【3行要約】
・「パーパス経営」という言葉は広まっていますが、実際に成功している企業はごくわずかです。企業が“宗教的な熱狂”を生み出すメカニズムが注目されています。
・経営学者の入山章栄氏は、持続可能な組織づくりには創業者よりも「弟子」の存在が重要であると指摘します。
・また、同氏は「若者の宗教離れの中、スタートアップが現代人の生きる意味を与える新たな拠り所になっている」と語ります。
前回の記事はこちら これからは宗教的な熱狂が重要な時代に?
入山章栄氏(以下、入山):大学だって、早稲田大学は軽い宗教だから、だいたいの学生と教員は校歌を歌えますからね。僕は歌えないんですけど。
はやまり氏(以下、はやまり):えー!? すごい。
松田健氏(以下、松田):何かある度に応援団を呼んできて、歌を歌うという。
入山:あれがそうだよね? イングランドのサッカーのプレミアリーグ。リバプールの試合前とかはもう完全に宗教ですよ。『You'll Never Walk Alone』という歌をみんなで歌うんです。YouTubeにすぐ落ちているんで。5万人で歌うんですよ。
はやまり:5万人!? すごいですね。
入山:でもたぶんね、これからは完全にこういう時代ですよ。
はやまり:じゃあ、もう社歌を作ったほうがいい?
入山:社歌は作ってもいいんじゃないんですか?
パーパス・ディープニングに5社からのオファーが
松田:その儀式を研究で類型化して5つぐらいに分けています。成長型、承認型というのが、この個人に関わるもので、個人の成長をサポートするものと、それを承認する表彰みたいな儀式。
右の2つが、連隊型と交流型。組織の連帯感を高めていくものと、その中での交流を深めていく儀式。
入山:だから要するに、マツケンは、このパーパス・ディープニングの教義化と信仰化を、いろんなクライアントさんに提供していきたいということなんですよね。
松田:ですね。実際にもう提供し始めている。
はやまり:あ、開始しているんですか?
松田:もう5社ぐらいで。
入山:5社からオファーが来ているの!? すごい!
はやまり:早すぎませんか!?
松田:実は2024年から、仮説の段階から実験的に試しています。
入山:逆に言うと、それぐらい宗教化に悩んでいる会社が多いということね。
はやまり:確かに。ニーズがある。
松田:それでけっこう僕らも「宗教、宗教」と言っていて、「日本だと忌避されるんじゃないか」という懸念もあったんですけど、逆に、「自分たちは宗教があるんだけど、これを言語化して残しておきたい」みたいな、宗教(色)の強い会社から依頼をいただくことも多くなりましたね。
入山:いやぁ、いいですね。
はやまり:楽しいですね。実際に、そのクライアントさんの規模感としてはどのくらいの……ちょっと会社名とかは(言わなくて)いいんですけど。
入山:そう、どの業界のどのくらいのサイズの会社なんですか?
松田:大きく3つあるんですけど、オーナー企業の2代目、3代目が一番多いんです。
はやまり:あー! 1代目のあとに。
松田:そうなんですよ。カリスマの1代目が築かれて、2代目、3代目は「自分は1代目ほどのカリスマ性がないけど、次の(段階)を作っていきたい」みたいな。
長く続いている宗教の共通点
入山:これはね、大変に重要なポイントでございまして。
キリスト教は、キリストが早く死んだでしょ? だから、弟子のペテロとパウロが組織を作って、何百年もかけて聖書を作ったんですよ。教典と儀式をシステム化したから、そのまま組織として自走できたんですね。
はやまり:なるほど。
入山:リクルートも、江副(浩正)さんが捕まったから。
はやまり:(苦笑)。
入山:ある意味で早くに社会的に死んだから、「システム化しなきゃ」となって、今のリクルートがあるんですよ。
入山氏が教祖の宗教組織が誕生?
入山:僕は今、宗教団体を作っているんですね。「世界標準の経営理論実践研究会」という(一般社団法人で)、実質宗教なんですけど。実はね、僕はほとんど出ません。
はやまり:あ、そうなんですか!?
入山:うん。僕は神なんだけど、実は団体のメンバーですらないんですよ。
はやまり:え!? 神でもメンバーでもなくて、でもみなさんが入山先生の教えを語っている。
入山:なるべく会わない。
はやまり:えー!
松田:すごい!
入山:ペテロとパウロがいるので、その2人に言うんですよ。
はやまり:何て言うんですか?
入山:システム化してもらって。リンクアンドモチベーションの林(幸弘)くんと、松山の商工会議所の中矢(斉)くんという人なんですけど。この2人とかがやってくれるので、僕は年1、2回しか現れないんです。
はやまり:え!? それでも回っているんですか?
入山:回っています。
松田:めちゃくちゃ狂った組織を作ってますよね。
入山:狂ってますよ。
松田:『世界標準の経営理論』を輪読する会を自主的に行ったりとか、本当に宗教なんですよ。
宗教では一番弟子が重要
入山:それを日本中に普及しようとしていて。
はやまり:支部みたいな?
入山:僕は年1回、2回ぐらいしかあえて出ないようにしているので、出る時はもう、教祖が天から降りて来るわけですよ。
はやまり:やばいじゃないですか、もう。
入山:こうやって洗礼するという。
松田:(笑)。
はやまり:もう完全にキリストですよね。
入山:キリスト、キリスト。
はやまり:その会を主催されて入山先生は、始めに何をやりましたか? 「宗教を作りたい!」となった時に、何から始めればいいですか?
入山:一番大事なのは、ペテロとパウロですよ。
はやまり:あー、弟子を見つける?
世界で一番成功している組織は宗教組織
入山:そう、弟子。だから僕のお言葉というか(笑)。それはなんか、ありがたいんですけど、考えに共感してくださって「広めたい!」という方、それをシステム的に普及してくれる方が2、3人必要で、それがいたらなるべく教祖は出ないほうがいい。
はやまり:あぁー、じゃあまずは一番弟子、二番弟子を見つけるところから始めると。
松田:そうなんですよ。今けっこうお話いただいたように、人の宗教から組織の宗教にするのに困っている会社がめちゃくちゃ多くて。楽天とかもやはり、三木谷さんと一緒に仕事をされたペテロやパウロ的な人がいるうちに、その下の世代にその精神を根付かせようみたいなことをめちゃくちゃやられていましたね。
入山:そういう意味では、世界で一番成功している組織って、ど〜う見てもキリスト教とイスラム教、仏教なんですよ。
はやまり:そうですね。
入山:ビジネスじゃないんですよ。だって1,000年、2,000年、生き長らえているんですよ!?
はやまり:すごいですよね。
世界で進む“宗教離れ”
入山:今、人口の半分がキリスト教で、3分の1がイスラム教なんですよ。どう見てもここから学ばないとダメじゃないですか。なので、その仕組みを体系化しようと。
松田:そうですね。僕が先生のお話で、すごく「あぁー」と思った話があって。宗教はもともと「人はなんで死ぬのか」を説明するために生まれたと。
はやまり:なるほど。
松田:でも、人が死ななくなって、今の人は「生きる意味」を探している。
はやまり:そうですね。
入山:これが重要でございまして。いいですか? 僕がしゃべっちゃって。
松田:もちろん、もちろん。
入山:まさに言うとおりで、今、人類は宗教離れが進んでいるんですね。イスラム教は違うんですけど、キリスト教離れは、アメリカでもイギリスでも進んでいるんです。若い人が宗教を信じなくなってきているんですよ。なんでかというと、これはすみません、マツケンのを取っちゃったんですけど。
はやまり:はい。
入山:なぜかは簡単なんですよ。昔からある宗教は、来世救済型なの。
はやまり:はぁー、確かに。
新たな心のよりどころはスタートアップ
入山:昔は人がいっぱい死んだから、「死んだらどうなる」という考え方なの。病気とか、戦争ですぐに死ぬでしょ? だから「なんで人間は、こんなに理不尽に死ぬのか? 死んだらどうなる?」という、死んで救われたいと考えるから、来世救済型なんですよ。それがキリスト教とかイスラム教なんです。ところが、人類が長生きするようになっちゃったんですよ。
はやまり:人生100年時代ですからね。
入山:そうなると「なんでこれだけ生きなきゃなんないの」となって、それに既存の宗教が答えられていないんですね。すみません、信者の方がいるかもしれませんけど、唯一機能したのが創価学会。なぜかと言うと創価学会は現世救済型なんですよ。
はやまり:あっ、そうなんですね。
入山:でも、そうすると神を信じる宗教だと心の拠り所がない。だから僕の理解では、今は多くの人がスタートアップに行っているんですよ。
はやまり:スタートアップは宗教であるということですか?
入山:そう。「この会社なら熱狂できて、自分の生きる心の拠り所になる」と。それが昔は宗教だったんだけど、今はないからスタートアップに行っている。