定型業務がAIに置き換わる時代に若手はどう育つべきか
土屋:こういう議論になると、やはり「ある程度経験値がある人のほうが有利だよね」という話になりますよね。生成AIから出てきた答えが合っているか、間違っているかの判断ができる、知見がある人のほうが得をする。となると、「ジュニアはこれからどうすればいいの?」という問いが出てきますよね。
司会者:めちゃくちゃ出てきますね(笑)。
土屋:そうですよね。反復的な仕事はどんどん生成AIに取られていく中で、「じゃあジュニアは、どう育つべきなのか?」という。
山口:できるかどうかは人によるとは思いますが、デジタルの強みって、AIの登場以前から「数字でフィードバックが得られること」にあると思うんですよね。
僕の世代は、デジタルの黎明期から仕事をしてきたんですが、昔と比べて、明らかに「よかったか悪かったか」の結果が可視化されるようになった。それって若い人にとっては、すごく育ちやすい環境だったと思うんです。
さらにAIが登場すると、その“試行回数”をもっと増やせる。つまり、フィードバックから学べる力がある人は、成長のスピードがより加速するだろうと期待しています。
ここでいう「学習能力」って、単に1つのフィードバックから学ぶというより、数字や結果、複数のフィードバックを通して「意味を読み取る力」ですね。そこが高い人は、過去とは比較にならないほど成長できる時代になると思います。まさに“知の高速道路”みたいな話ですよね。
たしか将棋でもそうでしたけど、AIの登場によって、「20代半ばだからジュニアだよね」って思っていた人が、実は40代よりもずっと多くのPDCAを回していて、場数で圧倒しているというケースも出てくるんじゃないかと思うんです。
土屋:それは、確実に起こり得ますよね。
山口:場数と学習力で成長曲線は変わるので。
土屋:あと、こういう話になるとよく出るのが、「結局、Howの部分って生成AIに代替されるよね」という話で。だからこそ、ジュニア人材が「一緒に働きたい」と思われる存在になることの重要性が、どんどん増していくなと感じています。
やっぱり“人間力”とか“人間性”、あとは“可愛がられる力”みたいなものですね。そういう要素を磨くことが、これからはより重要になってくるという話はよく出ますよね。
山口:そうですね。
AI時代に伸びるジュニア人材の条件は顧客接点と試行回数
山口:あと、ジュニアだからといって時間がたっぷりあるわけじゃなくて、むしろ作業に追われているという話もよくあります。
昔は、上司が自分で取りに行けなかった情報を、若手が収集してカバーするという役割がありましたよね。20年前とかだと、雑誌やテレビ、新聞をチェックして、上司に「今、あれどうなってる?」と聞かれた時に、「それはこの媒体でこう書いてありました」と即答できる人が、“気が利く優秀な若手”とされていた時代もあったと思うんですよ(笑)。
でも今って、上司もネットで簡単に情報を取れる時代になってしまった。だからこそ、僕は「会う回数を増やすこと」が、若手が差別化できる1つのポイントになるんじゃないかと思うんです。
土屋:確かに。
山口:結局、上司側も同じで、ビジネス知識や顧客理解でジュニアより優れていないと、「そのポジションにいる意味がない」となってしまいます。だからこそ、リアルな顧客と多く接して、具体的な判断軸を持ってディレクションできるかどうか。
ジュニア側も顧客と会っていれば、提案や判断に説得力が出ますよね。「いや、これは刺さらないと思います。なぜなら先日、あるお客さまからこういう言葉を聞いたからです」と言える。そういうことが言える人のほうが、これからは強くなっていくんじゃないかという持論を僕は持っています。
AIに触れなければ置いていかれる怖さ
土屋:あともう1つあるとすると、これはわりと普遍的な構造なんですが、変化が起きる時って、やはりいろんな新しいツールが登場するじゃないですか。その時に、やっぱり若手のほうが早く使い始めるケースが多いというのは、昔から変わっていないなと感じます。
だから我々も40代になってくると、新しいツールにアンテナを張って、いち早く試す。そういう姿勢が大事なのに、「それは若手にやらせておけばいいよね」みたいな感覚になってきたら……。あぁ、こうやって“老害”って生まれていくんだなという(笑)。
山口:(笑)。
司会者:いやいや(笑)。
土屋:たぶん山口さんとか、僕らが若かった時代って、最初に広告まわりのツールとかを探してきていたのは、若手だったじゃないですか。で、上司はそれをよくわかっていない。
山口:そうそう(笑)。
土屋:それに対して若手がプレゼンして導入を進めるというのを、当時やっていたんですよね。それって結局、構造的にはAIの時代になっても同じことが起きるんじゃないかな、という気がします。
山口:すごく雑に言うと、今のAIって、パソコンが職場に入ってきた時と同じなんじゃないかって思うんですよ(笑)。「パソコンいじれない上司はもうダメでしょ」って言われていたあの時代と、構造がまったく同じになっていく気がしますね。
土屋:ほんとに。構造的に一緒になるなって、思ってしまいますよね(笑)。インターネットが使えない、触れないっていうのとまったく同じ。
山口:(AIに)触れなければ、“老害側”になってしまう怖さがあります。そういう意味で、まずはAIの使い方の前に、AIをしっかり使っているかどうかの視点でログイン回数をKPIにして、「ログイン回数をIDで追う」みたいな運用は大組織では意外と正しい気がしますよね。
土屋:いや、ほんとそうですよね。
ChatGPT経由で問い合わせが生まれた実例
司会者:確かに、それめちゃくちゃ効いてきそうなKPIですね(笑)。今のお話をまとめると、ジュニアがこれから勝っていくためには、シニアにできないことをやる、つまりシニアが時間を使えないところに、時間を投資していく。どんどん、彼らが持っていないものを自分が提供できるようになることで、成長につながっていくということですよね。
あとは……「いい奴である」というか(笑)、一緒に働いていて気持ちのいい人であること。そういうのは、普遍的な価値として残っていくというか。
土屋:まさに(笑)。
司会者:逆に、シニアというか、先輩がたの側で見ても、AIだったり新しいツールにいち早く飛びついて、実際に触ってみるという姿勢が差別化になっていく、ということですよね?
土屋:それは、そうだと思いますね。
山口:間違いないですね。転職を考えるにしても、「AIがわかりません」「触れません」では、もう厳しい。例えば、CXOクラスでAIが使えないとなると、それは相当キツい気がします。
司会者:そうですね。
土屋:そういえば思い出したんですけど、2024年の夏ごろ、LinkedInで、ある超有名な損保系の会社のCMOの方から、直接ダイレクトメッセージが届いたんです。それがきっかけで、実際に商談に発展したんですよ。まったく面識のない方だったんですが。
最初の商談は、当然僕が出ました。「どうやってグッドパッチのことを知ってくださったんですか?」と聞いたら、「生成AIに聞きました」とおっしゃったんです。
司会者:えー!?
土屋:「ChatGPTに聞いたら、御社が出てきた」と言われて。つまり、その損保の大手企業のCMOの方が、ChatGPTを使ってUI/UX系の会社を調べて、うちに問い合わせをしてきたという流れなんです。
司会者:すさまじいですね。
土屋:すごいですよね。やはり、そういう方は感度が高い。
司会者:いやー、間違いないですね。
山口:高いですね。
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