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井手直行氏インタビュー(全3記事)

「うちの朝礼ってお通夜みたい」と言われた日 “共通言語の研修”が導いた、チーム再起への第一歩

【3行要約】
・ヤッホーブルーイング代表取締役社長・井手直行氏は、「朝礼がお通夜のようだ」との指摘で独力改革の限界に気づき、長年の分断と不信を直視しました。
・井手氏は外部のチームビルディング研修を導入して“共通言語”を持ち込み、自己開示と相互尊重を軸に小さな成功を重ね、会話と協力が職場に戻り始めました。
・採用での価値観の合致や誠実・Win-Winの行動を徹底しつつ、「急がば回れ」を合言葉に、3年続いた分断を越える再起の第一歩について語りました。

創業初期のブームと長い低迷、崩れた組織の空気

——今回のテーマは「マネジメント」というところで、井手さんは非常に社員さんに愛されている社長さんという印象があります。

井手直行氏(以下、井手):いやぁ、どうだか(笑)。

——(笑)。ですが、昔は部下の方との関係がうまくいかなかったり、チームビルディングのところでつまずいたりというお話をおうかがいしました。その当時の状況を具体的におうかがいできますか?

井手:ヤッホーブルーイングは1997年に創業して、3年間ぐらいは業績も良かったので、社内の雰囲気もすごく良かったんです。当時は「クラフトビール」という名前ではなく、「地ビール」という町おこしやお土産製品的な呼び名で呼ばれていました。

地ビールブームがバーッときて、売上が上がってたんですけど、ブームが去ってからはずっと業績が悪かったんですね。

売上が上がっていた時の設備投資とかも大きかったので、結局創業から8年間ずっと赤字だったんですね。そういうこともあって、スタッフも新しく入ってきても辞めていってという状況でした。売上も悪いし、どんどん人も辞めていく状況なので、会社の雰囲気が最悪だったんですね。

業績も悪いと、みんなもモチベーションがなくなって、例えば営業は「製造がおいしいビールをつくらないから売れないんだ」。製造は「営業が売ってこないからだめなんだ」。「そもそもこんな個性的なビールを日本で売っていこうというのが間違いだったんだ」みたいなことをみんなが言い出して、本当に悪い雰囲気だったというのがベースにありました。

二代目社長就任 “総スカン”からのスタート

井手:私が2代目の社長になったのは2008年で、その時は売上は回復してきたんですが、会社の雰囲気は相変わらず暗いし、笑顔もぜんぜんない状態でした。

当時はスタッフが20人ぐらいいたのかな。みんなバラバラでやっている状況を変えないともう先がないと思って、社長になってすぐに「いいチームにしよう」なんて思ったんです。

だけど、結局長年暗い雰囲気で、疑心暗鬼の状態だったので、私が「もっと明るくしよう」とか「みんなで力を合わせていこう」なんて言えば言うほど、「めんどくさいな」とか「うちの社長は何を言ってるの」みたいに煙たがる感じで……なんて言うんでしょうね、総スカンを食らうというか(笑)。

1人だけはしゃいでがんばっているけど、周りはしらーっとしていたり、私が言えば言うほど遠ざかっていく。「みんなで協力しようよ」と言ったら「え、めんどくさい」みたいなね。そんな状況がけっこうベースとしてけっこう続いていました。


孤立の感情と“協力が得られない”現場の実情

——部下が離れていってしまったり、辞めてしまったり、社内が疑心暗鬼のようになっていた時、井手さんはどのような感情をお持ちでしたか?

井手:そういうのが何年も続いたので、もう慣れっこになっていましたね。良くはないけど、「こんなもんなんだ」と、慣れっこになっていて。ただ、本当にみんなで力を合わせないとこれ以上の成長も無理だと同時に思っていました。

というのは、私が中心となって、スタッフもう1人とインターネット通販の売上を伸ばしてきたのですが、私が社長になったことで、会社全体を見る立場として他の業務にも目を向ける必要が出てきました。インターネットの業務にはある程度距離を置かざるを得なくなったので担当に業務を引き継ぐことにしたのですが、私が抜けたことでそのスタッフがインターネット業務を1人で抱えるかたちになり、さらに成長が難しくなってしまいました。加えて、他のスタッフも誰も協力してくれないという状況でした。

なんとかみんなで協力しながらやっていかないと難しいなというのがもう前提にあったので、「なんで協力してくれないんだろう」とか「せっかく売上が上がってきたのになんでみんなブツブツ文句言って、喜んでくれないんだろう」みたいな気持ちでしたね。

だけど、みんなからすると「売上が上がったのはいいけれど、急に忙しくなった」とか「急に残業が増えた」とか、「知らないうちに休日出勤しないといけなくなって……」とか。過去のネガティブな雰囲気の中に、忙しさが出てきて余計に文句を言うみたいな状態で、そこに対して僕もすごくすれ違いを感じていました。

“お通夜みたいな朝礼”が突きつけた現実

——孤立していた時期に、「このままではいけない」と強く感じた出来事や印象に残っている気づきの瞬間はありましたか?

井手:私自身が「はっ」と気づかされた出来事がありました。

私たちの会社では、みんなで輪になって朝礼をするのですが、ある日、「今日はこういう予定で、こんなことをやるんだ」「他に連絡事項とか質問ある? ないね。じゃあ今日もよろしく!」みたいに話して朝礼を終えた後、中途で入社した女性スタッフがふと私にこう言ったんです。 「うちの朝礼って、お通夜みたいですね」と。

それが本当に衝撃でした。薄々気づいてはいたんですが、外から見ると、暗いというよりお通夜に見えるんだと。実際、その頃の朝礼は誰も口を開かず、シーンとしていて、「はぁ……今日も嫌な一日が始まる」「なんだかつらいなぁ」といった空気が漂っていました。

 「傍から見ると、これはお通夜なんだ」「お通夜みたいな雰囲気の会社が成長していくはずがない」と、あの時の言葉は今でも強く心に残っています。

我流改革の空回り “一言スピーチ”が生んだ反発

我流でいろいろな取り組みをやったんですけど、ことごとくうまくいかなかったです。例えば朝礼にしてもパッと思いつきで「俺が1人でしゃべっているからいけないんだ」と思って、次の日ぐらいからみんなに「やっぱりこの朝礼ちょっと暗いよね。僕が1人でしゃべっているのが良くないと思うから、みんなで一言ずつしゃべっていこうよ」という話をしたら、みんな「ええ……!」みたいな。

——(笑)。

井手:「うわ、うちの社長、めんどくさい!」みたいな顔をするわけですよ。「なんでもいいからさ、なんか一言ずつしゃべってよ」と言って何が起きたかというと、私がいっぱいしゃべって「はい、お願いします。○○さん」と言ったら「特にありません」「じゃあ、次の人」「特にありません」とか「通常業務です」と、この二言しか出てこなくて。

そういうのが2~3日続いた時に、もうカーっとなってしまって。「いやいや、そういうのを言ってほしいんじゃないんだよ、俺は!」みたいに怒るわけですよ。そうすると、さらにみんなが、「うわ~、うちの社長めんどくさい」みたいに露骨に嫌な顔をしたんですよ。

目の前でそういう表情をされると、嫌われるのも嫌だし「そっか、みんなしゃべりたくないんだな」と思って、またすぐお通夜の朝礼に戻っていくみたいな。我流でやっていってもうまくいかず、僕が「もっと明るくしよう」とか「みんなで協力してやろう」と言えば言うほど離れていっちゃうので、本当にもう途方に暮れていました。


外部の学びへ 楽天大学のチームビルディングに賭ける

——お通夜みたいな雰囲気から、抜け出すきっかけになった出来事や出会いはなんだったのでしょうか?

井手:当時は楽天市場のインターネットショップで成長していたんですね。楽天市場さんが主催していた「楽天大学」という店舗向けの講座が経営者仲間の間で話題になっていて、「そこのチームビルディングプログラムというのがすごくいいぞ」という評判をけっこういろいろなところから聞いていました。

でも同時に「すごく大変だぞ」とも聞いていたし、費用もすごくかかるとも聞いていたんです。「どうしようかな、参加しようかな……でもなぁ」なんて言って、踏ん切りがつかずにいたんですけども、我流でやってもうまくいかないので、覚悟を決めてそのプログラムに参加したんだよね。

当時の受講料が30万円以上ぐらいでした。3ヶ月ぐらいのプログラムなんですね。丸一日の研修が3ヶ月。長野から当時の東京の楽天さんの本社に毎回通う研修でけっこう大変でした。それが決定的な変化のきっかけでした。

見たこともないし知り合いでもない楽天市場の店舗の店長さんとか、社長さん・経営者の方が集まって、15人ぐらいで研修をやるんですけど、3ヶ月後にはすごくいいチームになっていたんです。「この人たちとだったら、もうなんでもできるんじゃないか」と思えるぐらいになるプロセスを必死に見ていたので、「これはすごい。今一番うちの会社に必要なのはこういうことなんだ」と思いました。

研修を受けてきて帰ってきて、私が「チームビルディング研修がすごく良かったから、みんなでやろう!」と言った時のみんなの声は今でも覚えています。

「なんかうちの社長、変な宗教にでもハマって帰ってきたんじゃない?」「今までと言ってることがまったく違う。前は『売上、売上』って口うるさく言っていたのに、急に『まずはチームづくりが大事』とか『みんなで協力しよう』とか言い出した」。「それまでは『俺がこう言っているんだから間違いない』っていうタイプだったのに、今じゃ『俺はこう思うけど、君はどう思う?』って、みんなの意見を聞くようになっちゃった」。

そんなふうに、まるで別人になって帰ってきたように見えたらしくて。中には、「変な宗教に騙されて帰ってきた」と、冗談半分に悪口を言うスタッフもいたくらい、周囲から見ると、大きな変化だったみたいです。

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