【3行要約】
・生成AIの普及により、マーケティング組織の人材需要が大きく変化――従来の10人体制が5人で回せる時代が到来しています。
・グロースX山口氏は「AI活用で試行錯誤の回数が圧倒的に増える」と指摘。一方で使いこなせるCMOは全体の1割未満という現実があります。
・企業は効率化による人員削減圧力と、AI時代に適応した新しいマーケティング組織設計の両立を迫られています。
グロースXの山口義宏氏が登壇
司会者:まず最初に自己紹介と会社紹介をしていただきたいと思います。最初に山口さん、お願いいたします。
山口義宏氏(以下、山口):私はグロースXで取締役COOを担っております、山口と申します。

こちらに略歴がありますが、約二十数年、マーケティング絡みの仕事をしていて、2022年からグロースXの取締役COOを、自分が創業したインサイトフォースというブランド・マーケティングのコンサルティング会社の取締役と兼務でやっています。
グロースXが何をやっているかというのが、今日のお話の背景になると思いますが、マーケティングとAIの企画・活用できる人材を増やす育成をやっています。マーケティングの全体感ある基礎の底上げを目的にしたe-ラーニングのアプリ学習と、月1回のビデオミーティングでの振り返りワークショップを組み合わせたパッケージで提供しています。
600社以上に導入いただき、その中の2万3,000人以上が育成対象になったという実績があります。人材育成の視点から600社以上のお付き合いを通じて見えてきたことや、自社内のマーケティングチーム運営から感じることなど、いろいろとお話しさせていただければと思います。
“マーケ部門なし”で上場したグッドパッチの土屋尚史氏
司会者:続いて土屋さんからも自己紹介と会社紹介をお願いいたします。
土屋尚史氏(以下、土屋):グッドパッチの土屋と申します。僕はグッドパッチという会社を経営していまして、2011年に起業し、もうすぐ丸14年になります。

グッドパッチは、もともとはUI/UXといったデザインの領域からスタートし、今は少しずつその幅を広げています。創業期にはGunosyさんやマネーフォワードさんのご支援をさせていただき、そこから会社が大きくなっていきました。
2020年には、当時のマザーズ、現在の東証グロース市場に、国内のデザイン会社としては初めて上場しています。少し特徴的なプロフィールとしては、上場企業の経営者をしながら、丸井グループでもChief DX Officerを務めています。そうしたかたちで、二足のわらじを履きながら活動しています。
グッドパッチという会社がどういう会社かというと、現在はUX、つまり顧客体験を起点に、さまざまな企業さまの企業変革に携わるデザインカンパニーとなっています。

これまでに、全部で1,600件以上のプロジェクトに携わってきています。さまざまな企業さまの新規事業や顧客体験、UXの改善といった領域から関わらせていただき、企業変革のご支援をしてきました。
実は、我々はマーケティングの組織を上場後に立ち上げたという経緯があります。上場まではマーケティング組織を持たずにやってきたんですね……。正確に言うと、僕自身がマーケをやっていたんですけども(笑)。
ですので、いわゆる「マーケティング部門」がないまま上場し、そこからあらためてマーケ組織を作って運用を始めたという状況です。なので今日は、どちらかというと山口さんにいろいろと教えを乞う立場で参加させていただければと思っています。
生成AIで“60〜70点の叩き台”を即量産し試行回数が大幅に増える
司会者:ここからは、パネルディスカッションのパートに入っていければと思います。
今回のセッションのタイトルは、「生成AI時代にマーケティング組織をどうデザインするべきか?」というものです。最初のテーマは、「生成AIを使いこなすCMOと、そうでないCMOの間にはどのような差分が生まれるのか?」という点です。
このテーマを見た時に、私自身が最初に思ったのが、「そもそも生成AIを使いこなせているCMOって、どんな感じなんだろう?」ということでした。また、「自分はどちら側なのか?」と気になっている方もいらっしゃるのではないかと思います。ではこの点について、まず山口さんからお話しいただけますでしょうか?
山口:僕は、グロースXでの役職は直接マーケティング部門を統括しているCMOではなく、管掌領域にマーケティング部門が含まれるCOOという立場なので、マーケティング部門やカスタマーサクセス部門でAIを使いこなしているメンバーたちの活用から刺激や学びをもらったり、逆に社外の導入企業でそこまでAIを使っていない方々にも触れることがある立場にあります。
そうした視点で見ると、やはり圧倒的に作業速度が上がるという点が大きいです。AI活用で「何が一番、大きな差につながる要素なのか?」と考えることがありますが、それはやはり“仮説を立てること”と、“仮説から具体的な施策に落とし込むまでのスピード”だと思います。
例えば「こういう方向でやったほうがいいよね」「このWhoとWhatで進めたらいいよね」といった議論があったあとに、メルマガやランディングページを作る、あるいは他の施策を実行する時、その“叩き台”をつくる速度が圧倒的に違います。
いきなり100点のものは当然できませんが、60点とか70点くらいの“それっぽいもの”はすぐに出せるようになる。考えたことを実行するまでの時間的工数が大きく圧縮されるので、より少ない人数で、より多くの仮説と施策を素早く回すことができる。つまり、試行錯誤の回数が圧倒的に増えるんです。これは大きな差分だと感じています。
現時点のAI活用は“効果”より“効率”が先行
山口:ただ、逆に言えば、AIが“すごく深い思考をして、的確に顧客インサイトを射抜くようなコンバージョンする施策”を一発で作ってくれるわけではありません。AIだけを使っていても、それっぽい見栄えで成果にそこまでつながらないアウトプットになるのも事実です。
人間の思考は依然として重要であり、そうした意味で見ると、現時点ではAI活用がもたらすのは主に“効果”よりも“効率”のほうだと思っています。
効率を上げるという点では、まさに100人力、10人力のすごい仕組みだなと思いながら、自社でも使っていますし、自分が直接関わりのあるインサイトフォースのクライアント企業やグロースXの人材育成導入企業でも積極的に活用を推奨しています。