあると思うんですね。その場合に感謝をきちんと伝えるということです。「○○さん、ありがとうございます。助かりました」と述べていくことによって、信頼関係を深化させていくことができます。

「問題が起きたら上司が責任を取る」姿勢を見せる

そして4つ目です。いろんな部下がいると思うんですが、それぞれの人が何かしらの強み、すなわち専門性を持っているかと思います。その専門性に敬意を払うということですね。

一方で、何か問題が発生した時には、ちゃんと自分が責任を取りますよといった姿勢をきちんと見せる。(部下に)敬意を払えて、問題が起きたら自分がちゃんと責任を取るリーダーがいると、「この人のためならこの職場に貢献したい」といった信頼関係が芽生えていって、それが組織市民行動につながっていくというかたちになります。

ここまでをまとめると、組織市民行動を高めていくためには、仕事満足度を高めていくことが1つのアプローチとしてありました。

もう1つが、上司のマネジメント行動によって、特に公正感であったり、関係の質を高めていくような働きかけを行うことで、組織市民行動を促していくことができます。

「自発的な貢献」のダークサイド

ここまではどちらかというといい話でした。光の話。それから組織市民行動を促していくにはどうすればいいのかという話をしてきたんですが、どんなことであってもやはり光があれば影が出てくるんですよね。

この自発的な貢献行動には、一見もう影はないんじゃないのかなと思ってしまうんですが、そうでもないということが近年言われるようになってきています。特に近年、この組織市民行動のダークサイドに注目した研究が増えてきているので、みなさんにぜひ紹介したいと思います。

1つ目が、「市民疲労」と呼ばれる考え方です。組織市民行動は疲れるんですよね。役割外の自発的な、組織にとって有益な行動を取るということは、心理的にも身体的にも疲れるんですよ。

特に組織からあまり支援が得られていない環境であったり、行動に対するプレッシャーが強いような環境で組織市民行動を行っていくと、この市民疲労、つまり疲れるということがわかりました。組織市民行動を取ると、そのことで疲れちゃうわけですよね。例えばプラスアルファで同僚を助けたりすると疲れるじゃないですか。

ここで見過ごせない副作用かなと思うのが、組織市民行動を取る。そして組織市民行動を取って市民疲労を経験する。そうして疲労すると、人は自分の資源が大事なので、その資源を守ろうとして自己防衛的な反応を取るんですよね。

その結果、「こんなに疲れるのであれば組織市民行動の頻度を減らしていこう」というふうに、組織市民行動を減らしてしまうことにつながっていくんですよね。その意味で、この市民疲労は、看過することができないような要因になっているということです。

ハイパフォーマーほど「組織市民行動」による消耗が大きい

また、疲れてしまうということは、実はいろんな角度から検証されているんですが、組織市民行動の種類によって、疲れの内実が少し違ってきます。

組織市民行動にはいくつかの側面があるという話をさせていただいたんですが、例えば真面目さというか誠実に貢献していくことを表す組織市民行動の種類があります。残業をいとわないとか、休憩時間を削ってがんばるみたいな、そうした行動も組織市民行動の一部なんですよね。

そうした組織市民行動は、従業員を情緒的に消耗させてしまう。場合によっては仕事と家庭生活との間で葛藤を引き起こすことも明らかになっています。しかも、こうした種類の組織市民行動による負の影響が、仕事ができる人ほど強い。非常に興味深くもなかなか難しい点なんですよね。

結局、仕事ができる優秀な従業員は、職務成果も残しているわけです。仕事内容、役割内の行動についてもかなり一生懸命やっている。そこにプラスアルファで組織市民行動を取っていくことによって、資源がどんどんなくなっていってしまうんですよね。

自分の精神的なエネルギー、それから時間も有益な資源ですし、そうしたものをどんどん注ぎ込んでいくことになってしまうので、みんなより早く枯渇してしまう。そして情緒的に消耗してしまうことがわかっています。ハイパフォーマーほど組織市民行動がもたらす消耗が大きいということです。

自発的にやっていた貢献が、いつしか「義務」に……

さらに、この組織市民行動の副作用を巡っては、こんな視点も挙げられています。これもあるあるというか非常にリアリティのある調査だなと思うんですが、自発的に取るのが組織市民行動の醍醐味なわけですね。組織にとって有益な行動を、役割外なんだけれども自発的に取りますよと。

ただし、最初は自発的に行っていた行動も、それを何度か繰り返していると、周囲が「その行動をやって当たり前だよね」と認識してしまい、なんだか義務みたいな感じに変わってしまうという現象があります。これを専門的には「ジョブ・クリープ」と呼ぶんですが、この組織市民行動が、ジョブ・クリープになってしまうといったことが1つ、組織市民行動のネガティブな側面として挙げられています。

ジョブ・クリープは、組織市民行動が自発的だからよかったのに、もう自発性がなくなっちゃっているわけですよね。義務になっているわけです。つまり自由が脅かされてしまっているというか、せっかく自由に取っていたのが強制になってしまっているということなんですよね。

人は、自由が脅かされたり奪われることに対して、非常に強い心理的抵抗を感じるんですね。今まで自分が自発的に自由意思に基づいて同僚を助けていたんだけれども、みんなから「あなたの仕事の一部として同僚を助けるということなんですね」と、もう義務的に思われたとしたら。

「いやいや、自由(意思)でやっていたんですけど、その自由を奪うんですか?」と思ってしまって、ストレスが高まったり、「そんなことを当たり前だと思う組織は嫌だな」と、組織に対する態度が悪化してしまったり、あるいは、仕事のパフォーマンスが低下してしまったりする。

さらには、そういったことがきっかけになって、優秀な社員ほど仕事もできるし組織市民行動も取るしということをやっていく中で、あるいはジョブ・クリープにつながっていって、結局離職につながっていってしまうということも明らかになっています。

「善意」が組織への「反発心」に変わっていく

これはなかなか皮肉な結果で、組織市民行動のはじめは善意から始まっているわけですよね。ただしそれが当たり前になっていくと、ある意味で自律性が奪われていくわけです。その結果、組織に対して反発心が高まっていく、なんたる皮肉かという。非常に悲しいエピソードなんですが、実証されています。そういうことが起こってしまう可能性があるということなんですよね。

他にも副作用があります。さっき少しだけ触れたんですが、やはり組織市民行動はリソースが必要なんですよ。多くのリソースが求められると、仕事と家庭の間の葛藤が起こります。そのことによって従業員の心がむしばまれてしまうといったことも実証されています。

これはインドネシアの、特に既婚従業員の研究なんですが、組織市民行動の中でも同僚を助けるといった、いわゆる利他主義的な組織市民行動、支援行動、そして他者に対する援助行動ですよね。

そういったものが実は従業員の情緒的な消耗と相関していることがわかりました。他者を助けるということは大変尊くて、組織にとっても非常に重要な行動なんですが、いかんせんエネルギーを使うので疲れてしまう、消耗してしまうことがわかったんですね。

このメカニズムがまた重要なんですが、組織市民行動そのものが、まずそもそも疲れるという側面ももちろんありつつ、プラスアルファで、組織市民行動を行うことによって時間とか精神的なエネルギーが減っていくわけですね。

そうすると、プライベートでの役割をきちんと果たせなくなってしまって、それが仕事と家庭の葛藤という新しいストレスを生み出していってしまう。その結果、良くないことが起こってしまう。情緒的に疲弊してしまうということが起こってくるわけです。

こうした研究知見を参考にすると、組織市民行動はただひたすら美徳なんだと思って奨励していくだけではなかなか難しそうです。というか、この副作用をなんとかして予防していかないと、せっかく個人にとっても組織にとってもさまざまな良い効果を持っている組織市民行動が、ある意味暴走してしまうといった事態が起きかねないわけですよね。

「ワークライフバランスを犠牲にしてはいけない」と言い続ける

どうしていけばいいのかを考えていきたいんですが、まず組織としてできること。今までの研究知見を踏まえていくと、優秀な従業員ほど組織市民行動を取った時に疲弊しやすいことがあります。ですので、特定の優秀な従業員に組織市民行動の負担が偏らないようにしていくことが1つ重要な観点になってきます。

もう1つが、組織市民行動は、あくまで自発的な行動であって、役割外の行動です。やって当たり前といった風潮を作らないことが非常に重要になってきます。そのために、実際に貢献してくれたら感謝や承認をきちんとしていくことが重要になります。都度きちんと感謝するということですね。

加えて、「ワークライフバランスを犠牲にするほどの強さで、また持続性で組織市民行動を行っていくことはやめましょうね」というメッセージを発信し続ける必要があるということですね。「組織市民行動は重要であるけれども、みなさんのワークライフバランスを犠牲にするものではない」というメッセージは、きちんと発信していく必要があるのかなというところです。

個人としてもできることがあります。自らが持っている善意の行動が組織市民行動に当たるんですが、副作用の研究知見を見ていると、この組織市民行動が自分自身を追い詰めることになっていくケースもあるわけですね。

ですので、時にはやはり断る勇気を持つことも重要になってきます。言ってみれば自分の資源は限られているわけですから、どんなに優秀な人であっても、やはり資源は有限です。やはり自分の限界をきちんと理解した上で無理をしないような、ある種のセルフケアの視点を持っていくことが、持続可能な貢献を実現していくためには重要になってくるということです。

ほんの一瞬だけ貢献するだけだったら別にいいんですが、常に貢献しようとして消耗してしまうと、持続的ではなくなりますよね。その意味ではセルフケアや断る勇気を持つことは、案外重要なことなんですよね。

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