【3行要約】
・心理的安全性を高めようとして「ぬるま湯組織」になってしまうという、本末転倒の状況がビジネス現場で起きています。
・ハラスメントを恐れて必要な発言を控えたり、配慮しすぎて言うべきことを言えない状況が増えていると宮木俊明氏は指摘。
・リーダーや人事担当者は、心理的安全性の本質を理解し、言うべきことを言い合える関係性の構築に取り組むべきです。
「まだリーダーになりたくない人」へ
島津愛氏(以下、島津):それでは時間になりました。本日もラジオ風ウェビナーを始めてまいりたいと思います。今日も宮木さんと島津でお送りいたします。どうぞよろしくお願いいたします。
宮木俊明氏(以下、宮木):よろしくお願いします。
島津:このウェビナーは、お昼の30分間で、リーダーシップについてのTipsを毎回1テーマずつ対談形式でお送りしている番組です。「まだリーダーになりたくない人向け」という、ちょっと変わったタイトルにしているんですが。
リーダーシップに悩んでいる方、もしくは、もうそろそろリーダーにならなきゃいけないんだけれども、ちょっと足踏みしているような方。またはそういったリーダーのみなさんを支援されている人事や企業の経営者の方々などに向けて、リーダーになりたい人が1人でも増えるようにという思いで配信させていただいております。
では、毎回のことではございますが、今日も自己紹介から始めていこうと思います。私からいきます。クロス・コンサルティングの島津と申します。ふだんは主に中小企業を中心とした企業さまに向けて、採用や営業の組織強化ということで、人材育成や経営のご支援をさせていただいております。
私自身もリーダーシップを発揮しなければいけない場面はいろいろありまして、お客さまの経営者に向けてのお話もそうですし、企業の中で自分の部下とか後輩に対してリーダーシップを発揮するような場面もあります。
外に対して支援する視点と、自身が発揮する視点で、日々私自身もいろんな悩みを抱えていますので、現場のお話などももとに、みなさんとお話ししていけたらと思っております。よろしくお願いいたします。
心理的安全性を高めようとして「ぬるま湯」組織に…
宮木:じゃあ、私ですね。よろしくお願いします。私はグロースワークスという会社の代表をしております。(設立してから)5年ぐらい経つんですけれども、企業のリーダーシップ開発とか、人材開発とか、特に新規事業開発やイノベーションという文脈で、そういったことをお伝えするコンサルティングを提供したり、研修やファシリテーションを提供したりしております。
一方で、大企業の中間管理職という立場もありまして、複業でいろんなことをやっているタイプの人間です。なので外部から支援する立場と、自らが実践する立場と、いろんな立場でのリーダーシップについて、今日はみなさんとお話ができたらなと思っております。今日もよろしくお願いいたします。
島津:よろしくお願いいたします。それではさっそく今日のテーマに入っていこうと思うんですけれども、今日は「リーダーが育たないのは“心理的安全性”の副作用?」ですね(笑)。
宮木:(笑)。
島津:サブタイトルとして、「『安心感』を『挑戦力』に変えるリーダー育成の実践ロジック」ということで、ちょっとタイトルが長いんですけど(笑)。
今流行りの心理的安全性に関してよくあるのが、心理的安全性と言いながらぬるま湯組織みたいになってしまって、なかなかチャレンジとか挑戦とかブレイクスルーみたいなことが起きにくくなってしまうみたいな。そんな罠にはまらないためのポイントはあるんですか? というようなお話なのかなと思っております。
宮木:なるほど。心理的安全性は、これまでのウェビナーでも何回も出てきているキーワードです。世間的にも、(心理的安全性は)すごく大事だよねという一方で、心理的安全性に配慮しなきゃいけないから、言いたいことを言えなくなってしまったとか、厳しくできなくなってしまったみたいな文脈で語られることもあると思います。
「ハラスメント扱いされるぐらいだったら黙っておこう」という本音
島津:ここ2、3年で、心理的安全性はすごく言われるようになりましたよね。
宮木:そうですね。ダイバーシティ&インクルージョンとかもね。これで言うと、いろんな方がいらっしゃるということの多様性への配慮みたいなことも必要だよねと。ややもするとハラスメントになりかねないですねという、コンプライアンス意識の高まりみたいなところと、いろんな文脈がちょっとない交ぜになって、お互いに言いたいことを言えなくなってしまっている。
配慮しなきゃいけないことにまだ慣れていないから適切な言葉が見つからずに、「ハラスメント扱いされるぐらいだったら黙っておこうか」とか(笑)。「飲み会に行くのはなるべくやめよう」みたいな意見というかスタンスも見受けられるのは、私も実際に聞くことがありますね。
島津:そうですね。いろいろな多様性という背景がある中で、一人ひとりがその場で必要なことを言えるような、自分らしく振る舞えるような場を作るために必要だ、なんて言われている概念ですよね。
最近だと私も支援先の会社で、ちょっと人間関係のいざこざが起きた方々がいて、その方々が一様に両者とも、「心理的安全性が脅かされています」と言うんですね(笑)。「この人がいなくならないと、私の心理的安全性が脅かされます」みたいな話がありました。そういう時に出てくるのは何なんでしょうね? 自分が危険を感じるとか、何かするたびに否定されるとか、そういうことなのかなとは思いますけど。
そういうことじゃなくても、例えば会議とかプロジェクトの意見出しみたいなところで、無能だと思われたくないみたいな気持ちや、自分が言っていることが否定的だと捉えられたくないとか。非協力的だと思われたくないから、ちょっと気になっていることがあるんだけど言えないとか。それも心理的安全性の中の1つかなと思いますけどね。
実は「ぬるま湯」組織は心理的安全性が低い
宮木:やはり批判的な人や批評的な人がいた時に、おいそれと発言すると何か言われてしまう。だから言いたいことが言えないという状況は、けっこういろんな場面であるのかなと思います。とはいえ、「直ちに心理的安全性を脅かしているのか?」ということですよね。
島津:そうですね。例えば何か自分が言ったことに対して「それは違うんじゃない?」とか言われたとしても、それが直ちに心理的安全性を脅かされていると本当に言えるのかという、そもそもの受け取り(方)とか解釈の問題はありそうですね。
宮木:お互いに配慮することは必要なんですけれども、心理的安全性が高まっている状態は言いたいことが言えないかというと、実はこれはぜんぜん逆なんですよね。
島津:「逆」というと?
宮木:仮にお互いに業務上必要な範囲で言いたいことを言い合ったとしても、人間関係が毀損される恐れがない状態が心理的安全性なんですよね。
島津:おっしゃるとおりですね。学術的に定義されているもので言うと、そういうことになりますよね。
宮木:実は、ぬるま湯組織みたいなところとか、お互いに厳しいことや言いたいことを言わずに見過ごし合っているみたいな状態は心理的安全性が低いんですよ。
だから、そのあたりを理解すると、心理的安全性を高めなきゃいけないから言いたいことを言えない、ではなくて、高めるためにも言いたいことを言い合えるようにしていかなきゃいけないということなんですよね。
「成功の循環モデル」を回すには
島津:そうですね。仕事の場面で考えるならば、言いたいこともとても大事なんですけど、その場にとって必要な言うべきことというか。
例えばプロジェクトのゴールとか、自分たちが目指しているビジョンがある中で、これはやはり言う必要があるだろうということを言うのと、言いたいことをただ言うのとは区別が必要かなということが1つ。
宮木:そうですね。
島津:あとは、これはけっこう最近はよく出てくるのでみなさんご存じの方も多いと思うんですけど。MITのダニエル・キムさんが提唱している、プロジェクトとか仕事がうまくいく組織は、一定の循環で回っているんだよという「成功の循環モデル」。
最初に関係の質が高いところから始まって、関係の質が高いから思考の質が高まっていって、思考の質が高まっていくから行動も高まっていって、行動の質が高まるから結果も出るよねという。この循環が回っているところの最初のスタートが、関係性の質だという話があります。
そこは今の話でも共通する話かなと思うんですよね。何か物事を目指している中で言いたいことも言うし、言うべきこともきちんと言える、それでも関係性が毀損されない状態。こうなると、なんでも言い合えて思考が広がっていくのかなと思いますよね。
宮木:いや、本当にそうですよね。言いたいことと言うと、なんか「嫌いだ!」とか(笑)。
島津:そうそう(笑)。ちょっとそっちのプライベート寄りになってしまう。
宮木:(自分の)好みを表明するみたいな。「いや、それは今この業務上に必要ですか?」ということと、「お互いの信頼関係を醸成するのに役に立ちますか?」ということなんですよね(笑)。
だからそういうことではないんですが。じゃあ「これ、言うべきだよな」と思った時に、それを単刀直入に言うのが本当に効果的なのか。場面をちょっと変えて言うとか、文脈を変えて言うとか、いたずらに相手を傷つけないような言い方をする配慮もまた必要なことなのかなと思います。なんでもかんでも単刀直入に言い合うことだけが重要ではないと思いますね。
島津:そうですね。