【3行要約】
・会議や1on1で「議論」と「対話」を混同し、一方的な正解追求が良いアイデアを消してしまう問題が多くの企業で発生しています。
・アンドア株式会社代表の堀井悠氏は、転職者の4割が「前職でもやりたいことができたかも」と感じており、その原因は対話不足だと指摘します。
・優れたリーダーは「お互いの解釈の更新」を目指し、対話の構造を理解して戦略的に会話を展開することで、チームの生産性向上と人材流出防止を実現できます。
『優れたリーダーはなぜ、対話力を磨くのか?』著者が語る対話力の鍛え方
入江美寿々氏(以下、入江):みなさん、こんにちは。本日の「ビジネス・ブック・アカデミー」は、アンドア株式会社代表取締役の堀井悠さんにお越しいただきました。よろしくお願いいたします。
堀井悠氏(以下、堀井):お願いします。
入江:堀井さんの著書はこちら、『優れたリーダーはなぜ、対話力を磨くのか?』です。今回はこちらの本の内容を元にお話しさせていただきます。お願いいたします。
堀井:はい、お願いします。
入江:私も読ませていただいたんですけれども、テーマは対話力ですね。対話力って、あらためて考える機会が今までなかったので、非常に勉強になりました。
堀井:ありがとうございます。
入江:アンドア株式会社は、この対話力をいろいろな方にアドバイスをしている会社ということでしょうか?
堀井:そうですね。主に企業向けの研修をやらせてもらうんですけれども。結局、行動変容。行動が変わることが研修のゴールです。
じゃあ「なんの行動が変わったらいいの?」を突き詰めると、企業の職場での話し合いだったわけですね。そこにちょっと、よくない癖とか、まじめにやっているんだけれども、もったいない結果になっていることがあって、それで行き着いたのが、この対話力ですね。
入江:本当に対話が大事になってくるということですね。
「議論」は過去の正解探し
堀井:そうですね。対話。議論と対話はぜんぜん違うんですね。
入江:どう違うんですか?
堀井:前提として議論とは、過去の正解を模倣するとか、白・黒で決着をつけるという定義が、けっこう専門書にも書いてありますよね。

つまり、いろんな会社も過去に自社でうまくいった独自技術を、どうやって正確に真似するかが価値の見出し方。そうすると、何が正しいのか、白・黒で決着をつける話し合いが求められる。それが議論なんですけど。
そこを、「正解がない未来に向けて、今の産業が何をやっていこうか」という議論に持っていっちゃうと「それ、本当にエビデンスがあるのか?」とか、「それは誰が言っているんだ!?」みたいな感じで、せっかく未来に向けて話そうというのに、議論しちゃうと良いアイデアが消えちゃうんですね。
入江:確かに。せっかくのものが埋もれてしまうというか。
堀井:そうなんですよ。
入江:部下も諦めてしまいますもんね。
堀井:そんなに正しいことを言わなきゃいけないんだったら「じゃあ、自由にものを言うなんて無理じゃん!」みたいな矛盾が、今、多くの会社で起きていますね。
会議や1on1が“つまらない時間”になる理由
入江:時代の流れとともに求められるコミュニケーションのかたちも、大きく変わっているということですね。
堀井:あぁ、もうまさにおっしゃる通りですね。
入江:上司と部下だと1on1とか、フィードバックですとか。もちろん私たちも会議、ミーティングも日々本当にたくさんあるんですけれど、そういう場面すべてに当てはまりますよね。
堀井:そうなんです。厳密に言うと、そういった会議や1on1って、実は小さな対話と小さな議論が、いろいろと入れ子になって成り立っているんですけれども。まぁ、メンバーが「つまらない会議」とか、「ムダな1on1だった」って文句を言うものは、だいたい頭から最後までずっと議論モードだけっていうのが多いんですよね。
入江:なかなかその場で発言が出ず、上司側としてもいい話を引き出せずに終わって、部下同士で大事な話をしている場面もよく見るかなと思うんですが(笑)。そうなってしまうと、もったいないですよね。
堀井:おっしゃる通りですね。だから1回、2回そういった「なんだったんだ、この時間」っていう会議や1on1を経験しちゃうと、上司との1on1の信頼度が下がっちゃうわけですよね。重要性が下がるということは「すみません、別件でもっと大事な用事があるんで」って言って、行き着く先が、リスケばかりされるような(笑)。上司とかハイパフォーマーだけがいない、あまり生産的ではない会議という、一番かわいそうな結末になってますね。
転職者の10人中4人が「前職でやりたいことができたかも」
入江:良い関係が築けなかったり、信頼関係がないとなると、できる人ほど離れてしまうような。上司を本当の意味では信頼せずに、自己解決しようみたいな方向に行ってしまうイメージがありますね。
堀井:だから属人化するんですよね。「私は私でやる」とか「誰々さんは、誰々さんに習っているから知っている」みたいに。そうすると、もう個人商店化しちゃって「なんのための組織なの?」というのがわからなくなっちゃうんですね。
入江:そういう方が転職してしまったりすると、会社としての成長にもつながらないですもんね。
堀井:そうです。おっしゃる通り。これは僕が最近、ちょっと興味を持って分析しているものなんですが、転職した人の10人に4人は、実は「前職でもやりたいことができたかも」と思っている人なんですよ。
入江:えー!?
対話のゴールは“解釈の更新”
堀井:(笑)。なんだけれども、「じゃあ、なんで転職しちゃったの?」というと、もう圧倒的な対話不足ですね。
「それだったら、うちの会社でこういうプロジェクトをやっている人がいたから、ちょっとつなごうか?」という対話ができていれば、その10人中4人は、もしかしたらぜんぜん活躍できていたかもしれない。やはり、そういうもったいないことも起きちゃいますね。
入江:いやぁ、かなりの損失ですよね。対話といっても、良い対話というのがパッとわからないという方も多いと思うんですが。悪い例と良い例と、どういったものがあるのでしょうか?
堀井:ありがとうございます。「対話の定義とか、ゴールって何?」を一言で言うと、お互いの解釈の更新(が起きること)。
つまり、上司側もメンバー側も「この1時間で話をして、ちょっと気づいたわ。これはこういうことなんだよね」とか、「今まで勘違いしていたかも。ありがとう、すごくいいことを教えてくれた」みたいに、解釈と解釈が混ざり合ったところに共通認識とか、共感というのは生まれるんですけれど。
“解釈の更新”は押しつけるものではない
堀井:良くない対話は、これが片一方だけだったりとか、お互いにないということですよね? よくあるのが、上司は「もう絶対にこうなんだ」と、解釈が変わらない。それで「君の考えを変えてほしい!」みたいなものですね。

「君は絶対に5年後は管理職になるんだよ!」みたいに(笑)。そういった、上司の解釈は変わらないのに、メンバーの解釈だけを変えようとがんばっちゃう面談は、もう明らかな失敗例ですよね。
入江:確かに、上司の世代と、今の20代の方ですと、求めているものもぜんぜん違いますもんね。
堀井:ぜんぜん違いますね。しかも、今の20代の方は情報感度がすごく優れているので。例えば30代、40代の方が経験したことが、自分にそのまま当てはまるわけがないってわかっているわけですよね。
にもかかわらず「私がこうだったから、あなたもこうしたほうがいいんじゃない?」とか、「私も20代はこうだったから、君もこうだよね」といった一言でげんなりするとか、ヒアリングでよく聞く話ですよね。
入江:そうなってしまうと、もう「話が通じない上司だな」って思ってしまいますよね。
堀井:そうなんです。しかも、まじめな上司ほど、やってしまうんですよね。
入江:そういうものなんですか?
まじめさが圧になってしまう1on1の例
堀井:やはり、まじめな上司ほど「ちゃんと伝えなきゃいけない」と思ってしまう。1on1も、例えば会社の方針で「週に何時間やりましょう」となると、ちゃんと守るという、すばらしい上司の方がいるんですけど。
逆にそういう「ちゃんとやらなきゃ、話さなきゃ」っていう方が対話力に触れていないと、やはり、強引にメンバーの考え方を変えようとか、なんとかして自分の経験則で支援しようという圧になっちゃって。

それゆえに、やればやるほどメンバーから嫌われちゃうという、残念なことになったりしますね。
入江:うーん。上司の立場としても切ないですね。
堀井:これは本当にかわいそうですね。
入江:そうですよね。がんばっているのに嫌われていくということですもんね。
堀井:そうです。やはりそういった姿を見て、若手の方も「あぁ、管理職になるって大変なんだ」っていうネガティブブランディングがされちゃうと、組織としてもけっこう危ない状況になっちゃいますよね。
対話の“型”を身につける
入江:確かに。逆に良い例、対話力があるリーダーはどういった感じでしょうか?
堀井:そうですね。対話力がある方は、大きくポイントとしては対話の型を知っているんですね。対話の型っていうのは、本の中でもちょっと触れていますけど「きっかけ砂時計」。つまり、今は何を話し合っているのかっていう、頭の中で現在地がわかっている。話し合いのナビゲーションですね。
あと、今は発散モードだから、あえてできるかできないかは置いておいて「それって、つまりどういうこと?」って、ちょっと膨らまそうとか。
「あ、まずい。あと20分だから収束させなきゃ。じゃあ判断軸は何にして、それに当てはめて、(優先事項を)ランキングしたらどうなる?」みたいに、まず話の地図が入っていて、そこに応じて問いを投げて、自分も含めてその解釈の更新を楽しむ。これが優れた対話力のある人ですね。
入江:じゃあ、ただ漠然と話し始めるのではなくて、きちんとその型を自分の中で落とし込んで、構造として考えて話すという感じですかね?
堀井:そうですね。だから対話力がある人というのは、けっこう戦略家なんですよね。