【3行要約】 ・多くの企業がパーパス経営を掲げるも、組織への浸透に課題を抱えており、単なる言葉の共有だけでは社員の行動変容につながりません。
・株式会社GOの松田健氏は社員を熱狂させる企業をつくる「パーパス・ディープニング」というフレームワークを開発しました。
・経営学者の入山章栄氏、株式会社Sworkersのはやまり氏と共に、社員が熱狂する企業は何が違うのかを語り合います。
前回の記事はこちら パーパス経営に必要なプロセスとは
はやまり氏(以下、はやまり):例えば私が今から松田さんに、「このパーパス・ディープニングの指導を会社で受けたいです」と言ったら、具体的には何から始めるんですか?
松田健氏(以下、松田):(スライドを示して)まず、詳細の図がこうなっているんですね。何をやるかというと、まず左側。ヒアリングをめちゃくちゃやるんですよ。
はやまり:何を聞くんですか?
松田:先ほどインタビューをしたと言ったじゃないですか。もう本当に、産業医の方とか、ヒアリングのプロたちにやり方をめちゃくちゃ聞いたんですよ。
はやまり:あー! なるほど、なるほど。
松田:あとは僧侶の方とか、すごくおもしろい方にいろいろインタビューをした結果、彼らは対象相手の内省をめちゃくちゃ引き出すのと、対象相手に自分のことを客観視させているとわかったんですね。
はやまり:なるほど。
松田:なので、例えば、はやまりさんの会社のパーパスを作るとすると、はやまりさんに徹底的にインタビューをしていくということで、先ほどのものをベースに、僕がヒアリングのやり方をフォーマット化したんですね。
自分について語らせる「アイデンティティ・ワーク」
入山章栄氏(以下、入山):これはたまたまなんですけど、僕は『ハーバード・ビジネス・レビュー』で、『世界標準の経営理論』という連載を復活させたんですね。本も何年か前に出したんですけど。
(2025年)7月10日発売号で「アイデンティティの理論」というのをやっているんです。ぜひ読んでいただきたいんですけど、なんでかというと、アイデンティティは大事じゃないですか。まさに自分たちが何かわからないと熱狂しないので。
はやまり:まさにそうですね。
入山:実はそこで一番大事なのは、日本だとあまり知られていないんですけど、アイデンティティ・ワークなんですよ。簡単に言うと、自分のことを語るという作業です。
はやまり:え!? 意外に、めちゃくちゃ難しいですよね。
入山:そう、やらないじゃないですか。これは日本全体で(言えることですが)、ぜんぜんやらないんですよ。「自分は何をしたいのか?」「この組織で何が幸せか」「どうやって生きていきたいのか」とかって、そういう(ことを考える)時間はないでしょ?
はやまり:ないですね。
入山:でも、それが一番重要で、実はグローバルとか、海外のビジネススクールもけっこうやるんですよね。
「日本の会社にはwillがない」
はやまり:え、どういう自己紹介をするんですか? 私はこの会社で働いていて……。
入山:「はやまりさんは、何をして生きていきたい人ですか?」みたいなことですね。
はやまり:なるほど。挑戦する人を増やして、その方たちが、より世の中で活躍する姿が見たい。
入山:「見たい」と言っているんでしょ? だったら、はやまりさんはたぶんいろいろやっているから、けっこう言語化できるほうだと思うんですよ。だけど、他の会社はあまり(やりたいことを言語化する文化が)ない。リクルートぐらいなんですよ。「お前は何をやりたいの?」という文化があるから。
はやまり:あー、確かにそうですね。
入山:とにかく形式知化するためには、自分のことをひたすら語ることがすごく重要です。これ、ほとんどの企業はやっていないもんね。
松田:そうですね。この研究の間も「日本の会社にはwillがないよね」という議論を、先生とすごくしていて。やはり高度経済成長期に、会社の船頭に従って、自分のwillを消してやっていくことが効率的だったので、そういう人が多いんじゃないかという話をしていました。
“会社に合う人材を育てるべき”という誤解
入山:だから、自分の会社に都合のいい人材を育てようとするから。
はやまり:(笑)。なるほど。
入山:自分の意思とかは持たせないんですよ。
はやまり:まぁ、意思を持たれて反発されたら「ちょっと面倒だなぁ」みたいなのは、ありますよね。
入山:会社に合った人材に染め上げようとするから。そうすると、熱狂が生まれない。
はやまり:ちなみになんですけど、松田さんは入山先生に先ほどのような「あなたは何をしたい人なんですか?」という質問を投げかけられたら、どう答えるんですか?
松田:そうですね。僕はクリエイティブをずっとやっているんですけど、クリエイティブって、今の日本では地位が低いと思っているんですよ。
日本はやはり、目に見えないものを信じるのが、他の国に比べて弱い気がしていて。僕らも前にスタートアップの経営者の方と「ブランディングをやりましょう!」と始めたら、「今はブランディングみたいな、お金のある企業がやるものをやるフェーズじゃないだろう」と、投資家の方に止められたことがあったんですよ。
はやまり:えー!?
松田:要は、事業の成長に直接関係のないものだと思われているんですよね。僕はクリエイティブによって、事業成長を加速させられると思っているので、それを世の中に証明したい、みたいなことがwillとしてあった。だから、こういうフレームワークを開発したところがあります。
パーパス・ディープニングにおける信仰化フェーズ
入山:(スライドを示して)マツケン先生、この、もう1個のフェーズのほうはいかがでしょう?
松田:もう1個のフェーズはですね……。
入山:こっちは超重要なんですよ!
松田:そうなんですよ。
入山:こっちは、日本の会社はほとんどやっていないです。
はやまり:みなさん、ぜひスクショしてください。
松田:インタビューをしていっても「これこそが重要である」みたいなことをずっと言われていて、パーパスを組織に実装していくフェーズなんですよ。ここで、僕がどういう仮説を立てようかなと思った時に、先生から「相互作用儀礼連鎖理論」と、もう嚙みそうな名前の理論が……。
入山:世界の経営学には、Interaction Ritual theoryという儀式の理論があるんですよ。儀式って、大事じゃないですか。実は、儀式はちゃんと理論化されていて「まさにこれだよね」という話になったんだよね。
松田:そうなんですよね。
入山:宗教と一緒です。
熱狂の源泉となる「教典・儀式・象徴」
松田:そこの論文をめちゃくちゃ読み漁ってかたちにしたのが、まさにこれです。パーパスを組織に落としていくためには、教典と儀式と象徴の3つが大事である。教典というのは、いわゆるパーパスを頭で理解するためのものですね。例えばブランドムービーを作ったり、カルチャーデッキを作ったりするじゃないですか。
はやまり:それが教典に入るんですね。
松田:はい。それで、頭でパーパスを理解する。(次に)この儀式というのが特に大事で、体感するもの。例えば表彰とか。
はやまり:表彰ですか?
入山:だから宗教系の(イメージが)強い会社って、リクルートさんとかTOPGUNとか、すごく大きいイベントを国際フォーラムなどでやるんですよね。それでめちゃくちゃ盛り上がる。あとね、眼鏡のOWNDAYSですよ。OWNDAYSは完全に宗教ですよね。
はやまり:えー!? めちゃくちゃ気になります。
入山:イベントが超絶すごいですよ。
はやまり:行ったことあります?
入山:いや、画像で見ただけですけど、すごいですよ。
はやまり:どんなイベントをやられているんですか?
入山:いや、もうね。「アッハー!!」みたいな。
はやまり:(笑)。
入山:みんな泣くらしいですから。
はやまり:え!? それは何泣きですか?
入山:いや、感動泣き。
はやまり:やばい!!
松田:それで、儀式を体感して頭と体で理解して、初めてパーパスが自分のものに腹落ちする。それがロゴや、いろんな象徴的なものと結びついて組織の一体感が深まっていくのがこのフェーズなんです。
はやまり:なるほど! じゃあ結局、ロゴとか、毎日見るものが象徴として……。
松田:そうです、名刺とか。スタートアップとかでも、よくお揃いのTシャツを着たりするじゃないですか。
はやまり:あー! あれも象徴なんですね。