「理解させる」は対話ではない
山中:この間、ある会社の役員の人と話していたんですけど「いや、対話が大事だよね、対話をしながらやっぱり理解させないといけないね」って(言っていました)。
(一同笑)
山中:「それは対話じゃねえな~」と思いながら……。
高橋:そうだよね。役員研修や次世代経営者研修がだいぶ増えてきている感じなので、そういうところで向きあうってなんだろうとか、対話するってなんだろうということを、根本からもう1回きちんとやりましょうよと思うんですよね。
立ち位置が違うから最初は違うんですよ。どうやってわからせるかとか理解させるかとか、一体感をどう引き出すかとか、そういう言葉を使っている。
同じ目線に立って対話をしていくことでいろいろな発見をもらえて「社員のほうがよく考えてんじゃん」とか「若い人はこんな思い持ってんじゃん」となって、それが楽しくなるみたいな、そういう実感値がないと対話のスタンスも変わらない気がしているんですよね。
若手と上の人たちが一緒になってやる研修をいろいろな会社で実施していますが、やっぱり世代や性別、役職や立場、国籍とか、違う人が一緒にやるからこそ見えてくる世界があるので、そういうことを意図的に作っていたほうがいいんじゃないかと思っています。
あ、これはいいかなという中で、これから僕らは何をやっていったらいいんだろうかということなんですけど。僕らの中でずっと議論をしていたことなので、ちょっとそれを簡単に説明して、それぞれがどんな思いかをお話ししたいと思います。
やっぱりこういう分断みたいなものを超えていくための取り組みってあると思っています。
分断を越える3つのアプローチ
高橋:1つめとして、人と人との分断を越えていくといった時に、違いがあることがむしろ楽しいんだ。あるいは違いがあることが自分たちの未来や可能性をすごく広げてくれるんだとか、そういうことを実感できるような取り組みが必要なんじゃないかと。
その時に本音を言えるという対話づくりですね。それと本質を探究すること。この2つがすごく鍵になってくるという話をしています。
その上で、仕事と人の分断があって、「仕事は目の前の仕事をやればいいんです」とか「仕事に思いを持つとかキャリアと言われても」というものがあると思います。
その仕事を自分に引き寄せてみたり、自分自身が仕事を通じていろいろな発見をすることで、自分の生き方そのものが変わっていく。そういうことができることで、仕事に対する意味ややりがいが変わってくるんじゃないかなと(思います)。
そういうことをちょっと真剣にやる必要がある。その時には外への旅をしないといけない。狭い中でしか今は見えていなくて、その中でキャリア、キャリアと言っても答えは出てこない。みんなが社会やいろいろな課題に触れてみることが必要じゃない? という話をしています。
その上でのマネジメント。さっき言ったように、そうは言っても統合的なマネジメントというか、方針を決めて、そこに対してPDCAサイクルをしっかり回して、きちんと成果を出していくだけで良いのか。
先が見えている世界では統合も大事なんだけど、不透明な未来へ向かっている世界では、本当の意味でいろいろな人たちの力を重ね合わせながら、いろいろなものを発見して修正して、どんどんどんどん違うものに変えていくみたいな、そういう新しい重ね合いを基軸にしたマネジメントをみんなで作っていく必要があるんじゃないか。
この3つがすごく大事じゃないかと話をしているんですね。
最後、そこがうまくできたら、今度は社会との分断を越えていって社会の課題を企業の中に引き寄せていく。その中で社会全体を自分たちで作っていく存在にもう1回なろうということで。そういう人と組織と社会をつないで大きなうねりを起こしてくる、そんな経営革新が必要じゃないかと言っています。
一人ひとりの“心のマネジメント力”を底上げする
高橋:そんなことをちょっと前提に置きつつ、あらためてどんなことをやっていく必要があるんでしょうねと言われたら、どう答えますか。青木さん。
青木:目が合っちゃった(笑)。
(一同笑)
高橋:いいじゃん!(笑)。
青木:私が人と仕事の分断のところで、こういうことが必要なんじゃないかなって思っていることがあって。思いとかキャリアとか見出す、重ね合わせるためには、やはりその一人ひとりが自分と向きあって自分を知っていくことがスタートになってくるのかなと思っているんですね。
でも今、マネージャーが、そのメンバーのモチベーションとか思いを引き出す役割、責任を負わされているような気もしているんですね。でも、それはキャパオーバーだなと思っています。なので、一人ひとりがそれをきちんとできるようになっていく必要があると思うんですね。
これはちょっとの知識とちょっとの練習でかなりボトムアップができると思っているので、そこを日本全体でやっていきたいなと思っています。そうすることで、今の暗めの現状を改善できるんじゃないかなと思っています。
高橋:心のマネジメント力を上げたいみたいな。
青木:あぁ、まさにそうです。
高橋:一人ひとりのね。
青木:一人ひとりの、ですね。
高橋:山中さん。
山中:あらためてポイントを見た時に、自分が書いた本ってどこに当てはまるんだろうと考えると、マネージャーとメンバーとの関係性という意味では左下かもしれないし、メンバー自身が自分の仕事とか将来の意味を見出して前向きになっていくという意味では2つめかもしれません。
やっぱりメンバーだけ変えるという話ではなくて、このプロセスの中でマネージャーも実際に成長して変わっていくことをすごく大事にしているんです。なんで、ここは3つめかもしれないなと思って、いろいろ当てはまるなと思って見ていました。だからこれはこれで、みんな広げていきたい。
ESは“結果”にすぎない
山中:もう1個、ここに書いていないことしゃべってもいいですか。
青木:もちろん。
山中:今やっていておもしろいなと思っているプロジェクトがあるんです。最近、エンゲージメントサーベイをやっていて、ES(従業員満足度)を高めたいとご相談いただくことがすごく多いんです。
そこの会社には「ESは結果なんです。ESを上げると言うのはやめましょう」という言い方をしています。その代わり、その部門の長の人たちに集まっていただいて、「そもそもどういう組織になったらみなさん幸せなんですか」と聞く。
事業ビジョンと組織ビジョンの両方が必要だと話をしつつ「組織ビジョンが曖昧になっていませんか」と言って、その部門長のみなさんが自分の組織感を見つめ直すだけじゃなくて、自分のところの課長と対話をしたり、メンバーと対話をしたりして、組織に触れながら、組織感を問い直しながら、一緒になって自分たちの組織像を作っていくというプロジェクトをやっています。
自然とみんなが自分たちの組織のことを考えるようになって、エンゲージメントが高まっているのを見る中で、世の中、エンゲージメントに囚われすぎている感じがあるので。「そもそも、いい会社にするってなんだろう」みたいな、本当に本質に戻って対話できたらすごくおもしろいんだろうなと思っていますね。
つながりの実感を設計するコミュニティシップの要諦
高橋:うんうん、なるほど。僕も今の話を聞きながら、やはりエンゲージメントはあくまで入り口だと思いました。そこから本当にいい関係性が生まれて、いい動きが生まれる。
そのエンゲージメントって、つながりを実感できるということなので、つながりを実感できる機会が重要です。仕事でつながっていない先輩ばかりが周りにいたらね、やはりつながりは持てないですね。そういう意味でのつながりを実感できるような、仕掛けや取り組みが必要だろうなと思います。
それがきちんと広がってくると「ここにいる人たちいいじゃん」とか「ここにある仕事っていいじゃん」とか「この場所ってすごくいいじゃん」と思えるようになる。それを、僕たちはコミュニティシップと言っています。
もともとヘンリー・ミンツバーグが使っている言葉で、いい愛着が生まれて、その場所にすごく思い入れが生まれると、その場所を一緒に作りたいとか、一緒に育てていきたいとか、一緒に変えていきたいという、気持ちが生まれてくる。
そういう気持ちが生まれている場所からは、自然とリーダーシップが生まれます。今、リーダーシップ教育だけが独立しちゃってて、そういう人を作らなければいけないというふうになっています。
コミュニティが先、リーダーシップは後から生まれる
高橋:だけど僕は、コミュニティシップがないところでリーダーシップは生まれないと思うんです。本当にこの場所を良くしたいとか、この場所を育てていきたいと思うからこそ、周りと一緒にこれをがんばりたい、周りの力を引き出したいと思うはずです。
だからコミュニティが前提にあってリーダーシップが生まれるのと、リーダーシップだけあってコミュニティがない組織ではまったく違うものになっている。今起きていることはそこなんじゃないか。コミュニティシップが欠如して、リーダーシップだけを追求しようとしてるから、今こんなことが起きちゃっているんだと思うんです。
やっぱり自然の体系と一緒で、人と組織・社会にもいい流れが必要です。いい森があって、そこに豊かな人たちがたくさんいて、そこから染み出していく川がリーダーシップ。それを統合していったり、違うかたちできれいな流れに変えているのがマネジメント。そしていいものが生まれていく。

それがまた循環していって、新しい流れを作り出していく。こういう世界観を、1回作るべきじゃないかなと。企業社会はどういう世界を作っていこうとしているのか。自分の会社は人と社会とどうつながって、どんな未来を作ろうとしているのか。これについて現場で一緒に対話できることを目指していったらいいんじゃないかなと思っています。