【3行要約】・働きがいや生産性向上が注目されるなか、組織課題は根本原因が見えにくく、対策が後手に回るケースが多発しています。
・髙桑由樹氏は、組織課題は「事業構造・組織体制」「働きやすさ」「働きがい」「空気・文化」の四象限が相互影響すると分析。
・企業は特定領域だけでなく四象限すべてにバランス良く対策を講じ、根本的な組織改善を目指すべきと指摘します。
前回の記事はこちら 3社事例で見る、企業に多い「四象限」の課題と対策
髙桑由樹氏:ここからは、実際にご参加いただいた企業の組織課題を見ていきましょう。今回は代表して3社をピックアップしました。
まずは商社業のA社さまです。こちらは参加者のみなさんに事前に書いていただいた内容を、先ほどの四象限に整理したものです。

右下の「空気・文化」から見ていきます。A社さまは穏やかな社風が特徴で、業歴が長く、昔から変えていないことが多くあります。一方で、変化することに対して躊躇する文化が根づいているという指摘がありました。
次に「働きがい」です。一見、穏やかで良い環境に見えるのですが、実際にはモチベーションが低下しており、働きがいを求める人材ほど退職してしまう傾向が見られます。「働きやすさ」の面では、がんばりや成果が評価にまったく反映されていないという声がありました。
そして、セミナー中の議論を通じて右上の「事業構造・組織体制」についても深掘りが進みました。ここで浮かび上がったのは、年功序列による人材登用の問題です。勤務年数が重視され、成果や努力が報われにくい構造になっているため、働きがいの低下につながっていると考えられます。
また、ジョブローテーションが少なく、仕事の属人化が進んでいる点も課題として挙げられました。その結果、他の社員が仕事内容を把握できず、適切な評価を行うことが難しくなっています。さらに、仕事内容が長年変わらないため、新しいことに挑戦しようとしても変化に対して躊躇してしまう傾向もあります。
加えて、この会社では既存顧客からのリピート受注が多いという特徴がありました。新規顧客の開拓機会が少ないことで、結果的に変化への抵抗感が強まっているという分析も出ていました。
対策も四象限をバランス良く講じる
では、ここから対策に入ります。まず左上の「働きやすさ」です。成果やがんばりが評価に反映されなければモチベーションは上がりません。やった人が報われ、やっていない人は評価されないという、いわゆる信賞必罰の運用を徹底する必要があります。
次に右上の「事業構造・組織体制」です。ジョブローテーションがなく、年功で同じ仕事を任せ続けている状況がありました。本来は力量と意欲のある人に、より責任と可能性の大きい仕事を担ってもらうことが、組織全体の利益の最大化につながります。
そのために、各業務の難易度・要件・必要スキルを明文化し、年次に関係なくアサインできるようジョブディスクリプションを明確化するという打ち手が挙がりました。
右下の「空気・文化」については、変えることに慣れていない状況が背景にあります。新規性のある業務目標・業績目標をあえて設定し、意図的に「新しいこと」に触れる頻度を高めていく。小さな成功体験を積ませ、変化への抵抗感を和らげる設計が必要だという指摘でした。
最後に左下の「働きがい」です。働きがいを求める人材が外に流出しないよう、社内で報われる道筋を見せることが重要です。どのような努力や成果が次の役割につながるのかを示すキャリアパスを設計し、成長の見取り図を提示する。ここまでがA社で挙がった主な対策です。
あらためて見ると、特定の1つの象限だけに手を打つのではなく、課題は四象限にまたがって連動しています。対策も四象限をバランス良く講じることが大切です。加えて、当初は問題視されていなかった右上の領域も、深掘りすると要因が見つかり、打ち手が具体化しました。最初に「問題はない」と見えている象限であっても、丁寧に掘り下げる姿勢が重要だと言えます。
「がんばるのが馬鹿馬鹿しい」という空気を生む上司の態度
では、ここからはB社の事例です。設計業を営まれている会社で、最初に記入いただいた内容を見ると、下半分の内面に関する項目が中心でした。

外面については「すでに整備されているので問題は少ない」とのことで、内面的な部分に課題感を持たれていました。
まず右下の「空気・文化」では、上司の発信が部下に伝わらない、ルールが守られないといった問題が挙がりました。また、上司の迎合的な態度が部下の不満を高めているという声もありました。
次に左下の「働きがい」です。モチベーションが下がっており、勤務中にスマホを触る社員が見られるという話がありました。この2つの象限を並べて見ると、一見すると社員の性格やスタンスの問題のようにも思えますが、実際にはその行動を生む背景や構造に原因がある可能性があります。
議論を深めていくと、「がんばってもがんばらなくても自分には影響がない」と感じる社員が多いのではないかという仮説が出てきました。さらに掘り下げると、力量や成果の違いが評価に反映されない制度的な問題があることが見えてきました。
右上の「事業構造・組織体制」では、社員が自己完結的に仕事を進めるスタイルで、同僚との連携が少ないという指摘がありました。この自己完結型の働き方が、他者や組織全体への関心を薄れさせていること、また評価の比較が難しくなることで努力が正当に見えにくくなっていることがわかりました。
つまり、働きやすさと組織体制が密接に結びついており、「がんばっても意味がない」という心理につながっている構造です。その中で、上司が迎合的な態度を取ると、ますます「がんばるのが馬鹿馬鹿しい」という空気が強まり、組織全体のモチベーション低下につながるという流れが浮かび上がりました。
課題も打ち手も4象限に現れる
ここからは打ち手です。まず右上ですが、自己完結型の業務を改め、チームで成果を出すオペレーションへ移行する方針が挙がりました。働きやすさでは、最終成果だけでなく、個人の力量やスタンス、プロセスも測定できる評価指標を整えるべきだという意見が出ました。
働きがいの面では、チーム単位での進捗確認会議を設け、成果もプロセスもチームで見にいく運用に変えていく、という提案です。
空気・文化については、迎合を抑えることが課題です。部下から「できません」と言われた時に押し切られてしまう管理職が少なくないため、切り返しの言い回しを増やすなど、コミュニケーションのバリエーションを広げる研修を入れる案が出ました。
この会社でも、当初は内面の課題が中心でしたが、議論を深めると外面の構造要因が裏にあり、最終的には四象限すべてに打ち手を置く必要がある、という結論に至りました。
“給料だけもらえればいい”“がんばるだけ損”が職場に広がる理由
では最後に、販売業のC社です。

右下の空気・文化では、周囲の目を気にして発信しづらい雰囲気があること、役割分担が性別で固定化されがちだという指摘がありました。
左下の働きがいでは、モチベーションが上がらず、「お金さえもらえればいい」「がんばるだけ損」という空気がある、とのことでした。働きやすさでは、地域同業他社と比べて賃金水準が低い、若手が育っていない、若手の退職が散見される、といった状況が共有されました。
ここからさらに深掘りすると、事業構造にも要因が見えてきます。
既存顧客からのリピート受注が多く、受注額の大きい顧客を担当できるかどうかが個人の成果に直結している。結果として、誰をどの顧客にアサインするかで評価が決まりやすい。重要案件は年長者が持ち続け、若手には重要度の低い仕事が固定的に回るため、経験が積みにくく、育成が進まない。自分のがんばりが成果や評価に結びつきにくい構造が、若手の退職やモチベーション低下に波及している、という見立てです。
また、事業構造や体制の変化が少ないため、新しい提案をしても周囲から冷ややかな反応が返りやすく、発信しづらい文化が強化される。「男はこれ」「女はこれ」といった役割の性別固定も、その「変わらなさ」を支える要素として作用しているように見えます。
働きがいのところでは、「できていない誰か」と比較して自分の優位性を測ろうとする傾向がありました。本来は目標に対して達成したかどうかで、自分がどれだけ貢献できたかを測るべきですが、自分より悪い人がいるかどうかで「良かった、自分は大丈夫」と捉えてしまうという指摘が出ました。
組織課題は四象限が連動する
ここからは打ち手の話に移ります。対策としては、年功でマネジメントするのではなく、業績評価へ切り替え、がんばった人が日の目を見る仕組みにすることが必要です。
右上の領域では、業績管理の単位を個人からチームに変更する案が挙がりました。担当企業の大小が評価の公平性を損なうため、クライアントの規模差を束ねてチームで見るようにすると、一定の公平性が保たれるという考え方です。
発信しづらい雰囲気や、男女で役割を当てがちになる点、セクショナリズムについては、部門横断の対話機会を増やすことが有効です。
左上の働きやすさについては、年功評価から業績評価に切り替えるだけでは「がんばれば報われる」ルールは示せても、実際の動き方がイメージしにくい人が多いという課題があります。そこで、各等級に応じた成長課題を階段状に設計し、それを乗り越えるための個別の成長支援を行うことが必要だと整理しました。左下の働きがいの領域に位置づけられる打ち手です。
C社についても、四象限にバランス良く打ち手が配置されていたのが印象的でした。ここまでが、3社それぞれの組織課題の検討と打ち手の整理です。
最後にまとめです。これまでの打ち手案を通じて見えてきたのは、組織課題は4つの象限が複雑に影響し合って生まれるという点です。

したがって解決策も、いずれか1つに偏らず、すべての象限で講じ、バランスを取って置いていく必要があります。こうした取り組みによって、管理職の空回りは減っていきます。
この四象限の見方は会社単位でも部署単位でも使えます。組織規模にかかわらず、課題を捉える視点は同じです。ぜひ各社で活用してみてください。以上でセミナーを終わります。ありがとうございました。