【3行要約】・ 職場での心理学の活用が増えていますが、「思考の柔軟性」と「個人の強み」を活かすアプローチはまだ十分に浸透していません。
・そんな中、ポジティブ心理学の「今、幸せを感じた結果、努力をして成功につながる」という考え方が注目されています。
・ビジネスパーソンは自分の強みを確認し、それを現在の仕事に活かす方法を見つけることで、より充実した「自分らしい働き方」を実現できるでしょう。
前回の記事はこちら 思考の書き換えは1on1でも使える
高野聡子氏:こちらは思考の柔軟性を高めるATCというものなんですけれども、例えばこの思考方法を上司の方が身に付けていることによって、逆に1on1や個人面談の中でも使うことができます。要は、部下の話を書き換えてみることによって、より生産的な感情を生み出すということです。

例えば、「部下が新しい行動にチャレンジしようとしない」という前提での1on1面談です。少し会話例を読み上げてまいります。上司の方が「今度、プロジェクトリーダーに推薦しようと思うんだけど、どうかな?」と。「いえ、私なんて、自信がありません」「自信がないんだね。何に対して自信がないの?」「私、これまでにリーダー経験がないですし、うまくできないとみんなに迷惑を掛けてしまうから」。
「なるほど、迷惑を掛けてしまうのではと考えて、不安になっているということかな」「はい、そうですね」「じゃあさ、どんなふうに考えたら、『がんばろう!』という気持ちになると思う?」「どんなふうにですか? う~ん、『私ならできる!』ですかね」「いいね! そんなふうに考えてみたらどう?」
「はい……確かにそんなふうに考えてみたら、なんだか前向きな気持ちになってきました」「そうそう! 考えを変えると感情も変わってくるよね。私もサポートするから、がんばってみよう!」。こんなふうに、うまくいくかどうかはちょっとわからないところではあるんですけれども。
実際にミーティングの中ですとか、例えば「○○さんだったらどう考えるか、考えてみたらどうかな?」とか、「もっとポジティブに考えたらどうかな?」「もっとこれが大変なことになると考えたらどうかな?」ですとか。または、「この仕組み上、何か問題があったと考えてみたらどうかな?」とか、いろいろな思考の選択肢を持っておくことは、非常に重要になってきます。
「良い生き方」を定義することが必要
どうしても1つのやり方にこだわったり、多面的なものの見方ができないと、「こうなったら、こうなって、終わりだな」と思い込んでしまいます。そうすると、その人の中でどんどんドツボに入り込んでしまうんですけれども。「じゃあ今、私がこういう気持ちになったのは、その背景には何を考えたからなのかな?」。そういうことを考えてみるだけでも違ってきます。

その認識は、その人が持っている認識であって、事実ではないということです。だから、いろいろ考えてみることによって、一番生産性を発揮するやり方を考えてもらう。これが思考の柔軟性を高める考え方の1つ、ATCモデルでした。
もう1つ、ご紹介させていただきます。実際に落ちてしまった、マイナスになったものをゼロベースまで持ってくるのは、今の思考の柔軟性、ATCモデルをご紹介させていただきました。じゃあ、何かに継続的に向かって成長していく、ポジティブにがんばっていく「ポジティブ感情」という言葉が重要となってきます。
ポジティブ感情は、その人が幸せに感じる気持ちではあるんですけれども、ここでご紹介するのは「VIA」というツールです。要は、その人が幸せに感じるにはどうすればいいのかなと。VIA(Value In Action)という言葉の略称です。単純に言うと、生き方の原則です。

そして、これはポジティブ心理学の研究の一環で開発された診断ツールです。ポジティブ心理学は、ここ最近非常に注目されている考え方ではございますけれども。もともと心理学の分野は、先ほどご紹介した、「マイナスからいかにゼロにするか」が一般的な心理学でした。
アルバート・エリス博士等が提唱したポジティブ心理学はそうではなくて、より良く生きるためにはどうすればいいのかなと。特に以前ですと、「努力すれば成果が出て、いつかは幸せにつながっていく。だから、今はつらくても努力するんだよ」という言い方が、私の世代なんかはまさに当たり前だったかなと思うんですけども。
ところが、ポジティブ心理学は、「今幸せを感じた結果、努力をして、それが成功につながっていきますよ」という考え方だそうです。じゃあ、今普通の方々が、より良く生きていくためにはどうすればいいのかなと。それを考えるのがポジティブ心理学です。「良い生き方」を定義することが必要なんじゃないかなと。
人の特徴を見極めるための6カテゴリー
じゃあ、「良い生き方」ってどんな生き方なの? それを洗い出してみたのが、VIAの「キャラクター・ストレングス」です。日本語では「徳性の強み」という言い方をしています。「徳」の字が、人徳の「徳」で書いてあるのが特徴でございます。
どういうことかと言いますと、VIAの項目は、国や人種を超えて、普遍的に誰もが「良い」と感じる「美徳」を集めたものです。いわゆる世の中の美徳と言われているものです。哲学ですとか、精神学ですとか、宗教ですとか、日本の武士道なんかもその中に入っているそうです。いろいろな美徳と言われる考え方を抽出して、まとめたのがVIAです。
そして、自分が人生において大事にしたい価値観、自分の軸が何かを確認する。多くの診断ツールと異なる点としましては、VIAの強みを発揮すると、充実感や満足感が高まるということではないかなと思っています。
いろいろなアセスメントツールがあるかと思うんですけれども、「その人の特徴」は出てきても、その特徴を使うことによって、「その人が幸せになるか?」という観点はないかと思います。「その人を定義づける」ことではあるかと思うんですけれども、じゃあその人がその強みを使うことによって、より幸せになれるのか? 幸せな気持ちになれるのかな? というところが、VIAの大事なポイントです。
どんなカテゴリーがあるかと言いますと、6つのカテゴリーで、24の項目で分かれています。カテゴリー分けされている内容は、よく映画ですとか、そんな副題にありそうなところです。大きなところで「知識と知恵」ですとか、「勇気」「人間性」「正義」「節制」「超越性」。こんなところでカテゴライズされていまして、それぞれ細かい定義付けされた文言が入っています。
セルフディベートで自分らしさを深く考える
ちょっと小さくて恐縮なんですけれども、こんな24の項目がございます。創造性、好奇心、知的柔軟性。こちらの知的柔軟性は、「物事をあらゆる側面から検討する」とありますが、例えば何か提案する時に、セルフディベートしてみるとか、より良く、深く深く考えていくことですね。

向学心、大局観、勇敢さ、忍耐力。これは始めたことを最後まで一生懸命やり通す。何かしらやり遂げる。「つらくてもつらくても、やり遂げるのが楽しい。つらければつらいほど楽しい」と思うのが忍耐力と言われています。
そして、誠実さ、熱意、愛情、親切心、社会的知性。社会的知性は、他の人の気持ち・感情によく気づいて動いていくことですね。人の機微を見抜くと言ったらわかりやすいかなと思います。
そして、チームワーク、公平さ、リーダーシップ。リーダーシップは、いろいろな定義があると思いますけれども、どちらかと言うと、小集団でのリーダーシップをイメージいただければなと思います。
そして、寛容さ、慎み深さ、思慮深さ、自律心、審美眼、感謝、希望、ユーモア、スピリチュアリティ。スピリチュアリティはちょっとわかりにくいと思うんですけれども、何か信念とか、そういったものを大事にしているのがスピリチュアリティの意味合いです。
ある診断ツールを使いますと、ご自分自身がどれが一番高いのかなと見ることができます。恐らく、こちらに並べている文言を見ていただいても、「私だったらけっこう、こういう状況だと好きだな」とか、「これはがんばれるな」ということが出てくるかと思います。
自分らしさを活かせた職場とは
例えば私の場合は、こんな結果でございました。創造性、好奇心、向学心、ユーモア、社会的知性が、比較的上位の項目として表れてきました。「こういう強みを発揮しているな」という時には、私の中でやはり、「楽しいな」「幸せだな」「大変でもがんばれるな」と思えるポイントなんですね。
例えば「みんな、がんばろうね」という時でも、がんばりたいポイントって、みなさんそれぞれ違いますよね。例えば私が新入社員の頃、もともと親会社のビジネスコンサルタントで営業配属でした。営業配属で、まず初めに何を言われるかと言うと、「1日5面談の飛び込み面談を、まずはやっていらっしゃいね」。当時はそんな時代だったんですね。
そして「やれよ」と。やらないと大変な目に遭ったんです。がんばってやろうとは思うんですけれど、どうにもこうにも楽しいと思えないんですよ。ちょっと視点を変えて、うまいことはないかなと。いろいろなお客さま先にお伺いすると、お客さまからいろいろな話が聞けて楽しいなと思いました。
そこで、好奇心が非常に芽生えたわけですね。好奇心が非常に満たされていきました。特に一番何が楽しかったかといいますと、いろいろな組織にお伺いして、特にビジネスコンサルタントの営業は、人材開発部門に営業に行くんですけれども、あえて人材開発部門以外の部門にもお伺いしたんですね。
「人材開発の方はこうおっしゃっているけど、営業部門はこうおっしゃっているな」ですとか、「製造部門はこうおっしゃっているな」と。いろいろなお話を聞くことによって、その会社さんをよりよく知れて、非常におもしろいなと。それで、この会社のビジネスについて、非常に向学心が満たされたりですとか。
「今まで人材開発部門にしか提案していなかった内容を、営業部門に提案したらどんな新しいプログラムができるのかな?」と、創造性なんかも発揮されたりですとか。こういうことをやっている時は、自分の中でも非常に、「自分らしく、生き生き働けているな」と感じることができました。
自分らしさを発揮できる仕事の探し方
ここで申し上げたいのは、まず、どんなに大変でもがんばり続けられるには、「自分は、どういう強みを発揮している時に、一番自分らしく、生き生きとがんばれるのかな?」と考えることが重要となってきます。そのために、まず1つ目は、「自分が発揮できて、生き生きと感じる強みは何かな?」と確認すること。
そしてもう1つは、それを今の仕事に活かすにはどうすればいいか。例えば、先ほどご紹介しましたVIAの強みを職場の仕事で活かす方法ですけれども、まずは自分自身の価値観を確認していきます。例えば今挙げた好奇心、ユーモアとか、創造性ですとか。
「今のお客さまとのやりとりで考えていくならば、こういうことが言えるんじゃないかな?」というものが、いろいろな仕事でそれぞれあると思います。例えば先ほどの審美眼という強みをお持ちの方でしたら、自分が作る書類について、より美しいものを仕上げることに喜びを感じられたりですとか。
例えば、知的柔軟性であるならば、「やはり何かを提案する時に、いろいろな角度から物事を考えてみるといいですね」とか、愛情という強みをお持ちでしたら、「同じチームメンバーの方々と、どう温かく関わっていくのか」。そういったことを考えることで、より「その組織に貢献したい」という意欲を持っていただいたりですとか。
今、自分自身の強みを考えていただいて、その強みを自分の中で活かしていく。「継続的にこの職場で発揮していくためにはどうすればいいのかな?」と考えることができるのが、VIAというツールでございます。