仕事満足度を高める5つのポイント
では、仕事満足度を高めるためのワークデザインの秘訣なんですが、5つあります。

1つ目が、多様なスキルや能力を活かせるような機会を創出することです。これを専門的には「技能多様性」と呼ぶんですが、いわゆる単調な作業に陥ってしまうと、人は仕事満足度が下がるんですよね。
したがって、さまざまなスキルとか能力を活かせるような仕事を提供していくことが重要です。そのためには、例えば配置転換、ローテーション、それから部門横断的なプロジェクトに対して参加を促していくといった施策があるかと思います。
そして2つ目なんですが、仕事の全体像が見えるように配慮していくことも仕事満足度を高めるために有効です。これを専門的には「タスク完結性」と呼びます。やはり全体像が見えないとなかなか満足度が高まらないんですよね。細切れで、一部だけをずっとやっていて、「この仕事って全体としていったい何なのか?」ということがわからないと難しいわけです。
ですので、例えば企画から完成まで一貫して関われるような、ある種まとまった単位で仕事を任せていくことができれば全体がわかるので、達成感や貢献実感が高まって満足度が高まる傾向があります。全体像が見えるように配慮していくのが2つ目でした。
裁量権を積極的に委譲する

3つ目が、仕事の重要性を伝えるということなんですね。自分の仕事が社会や組織に対してどんな貢献をしているのかは、なかなかわからなかったりしますよね。日々忙しい、もしくは目の前の仕事に集中しているとわかりづらかったりします。
ですので、例えば全社会議の場や打ち合わせの場で、事例を共有してみる。あるいはお客さんから感謝の声をもらったのであれば、それを伝えていくことによって、「あなたの仕事は重要性が高いですよ」ということを伝えていく。これを、「タスク重要性」と呼びます。
そして4つ目ですね。裁量権を積極的に委譲することです。例えば目標は共有しつつも仕事の進め方やスケジュール、計画とか、そういったところは従業員に任せていく。それによって主体性が引き出される。これを、「自律性が高い状態」と呼ぶんですが、自律性が高いと、仕事満足度が高まりやすいことがよく知られています。
自分の仕事の結果がわかる「フィードバック」が大事
そして5つ目が、仕事の結果が直接わかるような仕組みを構築することです。すなわち、フィードバックが得られるような仕事の提示の仕方をしていくということです。
例えば、それは上司からの評価という意味でのフィードバックだけではなくて、営業であれば売上のデータが見えるとか、もしくは顧客満足度の指標とかが確認できるとなっていくと、自分の仕事の成果に対するフィードバックが得られる。すると、人は満足して働くことができるわけです。
こうした5つの観点、職務特性モデルに基づく5つのワークデザインを工夫していくと、仕事満足度が高まって、結果的に自発的な貢献行動、すなわち組織市民行動の数が増えることにつながっていき、それが組織活性化につながっていくと言うことができます。
評価は「結果」よりも「プロセス」が公正であることが重要
加えて、この組織市民行動を促していく上では、仕事満足度だけではなくて、リーダー、すなわち上司の存在も実は大きいんですね。上司の存在が大きい中でも、特に重要になってくることとして、「公正さ」が挙げられています。上司が示す公正さが、部下の組織市民行動を引き出す上で大変重要な役割を果たすことが明らかになっています。ただ公正さを示せばすぐに(部下が)組織市民行動を取るかというとそういうわけではなくて、実は間接的な影響になっているんですね。
そのことを明らかにした研究を紹介させていただきたいんですが、リーダーが公正であると、そのリーダーに対して信頼をするんですよね。そしてその信頼があるからこそ組織市民行動を取ることが明らかになりました。
公正なリーダーがいて、そういうリーダーは信頼される。その結果、自分の役割を超えた、自発的な、組織にとって有益な行動、組織市民行動を取り始めるという流れが明らかになってきました。
特に興味深いのが、公正さの中身なんですよね。公正さというと、例えば報酬とか評価が公正であると考えがちですよね。これを分配的公正、つまり分配された結果が公正であるということとしてわりと捉えやすいんですが。実は意思決定のプロセスや手続きが公正であるという手続き的な公正のほうが、上司に対する信頼を高めて、組織市民行動を促すことがわかりました。
結果が公正じゃなくてもプロセスが公正であることが重要なんですね。これはなぜなのかということなんですが、やはり結果はすべてが本人にとって満足のいくかたちで出せるわけではないですよね。例えば評価の結果であったり、結果が不本意であることは考えられますよね。
「上司への信頼感」が鍵になる
ただ、その決定のプロセスにちゃんと透明性があって納得感がある。場合によっては自分の意見がきちんと考慮されたことが感じられるようなプロセスになっていれば、きちんと上司を信頼することにつながっていくわけです。確かに結果については不本意だけれども、その結果を導き出していくためのプロセスはきちんと公正だったと思えると、相手のことを、上司のことを信頼しやすくなります。
上司がちゃんと公正な行動を取ってくれた。そしてその上司を信頼できるという信頼関係があると、「この上司に対して恩返ししたい」という気持ちにつながっていって、見返りを求めずに自発的な貢献行動を取るようになることがわかりました。
要するに、この上司への信頼が非常に大事になりそうだと。公正感があって、上司の信頼が高まり、その上で組織市民行動が高まっていくということなんですが、この上司に対する信頼というものをより掘り下げてみたいと思います。
掘り下げる上で有効になってくる考え方が、「LMX(Leader-Member Exchange)」と呼ばれるものです。これはリーダーとメンバーの交換関係、すなわち上司と部下の関係の質ですね。上司・部下関係の質のことを指します。このLMXなんですが、お互いの信頼や尊敬、相互の責任感といった非常に幅広い意味を持っているんですが、要するに上司と部下の関係の質がいいということです。
このLMXの質と組織市民行動の間には、正の関係があることがわかりました。さっきの結果と一貫していますよね。上司と良質な関係を築いていると、部下は組織市民行動を取ることがわかりました。
上司・部下の関係の質を高めるメリット
その時に取られる組織市民行動の中身を少し掘り下げてみると、個人に向けられた組織市民行動、ここでは個人指向型と書いているんですが、冒頭の説明にひもづけると、利他主義的な組織市民行動。すなわち個人に向けられた組織市民行動。例えば困っている同僚を助けるなどの行動が特に促されることがわかりました。
これがなぜなのかということは気になるんですが、上司・部下関係の質が高いというのは、個人間の話なんですよね。個人間の関係が良いということなので、そのお礼……つまり社会的交換理論があったと思うんですが、そのお礼をする相手もやはり個人になるんですよね。
個人間の関係で自分はきちんとよくしてもらっているから、他の個人に対してもちゃんと報いようと思って組織市民行動を取るようになります。その結果、例えば身近な同僚に対して援助を行うといったかたちで、より個人に対して直接的に組織市民行動を取ることがわかってきたわけですね。
その意味では、今までのところをまとめると、公正な手続きはまず担保していきたいところなんですが。ただやはり、部下一人ひとりとの人間的な信頼関係を作っていくことが実は組織市民行動を促していく上で大事になってきますよとまとめることができます。