【3行要約】
・管理職への昇進を望まない若手が増加し、「管理職の罰ゲーム化」という現象が多くの企業で問題となっています。
・社会の変化が激しくなり上司の指示だけでは対応できなくなった現在、リーダーには「主体性」が求められるようになりました。
・企業は管理職の役割を明確化し、主体性と自主性の違いを理解した上で、計画的な人材育成に取り組むべきです。
なぜ若手は“自分は管理職に向いていない”と思うのか?
高桑由樹氏:それでは、「これでイイのか?! 昇進を拒むリーダー “受け身なリーダー職”が増える心理的背景と解決策」を進めてまいります。よろしくお願いいたします。
まず、今回のセミナーの狙いです。最近、「管理職の罰ゲーム化」みたいな言葉が出ています。管理職候補者であるリーダーが「決断をしない」とか、「後輩に助言・意見をしない」「管理職を目指そうとしない」といったことが見受けられます。こういった「リーダーがなぜ消極的なのか」という心理的背景や原因を深掘りすることを目的としています。
現状を整理しますと、まず昇進を拒むリーダーということで、年々管理職になりたいという若手が減少しています。

管理職になりたくない理由の調査結果がこちらにあります。「管理職に向いていないと思う」「仕事量や仕事時間が増える」「責任の重い仕事はしたくない」などがあります。
これを見ても、少し本質が見えてこないので、これらの文章に主語を付けてみようと思います。

一番上からもう1度読んでみます。「自分は管理職に向いていないと思う」「管理業務は仕事量や仕事時間が増える」「自分は責任の重い仕事はしたくない」「自分は出世に興味がない」「管理業務は給与が伴わない」「管理業務はやりたい仕事ができなくなる」「自分は専門の仕事で活躍したい」になります。主語はおおよそ「自分は」と「管理業務は」の2つに分かれるわけですね。
ここまでを踏まえると、管理職になりたくないという問題は「今時のリーダー職ってどうなんだ?」と人にフォーカスしがちですが、リーダー職の人のほうにもありますし、管理業務のほうにもある。この両方にあるということをまず押さえておきたいと思います。
人が行動を決める3つの判断軸
本日のプログラムは3本立てです。1つ目は「昇進を拒む心理背景」、2つ目は「解決へのキーワード」、3つ目は「昇進ハードルを下げるマネジメント」です。
まず1つ目の、昇進を拒む心理背景についてです。実際に管理職に就いている方々が会社に望むことを調査した結果、「報酬のアップ」「業務量の適正化」「人材への投資」「仕事のやりがいを高めてほしい」といった声が挙がっています。

こうした声を受け、企業は主に「管理業務の業務量削減」「ITツールの導入」「管理職の報酬アップ」の3つに取り組んでいます。本セミナーでは、これらの解決策を深掘りする前に、なぜ管理職を望まないのかという問題の本質をさらに探っていきたいと思います。
人は行動の「やる、やらない」を決定する際、「イメージ」「見通し」「過去経験」の3つの要素で判断しています。

イメージは「そのことをするべきか」「それは良いことなのか」という判断、見通しは「それが自分にできるかどうか」の予測、過去経験は「もう一度やってみたいかどうか」です。この3つで人間は行動を決定します。
先ほど管理職になりたくない理由の調査結果がありましたが、当てはめるとこんな感じです。
イメージは「管理業務は大変そうだ」。管理職になる方の多くは、管理職経験がない方が多いのでこういうイメージになると。2つ目の「見通し」は「自分は管理職に向いていないと思う」「できそうにない」というところですね。3つ目の「過去経験」は未経験なので該当しない。
こう見ると、管理職になりたくないというのはわがままとかではない。管理職への意欲は「イメージ」か「見通し」の問題に絞られるわけです。
管理業務のイメージがつかめない
まずはイメージを深掘りします。本セミナーでは参加者にアンケートで、Q1 「管理業務に対してどんなイメージを持っているか」、Q2 「なぜそのイメージを持つのか」を尋ねました。
いくつか例を見てみます。1つ目は管理業務へのイメージで「大変そう」「責任が重そう」です。

これは「管理業務の評価や責任範囲が不明確だから大変そう」と捉えられているためです。2つ目は「何を求められるのかわからない」というイメージです。管理職の行動基準が抽象的で、具体的に何をすればよいのかが明確でないためです。
3つ目は「自分にできるかわからない」というイメージです。管理職業務は難易度が高いと考えられているからです。これらを総合すると、「管理業務の実態が見えないために大変そうだ」というイメージが強いことがわかります。
多くの企業はこの問題への対応として「業務量を減らす」「ITツールを導入する」といった施策を進めていますが、これらはあくまでイメージの軽減策にすぎません。実際に管理業務が重いのか軽いのかという点は問題ではないわけで、本当に問題を解決するには管理業務への認識を深めることが必要となります。
企業がリーダー職と管理職に求めるもの
続いては「見通し」です。つまり「自分は向いていないのでは」という感覚がここに当たります。そこで「管理職への向き・不向き」を検証するため、当セミナー参加者に「各社ではリーダー職と管理職に何を求めているか」をアンケートで尋ねました。

まずA社では管理職に「次の動きを自ら考える」を、リーダー職には「その進捗を確認する」を求めています。B社では管理職に「計画どおりに遂行させる」、リーダー職には「新しいつながりを作る」を挙げ、C社では管理職に「目標達成のための行動を新たに考える」を、リーダー職には「その行動をチーム内でPDCAを回す」を求めています。
これらを総合すると、リーダー職と管理職の双方に「自ら考え、自ら動く」が求められているものの、その中身は「方向を考える」と「方法どおりに進める」の2種類に分かれ、どちらをどちらに割り当てるかは企業によって異なっていることがわかります。
「方向を考える」と「方法どおりに進める」は、客観的に見てまったく異なるスキルです。リーダー職で「方向を考える」ことが得意でも、管理職で「方法どおりに進める」役割を担うとなると、その差が大きすぎて、管理職に移行できないと判断されるのも必然でしょう。
管理職になりたがらない2つの理由
これまで見てきたように、管理職になりたくない理由は大きく3つあります。そのうち、今回は「イメージ」と「見通し」の2つに焦点を当てました。まずイメージでは「実態が見えないために、なんだか大変そう」と感じる点、次に見通しでは「求められる役割がリーダー職と違いすぎる」と思う点が問題でした。

では、解決へのキーワードは何でしょうか。振り返ると、本当の問題は「大変そう」という漠然とした印象ではなく、「管理業務の実態がつかめないこと」と「求められる役割の変化が明確になっていないこと」の2点です。
しかし多くの企業は、業務量削減、ITツール導入、報酬アップといった施策を打っています。これらはイメージの軽減策にすぎず、問題の本質とはミスマッチです。

なので、こういった手を打っても、管理職になりたくないという問題は解決しません。問題を解決するには、まず管理職に求められる役割を明確化することが不可欠です。
リーダー職にも管理職にも「自ら考え、自ら動く」という課題を課していますが、それだけでは曖昧に終わってしまいます。そこで、「自ら考え、自ら動く」とは何かをあらためて見ていきます。

自ら考えたり動くことを示す言葉に「主体性」がありますが、この言葉が取り上げられ始めたのはここ40年ほどです。高度経済成長期が終わり、社会の変化が激しくなって上司の指示だけでは仕事が回らなくなった頃から、「考えて動く」ことが求められるようになり、主体性への言及が急増しました
さらに、主体性の概念も時代とともに変化しています。1990年代は行動力が重視され、「主体的に動く」が中心でした。2010年代に入ると、答えのない状況で自分なりに考える「思考力」が求められ始めました。そして2020年代は、働き方の多様化や企業間連携の進展を背景に、他者と協働する「協調力」が重要視されています。
違いがある中でそれを乗り越え協調していくために、主体性をどう発揮するかが求められ、その中に協調力の要素も加わるようになってきています。このように「主体性」という言葉1つを取っても、何を求められるかは時代とともに大きく変化しています。
主体性と自主性の本質的な違い
そこでみなさんにあらためて考えていただきたいのは、自社で求められている「自ら考え、自ら動く」とはどのような態度なのかを定義し、見直すことの重要性です。
さらに「主体性」と似た言葉に「自主性」がありますが、両者は明確に異なります。主体性は不確実な状況下で自ら答えを見いだし、状況を打開する態度を指します。ジャングルで道なき道へと探検するようなイメージです。

一方、自主性は決められたルールの中で与えられた課題に自ら進んで取り組む態度で、アスレチックで用意されたコースを自分の意思で進むイメージです。
主体性は好奇心や挑戦心に駆動され、「自分に突き動かされて進む」という心理背景から、自ら考え動き周囲を巻き込む言動を伴います。これに対し自主性は外部からの責任感や評価を背景に、指示された仕事を推進し、進捗管理をしながら方法どおりに進める言動を指します。
最後に、それぞれの要素がどのように醸成され、高まっていくかを見ていきます。まず、自主性は組織内でルールに沿って働く経験を重ねることで自然に培われます。整理された仕組みのなかで和を乱さず役割を果たすことで、自ずと身につくわけです。
一方、主体性は未知の状況から新たな価値を生み出す能力です。この素養は放っておいては育たないため、意図的に育成する必要があります。もし育成が難しい場合は、主体性を持つ人材を外部から迎え入れることも検討すべきです。
主体性と自主性は優劣の問題ではありません。主体性を持った人材ばかりだと組織はバラバラになります。一方、自主性だけでは変化に対応できません。組織運営では、ルールに従って動く自主性を基本にしつつ、適切に主体性を発揮できる人材を配置するバランスが重要です。
あらためて、自主性は組織経験を通じて自然に育まれ、主体性は計画的な育成が不可欠であることを押さえておきましょう。