【3行要約】・「管理職になりたくない問題」は組織の新陳代謝を遅らせ、イノベーションを阻害するなど、企業の競争力低下につながる深刻な課題です。
・廣田文将氏によれば、この問題は単なる個人の志向ではなく、組織全体の集団心理が影響する構造的な課題だと指摘されています。
・企業は管理職のイメージ刷新、報酬体系の魅力化、ポジティブな情報発信、仕事の楽しさ創出という4つの視点から集団心理を変える必要があります。
前回の記事はこちら 管理職が増えないことによる弊害
廣田文将氏:じゃあ、こういった問題をそのままにして大丈夫なのかという話です。ここにいらっしゃる方々はよくおわかりだと思いますが、このまま放置していいなんて誰も思いませんよね。ですからこういうセミナーにもご参加されているんだと思います。
もし「管理職になりたくない」というものを放置しますと、今いる管理職しかいないわけですから、当然管理職(の人材)がストックされませんよね。マネジメント層の新陳代謝が非常に遅れます。
ますます既存管理職の負荷が上がります。増大していきます。ましてや将来を担う人材が不足していきます。(スライドを示して)上の段から下の段の流れが徐々に進むんです。
若手が放置され、若手は成長しない。若手が成長できない企業というイメージが定着していく。(そうすると)優秀な人材はもう出て行ってしまうんですね。また、採用も困難です。優秀なメンバーをこういう会社になかなか迎え入れにくい。
マネジメント層の新陳代謝が遅れると、非常に古い考え方が固定化して、今必要なイノベーションとか変革が進みにくい。環境変化への適応が遅れる。企業競争力が低下する。優秀な人材が出ていく。
また一方で、将来を担う人材が不足していますから、せっかくのビジネスチャンスをつかみ損ねてしまう。これはもちろん将来事業の展開にも影響しますよね。またそれによって、若手からすると会社の将来性に希望が持てなくなる。投資の魅力、外部の株主、機関投資家としても、投資の魅力は低下してしまいますよね。それはつまり、企業の持続可能性が危ぶまれる方向に行っちゃうんじゃないの? ということです。
集団心理を変えていく
これをなんとか阻止しないといけないですよね。それが今回のメインのお話でございますが、「管理職になりたくない問題」への処方箋。処方箋といっても、ちょっと処方したからといってコロッと良くなるっていうもんじゃないですよね(笑)。
(スライドを示して)この上の段は大きな集団心理の流れだと思ってください。左から右のように、集団心理の流れを意図的に作っていくんだというイメージを持っていただくことをお勧めします。

ですから、みなさんがすでに打たれている施策が、どういう心理を変えつつ前に進めていくのかを少しお考えになっていたほうがいいです。となれば、当然短期的な問題じゃないですよね。かなり中長期的な視野を持って施策を練っていくことになろうかと思います。その施策を今回は4つの視点の掛け算で、組み合わせでお考えになることをお勧めします。ここにご参加のみなさま方においては、この4つの視点ですでに手を打たれていらっしゃる方も大いにいらっしゃると思います。それはけっこうなことです。
ただ、これらがバラバラになっては意味がないです。これらを絡み合わせながら、(スライドの)一番上の段の左から真ん中、真ん中から右の流れの心理を作り出していく手順に施策がなっているかということでございます。
管理職に対するイメージの打破
まず1番の視点。管理職っていうと、どうしても固定的な見方が非常に強いです。根深いですよ。昔の管理職の動きを見て(感じた)「管理職ってああいうもんなんだ」という思い込み、決めつけ。これを打破していかないとダメでしょう。
この話を聞きながら、冒頭のおもしろい4象限のデータを少し思い出しながら聞いてください。
「マネジメントってもう変わっちゃっているんだよ」ということを伝えていかないといけないんですね。「マネジメントはこういうふうに変わっていますよ」という意味では、共創型マネジメントとか等身大型リーダーシップとか、「そんなに肩に力を入れなくたって、あなたのままでいいんですよ」と。そして「トップダウンでグイグイ引っ張る、そんなイメージじゃなくて大丈夫ですよ」ということをお伝えしているんですけどね。
詳しくは時間がありませんから言えませんが(笑)。
1番目の視点で、マネジメントの思い込み、決めつけを少しずつ和らげていきたいです。
管理職の報酬体系を魅力的にする
そして2番目の視点。管理職が確かに魅力的なのかと申しますと、管理職の報酬体系があまり魅力的でない場合が多いかなと思います。
しかしこれからの時代を考えたら、管理職になりたいって言っている人が少ないわけですから、それなりの魅力がある管理職の報酬体系じゃないといけない。ここをかなり手厚くする必要があるんじゃないのかなと思っております。
当然、その会社におけるステップアップも、管理職になっていかないとステップアップできないという単線型ではなくて、やはり複線型がいいですよね。
複線型はいいんですが、従来の複線型、すでにやっていらっしゃる複線型を見ると、柔軟に行き来ができるような運用になっているかどうか。ここが考えどころだと思っております。ぜひそういう観点で見直してみてください。
こういう話をすると、特にIT関連の企業さんから「『ラインマネジメント(職)になりたくなくて専門職になりたい』って(人を集めたら)、9割ぐらい(専門職の方に)いっちゃうんじゃない?」と。これを心配されてどうも複線型に踏み切れないとか。
別にこれはIT関連だけじゃないんですけど、こういう会社さんもあるんですよね。ですから、このあたりのところはやはり考えどころだと思います。
そして、キャリアを自分で選べるというのは、まさに複線型のことだという意味です。それともう一方、管理職を外れると、降格というイメージがすごく強いんです。これを払拭しないとダメですよね。あくまでもラインとか専門っていうのは1つの役割ですから。役割認識も変えていかないといけないと思います。
管理職自身がポジティブな発信をする
そして3つ目の視点。周囲との関わりの変革の視点です。管理職になりたくない問題の話を聞くと、どちらかというと管理職の愚痴とか管理職のネガティブな話ばかりの情報が氾濫するんですよね。
これってどうなんですかね。既存の管理職の方々がみんなネガティブかっていうと、そうじゃないんですよね。だけどなかなかポジティブな情報は伝わってこないんです。耳に入ってこない。また、意図的にそういう(ポジティブな)声を社内にちゃんと流しているかというと、残念ながら(そういう例は)極めて少ないと私は思っています。
例えば管理職になって良かったこと、やりがいを感じる時、こういうものがそれぞれの管理職にあるんですよ。一人ひとりみんな語れます。「あのシナリオの中のあの場面のこれ」って、みなさん自分が得たことを持っていらっしゃるんですよ。こういったことをぜひ社内でメンバーの方々に情報発信してほしいんです。恥ずかしいんですかね(笑)?

そして、役割を管理職同士とかチームで(管理職の仕事を)分け合う。イメージとしては、1つの課であったら、課長だけがすべてを担うんじゃなくて、役割分担して、特に次期課長候補あたりには、人材育成絡みのことを役割としてやってもらうと、非常に張り切ってやる方も多いですよ。そんなイメージですね。
あとメンター制度。これもどの会社もよくやっていらっしゃいます。ただメンター制度の実態を見ると、部門内の「タテ」のラインが多いですかね。じゃなくて、我々がお伝えしたいのは、組織を挙げてのメンター制度。これを考えてほしい。
ですから「タテ・ヨコ・ナナメ」と言っています。他部門の方も関わるイメージと。これを我々は「きょういく」の3乗という言い方で広げようとしています。
自身の仕事を楽しめるように
4つ目の視点。冒頭のマトリクスを思い出してください。「今の仕事が楽しいか楽しくないか」っていう軸がありましたね。楽しいと思っている人のほうが、管理職になりたいという確率がやはり高いんです。
また、自分の仕事が楽しいと思っている人は、それなりにご自身の仕事の意味とか意義をちゃんと理解しているんですね。ですから、早いうちにご自身の仕事を楽しめるようになるといいんです。
(スライドの)縦軸の下の段の方々、管理職にはなりたいんだが今の仕事はおもしろくないという方々が、もし自分の仕事のおもしろさ、意義、意味を(理解して)、しかも「この仕事で組織にも貢献できるし、自分自身もこんな力が付くんだ」みたいなことの認識が高まれば、仕事への取り組み姿勢が変わりますよね。
そうなると、管理職になりたい人たちも増えてくるということなんですよね。
キャリアについてじっくり考える時間を持つ
そのあたりに気づいていただくのに、ジョブ・クラフティングという勉強がお勧めです。これは若いうちにやっておいたほうがいいです。予備軍を作っていくんです。
そして、世の中の風潮に流されて、自分のキャリアをじっくり考えずに「管理職になりたくないな」とおっしゃっているっていう、あの手の人たち。象限でいうと左下の象限の方々。仕事はおもしろくないし、管理職になりたくないしっていう方々は、あらためて、ご自身が成長して、その成長を通じて組織にも貢献ができるというキャリアの積み方。
1度真剣にご自身のキャリアを考えた上で、管理職のほうに行くのか、本当に専門家として行くのかをよく考えていただきたいんですよ。
安易に、ただ単に「管理職になりたくない」で済ませないっていうことですよね。そういうことをじっくり考えていくっていう意味では、キャリア自律ということを1度考える時間を持たれること、また、そういう時間を持たせてあげることをお勧めします。
プレマネジメントの経験をする
それから管理職手前の方々は、「管理職って難しいな」って思っているところに「いや、そうでもないんだよ」ということをプレマネジメントで経験する。
つまり、多くの人たちを動かすのが苦手だ、億劫だと言いますが、管理職としての権限を持つ前に、どういう働きかけをすればみんなを巻き込んでいけるのか。「別に権限なんかに頼らなくても、あなた自身の影響力でみんなを動かしていけるんですよ」とか、そういうことを通じて自分の成長実感、また、貢献実感を味わってほしいんです。
そうすることによって、「俺って」「もしかしたら私って」「マネジメントできるかも」とか「リーダーシップって難しく考えていたけども、人への影響力と考えれば、これは男女関係ないわけだし、年齢も関係ないわけだし」と。
「何が大切かがわかれば、本当に人は動いてくれるんだな。協力してくれるんだな」という体験を、ぜひしておくということは大切だと思います。
マネジメントをアップデートする
「マネジメントは難しそう」ということに関しては、ステップがあります。マネジメントの基礎、基本はやる必要があると思います。
従来のマネジメントの思い込みの強い方々、また、大先輩たちを見ながら「マネジメントとはこうなのかな?」と思っていらっしゃる方々に対して、今の時代はマネジメントの高度化が非常に求められていますから。
ですから、どこかの場面でマネジメントをアップデートする、高度化させていく。マネジメントを最新版に更新していく。こういう支援をしていくというような意図を持った教育体系があると、(スライドの)1番と2番と3番が絡まり合って、1番上の段の心理が徐々に右の流れになっていく。また、そういう流れにいくように組み立てていくことができればなというのが今回の処方箋でございます。
一つひとつ詳しく話すとこれだけの時間では終わりませんので、(今回は)このぐらいにしておきたいと思います。