【3行要約】・部下の主体性を引き出す質問術が注目されているが、多くの管理職は「指示待ち部下」への対応に悩んでいます。
・林英利氏は、『モチベーション3.0』の概念を引用し、外発的動機付けから内発的動機付けへの転換が必要だと指摘。
・管理職は3つの問いを活用し、部下の自律性・成長・目的意識を引き出すべきだと提案します。
前回の記事はこちら 「指示待ち部下」を動かすテクニックを解説
林英利氏(以下、林):ここまで、質問する側の人間力が大事だと話してきました。だけど、みなさんにとってはこの内容じゃあ満足していないのではないかなと思います。ここからは、技術的な、テクニック的な観点から、良い質問について話していきたいと思います。
ここで1冊の本を紹介したいと思うんですが、みなさんは『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』という本をご存じでしょうか? ご存じの方、手を挙げてみてもらえますか?

(会場挙手)
何人かいらっしゃいますね。ありがとうございます。『モチベーション3.0』は、人間のモチベーションをコンピューターのOS、オペレーションシステムになぞらえたものとなっています。
モチベーション1.0は、「人は生理的な欲求により動機付けられているもの」とされています。モチベーション2.0は、「外発的な動機付け」です。企業などにおいては、表彰制度や懲罰規定がありますよね。あれがまさにそうです。いわばアメとムチの動機付けですね。
アメとムチの考え方は、日本の企業でも長く採用されていると思います。今でもそうですよね。表彰制度、懲罰規定、残っていますよね。こういったものが長く採用されてきたわけなんですが。
著者のダニエル・ピンクさんは、「モチベーション2.0にはバグがあった」と述べています。どんなバグかというと、外発的な動機付けにおいては、「常に外から力を与え続けないと、自分では動かなくなってしまう」というバグですね。
部下のモチベーションを高める3つの要素
林:ニュートンの運動の第1法則(慣性の法則)ってありますけど、実際には摩擦が生じて止まってしまうわけですよね。なので、モチベーション2.0は、常に上司が後ろから後押ししなくちゃいけないというバグがあったと言っています。
それに対して、モチベーション3.0は「内発的な動機付け」ですね。私が思うに、まるで蒸気機関車のように、外からの力を与えなくても自らの力で進むことができるモチベーションのことをモチベーション3.0と言っているそうです。私はこれを、自分で走る力、自走力と呼んだりしています。
そしてダニエル・ピンクさんは、モチベーション3.0のキーワードとして、「自律性」「熟達(成長)」「目的」が重要なキーワードだとして挙げています。
簡単に説明すると、自律性とは、取り組み方は自分で決定したいという欲求ですね。熟達(成長)は、自分の能力をどんどん上達させたいという衝動ですね。みなさんも経験がありますよね。「もっと上手になりたい」と。スポーツでも何でもそうですが、「上達させたい」「上達したい」という欲望・衝動のこと。
目的は「目的を持って人生を送りたい」という人間に深く根ざした欲求ですね。私は価値観のようなものだと思っています。
ダニエル・ピンクさんは、この3つが「内発的な動機付けに有効だ」と言っています。これらは、良い質問を考える上でとても参考になる重要なキーワードだと私は思っています。
「内発的なモチベーション」を生む上司のひと言
林:そこで、『モチベーション3.0』からヒントをもらい、良い質問、つまり部下の主体性を引き出す問いの型を3つご紹介したいと思います。
まず、1つ目ですね。「どんな工夫ができそう?」は、先ほどの自律性を引き出す問いです。これによって、部下としては上司から言われたとおりにやるのではなくて、自分のやり方を考える。「どうしたらうまくできるかな」といった視点に切り替わる質問ですね。
そして2つ目、「どうやったら、自分の力を伸ばせそう?」。これは先ほどの熟達や成長を促す問いですね。目の前の仕事が単なる作業だったものから、自分を高めるチャレンジへと意味が変わってきます。
例えば単純作業でも「これまで30秒かかったのをどうやったら半分の時間でできるかな」という工夫の視点だったり、「どんなふうに取り組むと自分の上達につなげられるかな」と考えさせる質問ですね。
そして3つ目、「あなたが大切にしていることと、どう関係しそう?」。これは目的や価値観に結びつける問いです。これによって仕事が「やらなきゃいけないこと」から「やってみたいこと」に変わっていく。そんな内発的なモチベーションが生まれてくると思います。