スタートアップ業界の注目領域、日本が誇る成長産業「エンターテインメント」のマクロ分析(全3記事)
“J-POPも海外でバズる”を示した藤井風の成功 日本エンタメビジネスの課題“海外流通の壁”を識者が探る [2/2]
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スタートアップはIPホルダーの信頼獲得が重要
田中:なので、大きい会社であれば、それを大きいスケールで身につけなきゃいけない難しさがあります。これはディー・エヌ・エーの難しさですね。スタートアップはやはりIPビジネスならば第一歩目をどうやって作ってIPホルダーの信頼を獲得するかがポイントだと思います。これが非IPやオリジナルのIPであれば、ファンドにどうしてもらうかになってくる、という気はします。
中山:やはり信頼なんでしょうね。結局「高速道路」も大事なんだけど、そこに乗せて届けてもらうために信頼のあるパートナーじゃなければいけなくて、それが「日本企業だから」だけでは信頼されないんですよね。こんなに大きいディー・エヌ・エーでも、やはりある程度の実績などの構築には時間がかかっているんだなと。
田中:あとはやはり、国別(に対応するの)は難しいですね。特にゲームは幸いAppleやGoogleさんがストアのかたちで一定のカバーをしてくれますけど。これは後でリージョンの話にもつながりますけど、表現ってやはり国によってものすごく厳しいんですよ。これはやはりほぼ政策に直結しているので。
ご存じのとおり、例えば中国マーケットであれば当然アニメは自由に放送もできないし販売もできません。政府の審査を受けなければならない。いわゆるセンサーシップですね。しかも各国には当然、日本のアニメが流せる領域が決まっている。
あるいは、説明されていない現地リレーションもあります。この人たちと仲良くしておかないとライセンスの部分が混在してなかなか大変です。それを1個1個解きほぐすのはやはりすごく難しいので、大変な業務ではありますね。
“日本発の流通網”が軽視されていないか
中山:ローカライズはそうですね。まさにNetflixを見ていると、ああいうのは本当に優秀なローカライズチームが作っているんだろうなって。
田中:ああいうプラットフォームは本当に強いですよね。アメリカ企業の強さだなって思います。それがやはり先ほど中山さんがおっしゃった、高速道路がすでにつながっている感じ。もともとレンタルビデオからスタートしたところから、やはり歴史が若干違うのかもしれないですよね。
中山:「今、日本はよその『高速道路』に乗っちゃっているな」と僕はすごく痛感するんですよね。例えばやはり『ちいかわ』ですよ。今のアメリカ展開も含めてMINISOにキャラクターが並んでいるんですが。それは中国の会社がアメリカ展開をやっている状態です。「それをやるんだったら無印良品じゃなきゃいけなかったんじゃないか?」とかですかね。
結局、日本から行くと道路が途絶えていますよと。「じゃあ、それはNetflixさんにお任せしたらいいや」「『Crunchyroll(アニメに特化したストリーミングサービス)』は日本の内資系企業だからいいでしょう」とか、海外に関しては意外に信頼性の構築なしでサクッと出しちゃっている事例が多いのが、エンタメ界では散見されるなと思いますね。
「ウルトラマン」は権利問題の解決が成長の契機に
田中:先ほどの「ウルトラマン」も、今は中国で大人気なのは権利が整備できたかだと思いますし、そうなるまではすごく訴訟が続いていた作品でした。
このあたりはスタートアップの方々も、あるいはスタートアップとしてIPを作ろうとされている方々も、本当に悪いことは言わないので、最初の出し方ないしは契約交渉については経験がある人に、中立的なアドバイザーとして必ず話を聞いたほうがいいと思います。
エンタメ界隈には良心的に相談に乗ってくれる人がいます。中山先生に相談してもいいと思うんですけど(笑)。これはもう大手企業と組めばいいという問題より、そういうわかっている人を味方にして、最初の交渉事はしたほうがいいのかなと。ある種、スタートアップの調達やIPのライセンス周りは、すごく難しい部分があるなと思いますね。
中山:2000年前後は本当にしょっちゅう(権利関係での揉め事が)あって、『遊戯王』もそういうのがあったんです。「ウルトラマン」は、1976年にタイの会社に売っちゃっていたものが、2019年に解決したんです。50年間近くずっと海賊版が出まくっていたものが、取り戻した瞬間にこれだけ成功するわけですから。
今もこういう話って1970年、1980年代のアニメではまだあるんですよね。当時は海外なんてどうでもよかった時代だったから、しょうがないと言えばしょうがないんですけど。
エンタメ×AI×スタートアップの新しい動きに期待
草野:ちょっと残り3分なので、注目すべき領域で言うと……。
中山:そうですよね(笑)。ぜんぜんこの話題に対して答えていなかったですね。中国だと今は、TikTokのライブコマースがちょうど始まりました。この文脈は、エンタメというより、それこそ「Pococha」じゃないですけど、インフルエンサーからの市場って日本ではちょっと頭打ちだから、僕は中国コマースはすごいなと思いますね。
草野:なるほど。
田中:そうですね。今回はあまり触れなかったんですけど、既存産業にAIを掛け算するところは確実に注目領域なんです。やはりみなさんと話す時に1つよく出てくるのは、AIを掛け合わせて生産性を向上する。これはアニメも(コンテンツの)制作系もそうですと。
これをちゃんと受け入れられるのかは、まだまだハードルが高いなという印象がありますけれども、これはもう必ず議論になる。なぜなら今の日本の制作環境って本当に負荷が高いので。
ただ「これはやり切れるんだっけ?」というところは不透明ではあるので、まさにスタートアップのみなさんが実例を出していったら一気に捲れるんじゃないかなという印象は持っています。これはディー・エヌ・エーもがんばらないといけないところ。
一気に状況が変わるのがエンタメビジネスのおもしろさ
田中:もう1個は、ゼロからAIで何か体験(できるコンテンツ)を作るところ。ここの最大の問題点は、今日まさに話したとおり、商流がないことです。要は、AIで何かを作っても、今だと買ってくれるのってめちゃくちゃイノベーティブな人たちやちょっとマニアックな人たちだけなので、スケールしない。
ここになんらかの「高速道路」が必要です。商流にAI生成物が乗ってい、受け入れられる時期っていつなのか。それは何なのか。みなさん、アニメや動画、絵などにチャレンジされていると思うんですけど、実はぜんぜん違うものかもしれない。それはAIキャラクターかもしれないし、対話かもしれないし、インタラクティブドラマかもしれない。
これも、誰かが実績さえ作って稼ぎ出したら、一気にソーシャルゲームと同じ扱いになるんだと思います。「あんなもの、誰もやらないよ」から「え? なんだか稼いでいるじゃん」が、いきなり起きそうなのが新規エンターテインメントにおけるAIならではの体験です。
ここはもうがんばらないといけないなと思っているんですけど、スタートアップのみなさんと協業したいところの1つだったりします。
中山:ディー・エヌ・エーさんは従業員の3分の1をAIにシフトするという、とんでもないことを(笑)。
田中:なぜかAIの部門も兼務しているんですけど、この部門に送られているうちの1人なので(笑)。
中山:(笑)。
田中:なので、そのぐらいがんばりますよというところも含めて。
中山:AIもぜひご相談くださいということでね。
草野:じゃあ、このセッションはこれで終わりたいと思います。ありがとうございました。
田中・中山:ありがとうございました。
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