上司は“つなぎ役”に徹する
堀井:あと、僕が聞いてうれしいのは、「自分がいなくても成り立っています」ということです。上司がいちいち「あーだ、こーだ」って方向性を作らなくても、自分がイチ参加者として会議に参加して、メンバーが上手に発散から収束までをやる。それで、必要な時に上司に意見を求めてくる。
私が申し上げているのは「上司は結局、リソースのおすすめ役に徹してくださいね」ということです。それが最終ゴールだと思っているので。
「そのやりたいことだけどさ、ちょっと昔に仕事をやった〇〇さんが持っているから、それをつなごうか?」という、上司は良きおすすめ役に徹すれば、それでメンバーは自分のやりたいことを十分に叶える状態になっている。そういう話を聞くと、すごくうれしいですね。
入江:確かに。そうなるのが理想ですよね。みなさんがそれだけ自由に発言できて、上司が無理やりに押さなくても仕事が進んでいくということですもんね。
堀井:そうなるとメンバーはメンバーで楽しいし、自分が考えてやったことが実現するっていう成長実感(の状態)になっている。なおかつ、上司も上司で、その状態が楽ちんなんですよね(笑)。
対話力というきっかけでwin-winな状態を作るというのは、今、すごく求められていますよね。
ビジネスを越えて役立つ対話力
入江:確かに。もちろんビジネスシーンでも大事ですけれども、普通の人間関係でもいろんな場面で役立つというか、必要な力ですね。
堀井:そう思いますね。僕も2人の子どもがいますけど、本の中にも書いたかな? 積み上げのところで大事なのって、心情の把握なんですね。何が事実かよりも、何が楽しかった、苦しかったという心情を問うから持論化するわけなので。それは子育てにもすごく役立ちます。例えば、私も(子どもに)小学校や幼稚園であったことを聞くんです。
「その中で何が楽しかった?」とか「何が一番最近しんどいの?」って聞くと、子どもが勝手に砂時計の真ん中をつかむ。娘が「あぁ、そっか。私はいろいろと指示をされるとイヤなんだ」みたいな感じで(笑)。それはそれでちょっとね、問題ではあるんですけど(笑)。
入江:(笑)。
堀井:でも、そこから「じゃあ、指示されないためには何をするの?」と問いかけると、「あぁ、わかった。うるさく言われないように自分で予定を立てなきゃね」みたいに自分で行動を導いて。あとは、「この間のご飯の時に言ってたのってやってる?」って、ちょっと確認するだけで行動が変わるとか。まぁ、応用はできますよね。
入江:確かに、子育てのシーンでもそうですよね。それこそ学校の先生とかにも役立ちそうだなと思いましたし、いろいろな場面で対話力が必要になってきますよね。
良い話し合い=激論という印象を捨てる
堀井:やはり、こういう解釈の更新というのが、すごく今の時代とマッチしているなと思うので。「親の言うことが絶対に正しいんだ」とか、僕はぜんぜん正しいとは思わないです。逆に今の子どもって、僕も最近ビックリしているのは、5歳児でも7歳児でも、YouTubeでゲームのやり方を学んで、それで(ゲームの中で)すごいものを作ったりするんですよね。
「はぁ、そういうやり方があるんだ」っていうのは勉強になりますし。そうやって親世代もどんどんリニューアルしていく楽しさは、まさに対話力からの発見があるなと思いますね。
入江:うん。確かに対話する相手だけではなく、自分にとってもメリットしかないというか。
堀井:そう思いますね。逆に、喧々諤々と「ちょっと待った!」とか、机をバーンッと叩くみたいな(笑)。良い話し合いの青写真がそれしかないと、1on1とかでも(その傾向が)出ますし。
「なんで自分が理想としている話し合いと、メンバーの曇った顔がこんなに違うんだろう?」というのは拭えないので。だから、「そこをリセットしてみたらどうですか?」というのも、本の中で触れています。
“ワンマン上司”経験からの学び
入江:堀井さん自身が、「対話力が大事だ!」と思ったきっかけとか、こういったビジネスをされるきっかけはあったんですか?
堀井:ありました。僕自身、対話、議論、あとチームリーディングがめちゃくちゃ下手くそな人間で(笑)。
入江:へー、そうなんですか?
堀井:はい(笑)。「絶対にこうなんだ」とか、「こうするぞ」みたいな感じの、ちょっとワンマン的なやり方で何回も失敗しました。それで人材開発の道に入って、コーチングとかいろいろやったんです。決定的だったのは、ある会社さんで、新規事業を立案するプロジェクトをお手伝いしたんですね。

ものすごく優秀な20代の方が揃っている会社なんですけど、一人ひとりと会うとすごくユニークでおもしろい。だけど組織の会議になると、みんな黙っちゃうんですよ。「なんなんだ、これは?」と思って。「あの、おもしろい話をすればいいのに」と思っても「いや、ちょっとできなかったです」ってなるんですよね。
最初のトレーニングは要約
堀井:「なんでこんなにもったいないことが起きているんだろう?」って思って、組織の力学みたいなこととかを勉強したんですけど、結局、議論と対話をうまく使い分けていなくて。
おもしろいことを言ったとしても、上司が「え? それは本当に正しいの?」とか「それ、誰が言っていたの?」みたいな感じで潰されちゃう。
「あんまり楽しくない議論ばかりの会議だと、絶対にユニークな発想が潰れるよなぁ」っていうところから、いろいろと調べて行き着いたのが「対話」で。僕の過去のチームリーディングに足りなかったのは対話だったんだと思ってですね。そこから徹底的に練習や研究をしたというのが背景です。
入江:そうだったんですね。堀井さん自身にも課題があったということが、今は信じられないですけども。実際に練習という話も先ほどから何度か出ていると思うんですけど、どういったことをして、実際の会議とかに臨むんですか?
堀井:まず真っ先にできることは、相手の言いたいことの要約ですね。コーチングをやっている方には当たり前かもしれないんですけども、これが基礎中の基礎です。
ただ、やってみると意外と疲れる。ご家庭でもできる良いトレーニングで、相手が言ったことを「ふーん」と言ってメモするんじゃなくて、いったんメモ取りは禁止。パソコンも使わない、筆も持たないで、もう全力で(要約する)。「つまり、〇〇さんが言いたいことって、こういうことで合ってる?」という。
それも最初はオウム返しでいいんですけど、発展形は、だんだん相手が言っていない気持ちとか目的を、自分の言葉でちょっと返してみる、というふうにやるのが、まずはおすすめですね。
“自分の理解で返す”を習慣化
入江:確かに。私はアナウンサーとしてずっと働いているのですが、インタビューとか、取材をする時もそういうのはすごく大事なんですよね。
堀井:あぁ、やはりそうなんですね。
入江:通ずるなと思ったんですが、そうやって相手が長く話したものを短くまとめて、相手がより本当に感じていることを付け加えて返すのが必要になるんです。けっこう真剣に深いところまで聞いて、相手の表情ですとか、ちょっとした目の動きまで見ないと言えないことって、けっこう多くて。
堀井:おっしゃる通りです。入江さんも僕も、外部の人間だとやりやすいことってあるんです。社内の人間だと「あ、結局、それってこういうことでしょ?」みたいな感じで(笑)。
入江:ありますね(笑)。
堀井:単純化したり、自分の過去の経験でまとめちゃう。そういう楽をしないで、ちゃんと1回、「つまり、こういう理解で合ってる?」って、まさに新しい解釈で補うというのが練習になりますよね。
入江:みなさん、忙しかったり、疲れていたりするので、つい手短にというか。
堀井:そうです。「結局、疲れてるんでしょ?」みたいに単純化しちゃいますけどね(笑)。
入江:(笑)。
対話力は日々の“筋トレ”で伸ばせる
堀井:それはメンバーからしたら、ちょっと……。ギフトにはなっていないですもんね。
入江:「それ、前と一緒じゃん!」みたいな。
堀井:あー、そうです!
入江:なりがちですよね(笑)。
堀井:そうですね。それは、上司側もちょっと楽をしちゃっているのでね。なので、よく研修の中ではよく「筋トレですよ」って言ったりしています。
入江:なるほど。けっこう、最初は大変な部分があるのかなと思いますが、癖がついていけば少しずつ自分の力になって、いろんなシーンで発揮できるという感じですかね?
堀井:そうですね。これは本当に筋トレだと思っていて。逆に、上司の方はふだんからいろいろ大変だとか、あれこれ考えないといけないんですけど。それを自分の頭の中だけで心配したり処理するんじゃなくて、1回口に出して、キャッチボールしながら解決する。対話力で解釈の更新を行っていくことが、急がば回れだと思いますね。そういう努力のほうにシフトしていきたいなと思っています。
入江:わかりました。今回の「ビジネス・ブック・アカデミー」は、アンドア株式会社代表取締役の堀井悠さんに、対話力をメインでいろいろと教えていただきました。本日はありがとうございました。
堀井:はい。どうもありがとうございました。