これでイイのか?! 昇進を拒むリーダー “受け身なリーダー職”が増える心理的背景と解決策(全2記事)
「部長が同じ得意先を握り続ける」は大問題? 次世代管理職が育たない理由と育成のポイント
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【3行要約】・昇進を拒むリーダーの問題は、主体性の欠如と管理業務への理解不足から生じています。
・高桑由樹氏は主体性を「自分事として捉え影響を及ぼす力」と定義し、権限委譲による段階的な育成が必要だと説きます。
・企業は年功序列を見直し、役割の明確化と権限委譲を進めることで、リーダーの主体性を高め、昇進拒否問題を解決することができるでしょう。
前回の記事はこちら 主体性は5段階で高まる
高桑由樹氏: ここまでを踏まえると、昇進を拒むリーダーは、主体性が不足しているからこそ昇進を拒むのです。問題の原因はリーダー自身の主体性不足にあり、これを解決するには主体性を高める教育・育成が必要になります。
ここからは、昇進ハードルを下げるマネジメント、つまりリーダーの主体性を高めるマネジメントに入ります。主体性は一朝一夕に身につくものではないため、段階的に引き上げる必要があります。
ここで主体性のステップを1から5まで示します。

ステップ1は指示された内容を行動に移せることで、これはまさに自主性の範囲です。ステップ2は経験を基に自分で判断して動けることで、自主性から一歩踏み出した状態です。
ステップ3は未経験の領域でも、自分の判断や経験をもとに行動できることで、ここまで来ると主体性が発揮されていると言えます。ステップ4は自分の業務範囲を超えて他部署に影響を及ぼせる状態、ステップ5は全社視点を持って社会に影響を及ぼせる状態です。
このステップを踏まえ、みなさんの組織ではどの段階に課題があるのかを見極め、適切なマネジメント施策を検討していただきたいと思います。
主体性とは本質的に「未経験の領域でも自分事として捉え、自ら発案し影響を及ぼす」ことです。自分の業務範囲じゃないところ、自分の守備範囲じゃないところでも自分事として考え、自分で発案して影響を及ぼしていきます。
ステップ4や5を見ると、組織を経営する人材はまさに主体性を発揮しており、自主性だけでは対応できない領域に踏み込んでいます。多くの会社は一般社員にまず自主性を期待しますが、次世代の経営人材を育成するには主体性をもつ人材を意図的に育てる必要があります。
主体性を高める7つのステップ
では具体的にどう引き上げるか。主体性は「躊躇なく動ける状態」ともいえます。視野が広がり、自分で判断してすいすいと動ける状態です。その状態をつくるには、その人に判断基準をインストールするマネジメントが必要です。この判断基準を与える手法として最も有効なのが権限委譲です。
権限委譲は、それ自体が主体性を高めるステップであり、スライドの①から⑦までの進め方を踏むことで、その人の主体性を引き上げることができます。

まずは事業の意義への共感、目標や判断基準、指示のわかりやすさといった「わかりやすさ」を整えることが重要です。
主体性とは「自分で考え、自分で動く」ことですが、方向性が組織と一致していなければただの独断に終わります。そのため、価値ある主体性を発揮させるには、ビジョンを共有し判断基準をそろえることが欠かせません。
ここまでで判断基準が頭で理解できるようになると、⑤です。まずは「ちょっとやってみなさい」と仕事を任せることで、自分で手を動かし、血肉化する機会をつくります。体験から得た知見が素養を高め、主体性の土台となるわけです。
この段階で特に重要なのは、未経験の仕事に挑戦させる勇気を持つことです。上司としては、部下が失敗しても見守りつつ、⑥の「部下の理解が乏しい点を補足」で、不足している情報や判断基準を補い、自分で動ける環境を整える必要があります。
こうして判断基準が腑に落ち、実践から得た小さな成功体験を重ねることで、自信や自己効力感が芽生え、はじめて主体性が発揮されます。つまり、権限委譲は主体性を引き出すマネジメントそのものです。
特に「管理職は忙しそう」「大変そう」というイメージが昇進拒否の一因となっている以上、リーダーに実際の仕事を任せ、主体的に動く機会を増やすことで、管理職の業務環境になじませることが不可欠です。これが権限委譲による環境整備なのです。
部長が同じ得意先を握り続けるのは大問題?
権限委譲は重要ですが、多くの企業では管理職が仕事を抱え込んでしまい、なかなか進まないのが実情です。その背景を踏まえておくことが、主体性を高めるために欠かせません。

まず、そもそも委譲できないケースとしては、(1)の引き継ぐ相手がいなかったり、(2)の上司自身が自分の業務をうまく説明できなかったりします。
一方で、上司が「任せたくない」と感じる場合もあります。(3)のように、部下に仕事を任せると失敗の責任を自分が負うことになるから避けたい。あるいは、(4)自分が次に何をすればいいかが見えず仕事の手放しに不安を抱く。だから渡せない。
そして(5)の、自分の立場を守るために仕事を手放したくない。「これを渡しちゃうと俺の立場がなくなるんじゃないの?」みたいなものですね。例えば、営業部長が特定の得意先を自ら担当し続けるのも、こうした「自分の役割を失いたくない」という思いが背景にあります。「この得意先を持っているから俺は偉いんだ」みたいなね。
このような理由で、権限委譲が進まない限り、部下の主体性は育ちません。したがって、まずは上司自身が仕事を渡すことへの抵抗を解消し、安心して任せられる体制を整えることがマネジメントの大きな課題となります。
なぜ上司は部下に仕事を渡せないのか
これを解決するには、なぜこのような状況が生まれているのかをもう少し見ていく必要があります。
特に(5)の「自分の立ち位置を保持したい」という心理の背景には、「職位や役職=個人の権利やアイデンティティ」という社風がある場合があります。

しかし、本来の職位とは職務範囲の広さや責任の重さを示すものです。それが「自分らしさ」と混同されてしまうのです。
みなさんの周りにも、課長代理や本部長、副本部長、本部長代理など、役職が乱立して誰が偉いのかわからず、かつ仕事内容の違いも見えないケースがありませんか。こうした形ばかりの職位は管理職の面子を保つためのものであり、役職を手放すと立場を失うという恐れから、上司は部下に仕事を渡せなくなります。その結果、権限委譲が進まず、主体性の育成も進まない原因となっているのです。
また、日本の多くの企業は年功序列的な評価制度を採用しており、その結果、実力や生産性に合わずに役職だけが上がってしまうこともあります。職位と実態の乖離が、さらに権限委譲の障害となっているわけです。

しかし、このまま年功序列的な評価制度や職位の乱立が続くと、権限委譲はますます進まず、主体性も育ちません。がんばっても報酬や評価に反映されない仕組みでは、社員が仕事を「自分事と捉えてがんばろう」と思いにくいためです。
したがって、生産性と報酬を連動させる仕組みを整備し、業績に応じた正当な評価が得られる土壌を作ることが不可欠です。これによって上司は権限委譲を安心して行うことができ、仕事を任せられた部下は主体性が高まり、昇進へのハードルが自然と低くなります。
権限委譲で「管理職になりたくない」を減らす
では、ここまでの内容を振り返ります。

昇進を拒むリーダーの現象としては、管理業務の実態が見えず「大変そう」と感じること、リーダー職と管理職で求められる能力が異なり「自分にはできなさそう」と思うことが挙げられました。
これらの問題が起こる原因は、各ポジションに必要な業務内容や素養が明確化されておらず、役職と役割が紐付かない組織体制ができあがっているためです。職位だけが与えられ、「成果に関わらず、評価される」という人事制度がまかり通る結果、具体的な業務要件や判断基準が共有されないまま役職だけが先に進んでしまっているのです。
これを解決するには、まず年功序列を見直し、生産性と報酬を連動させることが必要です。そのためには各ポジションに求められる役割や素養を明確に定義し、生産性を適切に測定して報酬に反映する仕組みを構築しなければなりません。
役割が具体化されることで、管理職は職位をアイデンティティと混同せず安心して権限委譲を進められるようになりますし、「ポジションを越えて、次の仕事を担当すれば報酬が上がる」という経験と報酬の連動が、部下の主体的な挑戦を促します。
次に、リーダー職に在籍しながら管理業務への理解を深めさせ、未経験の領域でトライさせる機会を設けることで、主体性を育みます。こうした権限委譲を通じた経験の積み重ねが、管理職へのハードルを下げ、「管理職になりたくない」という声を自然と減少させるのです。
生産性と報酬の連動と、権限委譲によってリーダーの経験を豊かにし、管理業務への理解と主体性を高めるマネジメントこそが、「昇進を拒むリーダー問題」を解決する鍵となります。本日のセミナーは以上です。ありがとうございました。 続きを読むには会員登録
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