【3行要約】・組織課題の解決策を打っても効果が出ない……多くの企業が表面的な問題にとらわれ、本質的な課題を見逃しています。
・髙桑由樹氏は、組織の異変は外面から現れやすいが、根本原因は内面にあることが多いと指摘。
・四象限マトリクスで「部分と全体」「内面と外面」を整理し、多面的な視点で真の課題を捉えることが重要です。
前回の記事はこちら 自社の本当の課題を整理する四象限マトリクス
髙桑由樹氏:では、ここからは組織課題を適切に捉えるための見方を共有します。多面的に見るための道具として、マトリクスを1つ紹介します。
先ほどからお伝えしている「部分と全体」「内面と外面」の2軸を、そのまま縦横に配置します。縦軸は外面か内面か、横軸は組織の話なので「個人」と「組織」に置き換えます。4つに切って眺めると、社内で起きている事象が整理され、打ち手の見当がつきやすくなります。
左下は「個人×内面」です。ここには働きがいのような、個人の内側で生じている感情や動機づけが入ります。次にそのまま上へ移ると「個人×外面」です。上司から見えてくる部下のふるまいや状態、そして働きやすさを支える制度や運用といった、外から観察可能な要素が該当します。
右上は「組織×外面」。事業構造やビジネスモデル、組織体制など、会社の“形”そのものです。右下は「組織×内面」。会社に流れる空気や文化、チームで共有されている価値観のように、目に見えにくい領域がここに入ります。
このマトリクスを使うことで、組織課題を4つの観点から整理して捉えられます。実際の使い方は大きく2つあります。
まず1つ目。縦軸の「外面と内面」に注目してみましょう。

人間の目は外向きについているので、自分の内面よりも他者や組織の外側にある現象のほうが捉えやすい。したがって、組織の異変は外面、つまり目に見える要素から明らかになりやすいんです。
例えば、退職を考えている若手社員が増えているとします。どうやら評価制度に不満を持っているらしい。そこで「じゃあ評価制度を変えよう」と短絡的に結論づけてしまうケースがよくあります。しかし、本当に見るべきはその「内面」です。なぜ不満を持っているのかを掘り下げる必要があります。
若手がキャリアに不安を感じているという可能性もあります。例えば、40~50代のいわゆる“働かないおじさん”が多い職場だと、「自分もいずれああなるのか」と将来像に失望し、「そうならないためにはどうすればいいか」と考えた結果、評価制度に関心が向くことがあります。つまり、給与や制度の問題というより、将来への不安が根底にあるわけです。
したがって、外側の見える現象だけを見て対処するのではなく、内面にも目を向ける必要があります。
課題解決策だと思った打ち手が機能しない理由
もう1つ例を挙げます。

組織全体の話に移ると、右上の「事業構造・組織体制」で売上が大きく落ちているケースを考えてみましょう。原因を「業務プロセスが非効率だからだ」と捉え、すぐにプロセス改善に着手することがありますが、これも多面的に見る必要があります。
なぜ非効率なのかを掘り下げてみると、実は部門間の対立や連携不足が背景にあり、人間関係の問題で協力体制が機能していないケースもあります。その場合、本当の打ち手はプロセス刷新ではなく、部門間の対話を促すことです。
このように、外面の問題の背後には内面の要因が潜んでいることが多い。したがって、外だけでなく中も見るという多面的な視点が欠かせません。
続いて、もう1つの見方を紹介します。今度は右下の「空気」や「文化」といった部分に焦点を当ててみましょう。
例えば、クレームが頻発している組織があるとします。こうした現象は、組織の文化やカルチャーがそのまま問題として表面化しているケースが多いものです。そこで「やっぱりうちは組織が緩いからだ」「オペレーションを見直さなきゃ」といった発想になりがちです。
確かに、組織のオペレーションや人員配置に偏りがあるなら、それを整える必要があります。ただし、そこだけに目を向けるのではなく、もう少し広い視点で見ることも重要です。
このクレームの多発が、組織の構造だけでなく、個人の状態に起因している可能性もあるからです。例えば、社内のリーダーシップスタイルが極端にトップダウンで、部下が萎縮してしまっているケース。問題が起きても上司に報告できず、そのまま放置されてクレームに発展するといった状況はよくあります。
また、「働きやすさ」という観点にも課題があるかもしれません。例えば個人の役割が不明確で、野球で言えばポテンヒットのように、誰もその事象に対応しないまま顧客から叱責を受ける、といったことも起こりえます。
ここで伝えたいのは、「組織の問題だから組織の解決策だけを打てばいい」という単純な話ではないということです。組織の課題には、個人の心理や行動といった要素が影響している可能性もあり、対策を講じる際には個人側にも目を向ける必要があります。
このように四象限を縦にも横にも行き来しながら、「どんな要因が関係しているのか」を多面的に探っていくことで、組織課題の全体像を正確に捉えることができます。これが、組織課題マトリクスを活用する際の基本的な考え方です。
課題だけでなく対策も四象限に置いて考える
では、最後のチャプターに入ります。テーマは「『新たな策』より『足元の問題』に注目する」です。なぜこのような題にしているかというと、多くの組織で新しい施策が次々と打ち出されるものの、その多くが流行や表層的な打ち手に偏っていると感じるからです。
本当に大切なのは、新しい策を追うことではなく、「いま自分たちの組織で何が起こっているのか」という足元の問題を正しく見つめ、その現実に根ざした施策を打つことだと考えています。実際に、ここからはご参加いただいている企業のみなさんの組織課題を見ていきたいと思います。
あらためて、先ほど紹介した「組織課題マトリクス」を使いながら考えていきます。

この資料は参考用に分類したもので、四象限のそれぞれに「どのような問題が当てはまりやすいか」をまとめています。これを見ながら「自社ではどんな課題があるのか」を考えていくと、全体像が整理しやすいはずです。
象限別に見る対策例
組織課題がある場合、対策も同じく四象限に置いて考える必要があります。

課題と対策は表裏の関係にあるので、ここからは各象限における打ち手の概要を順に説明していきます。
まず右上の「事業構造・組織体制」です。ここでは、意思決定プロセスの見直しや、システム導入による効率化、人員配置の最適化、業務や教育環境の最適化などが該当します。また、戦略と現場をつなぐKPIや目標の再設定など、組織のオペレーション全体を見直す施策もこの領域に含まれます。
続いて右下の「空気・文化」です。ここは、組織を横断した対話やセクショナリズムの解消が重要になります。「空気を変えられない」「閉塞的だ」といった状態がある場合、個人が意見を言いづらくなるため、リーダーシップを高める研修を実施することが効果的です。
また、チーム内の風通しを良くするためのチームコーチングの導入、あるいは「人から意見をもらうのは恥ずかしいことではなく当たり前のこと」とするためのフィードバック文化の醸成も、この領域の施策にあたります。
次に左下の「働きがい」です。ここは個人に関する領域であり、個々の成長や意欲を支えるための打ち手が中心です。具体的には、個別の育成支援やセルフマネジメントの促進、キャリア開発やキャリア面談の実施などが挙げられます。
さらに、業務に必要なスキルや専門性のトレーニングも欠かせません。スキルが不足していると自信を失い、自己肯定感や自己効力感が下がってしまうためです。その基盤を整える意味でも、スキルトレーニングを通じて「できることを増やす」ことが重要になります。
加えて、ソフトスキルのトレーニングも有効です。これはコミュニケーション力やリーダーシップ、人との連携力を高めるもので、チームで成果を出すための土台づくりに役立ちます。
続いて左上の「働きやすさ」です。ここは勤務条件に近い領域で、働き方改革や労働時間の見直し、報酬や福利厚生の改善、評価制度の透明化、キャリアパスの設計、業務設計、役割定義の明確化、そして負荷の適正な分散などが該当します。
これらを参考資料として見ながら、各社がまずどこから手をつけるべきかを考えていきたいと思います。大切なのは「足元の問題」をしっかり見据えることです。新しい打ち手を考える前に、まずは自社で何が起こっているのかを丁寧に捉える必要があります。