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ビジネスリーダーのための「部下を動かす質問力セミナー」(全4記事)

言われたことしかやらない「指示待ち部下」をやる気にさせる上司のひと言

【3行要約】
・部下育成において「なぜ失敗した?」という問いかけは一般的ですが、実は部下を萎縮させ、成長を妨げる「悪い質問」の代表例です。
・コーチング講師として15年以上活動する林英利氏は、管理職の質問の質が向上すると部下との信頼関係が改善したデータを紹介。
・過去を責める「なぜ?」ではなく、「次はどうすればうまくいく?」という未来志向の問いかけが、部下の自発的な行動を引き出すカギになります。

『いい質問が部下を動かす』著者が登壇

林英利氏(以下、林):おはようございます。本日のプレゼンターの林英利と申します。これから「いい質問が部下を動かす ~問いかけがチームを変える~」というテーマで、20分という短い時間ですが、みなさんの実務に直結する視点からお話ししていきたいと思います。

今日ご参加いただいているみなさんは、管理職の方が多いかなぁと思います。管理職としてチームを率いながら、部下の成長にも向き合わなければならない。私は部下育成や組織運営こそ、問いかけの力が鍵になると考えています。

みなさん、想像してみてください。あなたが部下にかけた問いが、その人の心に深く残り、行動や成長にまで影響を与えたとしたら、どうでしょうか。

私はこれまでコーチングスキルの講師としては15年以上(活動してきました)。近年では法人向けのサービスとして、200名以上の管理職に対して1on1ミーティングの面談スキルを高めるサポートなどを行ってきました。

その中で、「問いは人の行動を変え、信頼関係を築き、組織を動かす力を持っている」と体感してきました。問いとは、ただの情報収集ではありません。それは、相手の内面にアクセスし、自分で考えて動くスイッチを入れる行為でもあると思います。

今日は、私の著書『いい質問が部下を動かす』の中から、特に実践的なエッセンスと、その背景にある、人として、上司としてのあり方についても話していきたいと思います。

後半には、自走する部下を育てるヒントもご紹介していきたいと思います。どうぞ最後までお付き合いください。

言われたことしかやらない「指示待ち部下」、どう対応する?

林:あなたのチームにこんな部下はいませんか? 自分のことしか考えていない。言われたことしかやらない。言われたこともしっかりできない。ありますよね。

「よし、今回はさすがに伝わっただろう」と思ったら、3日後にはまた元に戻っている。もはや、管理職にとっては修行。自己基盤が試されますよね。

もしこういった部下がいた時に、みなさんだったら、どんな問いかけを部下にかけていますか? 自分のことしか考えていないとか、言われたこともしっかりできない。こういった部下に、あなたならどんな問いかけをしますか?

時間を20秒ほど取りますので、頭に浮かべていただけますでしょうか。チャットに書いていただいてもいいかなぁと思います。

平岡洋平氏(以下、平岡):チャットに入力できる方、遠慮なく書いちゃっていいですよ。

林:はい。頭の中に浮かびましたかね。じゃあ、ちょっと先に進んでいきます。あとでまたチャットに入れていただくワークもやりたいと思っています。

こういった部下に対して、どんな質問、どんな問いかけをするのだろうか。もしかしたらみなさんの中には「なぜ失敗したと思う?」とか「何が悪かったと思う?」という質問が浮かんだ方もいるかもしれません。

でも、実はこれ、悪い質問の代表例というふうに今日はお伝えしたいと思います。じゃあなぜ悪いのかは、この後に話していきたいと思います。

部下の失敗に「なぜなぜ分析」をする上司

林:実際、私も管理職時代に同じようなことを言っていた経験があります。「ミスをしないでほしい」「改善してほしい」とか、そう願う気持ちは管理職なら誰にでもあると思います。

私は以前、トヨタ自動車に勤めていたんですけれども、品質管理や問題解決の中で、よく「『なぜ?』を5回繰り返せ」と言われていました。「なぜ?」「なぜ?」「なぜ?」ですね。

しかし、物の品質に使う時はいいんですけれども、部下の失敗に対しても「なぜなぜ(分析)」をやってしまっている管理職がけっこういるのではないでしょうか。

実はここに質問の落とし穴が潜んでいます。こうした問いかけ、「なぜ?」「なぜ?」「なぜ?」は、意図せずして責める口調になってしまいがちです。

そして、上司のなぜなぜ攻撃を受けた部下は萎縮してしまって、改善や次の行動につながるどころか、防衛的になってしまったり、消極的になってしまう可能性があるんですね。

ポイントとして、過去を責めるよりも未来に目を向ける。そして粗探しをするのではなく、可能性を引き出す。そんな問い方の転換こそが、今日のテーマです。

この後、実際の事例や効果的な質問の型を紹介していきますが、ぜひご自身の経験と照らし合わせながら聞いていただけたらうれしいです。

失敗の原因よりも聞くべきこと

林:では、良い質問と悪い質問にはどのような違いがあるのでしょうか。例えば「なぜ失敗したと思う?」という質問は、過去を掘り返し、正解を求めるような構造になっています。

一方で、「次はどうすればうまくいきそう?」という問いかけは、未来に向けた質問ということですね。相手の思考を前向きに、建設的に促していく。わかりやすく言うと、このような違いがあるということです。

実際に我々の法人が関わったある企業では、「管理職の質問の質が向上した結果、上司との信頼関係が向上した」と回答した部下の割合が半年間で24ポイントも増加しました。

また別の企業では、「モチベーションが向上した」と回答した部下の割合が、同じく半年間で14ポイント増加するという成果が見られています。これは「問いの質が、信頼関係の質にまで影響を与えた」というデータでもあるのかなと思います。

ここまで、良い質問、悪い質問という話をしてきましたけれども、良い質問・悪い問いについて、ご紹介したい話が1つあります。

写真が映っていますでしょうか。現在、世界各地で武力衝突が起きていますね。イスラエルとハマスの紛争もその1つです。イスラエルとハマスの紛争が始まった今から2年ほど前、出演者があれこれ議論しているテレビ番組を何気なく見ていた時です。

1人の専門家が次のような発言をしました。「私たちは質問を間違えてはいけないと思います。『イスラエルとハマス、どちらが悪いか?』ではなく、『どうしたら一般市民の命を守れるか?』という質問について議論しなくてはいけません」と言っていました。

当時、「先にハマスが手を出した」とか「いやいやイスラエルだ」と、「どっちが悪いんだ」なんていう議論がよくされていました。そして、専門家がこのように問題提起したわけですね。私は「なるほどな」と思いました。

このように、質問は良くも悪くも考える人の思考を方向づけるものであると。ですので、質問をする人の責任は重いのではないかなと感じたことも覚えています。

部下のスイッチを入れる上司の「問いかけ」

林:つまり我々が意識すべきは、「問いかけの方向性」だということですね。相手をどっちの方向に向けさせるのか。そこが非常に重要だということです。

さて、上司と部下の話に戻していきたいと思います。先ほども出てきましたが、あなたには指示しないと動かない部下、いらっしゃいますかね? 「指示待ち部下」なんて言われていたりします。

でも、その背景には、実は私たち上司の問いかける姿勢に問題があるのかもしれません。上司が常に正解を用意した上で「こうしてね」とか、手取り足取りやり方を伝えてしまうと、部下はやがて考えることを止めてしまいます。

それはまるでよちよち歩きの子どもがうれしそうに歩いているところを、大人が抱きあげてしまうようなものですよね。自分で歩く意志をくじかれた子どもは「嫌だ!」「歩きたい!」と訴えて、バタバタするような光景って見たことあると思います。

これは大人でも同じではないかなと思います。自分で考えたことこそ、人の行動を引き出す最大の動機付けなのではないか。だからこそ私たちは問いによって、部下のスイッチを押す必要があるのだと思います。

文句ばかり言う部下がガラッと変わったきっかけ

林:そして良い質問は、内面にだけではなくて、関係性にも変化をもたらします。私たちが支援しているある企業の部長、Tさんの話をご紹介したいと思います。

Tさんは部下が何人もいますが、その中にネガティブなことばかり口にする部下がいたそうです。そして、「その部下との1on1の時間が非常に苦痛だ」というふうにTさんは以前お話ししていました。

ある日の1on1で、その部下がまた相変わらず会社の悪口、仕事の文句ばっかり言っていた。でもそんな中で、部長のTさんはこんな質問を部下に投げかけたそうです。「そうか、そう思っているんだね。じゃあ、君はどうすればうまくいくと思う?」と。

するとその部下は、少し考えた後に前向きなアイデアを話し始めたそうです。そして、部長のTさんはこんなふうに私に話してくれました。「この体験で私は2度驚きました。1度目は、自分の口からそんな質問が出てきたことに驚いた」と。

そして「2度目は、ネガティブな部下から前向きなすばらしいアイデアが出てきたことに驚いた」と。「接し方でこんなにも変わるんですね」と私に話してくれました。その部下は、数ヶ月後にはチームのムードメーカーに変わっていったということでした。

たった1つの問いが、避けられていた関係に橋を架けて、協働の関係へと変化させた例ではないかなと思います。このように「質問は相手を変える魔法ではなく、信頼という橋を架ける道具だ」と言えるのではないでしょうか。

質問する側の「人間力」が大事

林:では、良い質問をするにはどうすれば良いのでしょうか。その答えは、テクニック的な話をする前に、私は質問する側の「人間力」にあると思います。

相手のことを本気に思っているか。耳を傾ける姿勢があるか。そして、問い、質問の中に、安心や信頼、尊重がにじみ出ているか。これが非常に重要であると思います。そしてこれは、質問する側の自分自身を見つめることから始まるのではないかと思います。

ここで、私の失敗体験談を少しご紹介したいと思います。コーチングを学び始めた、今から15年~16年前ですかね。コーチングスキルを勉強して、おもしろさを感じながら「早くその効果を感じたいなぁ」なんて思っている時期がありました。

そして家族で、確か伊豆に旅行に行った時に「コーチング、じゃあちょっとやってみて」という話になって、私は義理の弟を相手にコーチングをすることになりました。家族の前でコーチングをしました。

コーチングが終わった後、父親から私はこんなふうに言われたんですね。「なんでそんなに偉そうなんだ」って(笑)。

まさかそんな感想が来るとは思わなかったので、ちょっと悔しい思いもしたんですけれどね。傍から見ていると、コーチングをしている私は偉そうに見えたということでしょうね。

おそらく当時の私は、問いかけというよりも、まるで尋問や取り調べみたいな感じだったんでしょうね。

先ほども申しましたように、質問というのは相手に向けているようで、実は自分のあり方が映し出されているのではないかなと思います。問いとは、相手の思考を照らすライトでもあり、自分自身を映し出す鏡でもあるんですよね。

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