【3行要約】・厳しいフィードバックの伝え方に悩むマネージャーは多いですが、川邊健太郎氏は月1で「小出し」にすることがポイントだと語ります。
・同氏は「資金繰りをやったことがない経営者は経営者ではない」と語り、経営者として成長した転機について振り返ります。
・「事業はアート」という視点から、起業家は閃きをサイエンスで説明する力を持ち、プロダクト開発に集中すべきだと提言します。
前回の記事はこちら ネガティブフィードバックは月1で「小出し」にする
高橋弘樹氏(以下、高橋):じゃあ続いて、質問ありますか? 来た! どうぞ。お名前と質問内容を。
参加者1:山形大学のタシロと申します。質問としては、社員の人、一緒に働いているメンバーと関わる時に、優しく言うだけじゃダメな場合があると思うんですけど。
川邊健太郎氏(以下、川邊):もちろん。
参加者1:そういった時に、その一緒に働くメンバーにどういうふうに伝えているかを教えていただきたくて。その上で、創業初期の時と、実際に大企業に入って多くのメンバーを抱えた時とで違いがあったら教えていただきたいです。
高橋:起業しているんだよね?
参加者1:はい。
川邊:まずこれのすごく基礎中の基礎は、みんなの前では褒めて、怒ったり何か厳しいフィードバックをする時は2人でするというのがベストですね。それで最近、2人で厳しいフィードバックをする時に、大きい組織ではパワハラ問題が出てくる。その場合は、もう1人ぐらい同席させたらいいと思いますけども、これが基本です。みんなの前では褒めて、厳しいことを言う時は2人。
厳しいことを言う時は、「俺、それは聞いてない」みたいなのは、なしにしたほうがいいと思う。常にエビデンスを持って、かつ何回か小出しにして「言っていたよね?」というのをやる。ある日突然、厳しいことを言われても、その人は心の準備ができていないので。結局厳しいことを言ってもなにも受け入れてくれなきゃ、なんの意味もないじゃないですか。
だから受け入れられる人の心の措置を何段階かに分けて、ちゃんとフィードバックをして作っていくこと。その時に言うのが、感覚的に「これ、なんかイマイチなんだよなぁ」みたいな感じじゃなくて、数字で全部見せておくということが基本中の基本ですね。あと何か足りていないことはありますか?
参加者1:ありがとうございます。小さく根拠をもって説明して、それを何段階か繰り返して何回も諭すという感じですか?
川邊:そうですね! まぁ、そのフィードバックをするのは月1ぐらいでやったほうがいい気がしますね。
参加者1:ありがとうございます。
川邊:それは組織の大小にかかわらずそうだと思いますよ。
高橋:(タシロさんの会社は)一言で言うとどんな会社なの?
参加者1:今は生成AIではなくて動画制作の受託と営業代行をやっております。
高橋:ありがとうございます。生成AIは関係ないよね? はい、ありがとうございます。何かあったら来てくださいね。
参加者1:ありがとうございました。
(会場拍手)
川邊氏が「経営者としてひと皮むけた」瞬間
高橋:じゃあ他に。「経営者として覚醒したのは」いつ? ということですか?
岸上健人氏(以下、岸上):経営者は壁を乗り越えたりして、急に「あ、自分なりに考え方が変わった、進化した」と思う瞬間があると思っていて。
川邊:はい。
岸上:川邊さんクラスの人が、「あ、自分はこういうふうに覚醒したな」と思った瞬間とか、どういうふうに覚醒したとかってありますか?
高橋:これは(李さんの質問と)同じ質問ですよね。「経営者としてひと皮むけた瞬間」と。
川邊:もちろんいくつかありますけど。一般化して言うならば、1つは、私は資金繰りをやったことがない経営者は経営者じゃないと思っているんですね。
岸上:(笑)。
高橋:どういうことですか(笑)!?
川邊:いや、資金繰りは苦しいですよね。だからそれは、あれを越えれば当然ひと皮むけるだろうということ。
あとはやはりGYAO!が年間40億円の赤字で、これをなんとか黒字にして、かつYouTube対抗をしなきゃいけないという無理難題を押しつけられた時。自分は率先垂範型のリーダーシップの典型だったんですけど、「これは無理だ、詳しい人たちをもっと頼ろう」と思って、いわゆるフォロワーシップ型のマネジメントスタイルに変えたんですけど。この時にちょっとひと皮むけた感があったんじゃないかなと。
あとは2019年にアクスルのガバナンスの問題と、ZOZOを買収するのと、LINEと経営統合するという3連チャンを、2ヶ月ごとにやっていったんですけど。その時は組織立って当然やりますが、緊張を絶やさずに組織を率いるということに関して、ひと皮むけたような感じはしますね。だからまぁ、激しい仕事をたくさんしたほうがいいということですね。
リーダーシップとは「人をやる気にさせる」こと
岸上:川邊さんの中で「(考えが)こういうふうに変わった!」というのはありましたか? 例えば人に辞めてもらう時とか、お金がない時、激しい合併をした時とか。
川邊:まぁ、とにかく僕は大学3年生の時に起業して、インターネットのサービスを作るのがもう楽しくて、楽しくて。自分が楽しいからどんどんやっているという感じで、やる気満々だったんですけども。
やはり自分がやる気満々なのは自走してやっていけるからいいんですけど。自発的にできない人たちもいっぱいいるじゃないですか。
だから、人のやる気を出すことのほうが重要なのかな? という。それが結局リーダーシップなのかなと。だから「リーダーシップって何ですか?」と昨日も夜飲んで、いろんな人に聞かれたんですけど。人をやる気にさせることです。
前は、人をやる気にさせるなんて、ぜんぜん考えていませんでした。自分が楽しくやっていれば誰かついてくるだろうと思っていたんですけど。半ば給料のためについてきたんですが、もっとやり方を変えれば、給料のためだけじゃなくてやってくれる。それで成果が上がることを学びましたね。
李蕣里氏(以下、李):やる気の源を見つけるというのは、先ほどの飲みにケーションとか、真心を込めたコミュニケーションをしっかり1on1で取っていくことにつながりますか?
川邊:そうですね。自分が何をしたいか、どうなりたいかを定期的に問うということですね。やはり、いきなり問われてもみんなわからないですよね。だけど定期的に問われていくと、だんだん自分でも考えるので。
孫さんは、やはりこれがすごくて。問いがシンプルなんですよね。しかも異常にしつこいというか、長いというか。毎回会う度に「どうやってeコマースで日本一になるんだ?」と座った目をして聞いてくるわけですよ。
(会場笑)
川邊:それを12年間も問われ続けていると、さすがにこっちも考えますよね。あと、「それが(自分の)夢だったんじゃないか」ってちょっと勘違いしちゃったりとか。
(会場笑)
川邊:だからやはり「どうなりたいの?」「何がしたいの?」「それってすごいよね、いいことだよね」というのを短い時間でいいので、ちゃんとコミュニケーションをしてあげるといいと思います。
李:いっぱい聞く人になります(笑)!
川邊:聞いてあげてください。
事業は「アート」、起業家は「アーティスト」
高橋:何かありますか? じゃあ、前からいこうか。「10→100フェーズ、リスク思考orチャレンジ」。その心は?
蓮田健一氏(以下、蓮田):事業が伸びてきて社員が増えてくると、どちらかというとアートからサイエンス寄りにどんどんなっていく。新しいチャレンジというよりかは、リスクを回避する思考が増える中で、それでもやはり数年後を考えると、新規事業とか、新しいチャレンジをやったほうがいいと思うんですけれども。それが現場から生まれづらくなるなと、課題感を持っています。こういうのを今までどのようにやってきましたか?
川邊:事業そのものもそうですし、新規事業は特にですけど。それはアートなのか、サイエンスなのかという問題です。これはもう、答えは出ているんですよ。間違いなくアートであり、ここにいる起業家のみなさんはアーティストなんですよ。やはり閃きでやることがめちゃくちゃ重要なんですけども。
組織が大きくなればなるほど、その閃きが理解できない人たちもいっぱいいるわけじゃないですか。だからそのアートというのは、サイエンスで証明されないと説得力を持たないということに尽きるので。ニワトリと卵で言うと、アートが先です。
ただしそれをサイエンスでどう説明できるかが社長の力量だし、社長がそれをサイエンスで説明できないんだとしたら、特に「何それ?」と斜に構えている頭の良い社員に「これをサイエンスで考えてみてよ!」「証明して考えてみてよ」と宿題を出したらいいと思います。
蓮田:なるほど。それはすごく参考になります。
川邊:だから事業はアートです。だけど、サイエンスでそれを証明されない限り、多くの人はついてこない。
蓮田:なるほど、なるほど。ありがとうございます。
社長はプロダクトに集中すべき
高橋:ではあと1分32秒ありますから、この方と、あともう1人いけるのかな?
参加者2:ありがとうございます。すみません、外国人なんですけど。今だいたい毎月1,000本ぐらいの広告動画を作っている会社をやっています。
質問は、弊社は今キャッシュフローで回していて利益もわりと出ています。でも実は私LINE株式会社に新卒で入っていて、契約(社員)としてやっていたんですけれども。今はPMとして、よりプロダクトの力でこの業界を変えていきたいなと思っているんですが、会社として利益も出さないといけなくて。
今のビジネスではキャッシュフローで回せるんですけれども、自分の時間がけっこう限られていて。プロダクトも作りたいし、今のキャッシュフローの事業もやりたいので、長期的にプロダクトを作ったほうが絶対にいいんじゃないかなと思うんですけど。今の時間はどうやって分けたほうがいいのか。あとスタートアップなので、なかなか採用も難しくて。これはどうすればいいのかをけっこう悩んでいます。
川邊:キャッシュフローが出ているということは、事業が回っているということですから。それはとにかく体制を作って、他の人に任せればいいんですね。それで今、社長なんですか? 社長さんは、やはり新しいプロダクトを作るほうにもっと時間を使うべきです。
前は「新しいプロダクトを作る」というと、その回っているほうの事業から人を引っこ抜いてこなきゃいけなくて、こっち(既存)が弱くなっちゃうということが起きていたんですけど。ここが劇的に変わっているのは、プロダクトをAIで作れるようになってきているから。こっちは社長とAIでやっておいて、こっちの回っているのは他の人にやっておいてもらうという二刀流でやっていったらいいと思いますよ。
参加者2:かしこまりました。強いCOOがいないといけないんですか?
川邊:まぁ、強いCOOじゃなくても、COOなんかいなくても回っていくような組織にするという手もぜんぜんありますが。
参加者2:仕組みを作る?
川邊:自動的に人のやる気が生まれてくる仕組みを作る。リクルートとかも比較的そうだと思いますけども。そういうやり方にしちゃうという手はありますね。社長はプロダクトのほうに集中したほうがいいと思います。
参加者2:かしこまりました。ありがとうございます。
高橋:というわけで、今日は川邊さんにいろいろ質問をしてみました! 金谷さん、蓮田さん、李さん、岸上さん、中川さん、重松さん、そして川邊さん。それからみなさん、本当にありがとうございました。
川邊:どうもありがとうございました。
(会場拍手)