【3行要約】・経営者の失敗事例と成功事例、どちらが有益かという問いに対し、再現性のある事例を聞くことが重要だという視点が示されています。
・LINEヤフー株式会社 代表取締役会長の川邊健太郎氏は、再現性がない場合は感情面に焦点を当てて質問することで学びが得られると指摘。
・官民連携では国民視点で語ること、投資家との関係構築では信頼を積み重ねること、社員との関係では個人の目標に寄り添うことが成功の鍵だと語っています。
前回の記事はこちら 経営者の「失敗事例」と「成功事例」、参考になるのはどっち?
高橋弘樹氏(以下、高橋):じゃあ、続いていきましょうか。もし時間があったら2周目にいくのと、あと聞いていてどうしても「いや、これはおかしいだろ」みたいに文句がある人は、マイクを向けますのでここまで来てください。質問してみたい方は、ここまで上がってきてください。じゃあ、続いて「成功事例VS失敗事例」。その心は?
重松泰斗氏(以下、重松):失敗事例は再現性があるじゃないですか。だからこういう会でも、よくシェアされたりするじゃないですか。なんですけれども、ある人が「失敗事例なんて聞いてもしょうがないから、成功事例ばかりを聞け」みたいなことを言われていて「なるほど!」と思ったんですけども。川邊さんは、どう思います?
川邊健太郎氏(以下、川邊):要するに成功事例と失敗事例の、どちらをどう聞いたらいいかという。
重松:そうですね。究極の質問で、この場で川邊さんと今日の夜飲みに行けた時に、どっちの話を聞けばいいんだ? みたいな。
川邊:はいはい、わかりました。これは結論、どちらでもいいんですけれども。失敗(事例)でも、やはり再現性のある話を聞いたほうが参考にはなりますよね。だから例外的な話をされちゃったとか、成功(事例)でも参考にならないなというのはちょっと端に置いておいて。
もうちょっと「一般化した時に、うちの会社でも起きそうなことを、どちらでもいいので教えてくれますか?」みたいな感じで誘導していって、再現性のある成功事例、失敗事例を聞くべきだと思います。だけど経営者はだいたいKYですから、そのままリクエストをしても「でも俺は、こんなことですごかったんだ」「私はこんなことで大変だったんだ」と、やはりぜんぜん参考にならない話をすると思うんです。
その時のやり方があるんです。その時は何を質問したらいいかというと、感情を聞いたらいいんです。「その時、どう思いましたか?」「その時、どんな気分になりましたか?」「家族は何て言っていましたか?」とか。やはり感情はその人しか体験したことがないことだし、「はぁー! なるほど。そういう気分になるんですか! 参考になりました」ということは、けっこうあると思います。
なので、再現性はもうあきらめて感情を聞いてもらったほうがいいです。いかがですか?
重松:完全に理解できました。ありがとうございます。
官民連携のコツ
高橋:みなさんも聞きたいことがあったら、ここに来てくださいね。じゃあ、どれにいきますか?
川邊:「官民連携のコツ」。その心をぜひ聞かせてほしいです。
中川元太氏(以下、中川):うちはエンタメの会社をやっているので、経済産業省の方や総務省の方に、今特に力を入れたいというか、いろいろお声掛けいただいてお話をする機会が多くて。実際に何かしら関わりがあったりはするんですけど、根本的に官僚の方、特に現場の方が何を求めて動いているのかが、いまいちよくわからなくて。
「お金を出します」と言われたら、それはもちろんありがたいですし、「こういうお金の出し方をしてください」と提案しているんですけど、経済委員の方ではないので。根本的というよりは、その手前で彼が駆動している理由がよくわからない。
最後にどういうアプローチをしたら、より僕らのやりたいことがやれるのかがわからずに、話だけを聞かれて終わるケースが何回かあって。どういうコミュニケーションをするのがいいのかを教えてほしいです。
川邊:はいはい。わかりました。まず官僚も政治家も、日本はやはりまじめですよね。だから本当に国のこと、国民のこと、住民のことをけっこう思っていますね。だからやはりこちら側が語る時もイチ企業の利益視点ではなくて、国民視点や住民視点、国視点で語らなきゃダメですね。
それともう1つは、「1社で来られてもなぁ、1社優遇と見られちゃうからなぁ」とだいたい思っているんですよ。だから、その1社が来たとしても「その業界を挙げての総意です」とか。あるいは1社で行かないで、そういう業界団体の人と行くとか、業界団体を作って行く。その業界という単位では官僚も政治家も育てたい・守りたいと思っていますから、その視点で行くのが大変重要ですね。
あとは、そんな中でも、「この小さな業界や小さい会社は、自分で育てたい」みたいな思いもあったりするんですよ。だって向こうも、業界を育てているフリをして、実はあなたの会社を育てているんですよみたいなことを言えないから。突起物をうまく作って暗黙のコミュニケーションをしておくのは大事なんじゃないですかね。
企業側からKPIとKGIを提示する
中川:ありがとうございます。もう1個いいですか?
川邊:うん。
中川:その中で彼らの、特に現場の方が持っているKPI的なものが何かわからなくて。「お金を出しますよ」と言われた時に、出してくれる分にはありがたいけど、めちゃくちゃ効果的じゃないから「こういうふうに出してほしい」という提案をすることがあるんです。それに対してちょっと渋い顔をされるみたいなケースがけっこうあったなと思っていて。お金を出すことがKPIなのか。何をもって彼らは評価されるのか。
川邊:すごく重要な視点ですよね。基本的にはKPIもKGIもないですね。そこにはその年の予算があって、ちゃんと消化できるかどうかがあるという、ただそれだけのこと。要するに極論、我々にB/SとP/Lがあるとすると、P/Lがアップしても単体の予算があるだけという感じがする。そうでないと思っている人もいますけど。
ただ、それが行き過ぎるとあとで、当然メディアからも国民からも批判されたり、あるいは会計監査委員から「何これ?」と言われたりしますから。むしろこっちでKPIとKGIを提示してあげたほうがいいんじゃないかなという気はします。
中川:なるほど。ありがとうございます。
投資家との信頼関係をつくるには
高橋:実践的で勉強になりますけれども。次は何かありますか? お、奥の女性、李さん。
川邊:そうですね。
李蕣里氏(以下、李):すみません、弊社の今の最重要課題が資金調達ということで、これを書かせていただいたんですけど。これから投資家さんと信頼関係をしっかりと構築していきたいと思っていまして、川邊さん流の信頼関係の構築の仕方を教えていただきたいなと思っています。ステークホルダーを含めてお願いします。
川邊:まぁ、資金調達といえば孫(正義)さんですよね? 報道によると、今120兆円ぐらい集めようとしていますけれども(笑)。孫さんを見ていて思うのは、やはり投資家との信頼関係が一番重要ですよね。信頼関係はどう作れるかというと、借りた金は返すということ。
(会場笑)
川邊:あと投資の場合はリターンを出すということ。最初からいきなりすごいリターンとかは出ないから、ちょっとずつちょっとずつちゃんとリターンを出して、信頼を蓄積させていくと、100兆円ぐらい投資してもらえる人になるので。地道ですけど、まずはそこをやる。あとは、「その関係を大事にしていますよ」感は出していたほうがいいですよね。出していたほうがいいというか、心底思う。孫さんを見ていても「銀行大好き!!」という感じですから。
(会場笑)
高橋:本音なんですか!?
川邊:本音でしょ!! だって自分のやりたい夢を手伝ってくれる、そのお金を出してくれる人たちですから。「大好き!」というのを前面に出して、接待とかももう丁寧にやります。やはりそれぐらいお金を出してくれる人を大事にする。「大好き!」というのを伝える。
加えて、社長さんがもし人間力があって魅力的な人物なのであれば、(投資家から)好きになってもらうというのも、すごく信頼を得る上で大事なんじゃないかと。
業務命令だけでなく個人の「目標」に寄り添う
李:すみません、ちょっと追加でいいですか?
川邊:はい。
李:社員向けにというか、ロイヤリティを社内で築いていく場合は、どのようにされておられますか?
川邊:まぁ、気持ちに寄り添うということですよね。そんなに給料をいきなりバーンッて上げたりできないわけじゃないですか。だけどその一人ひとりの社員は、給料が上がってほしいというのはあるけど、それ以外にも「自分はこういうふうになりたい」「この仕事を通じてこういうふうに成長したい」という思いを持って、みんなやっているわけですから。
やはり1on1とかを通じてそれを聞いて、なるべくそれに寄り添ってあげる。あるいは、アクナレッジと言いますけど、その手前で「そういう目標を持ってやっているんだよね?」というのを認識してあげる。
「それはすばらしいことだよね」と賞賛してあげて、たまにそのへんで会った時も「どう? そこのところ自分は成長した?」みたいなことを言うと、「あ、自分のことをわかってくれているんだ」ということで、信頼関係が生まれると思うので。ただの「業務命令!」だけをしないことですよね。大丈夫ですか? 的を射ていますか?
李:射ています。ありがとうございます!
真心を伝えるのが大事
高橋:ちょっと興味深かったのが、僕はあまり飲みにケーションをしないほうなので、どういう丁寧な接待がいるんですか? 孫さんの丁寧な接待はどういうことをするんですか?
川邊:ソフトバンクの場合は球団を持っていますから。開幕戦とか、日本シリーズとか、そういう時には福岡まで(投資家を)お招きする。要するにVIP席みたいなところで、野球を見ながらみんなでお食事をするとか、そういう……。
高橋:それじゃあ、再現性がないですね(笑)。
(会場笑)
高橋:球団がないとダメですね(笑)。
川邊:そうですね。だけど、その会社なりの丁寧なことを、「これはやってくれているんだな」というのを何か感じてもらえばいいんじゃないですか?
高橋:確かに。ただご飯を食べるというよりは、その会社なりの情報が。
川邊:はい。僕は昔、ゲーム会社の人に接待されたことがあるんですけど。けっこう驚愕だったのが、サバゲー接待でしたね。
高橋:(笑)。
川邊:サバゲーに連れて行ってもらう。
高橋:嫌じゃないんですか?
川邊:それは、僕がサバゲーを好きなのを知っていて。
高橋:好きでそうだったのか。
川邊:向こうも好きだったので「サバゲー行きましょう!」みたいな感じで。だからやはり自分が好きなものを理解してくれているとか。うちの会社でできる最上のものをやるとか。結局は真心が通じることが重要なんじゃないですか?
高橋:ただ単に一席設けるだけでなくて、真心を伝える。
川邊:そうそう。
高橋:勉強になりました、ありがとうございます。