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「知識が自然に集まるチーム」の作り方:知識隠蔽が起きにくい組織の共通点(全2記事)

職場の約1割で“情報の出し渋り”が日常化している 社員が情報を出さない3つの動機

【3行要約】
・同僚から求められた知識を意図的に共有しない行為が、本人の首を絞める結果になるという逆説的な現象が問題視されています。
・対人関係の不信感が最大の隠蔽動機となっており、「熟達風土」と「遂行風土」で創造性への影響度が大きく変わることが研究で判明。
・管理職は隠蔽の背景にある感情メカニズムを理解し、正当な理由説明による「合理化した隠蔽」への転換を図るべきです。

“情報の抱え込み”は回り回って創造性を削る

伊達洋駆氏:まずは「知識隠蔽が個人に与える代償」というテーマでお話しします。あらためて、知識隠蔽をいくつかの観点から掘り下げ、個人にどんな影響があるのかを説明します。

知識隠蔽とは、同僚から求められた知識や情報を意図的に共有しない行為全般を指します。これだけだと抽象的なので例を挙げると、重要な情報を知っているのに知らないふりをする、わざと曖昧な説明に終始する、多忙さを理由に協力を断る、といった振る舞いも知識隠蔽の一種です。

短期的には、自分の知識を共有しないことで優位性を保てるように見えるかもしれません。しかし、既存研究を踏まえると、必ずしもそうではありません。むしろ知識を隠す行為は、めぐりめぐって隠した本人の首を絞める結果になりかねないことがわかっています。

とりわけ個人の創造性には大きなダメージが出ることが、これまでの研究で明らかになっています。

1つ調査を紹介します。非常にダイレクトな設計で、知識隠蔽を頻繁に行っている従業員ほど、上司から「創造性が低い」と評価される傾向が見られました。

理由はいくつかあります。知識を隠す行為は周囲の気分を害しやすく、結果として信頼を失います。さらに、知識隠蔽を行った人は他者から協力や助言を得にくくなります。自分が隠すなら相手も隠す、という関係が生まれ、支援が得られないまま創造的なパフォーマンスが下がっていく。半ば負の循環が実証されたわけです。

ただし興味深い点もあります。個人の学習や成長を重視する「熟達風土」が根付いた職場では、知識隠蔽が創造性に及ぼすダメージは幾分和らぎます。一方で、他者との競争をあおる「遂行風土」の職場では、創造性への悪影響がより深刻化することが示されています。つまり、風土によって知識隠蔽の深刻さは変わるのです。

“出し渋り”が生む2つの感情

創造性へのマイナスな影響だけではありません。人は知識を隠すと、隠した本人の内側に複雑な感情が生まれます。

知らないふりをして情報を隠すような、無知を装うタイプの隠蔽があります。この種の隠蔽は、とりわけその行為をした本人に罪悪感や恥といった感情を引き起こすことが、これまでの研究で明らかになっています。

罪悪感と恥はどちらもネガティブな感情ですが、なんとなく似ているように見えますよね。ただこの研究がおもしろいのは、罪悪感を抱く場合と恥を抱く場合では、まったく異なるメカニズムが働くことを明らかにしている点です。

知識を隠蔽したことで罪悪感を覚えるケースがあります。ここでいう罪悪感は「自分がとった行動は間違っていた」「知識を隠すという行為をしてしまった」と後悔する感情を指します。罪悪感を覚えた人は、自分の行動を埋め合わせようとし、その結果、自分の役割を超えた貢献を増やす傾向があります。つまり罪悪感は役割外行動を促すのです。

例えば困っている同僚を自発的に助けるような行動がそれにあたります。要するに知識を隠蔽したことで罪悪感を覚えると、結果的に役割外行動が増えるということです。もちろん最初から知識を隠さないほうが良いのですが、罪悪感がプラスに転じる側面があるといえます。

一方で恥を感じる場合は少し違ってきます。知識隠蔽によって「自分はだめな人間だ」と自分自身を否定する感情を抱くのが恥です。この場合は他者からの評価を恐れるようになり、内向きの姿勢を取ってしまいます。その結果、人との関わりを避けるようになり、役割外行動を取ろうというモチベーションも高まらず、むしろ組織への貢献が減ってしまうのです。

ここで、罪悪感と恥が対照的な影響をもたらすことがわかります。先ほど、罪悪感は役割外行動を促し、恥は逆に役割外行動を減らすとお伝えしました。つまり同じ知識隠蔽でも、それが罪悪感につながるのか、恥につながるのかで結果は大きく変わります。

むしろ真反対になる、と言ってよいでしょう。知識隠蔽という現象そのものだけでなく、本人がそれをどう受け止めるかが、その後の行動に影響するわけです。

職場の約1割で“情報の出し渋り”が日常化している

では、そもそも人はなぜ知識隠蔽をするのか。動機の側面に目を向けます。一見すると「知識を隠すのは悪意からだ」と考えがちですが、研究を深掘りすると必ずしもそうではありません。ある調査では、従業員の約1割が「何らかのかたちで日常的に知識隠蔽を行っている」と報告しています。

多いか少ないかの判断は難しいものの、みなさんの組織にも一定の割合で日常的に隠蔽が起きている可能性は十分にある、という含意は読み取れます。

興味深いのは、その動機が多様だという点です。とりわけ悪意ではない理由が少なくありません。例えば、機密情報の保護がそれにあたります。同僚であっても、会社の方針上、伝えられない情報はあります。

あるいは、自分の知識が複雑すぎて、相手に正確に伝えられる自信がないというケースもあります。短時間で説明すると不正確な情報になりかねないというリスクを感じ、あえて控える場合もあるでしょう。こうしたように、悪意以外の動機で知識隠蔽が発生している現実が見えてきます。

ただ、さまざまな理由がある中で、最も知識隠蔽を引き起こす動機になっているのは対人関係における不信感です。つまるところ、相手を信頼できないから知識を出さない。信頼していない相手に自分の知見を渡すのは危険だ、と感じるわけです。結果として、自分を守るために知識を隠すという行動につながります。

加えて、知識そのものの性質も隠蔽の起こりやすさに関係します。専門的で複雑な知識は、安易に共有すると誤解を招きやすい。だからこそ、あえて説明を避けるという傾向が生まれます。研究では、こうした起こり方を回避的隠蔽と呼びます。複雑さゆえに、誤解を避けるために説明を控える、というかたちです。

3種類の“出し渋り”

では、回避的隠蔽をどう減らすのか。後ほどあらためて詳しく触れますが、ここでは要点だけ示します。日頃から知識共有を奨励し、オープンなコミュニケーションが根付いた職場では、回避的隠蔽は減少します。文化次第で、知識の隠蔽を抑え、共有を促進できる。これは重要な示唆だと考えています。

また、「知識隠蔽」と一口に言ってもさまざまなタイプがある、という指摘は重要です。ある研究では、大きく3つに分類できるとされています。

まず1つ目は「合理化した隠蔽」です。「なぜ共有できないのか」を正当な理由とともに説明しつつ、知識そのものは出さないやり方を指します。例えば会社のルールや顧客のプライバシー保護など、もっともな事情を伝えたうえで共有を控えるかたちです。

2つ目は、先ほど触れた「回避的隠蔽」です。はぐらかしたり、適当な理由をつけたり、時には嘘まで交え、結局は情報を出さないやり方です。3つ目は「無知を装う隠蔽」です。文字どおり「その知識は知らない」と装い、共有を避けるタイプです。

同じ「出さない」でも、合理化・回避・無知を装う、という3つは性質が大きく違います。みなさんの職場では、どのタイプが特に問題になりやすいでしょうか。少し思い浮かべてみてください。

このタイプの違いは、人間関係とも関係します。興味深い研究では、自分が隠した経験と、他者から隠された経験の双方を尋ね、さらに3タイプそれぞれが対人関係にどう影響するかを分析しました。結果は示唆に富むものでした。

まず、正当な理由をきちんと説明する合理化した隠蔽。例えば会社のルールや顧客のプライバシー保護など、正当化できる事情を伝えたうえで情報を出さないケースです。

これは当たり前ですが、正当な理由が示されると隠された側も納得しやすいのです。「この情報は持っているが、会社の事情で共有できないのだな」「この人はこういう価値を大事にしているのだな」と相手の理解が進む。結果として、隠しているにもかかわらず、人間関係はむしろ強化される傾向が見られました。これが合理化した隠蔽の特徴です。

一方、嘘を交えたり、話をはぐらかしたりして結局出さない回避的な隠蔽は、隠した側・隠された側の双方が関係悪化を感じやすいという結果でした。

さらに深刻なのは無知を装う隠蔽で、後からそれが明るみに出ると、「知っていたのに言わなかったとは何事か」と隠された側が報復心を抱きやすくなる。「自分も尋ねられても言わない」といった応酬が起きやすいのです。

同じ「共有しない」でも、理由や伝え方しだいで、人間関係の行方は大きく変わります。隠蔽にまつわる感情の扱い、そして「なぜ渡せないのか」の説明の仕方が重要だという点は、ここまでで実感いただけたのではないでしょうか。

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