【3行要約】・「上司は必死に働くべき」という考えが職場の笑顔を消している――管理職が抱える責任感と過労の悪循環が、組織全体のエンゲージメント低下を招いています。
・経営学者でYouTuberの中川功一氏は「自分が壊れることが最も無責任」と指摘し、上司が余裕を持って働ける状態こそが理想的なマネジメントだと語ります。
・真のリーダーシップとは手を出さず信じて任せること。マルチタスクを避け、笑顔で仕事の意味を伝え、部下の成長を支援する「怠け上手」な上司を目指しましょう。
前回の記事はこちら 「怠けているように見える状態」こそ、理想のマネジメント
赤坂美保氏(以下、赤坂):最初は、めっちゃ楽しいなってめっちゃ働いちゃう……それはそれで、1人のキャリアパスとしてはいいけれども。
チームとか家庭もそうですかね。何人かの人と一緒に働く時のマネジメント。自分も幸せになってみんなが幸せになる方法を見いだすためには、自分事化にめっちゃできるけど怠けているみたいな状況がベストなんですかね?
中川功一氏(以下、中川):怠けるのは怖いと思います。怠けるというのは象徴的な言い方なんですけど、上手に、自分がやらなくても仕事が回る状態にしていくことが大切なわけですね。
これにはいくつか理由があるのでちょっとまとめていきましょう。
赤坂:はい、お願いします。
中川:第1に、責任というのが脳におけるストレッサーであるという科学的事実をしっかり理解することです。
責任というのは、すなわちあなたの頭の中で、ToDoリストがしっかり残っていて、あなたの中でそれにちゃんと物事が紐づいていて、「これをやらないと職場が、会社が、お客さまが困るんだよな」としっかり理解できていることで、それこそ有能さじゃないですか。
結局この責任感というのは、どれだけ取り繕っても、それは頭の中のメモリーにとどまって、頭のエネルギーを、あなたの精神的エネルギーを消耗するものです。
自分が壊れることこそ、最も無責任な行動
中川:そして、私たちの世代というのは、子育てという責任か、家庭を守るという責任もありますし、仕事の中においてもどんどんどんどん責任、責任、責任が頭の中に詰まってきますから、そのままだとあなたがパンクしてしまう。
よく考えてください。例えば、私はベンチャー企業の社長をしています。1億円ぐらい出資をしてもらった会社の社長をしているんですけども、ここで大切なのは私が必死にがんばることじゃありません。
私がメンタルや体を崩してしまったら、1億円の出資者に対して責任が取れなくなるんです。私がダメになってしまったら、1億円がふいになってしまうわけですね。
だから私はこの状況を楽しまなきゃいけないんです。私がダウンしてしまうことが一番人々に対して迷惑がかかり、責任がない行動だと。私には2歳児の子どもと、1歳11ヶ月の子どもがいるので、子どもに対して責任を取ろうと思えば、私がダウンするのは良くない。
なので、あなたはだんだんだんだん愚痴を言うようになる。職場で働かない人がいてとか、「この仕事ができるのは私しかいなくて」みたいな状況になってくると、どんどんどんどんあなたにダメージが蓄積していく。それが社会のサステナビリティにとって一番いけないことなんです。
あなたが抱え続けると、仲間は育たない
中川:第2には、結局あなたがいつまでもやっていると、仲間の能力開発ができないんですね。先ほど無能という表現を使ってしまいましたが、それは能力開発ができていないんです。年齢にかかわらず能力開発ができていない。
「能力がある」=「エンゲージメントが高い」。自分事にできるということなので、あなたが感じているその喜びを同僚や部下にも味わわせてあげなきゃいけないはずです。
あなたが一生懸命やっている様子を見て、同僚や部下は何を感じているかというと、自分は信頼されていないと感じてしまう。
そしてあなたがひいひい言いながらいろいろな人の尻拭いをしている様子を見ると、「あんなふうにはなりたくないな」と思うので、部下にとっても昇進意欲が減る、一生懸命がんばる意欲が減る、組織の中での信頼とか人との関わり合いみたいな概念において、部下にとっても良くない。
「誰よりも働く上司」が正しいとは限らない
中川:総じて組織にとってみると、上司やリーダーというのは、基本、常に尻拭いをするものであって、部門の中で誰よりも働くもの……いいですか、これ、宣言してもいいです。みなさんは必死に働いてその一番働いているさまを見せるのが上司なのであるという誤解をしてはいませんか?
いいですか。昭和の時代までは、上司とか課長とか部長というのは、最後に居室に入ってきて、新聞を広げて、「ところで君たち、午前中に何か困ったことはないかね?」。これが正解なんですよ。そういう立場になりたいと、君臨している立場になりたいと思えなければ、何だろうな、プロモートすればプロモートするほどひたすらつらくなっていくんだという様子を見てもしょうがないじゃないですか。
「うちの部長はしっかり怠けられている」と(笑)。「そのステージに行くために自分は今がんばっているんだ」というほうが社会としてはサステナブルだと思いませんか? 重い役割を担っているが、その職責を果たすためにこそ下に任せることができているということ。
かくして、もう1回強調します。最大限にいろいろな重い職責を担っているあなたが笑顔で余裕を持って仕事ができていれば、部下は「○○さんみたいに働きたい。ああいうポジションになりたい」。
会社において優れた人が就くポジションというのは、いざという時に重要なディシジョンをするためにこそ、そういう意思決定を1日に1回やるためにこそ、あくせくしているのではなくて情報収集に努めている。これが大切なのかなと思います。
あなたががんばると、職場から笑顔が消える
赤坂:いやぁ、全部すごいんですけれども、最後の、上司・リーダーは必死に尻拭いをして誰よりも働くもの。これ、たぶん、これを見ているほとんどの人、「あれ?これうちの(職場の)こと?これこれ」みたいな(笑)。上司になりたくないとか、今、昇進したくないという人がすごく増えている理由って、いや、もうまさにこれだなと思いました。
これが、「あなたががんばると職場から笑顔が消える」ということなんですね?
中川:そうです。もうみなさんが、もうコメントに書いてくださっているとおりです。赤坂さん、ぜひこちらもピックアップしていってもらえればと思いますが、どなたのコメントもまったくもってそのとおりです。
あなたが心と体に余裕を持って働いているということは、ずるをしている、楽をしているのではなくて、それが組織体として正しいかたちなんだというふうに意識を切り替えるのが今は本当に大切なことなんです。
手を出さずに“信じて任せる”が上司の仕事
赤坂:コメントにも来ている、「上司からも巻き取りを期待されています」とか、「組織全体が、やはり上司・リーダーは尻拭いをして誰よりも働くものという空気にあって、上司がそう期待されているからどうしよう」みたいなことを、たぶん私も会社員の時にも思っていたと思うんですけれども。
1人でも、この考えを知っていたら、そして自分だけでも笑顔で怠け者になったら、ちょっとずつ変わるんじゃないかなって私は思います。中川先生、職場全体に「上司・リーダーは必死にがんばれ」というものが蔓延している場合、みなさんはどうしたらよいか、少しお知恵をください。
中川:「余裕を作る技術、人に任せる技術の一部なんだろうな」というコメントが来ていますが、まさしくそれがヒントで、必死に尻拭いじゃなくて、余裕を作って尻拭いをするという捉え方、このあたりにヒントがあるなと思います。
部下への詰め方がポイントだと思います。要するに、放り出してしまうような任せ方や委ね方をすると、尻拭いになるわけですよね。
自分の話に引っ張っちゃいますが、私が心掛けているのは、最後までなんとかやらせ切ることで、これがすごく大切だと思うんです。そういうことを言っている有名な経営者さんもけっこういるわけですが、究極的には、やはり尻拭いしないというのは大切なんですね。
どこまでいっても尻拭いはしない。(コメントを見て)「子育てと一緒ですね」と来ていますが、本当にそのとおりです。
任せ切ることこそ、最高のマネジメント
中川:どこまでいっても最後まで本人を信頼し切って、最後までやらせ切る。どこまでいっても上司は、助言とやり方と、そしてやる気、モチベーションを与えて、やらせ切らせるというのを最大限徹底していく。自分が手を出してしまえば、工数5分の1で終わって明日には提出できると思っても、がんばって任せ切る。
「本当、子育てと一緒ですね」と(コメントに)書いてくださいましたが、タスクと人間というのが2つあって、タスクの達成のほうを重視してヒューマンな側面を捨ててしまうから、逆にタスクが達成できなくなる。
部下が潰れてしまってやれなくなってしまった結果、自分がやらざるを得なくなってくる。ピーター・ドラッカーが言っていることがこれなんですよ。
逆説的なようですが、タスクをなんとかやり遂げたいと思ったら、ヒューマンなアプローチで、きちんと部下が、なぜこの仕事は大切なのか、どうやってやればいいのかを理解して、それに対して十分な支援が得られているという構図を作っていく。1周回って、上司の本来あるべき姿ってそういうことだったよね。
だから、尻拭いの仕方がポイントで、自分が手を出して尻拭いするんじゃなくて、部下のためにこそ頭を下げるところは下げる。究極的には自分が手を動かしているようにも見えるんだけれども、それでも信じて部下に任せて部下ができるようにしていく、という感じなのかなと思います。